59 / 71
チャプター【59】
しおりを挟む
蘭が車を停車させたのは、六本木だった。
もうすっかり陽は沈んで、街並みはネオンの光に包まている。
蘭はランドクルーザーを降り、歩道に上がって足を止めた。
目の前には、ホテルの入り口がある。
「ここか……」
そのホテルを蘭は見上げた。
高層ホテルであった。
正面にもどすと、蘭はホテルの入り口へと歩を進めた。
自動ドアを抜け、ロビーを真っ直ぐフロントへ行く。
「いらっしゃいませ」
微笑を浮かべた女性が出向かえた。
蘭の着罰な服装を見ても、フロントのその女性は表情を変えなかった。
蘭はコートのポケットから何かを取り出し、女性に提示した。
「S・T・Mの者だ」
蘭が提示したものは、S・T・Mのバッジであった。
そのバッジを女性が確認すると、すぐにポケットにもどし、今度はカード・フォンを取り出した。
ディスプレイにひとりの男の画像を出し、また女性に提示した。
「ここに、この男が部屋を取ってるはずだ」
その画像は隠し撮りされたのか、画質はよくない。
それでも、それが九鬼兼次であることがわかった。
フロントの女性が、蘭の持つカード・フォンのディスプレイを覗きこむと、
「いえ、当ホテルにはチェックインなさっておりません。この方のお名前をお聞かせいただければ、確認してみますが」
そう言った。
「名は、九鬼。九鬼兼次だ」
「わかりました。では確認させていただきます」
横暴な言葉遣いの蘭に対し、フロントの女性は、あくまでも丁寧に対応した。
女性はパソコンのディスプレイを見つめ、宿泊客を確認すると顔を上げ、
「やはり、九鬼様とおっしゃられるお客様はいらっしゃいません」
言った。
「そんなはずはない。よく見てくれ。確かに、このホテルにいるはずなんだ」
「そう申されましても……」
さすがにフロントの女性は、困ったという表情を浮かべた。
「わかった。ならば、自分で捜すまでだ。各部屋を、改めさせてもらう」
蘭は踵を返すと、エレベーターに向かった。
「あ、困ります」
フロントの女性の止める声も聞かず、蘭はエレベーターへ向かっていく。
2基あるエレベーターのひとつの前まで来ると、その蘭を遮るように男が立ちはだかった。
「お客様、困ります」
黒のスーツを着た、主任と思しき男だ。
蘭の背後にはポーターがふたり立っている。
「私は、客じゃない。いいか、よく聞くんだ。このホテルには、アビスタントが潜伏している。私の邪魔をする暇があったら、客を速やかに非難させろ」
男に、蘭は言った。
「アビスタント?」
男は、小首を傾げ、
「おっしゃっていることがわかりませんね。とにかく、お客様でないのであれば、当ホテルから出ていただきたいのですが」
蘭を見据えた。
「なに? アビスタントを知らないと言うのか」
蘭は訝しむように眉根をよせた。
「はい。存じ上げません」
「そうか。なら、あんたにかまってはいられない。通らせてもらう」
蘭は、男の横をすり抜けるようとした。
それを制するように、
「困りますね」
男が蘭の肩に手を置いた。
「この手をどけろ」
蘭が男を睨む。
「どけなければ、どうします?」
男は挑発的な眼で、蘭を見返した。
「あんた、怪我をしたいのか」
「それは、暴力という手段に出るということですか?」
「聞き分けのない子に、罰を与えるのは当然のことだ」
蘭は、肩に置かれた男の手首を掴んだ。
「!――」
男の腕を取り払おうとし、だが、その腕が動かなかった。
蘭はある程度の力を加えている。
並みの人間ならば、悲鳴を上げるほどの力だ。
たとえ鍛え上げた人間であっても、眉をひそめるだろう。
なのに男は、悲鳴を上げるどころか唇に笑みを浮かべていた。
蘭は、男の腕の骨を砕くつもりで、さらに力を加えた。
しかし、それでも、男は笑みを浮かべたままでいる。
すると今度は、腕を掴んでいる蘭の腕を、男が掴んだ。
「くッ……」
蘭のほうが思わず眉をひそめ、男の腕から手を放していた。
もうすっかり陽は沈んで、街並みはネオンの光に包まている。
