エリミネーター~ 月よりの感染者~

星 陽月

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チャプター【60】

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「どうしたんです? エリミネーターである、あなたの力はこんなものですか」

 男が、にたりと嗤った。

「おまえ……」

 蘭が呟いたそのとき、男が、蘭の腕を摑んだまま無造作に横へふった。
 軽くふったようにしか見えなかったが、蘭の身体は宙を飛んだ。
 飛んでいくその先には壁がある。
 蘭は身体を反転させると、壁に着地をするような形で激突の衝撃を弱め、ふわりと床の上に立った。

「そうか、感染者か。そのポーターのふたりも、そのようだな。なるほど。このホテルすべてが、おまえたちの巣窟(そうくつ)だったというわけか。まさか六本木のど真ん中に、おまえたちの潜伏する拠点があったとは、気づきもしなかったよ。まったく、なにが『存じ上げません』だ。ふざやがって」

 蘭は、両太腿のホルスターから銃を抜き放った。
 ポーターのふたりが、男の前に出る。

「ふたりが前に出たということは、まずは小手調べといったところか」

 蘭は、余裕の笑みを浮かべた。
 銃を持つ手は下げたままだ。
 その蘭を睨むポーターのふたりの顔に異変が起きた。
 顔の皮膚がうごうごと蠢動(しゅんどう)し、鼻から顎にかけた部分が前へ迫り出しはじめたのだ。
 そればかりか、肩、胸、腕が、もこもこと盛り上がっていく。
 全身がしだいに大きくなっていき、それに耐えられずに、身に着けていたホテルの制服が裂けていった。
 ふたりは、2メートルを超す巨躯を有していた。
 ふたりとも全身を獣毛に覆われ、口からは2本の長く太い牙が伸びていた。
 その牙は、先端に向かって伸びている。  
 ふたりは、獣人と化していた。
 ひとりは大きな耳が垂れ下がっており、鼻が長い。
 その容貌は象、いや、全身を剛毛で覆われたその姿は、マンモスであった。
 もうひとりは耳が小さく、鼻も長くはない。
 容貌は猪だった。

「マンモスに猪か。どうやらおまえたちは、獣化するのをコントロールできるタイプのようだね。だが、たとえ人の姿にもどれようと、おまえたちはただのバケモノだ。その姿こそが、生まれ持ったおまえたちの本来の姿というわけだ。しかし、そんなおまえたちにも、まだ人間にもどれる可能性がある。その可能性に掛けてみる気はないか。黙って私を上に行かせるだけでいい。どうだ」

 そこで蘭は、2体のセリアンを交互に見た。
 セリアンと化したふたり――マンモス男と猪男は、答えることなく荒い息を吐いている。

「聞く耳持たず、ということか。まあ、わかっていたがな。それにしても、醜い姿だな」

 蘭が言った。
「醜い姿」と言われたことに、マンモス男と猪男は激昂した。

  バォオォォォォウッ!
  ゴォオォォォォウッ!

 蘭に向かって咆哮した。
 とたんに、ロビーの空気がびりびりと振動する。

「威嚇(いかく)のつもりか? 無駄にでかい声で吼(ほ)えるんじゃないよ。さっさと来な」

 蘭が誘った。
 その誘いに、

「ごうッ!」

 猪男が床を蹴った。
 蘭へと突進していく。
 そう思ったときには、もう蘭の眼前まで突進していた。
 蘭は、寸前で真横へ身を翻した。

  ドゴォォンッ!

 猪男は、ロビーの壁へと激突していった。
 コンクリートの壁に穴が開き、がらがらと砕け落ちる。
 猪男は、砕けた瓦礫の下敷きになっていた。

「なんの芸もなく、ただ突進してくるとは、まさに猪だな」

 瓦礫の下敷きになったまま、猪男は動かない。

「そのまま眠っていろ」

 蘭は、もう1体のマンモス男に眼を向けようとした。
 そのとき、右脇腹に衝撃を受けて、蘭は吹っ飛んでいた。
 ロビーに並べられたソファやテーブルに突っこんでいく。
 その勢いで、ソファとテーブルが弾かれる。
 蘭は何事もなかったように立ち上がった。
 首を、ごきごきと左右にふって鳴らす。

「おまえも単純に突進してくるのかと思ったが、油断したよ。その鼻が、さらに伸びるとはな。あの猪よりは、まだ使える頭があるらしい。だが、いま程度の力なら、この私には通用しない。だから、もう一度言う。私を上に行かせろ」
「あの程度で、オレの力がわかったつもりなら、大間違いだゾォ」

 しわがれた声の、マンモス男が言った。

「フン。間違いなものか。最初に登場するやつは、格下と相場が決まっているんだよ」

 蘭は嘲笑(ちょうしょう)した。

「このオレが格下だとォ! ふざけるな!」
「おまえには、格の違いというものがわからないのさ」
「黙れッ!」

 マンモス男が、蘭に向けて鼻をふり下ろした。
 蘭はそれを軽く躱(かわ)す。
 ふり下されたマンモス男の鼻は、大理石と思われる床を粉砕した。
 凄まじいパワーである。
 間髪入れずに、躱した蘭へマンモス男は鼻をふった。
 それを蘭は、後方へ跳んでまた躱す。
 しかし、伸びてくる鼻が、蘭の腹を抉った。
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