遑神 ーいとまがみー

慶光院周

文字の大きさ
5 / 82
第1章

新月

しおりを挟む
 「アホ、こんな話乗るわけ――――あるだろうが。時間も丁度、真夜中と言ってもいい時間だ。
 今なら一緒に行きたいとか、お土産よろしくとか言ってくるやつらに見つからずに行ける。それに、こんな面白そうなことやらずにどうする」

 たまにはいいことを言うじゃないかと感心しているとあいつは目を輝かせて私の手を引っ張って立ち上がらせた。私の方がこいつよりも遥かに高いので引っ張られると前に倒れそうになる。
 危ない、何とか体制を整えるとあいつが私の手を引っ張りながら話し始めた。痛い、まだ引っ張る気かこいつは、

 「よーし! なら思い立ったが吉日だ! 普通なら用意は必要だが俺らならなんも要らない! さっそく出発!!」

 ちょっと待て。いきなり手を取って、さぁ行こう! じゃないだろう。もう一つ大切なことを忘れてるぞこいつ。

 「ちょっと待て」

 私が止めると、あいつが輝かせていた目を不満そうにして私を睨んできた。

 「……なんだよ。文句でもあんのか?」

 こいつはまだ決めなくてはいけないことがあるくせにまるっと忘れているらしい。

 「いや文句はない。が、お前には混沌 カオス以外の名前がないだろう? 私にもクロノス以外にはない。精々、読み方を変えるぐらいで直ぐにバレてしまう。異世界に行くのならそれでいいが名前やファミリーネームがないと可笑しいだろう?」

 「……あ~、そうか」

 「行きました。着きました。ですぐ目の前に人がいたらどうするんだ?困るだろう?」

 「あー……まぁそうですね、申し訳ございませんでした。保留中だったの忘れてました。確かに困ります、何かいい案はないですか?」

馬鹿か、そんなの自分で考えろと言いたいところだったが私も考えなくてはいけないので言わないでおく。

 「あーそうだな、ファミリーネームは案外カオスとかでいけるかもしれん。下手につけて後で反応出来ないからこれでいいだろう。あと名前だ、私も偽名を考えておこう」

 私が復活したことは秘匿とされてるらしい。だから名前をそのまま使うと多かれ少なかれ問題が起こる。起こらなくても嫌がられるだろう。私は自分の名前が嫌いな訳ではない。ないが、それではのんびりと暮らせない。それは困る、私だってゆっくりのんびりしたい。
 何かいい名前はないか? 呼ばれたときにすぐに反応できる名前は―――ない。
 個人的にクで始まるものがいいんだが、思いつかない。あってもしっくりこないだろうが……何も思いつかない。こういう時は先にあいつのアイデアを聞いてからあいつに任せた方が楽だろう。

 「そっちは決まったか?」

 そう言ってあいつに目を向けると手と首を振った。

 「全然決まらない。候補はあるけど長ったらしくて呼ばれたときに反応出来ない。ファミリーネームはカオスでいいと思う。
 いやだけど忘れるよりはマシだし。名前じゃないなら我慢できる。クロはどうだ?」

 逆にこっちに振られた。私だってまだ決まってないぞ。

 「私もまだだ。出来ればクで始まるものがいいのだが……」

 言ってる最中にふと思いつく。
 クロノスからノを取ったらクロスになる。クロスとはファミリーネームに使われることが未来では多い。私が王になる前に遊びに行った現代では結構いた。なら、名前にも使ってもいいのではないか? 
 これなら反応出来ないことはないだろう。また現代に遊びに行ったとしても名前がこれでファミリーネームがカオスなら外人だと思ってくれると思う。私はよく現代の日本に行くが、私の顔がどう見ても日本系ではないからな。 
 なぜ私が日本に行くのかというとどの文化よりも好きだからだ。多分、自国の文化より好きかもしれない。今では、日本の常識は全部覚えてしまった程だ。
 前はよく行っていたんだが王になってからは忙しくて行っていない。また今度行こう。

