fateful meeting(フェイトフル ミーティング)~職業【遊び人】になってしまった僕だけど幸せになります!~

星 陽月

文字の大きさ
21 / 28

【第19話】

しおりを挟む
 ネルが王様から授かった剣は、お金をいくら積んでも買えない貴重な代物だった。

「そっかァ、でも海に船ごと沈んだのなら、探すのも大変だよね」

 所詮他人事なので、僕は呑気に答えた。
 するとネルは、訝しい顔で詰め寄ってきた。

「お前、まさか王都からの使者じゃないよな」
「え? 僕が?」
「だって、おかしいだろう。こんなへんぴな村に来るなんてよ。ふつう、異世界に召喚されるのは勇者か聖女だぞ。正直に言ってくれ。この俺を捕まえに来たのか?」

 やつれてはいても、流石に元勇者だ。エグいくらい、凄味がある。

「い、いや、そんな……」

 僕は顔の前で、違うと手をふった。

「だから、そんなに怖い顔をしないでよ」
「そうやって、誤魔化すつもりか。そうか、俺をだまし討ちするつもりなんだろ!」

 ネルさんの顔がさらに凄味を増した。

「だから、違うって言ってるじゃってるじゃないですか!
「くそッ、その大福みたいな顔に、油断しちまったぜ」
「だ、大福みたいな顔って、どんな顔ですか!」
「自分の顔を、鏡でみてみろ!」

 勝手に勘違いし、そのうえ毒まで吐かれて、さすがに僕は腹が立った。
 そしてネルさんと僕は、しばらくのあいだ言い争いをしていた。
 それだけに、人が入ってきたことに気づきもしなかった。

「何の騒ぎですか? ネル」

 その声に、ハッとして顔を向けると、ネルさんと同じくたい背の高く、眼鏡をかけた男が入ってきた。

 この世界には、ノッポのイケメンしかいないのか……。

 その眼鏡男を見て、僕がそんなことを思っていると、

「レーベン! 大変だ!! 王都からの刺客だ!」

 ネルさんが、その男に叫ぶように言った。

「刺客だって? いったいどこに」

 その男は、眉根を寄せてネルさんに訊いた。

「ここ、こいつだよ! この大福が、俺らを捕らえにきたんだ!」

 ネルさんは、僕の右腕を掴んだ。

「この彼が刺客だって? とてもそうは思えませんね」

 眼鏡男――レーベンは、眼鏡越しに僕をまじまじと見て、ノー、と首をふった。

「あたり前だよ。僕は王都なんて知らないし、君たちがお尋ね者だってことも、知ったのはいまだよ」

 僕は怒りを露わにして言った。

「フン、白を切りやがって。レーベン、お前の鑑定眼でこいつを見てみろ! それではっきりとする」
「鑑定でもなんでもやってください。勘違いもはなはだしいということが、よくわかると思いますよ」

 僕はそこに仁王立ちした。

「フー、無駄だとは思いますが、まあいいでしょう。では――えっと、Lvが5……。攻撃力は150だし、魔力に至っては50しかありません。いくらなんでも、こんな弱い刺客を王都が送ってよこすわけがありませんよ。」

 レーベンが言う。

「うむむ、では、弱いけれど、むちゃ強い聖獣がついているとかはないのか」
「いえ、それもないですね。私の鑑定眼はパーフェクトですから」

 それを聞いて安心したのか、ネルさんはほっとした顔になり、

「疑って悪かったな」

 僕に顔を向けてそう言った。

「あのさ、ネルさん、僕のこと大福みたいな顔って言ったよね」

 それを聞いてレーベンが、

「大福? 何ですか、それは」

 不思議そうに、そう訊いた。

「え? あ、それは、俺たちのいた世界の食いものだ。なァ、ユート」

 勘違いしていたことを申し訳ないと思っているのか、さっきまで鬼の形相だったくせに、ネルさんはやたらニコニコしていた。

「フン!」

 僕はネルさんから顔を背けた。

「おいおい、いつまでもすねるなよ」

 ネルさんは、合掌した手を僕に向ける。

「とはいえ、彼が刺客でないとしても、敵か味方かはわからないんだから、気を許してはいけませんよ、ネル」

 レーベンはネルさんにそう言うと、

「あなた、名はユートでしたね」

 僕に険しい顔を向けた。

「は、はい。そうです」

 何もかもを見通すようなその眼に、僕の声はうわずった。

「ならばユート。あなたがここへ来た経緯を、嘘偽りなく教えてください」

 正確に、最後にそうつけ加えたレーベンの圧に負けて、僕は昨日からのことを包み隠さず離すこととなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

僕の異世界攻略〜神の修行でブラッシュアップ〜

リョウ
ファンタジー
 僕は十年程闘病の末、あの世に。  そこで出会った神様に手違いで寿命が縮められたという説明をされ、地球で幸せな転生をする事になった…が何故か異世界転生してしまう。なんでだ?  幸い優しい両親と、兄と姉に囲まれ事なきを得たのだが、兄達が優秀で僕はいずれ家を出てかなきゃいけないみたい。そんな空気を読んだ僕は将来の為努力をしはじめるのだが……。   ※画像はAI作成しました。 ※現在毎日2話投稿。11時と19時にしております。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...