蘭はランドクルーザーを降り、歩道に上がって足を止めた。
目の前には、ホテルの入り口がある。
「ここか……」
そのホテルを蘭は見上げた。
高層ホテルであった。
正面にもどすと、蘭はホテルの入り口へと歩を進めた。
自動ドアを抜け、ロビーを真っ直ぐフロントへ行く。
「いらっしゃいませ」
微笑を浮かべた女性が出向かえた。
蘭の着罰な服装を見ても、フロントのその女性は表情を変えなかった。
蘭はコートのポケットから何かを取り出し、女性に提示した。
「S・T・Mの者だ」
蘭が提示したものは、S・T・Mのバッジであった。
そのバッジを女性が確認すると、すぐにポケットにもどし、今度はカード・フォンを取り出した。
ディスプレイにひとりの男の画像を出し、また女性に提示した。
「ここに、この男が部屋を取ってるはずだ」
その画像は隠し撮りされたのか、画質はよくない。
それでも、それが九鬼兼次であることがわかった。
フロントの女性が、蘭の持つカード・フォンのディスプレイを覗きこむと、
「いえ、当ホテルにはチェックインなさっておりません。この方のお名前をお聞かせいただければ、確認してみますが」
そう言った。
「名は、九鬼。九鬼兼次だ」
「わかりました。では確認させていただきます」
横暴な言葉遣いの蘭に対し、フロントの女性は、あくまでも丁寧に対応した。
女性はパソコンのディスプレイを見つめ、宿泊客を確認すると顔を上げ、
「やはり、九鬼様とおっしゃられるお客様はいらっしゃいません」
言った。
「そんなはずはない。よく見てくれ。確かに、このホテルにいるはずなんだ」
「そう申されましても……」
さすがにフロントの女性は、困ったという表情を浮かべた。
「わかった。ならば、自分で捜すまでだ。各部屋を、改めさせてもらう」
蘭は踵を返すと、エレベーターに向かった。
「あ、困ります」
フロントの女性の止める声も聞かず、蘭はエレベーターへ向かっていく。
2基あるエレベーターのひとつの前まで来ると、その蘭を遮るように男が立ちはだかった。
「お客様、困ります」
黒のスーツを着た、主任と思しき男だ。
蘭の背後にはポーターがふたり立っている。
「私は、客じゃない。いいか、よく聞くんだ。このホテルには、アビスタントが潜伏している。私の邪魔をする暇があったら、客を速やかに非難させろ」
男に、蘭は言った。
「アビスタント?」
男は、小首を傾げ、
「おっしゃっていることがわかりませんね。とにかく、お客様でないのであれば、当ホテルから出ていただきたいのですが」
蘭を見据えた。
「なに? アビスタントを知らないと言うのか」
蘭は訝しむように眉根をよせた。
「はい。存じ上げません」
「そうか。なら、あんたにかまってはいられない。通らせてもらう」
蘭は、男の横をすり抜けるようとした。
それを制するように、
「困りますね」
男が蘭の肩に手を置いた。
「この手をどけろ」
蘭が男を睨む。
「どけなければ、どうします?」
男は挑発的な眼で、蘭を見返した。
「あんた、怪我をしたいのか」
「それは、暴力という手段に出るということですか?」
「聞き分けのない子に、罰を与えるのは当然のことだ」
蘭は、肩に置かれた男の手首を掴んだ。
「!――」
男の腕を取り払おうとし、だが、その腕が動かなかった。
蘭はある程度の力を加えている。
並みの人間ならば、悲鳴を上げるほどの力だ。
たとえ鍛え上げた人間であっても、眉をひそめるだろう。
なのに男は、悲鳴を上げるどころか唇に笑みを浮かべていた。
蘭は、男の腕の骨を砕くつもりで、さらに力を加えた。
しかし、それでも、男は笑みを浮かべたままでいる。
すると今度は、腕を掴んでいる蘭の腕を、男が掴んだ。
「くッ……」
蘭のほうが思わず眉をひそめ、男の腕から手を放していた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
29
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる