遑神 ーいとまがみー

慶光院周

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第1章

シリアス……だったんだけどな……

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 紙芝居が終わり新月は、あ~疲れたと言ってカ●ーおじさんの口髭を剥がす。鼻眼鏡はそのまんまでいいのか?

 「っていうのがここまでの話でーす。で、本題は今日の八つ時におきました。ハリスくんが寝こけていた時なんだけどね―――」



数時間前、

 新月が見てみろとジェスチャーした箱の中を【鑑定】と【世界の図書館】を同時に使って覗く。
 箱の中は細かい魔法陣のようなものがびっしりと描かれており黒色の小さな石と拳サイズの夜空色の石が敷かれていた、その中には何やら水銀のような液体で満たされいる。

 『【清音石】
 複数集ると清らかな音色を出し共鳴することからこの名がついた石。オージュンの東地方で取れることから漢字が当てがわれている。

 普通のものは乳白色が多いが中に含まれる魔力が多いものは夜空のように美しい色と輝きを持つようになり希少価値が上がります。
 古代から邪を浄化する力を持つとされ呪われたものと一緒に置いておくことが多いです。



 【イノセントドロップ】
 ユニコーンが流した涙を蒸留させて出来る銀色の液体。

 振りかければ途端に穢れと一緒に穢れに憑りつかれたものまで消し去ってしまうほど強力な浄化の力を宿した秘薬。


 【原初の罪   破片】
 異世界の神クロノスが父であるウラノスから受けた呪いが固まったもの、の一部。

 破片を取り込んだものは祟られ、穢され、あらゆる負の感情に支配されます。 
 取り出すのであれば取り込まれたのが動物や人間ならば同化はしないので簡単に取り出すことができます。
 しかし、異世界の神クロノスが取り込まれてしまうと同化し、中々取り出すことは困難となります。

 この世で最も恐ろしいものと呼ばれる怪物、神はいくらでもいるが憎悪や恨み、憎しみといった感情の念を一身に集めた存在となったクロノスも最も恐ろしいものとして挙げられるでしょう』


…………………………………………………………………………………………………………………………………………お、おぉ……



 上二つは問題ないが……まさかこれがあるとは……
 私が固まっていると新月とツァスタバが勢いよく蓋を閉めて私から遠ざける。

 「クロ離れろ!!! 触ってないよな?!  ないよね?!!」
 「ご無事ですかマスター?!!」
 「触ってないから無事だ。二人とも落ち着け「ねーよ!!!」「ません!!!」……だよな」

 新月は鬼のような顔でツァスタバは色白の顔をさらに白くして同時に叫び、箱の中身をどうするからと騒ぎ出す。

 何も見ていなかったということにしてまた海へと投げ込むか、破壊するか(無理だけどな)。
 オリンポスに急ぎの品として送りつけるかなど私から箱を遠ざけたまま箱を両手で高く上げた状態で早口競争のように喋り出す。
 私のことは無視なのか?

 「二人ともそこまで離れなくていいから戻ってこい。話しづらい」
 「「………」」

 二人は無言でのっそりと、だが箱はちゃんと押さえたまま戻ってくる。

 「私はとりあえずその箱、精確には破片だけだが海に投げ捨てても多分戻ってくるだろうと思う。なら、私の息子達に管理させた方が余計な面倒を生まないからいいと思うがどうだ?」
 「……私はマスターに賛成します。これは人間界に置いて置いていいものじゃありません。そう直感しましたから」
 「……う~ん。確かに戻ってきそうだしすぐにぜうぜうに渡して置いた方が余計なことにはならないよね、そうしよう。げど、どうやって届けるの? ヘルペスいないのに」

 私の考えを二人に伝えると一応賛成して貰えた。が、新月の言う通りどうやって運ぶかが問題だ。
 しかしヘルペスはやめろ。あれはウィルス性のものでヘルメスは神だぞ。しかしあいつならこれをなんとか運んでくれるのだろうが今は連絡手段が……あった。

 「私が社員に連絡しよう。私と私の会社には緊急時用に意思の疎通が出来るように電話を繋げているからな。そこからオリンポスに繋いで貰いヘルメスを呼ぼう」

 善は急げだ。私はオリンポスに連絡するようにと念じて電話に送ると、すぐに了解ですと返事が来た。その時間五秒、早いな流石私の部下。

 「あ、そうか!!  その手があったね」
 「マスター、電話とは?」

 新月はあぁと、ぽんと手を叩き納得した顔をしたがツァスタバは頭にハテナマークを浮かべている。
 あぁこいつには話していなかったな。

 「私が随分昔に社長として作った会社にある機械のことだ。
と言っても私は作っただけであとは部下に任せているけどな「丸投げの間違いだろ」五月蝿い。
 本来は時空の歪みを直すのに人手が欲しくて作ったんだが部下が優秀だからお飾りの社長と化しているだけだ。ブラックではないぞ。
 そこに緊急時に私の頭と直接繋がる機械があってな、そこからだと意思の疎通が出来るんだが理解出来たか?」


 ハテナマークを浮かべていた表情から納得した顔に変わったツァスタバの表情を見てわかって貰えたか聞くと整った顔をいつも以上に和ませて口角を上げる。

 「はい、大体は。 素晴らしい手段をお持ちなのですね流石、私のマスター。しっかりと対応手段を考えていらっしゃられる」
 「でしょ~?流石俺のクロ! じゃあ早速電話「もうしたからじきにヘルメスがここに来るだろう」早!!」

 褒めるツァスタバに対して何を思ったのか少ししかない胸を張った新月が私に抱きつく。
 胸が当たるが嬉しくない。



 「―――はは! 相変わらずだな爺さんは」
 「ッ!  何者だ?!」
  
 そろそろ新月を離すかと考えていると若い男の声が部屋に響く。一瞬にしてツァスタバがさっきまでの艶っぽい顔色を警戒の色に切り替えて体術の構えをとって声の主を探す。


 鯛、ホタテ、昆布などが入ったバケツが置かれたキッチン。きっちり締めて『サイレント』をかけたドア。無理を言って変えて貰った大きなベットがある部屋と2つのベットが置かれた部屋との間にあるドア。爆睡しているハリスが陣取っているソファー。


 順々に部屋を見回して見るが誰もいない。となると―――「上だよ、上」
 もう一度声が聞こえて上をみると白いキャスケットを被った一昔前のイギリス風郵便屋の格好をした金髪の青年……と言ってもいい程若い男が落ちてきた。

 「よっ! と、久しぶりだな爺さん!  あ、でも俺達あの時が初対面だったからまだ会うの2回目ぐらいだったけ? ってかなんかマ●クの音してね?」
 「音に関しては目を瞑ってくれ。ツァスタバ、こいつがヘルメスだから警戒しなくていいぞ」

 いつの間に移動したのかツァスタバはヘルメスの首にいつの間にかはわからないがキッチンにあったはずの果物ナイフを当てていた。青年がヘルメスであることを教えるとツァスタバは慌ててナイフを仕舞って姿勢を正し謝罪する。

 「申し訳ありませんでした。てっきり物盗りかと」
 「いやいいって、俺泥棒の神でもあるから間違いではないしね~……それよりも爺さん! この美人さん達誰だよ?! 片方はボッキュンボンのねーちゃんだし! もう片方は……なんか変な帽子被ってるけど「海賊帽子!」

 あっそ、クールな見た目の可愛いお嬢ーちゃんだし!!」

 眉を下げて謝罪するツァスタバを軽く制し逆にツァスタバと新月を見て目を輝かせるヘルメス。
 少し釘を刺しておくか。

 「ツァスタバは私の執事だ。手を出すなよ」
 「なんだよ。ちぇ……」
 「あと、そっちの白いチビは混沌、つまりカオスだ。今は新月と呼んでやれ」
 「え?……メイビー?」
 「あぁ」
 「ま、マジでー?!  あのクソ生意気で見た目は無色透明、中身はその名の通りのカオスっぷりが炸裂した自由人がこのお嬢ーちゃんなのかよぉぉぉおお!!」
 「うっせー!! この姿はクロが考えたものなんだよ! 俺だって本当はもっとグラマーになりたかったんだ! ま、もう慣れたけどね。
 ……おっほん! よ!  おひさ~、キュートでセスシィな白いエンジェル 混沌カオスこと新月ちゃんでーす♡」
 「う~~ぅあぁぁ……もうやだ帰る! 爺さん早く要件言ってくれぇ!」

 新月のことを包み隠さずに言うとヘルメスは金槌で殴られたような顔をして撃沈した。
 早く帰りたいようなので一瞬でも可愛いと思った俺の目は腐ってなんか無い筈なのに~~!!  と床でいじけているヘルメスの目の前に箱を寄せる。
 箱に気が付いたヘルメスは口から魂を出したまま箱を覗くとすぐに魂を口に引っ込めて飛び上がる。
 猫みたいで反応が面白いかった。

 「オーノーぉぉぉおおお!!!!  なんで爺さんがこれ持ってるんだよ!!  ひょっとしてなんか訳ありなわけ?!」
 「ヘルメス様落ち着いて下さい。これにはいろいろと訳があるのです」

 箱の中に入ったものを確認したヘルメスは新月とツァスタバ同様に凄い勢いで箱を掴み上げ私から遠ざかる。
 そんなヘルメスをツァスタバが落ち着かせて今までの出来事を教えるとあー、なるほど……と言って目を逸らす。
 明らかに何かを知ってるなこいつ。

 「教えろ。今のうちに話した方が身の為だぞ」
 「わ、わ、わ!! 話す! 話すから! お願いだから米神グリグリするのやめてくれ! 痛いから!!」

 〆あげ第一弾としてまず目を逸らしてこちらに向けている横顔の米神を指でグリグリするとあっさり話す気になった。
 米神を抑えてヘルメスは立ち上がると服を叩いて姿勢を直し、帽子も被り直す。

 「ま、いつか親父が爺さんにも話さないといけないなって言ってたからいいだろ。実はね爺さん、この破片があるからわかってると思うけど……親父は全部の破片を封じ込めた訳じゃ無いんだ。まだ回収中」
 「はい? 一体どういう「「は?!」」

 意味がわからなくて首を傾げているツァスタバに被せるように私と新月が声を出す。次の瞬間、私と新月はヘルメスをじっと見つめる。見つめ過ぎたのかヘルメスは今度は両手を振ってまた目を逸らす。

 「いや~……破片が思ったよりも多くて……実はまだ全部集まっとらんのです!」
 
 ヘルメスが叫ぶと部屋が一瞬だけ時が止まる。私は何も能力を使っていないぞ。

 「「……あとどれだけあるんだ?(あるの?)」」
 「え、えーと、そ、それがぁ……「「教えろ!!」」  あと三割程ですぅ!!  多分、この世界にはもう一つぐらいあるのでそれを合わせるとあと二割ぐらいになるので親父が爺さんにもう一つの方も頼むってぇ……!」
 「もう一つもあるのですか?! この世界に?!」

 二人でヘルメスの肩を揺さぶってヘルメスから吐き出させるとあと三割もあるらしい。しかもこの世界にはもう一つ破片があるときた。
 揺さぶった衝撃でフラフラしているヘルメスを放すと「はにゃにゃぁぁ」と言って床にリターンした。

 「マスター!  如何なさいますか? 見つけて破壊します? しますよね? しましょう!!」
 「いや、破壊したところでガラスみたいに形が小さくなるだけであとが面倒になるだけだぞ。ヘルメスに運んで貰った方が楽だ。ヘルメス、この破片の封印を頼むぞ」

 焦った顔でツァスタバが破片の破壊を提案するのを却下し、私は知っている封印の方法をありったけ込めまくった箱の進化版を作って【清音石】、【イノセントドロップ】と一緒に破片を入れて何十にも鍵をかけてヘルメスに渡す。

 「あ~痛っててて……わかりやしたよ。一先ずこれは親父に届ける。爺さん、親父がああ言ってるけど絶対に無理して探そうとすんなよ。無理して倒れた。なんてことが無いようにな」
 「分かっている。頼むぞ」
 「ん、」

 ヘルメスは進化版の箱を手にとって肩から下げていた鞄に入れると頭を押さえてゆっくりと立ち上がると帰る為に空間を調整し始めた。
 少しして人が一人が通れそうな亀裂が何もないところに浮かび上がる。

 やっぱり私以外が次元を越えようとすると時間がかかるのか、初めてみた。
 ヘルメスは亀裂の隙間を通り抜けようとすると あ、という声を出して亀裂から区分だけ出した。

 「あと親父、ヘラ様、デメ叔母さん、ポセ叔父さんとハデ叔父さんがよろしく言っといてくれだって、じゃあね~!」

 そう言ってヘルメスは首を戻し、亀裂が消えた。部屋に静寂が広がる。

 「マジで?  マジなのかよ~~?!  うわーん!! 折角のんびりとした旅が出来ると思っていたのにぃ~~!! なんで漫画の主人公みたいな冒険にチェンジしてるんだよぉ~もういやぁぁあああ~!!!」
 「本当です!  あぁ、これからはもっと御二人の護衛を強化しなければ!」

 先に沈黙を破ったのは新月だった。次にツァスタバ、二人ともこれからどうしようと嘆いている。やれやれと思いつつ、二人を宥めようと一歩前に踏み出すと空になった筈の箱の中で何かが光った。
 不思議に思い箱をひっくり返して振ってみると小指サイズの清音石が絨毯に転がり小さなシミを作った。

