遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

目と不味い飯

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暖かい。



 そう思って目を開けると俺は毛布に包まれて床に寝かされていた。俺は確か川に流されたはず……どうして毛布に包まれているのだろう。もしかしたら助かった?

 体を起き上がらせようとする……が断念する。
 体を動かすとすごく怠い。溺れて体力の限界以上の力を毟り取られた体と水しか入ってない胃袋では動かすのが辛い。

 仕方ないので首だけ動かすと見たことがない程綺麗な床に木が組まれている壁、天井は木が放射線状に組まれていて高く、対面に付けられている布。仕切りに使っているのだろうか? 右側にはきらきらと光る大きな白い布、左側には同じくきらきらと光る大きな黒い布が垂れ下がっていた。
 さらに前には台所のようなよくわからないものと入り口であろう大きな布が垂れ下がっていた。

 一体ここはどこなんだろう。貴族の家にしてはおかしい。父さんが貴族は綺麗で大きい家に住んでるって言ってたから多分違う。
 けど農民の家にしては綺麗過ぎる……

 「起きたか」
 「っ!」

 驚いて声のする方に目をやると入り口の所に背が高くて体格がいい男が立っていた。おそらく、俺が辺りを見回していた時に入って来たのだろう。
 ゆっくりとして落ち着きのある低い男の声だ。しかし声に驚いた訳ではない。黒い……白目が黒かった。
 

 白目が黒くて目の色が緑だった。
 緑色の目の人だけならそこら辺にごろごろいる。けどこの人の目はそんなものじゃない、何色もの緑や青が混ざった色彩に金粉が舞い散っていた。
 そんな虹彩が黒に包まれているのだから声よりも目に驚くのも無理はないだろう。

 男は俺の驚いた顔を見て首を傾げた。さっきは男の目の色にばっかり気が行ってしまっていたがよく見る整った顔でと鋭い目つきをしている事に気づく。
 しかし、どこかこの世全てのものに飽きたとでも言うような、何となく気だるさが混じっている。そんな目だった。

 「どうした? 驚いた顔をして……あぁ、目が気になるのか? だったらもっと近くで見せてやる」

 俺が驚いた理由にすぐに気づいた男は「面白いことを思いついた」とでもいうような顔をして俺に近いてくる。あっという間に距離を縮めると体を屈めて俺の顔を覗き込んできた。

ーーー時計だ。まず頭の中に浮かんだ言葉がそれだった。
 離れた所から見ていた時には見えなかったが虹彩に時計の模様が浮かんでいた。そう思った瞬間、俺は目眩に襲われて毛布へと逆戻りした。


****

数時間前ーーー

 「親方ー! 川から男の子がー!!」

  私が狩りや採取をしていると巫山戯たセリフが聞こえた。間違いなく新月だろう。行きたくない、様子を見に行かなければいけないだろうが行きたくない。こういう時には必ず面倒な事が起きるって現代の苦労型主人公が私に語りかけてくる……しかし、行かないともっと面倒なことになる。仕方がないな。

 では狩ったものは仕舞うか。神通力で……

 『特殊スキル【無限の胃袋】を使いますか?』

 ん、無限の胃袋? ギャル●根にでもなるのか? というか、私にも特殊スキルとかあったのかが気になる。ステータスでは面倒だと言わんばかりの測定不可の嵐だったのにな。

 まず、【世界の図書館】を使って調べてみよう。

 『特殊スキル【世界の図書館】を使い、特殊スキル【無限の胃袋】について調べます。特殊スキル【無限の胃袋】とはアイテムボックスのことです。アイテムボックス内にあるものは全て入れた時のままになります。入れても壊れたものは治りません、消えません。なお、無限なので底はありません』

 なるほど便利だ、というか便利過ぎてデメリットはないのかと探してしまうぐらい便利だ。とりあえずこの【無限の胃袋】に今まで採ったものを全て入れて川へと向かおう。


 川に行くと川原で新月が男の子に覆い被さっていた。……何だあいつ、ショタコンだったのか? 旅より先に警察に突き出した方が良いかもしれない。

 「新月、お前ショタコンだったのか?」
 「んなわけないだろうが! 人口呼吸だよ、見りゃ分かるだろうが!」

 よく見ると新月に襲われていた男の子はガリガリの濡れ鼠だった。なんだ、てっきり新月が川にいた男の子に奇声を上げて襲いかかったのかと思った。

 「痴女が年端のいかぬ男の子に襲いかかっていたように見えた」
 「ひっど! 俺のタイプは背の高い男前だ! ショタには手をださん!! 愛でる対象だからな!!」

 ドヤっと胸を張っているが背の高い男前なら手を出すと公言してるようなものだろう。痴女に変わりはない。

 「やはり痴女じゃないか。この不審者が」
 「勝手に人を不審者扱いするなー! 俺が手を出すのは二次元の住民だけだ! ちなみに今ハマっているのは刀●乱●のC●P先輩とニーーー「どうでもいいわそんな情報」」

