【完結】Switchなんて聞いてない──氷のエリート様が年下の溺愛Domに溶かされるまで──

牛丸 ちよ

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墜落

1 Switch

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 プロヴィデーレ・ジャパンは誰もが知る大手コンサル企業だ。
 そこに勤めているというだけで羨まれ、特別な人間なのだと解釈される。

 外から見れば、華やかで名誉ある職場。
 しかし蓋を開ければ地獄の釜の底。
 私生活を捨てる忠誠心が試され、行き過ぎた実力主義のために己の第二性ダイナミクスさえ利用しなければ生き残れない。たとえそれが、世間一般ではハラスメントだとしても。

 俺──財前ざいぜん 大慈おおじがこの会社で成り上がれたのは、実家が太いからでも、大学を首席で卒業する賢さがあるからでも、不眠不休で駆け回れる体力があるからでもなく、SランクDomドムだからだ。

 俺は俺自身の資質に満足していたし、誇りだった。

 なのに。


「俺が……Switchスイッチ?」


 肉体の不調を感じ、初めて有給をとって医者にかかった。
 検査の結果、健康体だが第二性が転換していると告げられた。

 ──この世界には男女の性とは他に、DomとSubサブの第二性がある。
 Domに生まれた者は支配的な本能……良く言えば庇護欲の強い気質を持ち、言葉で周囲を従わせる力が使える。
 この《従わせる力》の強さがランク付けに関わる。
 心を通わせたSubしか従えられない弱者Cランクから、SubだけではなくDomさえも強制的に従わせる強者Sランクまで。

 なお、SubはDomに従うしか能のないマゾヒストだ。
 優秀の対義語。劣等の言い換え。
 プロヴィデーレにSubの社員がほぼ存在しないことがその証左である。

「財前さんは検査に現れにくい潜在型Switchだったようです。Subになったばかりで精神的に不安定でしょうから、抑制剤を飲んで刺激の少ない生活を心がけてください。では、受付で処方箋を受け取っていただいて──」

 医者の話を他人事のように聞いていた。受け入れられるわけがない。

 Dom/Sub性は出生後検査で判明する。
 どちらの第二性も持たない場合はNeutralニュートラルと呼ばれ、人口比のほとんどを占める。
 どちらの第二性も持っている場合はSwitchと呼ばれ、稀な存在だ。Switchは普通であれば幼いうちから第二性の切り替えを覚え、うまく生きていく。

 ……潜在性Switchなんて初めて聞いた。
 検査では判明しづらく、実際に転換が起きて発覚することが多いらしい。訓練を受ける機会がないために、転換を自分の意思で制御できない。


 気が付いたときには、Subの本能を抑える薬──抑制剤を持って家にいた。
 時計を見ると午後五時。
 こんな時間に帰宅したことなどない。いつもならまだ仕事をしている。

 スマートフォンには上司からの着信履歴があった。「ただの風邪でした。明日には復帰します」という報告を待っている。
 折り返す気にもなれず、部屋の電気もつけないまま立ち尽くす。


「Sub……? この俺が……?」
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