 「あ、全部入ってなかったの?」
 「らしいな、渡してくるか」

 新月にスタシスを出して貰おうとすると袖を引かれて止められる。が、感触が一つじゃない、もう片方の手も握られていた。振り返るとツァスタバが手を、新月が袖を引っ張っていた。

 「いいしょ、一つないぐらいじゃなんもないって。それより俺はクロが持っていた方がいいと思うよ」
 「そうです、清音石は浄化の力を持っているらしいですからならいざというときにマスターが持っていらっしゃった方がいいでしょう」
 「だよね! つーちゃんもそう思うでしょ? なら俺が役に立つかわからないけど魔力を込めてクロのためにお守りにしてやろう! 清ひ……じゃなかった。清音石、なんかあった時はクロを守れよ!!」

 目を瞑った新月は清音石をぎゅっと強く握った両手に額を当てて祈りを込める。
 するとさっきまで夜空色だった色が新月の目の色のように赤く染まった。驚いて何があったのか調べると凄いことになっていた。


 『【希求の呪符】
 神の祈りが込められ格が上がった清音石。
 あらゆる邪気を遮断し、持ち主を守る最強のお守り』


 「なんと美しい……」
 「oh!  アメージング!! 俺にもこんな力が!  これならそこら辺の石に適当な祈りでもかけて『魔獣に襲われないお守り』として売れば馬鹿売れ間違いなしじゃん!!!   
 あ、でも俺クロ以外に祈りなんて掛けれる程お人好しじゃないか無理か。」

 ありえない。祈りってこんなのでいいのか。握っただけだぞ。安すぎるだろ。
 あと売るのはやめとけ新月、詐欺師になるぞ。

 「これならマスターを守るお守りに相応しいですね」
 「でしょぉ?  クロが二度とあんなウサギとバッタの品種改良させたような見るも悍ましい姿にするもんかと力を込めまくったからね」


 何がウサギとバッタの品種改良だ。私はゲテモノか。

 そう言おうとしたが新月が石の状態を確認すると私の手のひらに石を乗せてくるのを見て言葉を飲み込むとぎゅっ、っと手を握られる。
 握られた手を見ていると一向に話される気配が無く不思議に思い目線を少し上に上げると新月が私の顔を除き込んでいいた。
 そこにはいつも戯けた表情は消え去り、あやしいほど真率な表情へと変わった新月の顔が私にへと向けられている。

 「いいクロ、絶対に肌身離さず持っていてね」

 いつもと違って巫山戯ていない真剣な声で念を押される。新月の声は少し高めのアルトだが真剣に話している分、大人っぽく聞こえた。

 「ね?」
 「分かった。そうする」

 もう一度同じ声で今度は口元に微笑の兆しを見せて言われ自然と返事が喉から出た。
 なんだこいつ、こんな顔も出来るんだな。



 ……なぜだろう、新月を見ていたら急に触れたくなった。
 思わずもう片方の手を伸ばす。あと少しで私の指が新月の頰に触る――――

 「新月……」

 いつもの表情も見ていて面白いがこれもまた―――「は!  お嬢様、折角釣った魚がバケツに海水を入れてなかったせいで死にかけています!!」

 あとちょっとというになってバケツの中を除いて異変に気付いたツァスタバが大声で叫ぶ。
 それを聞いた新月はさっきの表情はどこへやら、天女が鬼女にミラクルチェンジするように顔を変化させて私を置いて魚へと一目瞭然に駆け出す。

 「マジで?! わーん! おしゃかながぁぁぁああああ!!!」
 「大丈夫です!  まだ海水を入れればなんとかなります!  今日は無理でしょうけど……」
 「お刺身ぃぃぃいいい!!  クロ!  こういう時こそ時を司る神の出番だぞ。さぁ、この鯛を新鮮な状態に戻すんだ!」

 すぐ食べるつもりで何も入れていなかったバケツには酸素不足であまり動かない魚達がいた。
 新月はさっきまでのそっ、と私の手に触れていた手で今度は魚を鷲掴みして私に向かってビシッ、と指を指す。
 こいつどうでもいいことに私の力を使おうとしている。ついでに言うとさっきよりも必死な顔をしてないか?

 「おい、さっきまでの私の驚きを返せ」




 「なーんてことがあったんだよね。おかげで今日はお刺身が食べられません!  目の前に魚がいるのにこれを一日も待たないといけないんだよ?!  酷くない?だから三人(うち一人は別件)とも気分が萎んてるの。わかって貰えた?」
 「確かに酷いですけど臨場感が全部吹っ飛んでどうでもよくなりました」
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