 ショタコンじゃないって言ってるがニ●ってさっき見せられたけどショタだったぞ。

 ひっどーい!! 人が誤解をとこうとしているのにー! あっでもニ●ってよくね? あの足ーーーと叫んでいる不審者は放置して目線を下ろす。あっ男の子忘れてた……こんなアホに付き合っている場合じゃなかった。改めて男の子の様子を観察する。
 体は全体的に痩せている。……恐らくトワフ地方の飢餓によって捨てらたからと考えるのが正解だろう、そして濡れているのは川にでも落ちたとしか考えられない。
 さて、どうするか。放置したままというのはダメだろう。食事を摂らせてハイさよならが出来るようにも見えないし。

 「もしもーし? 聞いてる? 無視せんといて」
 「男の子の方が大事だろ。で、どうするんだ? このままは流石にまずいぞ。私が粗方片付けたとはいえ衰弱してる子供一人はすぐに魔獣の餌食だと思うんだが」

 うーんと新月が考える仕草をすると決めたと言って男の子に抱きついた。何と無く未来が予測できる……

 「とりあえずギルドに行くまでは一緒にいて良いんじゃないか? ギルドなら王都だろ? 一緒にくるのでも別れるんでもどちらでも都合がいいし! ということでクロ、さくっと休む場所創ってくれ」

 はい、言うと思っていたし分かっていた。しかし男の子一人だけにして置いて行く訳にもいかないから仕方ないと言えばそれまでだ。
 でも最後のセリフは何なんだ? まだ四時だぞ。もしかしてダラけるつもりなのだろうか?

 「もしかして新月、お前サボる気じゃないだろうな?」
 「チッ、バレたかここで好感度アップ+看病という名のお昼寝タイムを摂ろうとしたのに! 貴様! なぜ俺の策を見破ったのだ?! さてはエスパーか?!!」

 悔しそうな顔をした新月がドドドドドド、とでも効果音が聞こえそうなポーズをする。アホか。
 サボる気満々で何考えてるんだお前は、というか何千年お前と一緒にいると思ってる。お前の考えそうな事は直ぐに分かるぞ。

 「じゃあ仕方ない正直に言おう……パパァ、お昼寝ちたいのー。何か創ってー?」
 「BBAが『ちたいのー』とか言うな。気色悪い」
 「わーん、クロが冷た~い! 今の俺はすごく可愛らしい姿をしてるのにー!」
 「アホ、見た目は可愛くても中身は腐った脳みそとガキ大将とのび●とジャイ●ンを混ぜて2で割ってもいないじゃないか」
 「ピコーン♪  ▼新月は本当のことを言われて黙っている! 自覚があるので言い返せない!」
 「口で言うな」

 別に良いんじゃーん! ツッコミか何か入れてもー! ってかなんか出してよー、クロえもーん!! と言いながら引っ付いてくる中身が小学生以下の人が1人。
 五月蝿い、ど●えもんより病院に行って医者に診てもらったらどうだろう。特に頭を、


 「あー! クロいますごく失礼な事考えたでしょー? いいじゃん! どうせ今日の夜にはやるんだろー? 出してよー!」

 今度は出せコールが始まった。五月蝿い、そしてウザい。仕方がないな……

 「あー分かった分かった。出せばいいんだろう?」

 あまりにも新月が五月蝿いので少し早いが休める所を創る。
 見た目は小さくて中が広い方がいいだろう。家財を入れたままでも畳めて運ぶのに便利、現代の家のような構造で水と電気が使えるようなものにしよう。

 『神通力を使います。神通力は魔力の消費により戦闘、日常生活などあらゆる面で使えます。ただし、使用した規模により魔力はそれに見合う量だけ消費されます。さらに想像力を使うとより具体的になります。今回、5回同時に使います。現在、使える回数はあと0回です』

 と前と同じ声が聞こえて出て来たのは……

 「まんじゅう?」
 「ゲルだゲル。モンゴルで使われている移動出来る住居だ。正確にはゲル擬きだがな」

 新月の食い意地は放って置いて男の子を前に出した毛布に包んで中に入り、リビングのように広い所に寝かせて外に戻る。
 すると新月が『無視すんなー! あとこのテントの解説よろー 』と言うとまた抱きついてきた。自分で調べる気はゼロらしい。