 「なあ、クロスってどうだ? これなら呼びやすいし、お前がクロって呼んでも違和感がないからな」

 そう言ってあいつに意見を求めると……

 「いいんじゃね? それなら楽だしな。あとは俺か。名前……ムズイ。簡単に決められないからな。面倒だな~」

 こいつは自分の名前を考えるのがめんどいと言ったぞ。何言ってるんだ。そりゃ簡単に決めれるわけがないだろうが。

 あっ、と言う声が聞こえて今までグルグルと動いていたあいつがこっちに戻ってきた。目の間にいると余計に小さく見えるなこいつ。私が202cmあるから余計にそう見えるんだがな。

 「なぁクロ、今日って月が出ないのか?ポイっぺ(ポイペー。月の女神、月そのもの)おサボり?」
 「アホ、今日は新月じゃ」

あいつが首を傾げると、いいこと思いついた! とでもいうような顔をしてきた。一体、何を始める気なんだ。

 「新月って名前は知ってるけどなんでそうなるの? 教えて! クロ先生―!!」

……

 「いぇーい! 第一回教えて! クロ先生―!! 始まりました!! ドンドンパプパプ! 
今回の質問は『どうして新月は見えないの?教えて! クロ先生―!!』です!! さあ、クロ先生なんでか教えてくださーい!!」

 相変わらず悪巫山戯のだけは得意だなこいつは。

 「自分で調べ「めんどい」ろ……」

 こいつは……私と同じく長い間存在しているのにそんなことも知らないなんて、いや、知ろうとしなかったという方が正しいかもしれない。

 こいつには私と同じく頭の中にインターネットが入っているようなもので頭で知りたいと考えればすぐに調べられる。
 しかし、こいつはピク●ブなんてものや動画、物書きになろうとかしかに使っていかった。形がないからほとんど何もできないくせにかろうじて使える能力をこんなことにしか使っていないのだから勿体無い。宝の持ち腐れだ。

 「あのな、新月と言うのは月が太陽と同じ方向にあるが故に太陽の明るさに隠れ月が見えぬことじゃ。よう覚えておけ」

 あ、こいつのアホに付き合っていたら少し素が出でしまった。

 「へ~、そうなんですか先生! 勉強になりました! しかし、先生の素が出てますよ! 隠してください! 古臭くて何を言っているのか分かりません!!」
 「気を抜いてしまっただけです。聞き流して下さい」
 「分かりました! では先生の希望通り聞き流す事にしましょう! 
っと、今日はこの辺で今回はお別れのようです。また次回お会いしましょう! 以上、教えて! クロ先生でした!! チャンチャン♪」

勝手に始まって勝手に終わった。

 「じゃあ俺の名前は新月の夜に形を得たから新月にする! 新月ってなんかかっこいいし。今日から俺は新月ね」

 決めポーズをするようにウィンクする新月にそれでいいのかと言いたいところだが本人がいいなら良しとするか。いろいろ混ざっているが。

 「……そうか新月か決まって良かったな。けどいいのか?漢字と英語が混ざるぞ」

 私が指摘したあと、しばし沈黙が流れた。何にも考えずに決めたらしい。適当すぎる。

 「い、いいんだよ、クロ以外にはレモーネとでも名乗るし! 君だけが俺のことを新月と呼べ! それでいいんだ!」

 レモーネとはスェーデン語で新月という意味だ。名前の響きは良くなったか。
 だが、『何でクロスさんはレモーネさんを新月って呼ぶんですか? 言いづらくないんですか?』って言われる未来がみえる。
 それも嫌なんだが、あいつ……いやこれからは新月か。新月は少しキレ気味に言ってきた。なんで私がキレられなくてはいけないんだ。
 まあ、本人がいいなら放っておこう……
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。 貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?  猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。  疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り―― ざまあ系の物語です。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

処理中です...