 簡単に説明するとこれはゲルの見た目をしているが本当のゲルではない。見た目はゲルだが私の神通力で出したのでいろいろと便利な所がある。

 一つは、見た目はゲルだが組み立てには時間が掛からないようにした。床になる布を敷いて、骨組みは折り畳み式にした。布は羊毛で出来た分厚い布を掛けて結ぶだけだ。

 二つ目は、ゲルの中を広くしたことだ。しかしゲルの中をただ広くしたんじゃない。新しい次元を創ってゲル内部と繋げた。
 畳めばゲルの中の空間は消えるので次元も閉じ、ゲルを建てればまた次元に繋がるという便利も兼ね備えている。
 おまけだが次元を創ったおかげで家具を入れたままでもゲルが畳めるようになった。一石二鳥だ。

 三つ目は、電気と水道が使えることだ。ゲルは移動出来るものなので本来なら無理だ。しかし上記の理由から可能になったので次元に水を出したり汚水の浄化が出来る魔法陣と家電製品が使えるぐらいの電流が流れる魔法陣を編み込んだ。



 これでだいたいは現代の家のようになってるだろう。しかしこの魔法陣には限りがある。
 私が作った魔法陣なら期限は大抵は決めることが出来るのだがこの魔法陣にはいろいろと設定を加えてしまった。そのため一ヶ月に一回描き直しが必要になっている。ここだけが不便だな。
 これでゲルの外側のものを作るので一回、新しい次元を創るので一回、次元を繋げるので一回、魔法陣で二回の計五回も使った。使いすぎた。

 「うっは!  むっちゃくちゃだな。けど、めっちゃ便利じゃん、気に入った!」

 新月が顔に満面の笑みを浮かべて喜んでいる。喜んでいる姿は……うん、見た目だけなら可愛らしい。中身は終わっているが。
 私もこのゲルには満足している。がここで問題が出てきてしまった。普通に言ったら新月に怒鳴られるな。そうだ、クイズ形式でいこう。

 「さて、ここで問題です。今日はこれから貴方に大切な任務が課せられています。さてなんでしょうか? 10秒で答えて下さい」
 「え? えー!! シンキングタイム短!」

  新月が驚いて慌てて考えだす。ちょっと考えれば分かる問題だ。答えが解ったら私が怒られるが。

 「残り7秒」
 「えーと、荷物運び!」
 「不正解。採ってきたものは全てお前も持ってる【無限の胃袋】の中に入れました。残り3秒」
 「え? そんなのあるのかー。じゃなくて! えーと、ショタっ子の看病!」
 「不正解だショタコン」
 「なんで?!」
 「正解は私の使える神通力の回数が0になったので自力で食事を作らないといけなくなった。さらには布団も出せなくなったので床で寝る羽目になったでした」

 私が答えを言うと新月は嫌そうな顔をしてぐだぐだとぐだり始めた。うん、大体予想はしてた。始めは

 マジかよー!! メンドくさいーよ!! おふとぅーんは出して欲しかったー!!

 などウダウダと言いながらぐだっていた新月だったが時間が経つと段々、落ち着いてきた。半ば仕方ないと諦めた顔をしていたが今度は私の手を引っ張った。

 「じゃあクロもやれよー。だいたい、あんな規模の攻撃を何発もするからこうなるんだよ! あれはないと思うぞ。おかげで多分ここの周辺あたり一帯に知られてると思うぞ~。明日からは魔力ってやつ使って範囲と威力決めてから攻撃しろよー」

 明日からは二人して移動がてら特訓な~と新月が言いながら私の手をブンブンと振り回す。
 アレか、魔力があるから魔法が使えそうだが神通力でいいかと思ってたがあり得ないようなものだったらしい。明日からは気をつけてやらければいけないな。

 「でな訳で住居が出来たのでプチ宴会を兼ねた早い夕食を出して貰おうと思いましたが、パァ、になったので嫌ですが自分で作りたいと思います! 何作る?」

 さっきの私を注意した姿とは打って変わって、くねくねしながら魚も肉もあるなら結構何でも出来るよね~と新月が言った途端、動きが止まった。そして勢い良く私のネクタイを引っ張って顔を近づけてくる。
 今気づいたか……

 「クロ、神通力でゲル作った時にキッチンも作ったんだよね?」

 新月が真剣な顔で言ってくる。はい、

 「その時に調味料とか料理器具は?」

 ……出してないな。

 「馬鹿野郎!! 何も出来ないじゃないかー!!」

 ごもっとも。

 「じゃあ私は男の子の様子を見てくる」

 私は一言だけ言ってゲルに避難する。
 後ろから待たんかーい!! と言う怒鳴り声が聞こえる。
 目だけを後ろに向けると俺一人でやるのかよー! と地面を転がる新月がいた。なんだ追ってこないのか。よかった……


 そう思って安心していた私だったが男の子が気絶して戻ってきたところでしっかりと新月にあのと尖ったもので脛を蹴られた。
 その後、私が原始的な方法でおこした焚き火で料理も内臓処理もされてない魚と肉を食べました。すごく不味かったです。
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