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財前大慈の生活
55 Collar【2】 完結
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オフィスの中は静かで、外の雨音は聞こえてこない。
壁の時計は定時過ぎを指し、隣の小紅はクッキーを食べながら手元の資料をめくっていた。
向き合い続けたパソコンには完成間近のデータが表示されている。これが終わったら帰ろう……千裕が待つあの部屋を頭に思い描く。
先日、ついに自分が借りていたマンションの部屋を解約した。
千裕の家で寝起きしながらも家賃を払い続けていたが無駄金に思えてきて、千裕に本格的な同棲について相談したら二つ返事だった。
代わりに千裕へ家賃を渡すことを提案したが、丁寧に断られた。
完全な引越しが終わっても、千裕は俺の暮らし方にほとんど口出ししないでいてくれている。俺らしくいてくれることが嬉しいと言い、食事と睡眠の心配をするくらいだ。
だから、無茶なスケジュールのまま好きに働いている。
自分の左手を見る。
結局、ずっとつけていられるという理由からCollarは指輪になった。
揃いのデザインを千裕も身に付けている。
レストランで食事をした数日後、半休をとらされて高級ブランドのジュエリーショップが立ち並ぶエリアに連れて行かれた。
予約をとった店もあるが、ふらっと入れる店もあるからどこが好みかと聞かれた。俺にわかるはずもない。
ひとまず一番近い店に入ってみると、いくつかのぎらぎらとしたアクセサリーを紹介される。
店員とやりとりする千裕の横で、俺は借りてきた猫のようだった。興味の有無以前に、何もわからなさすぎる。
俺がどれを着けたところで喜ぶのは千裕だけだから、千裕の好みにしたらいいと思っていた。
そんな他人事の顔をしていたら、千裕は店員に礼を言い、商談を打ち切った。
次の店に行くのかと思いきやカフェへ移動し、アイスコーヒーを飲みながら疲れていないかやたらめったら確認された。
そのあたりで、俺が乗り気じゃない可能性を千裕が心配していることに気付いた。無関心な態度を取りすぎていたのだ。
「おーじサマ、また指輪見てる」
小紅にニヤニヤと話しかけられ、ハッとして手を下ろした。このやりとりは今日で三回目くらいだ。
「見慣れてないんだ」
「はいはい。僕もう帰るから、おーじサマもほどほどにね」
オフィスを出ていく小紅を見送る。花の金曜日ということもあり、いつまでも残業する社員は少ない。
俺も早く仕事を片付けてしまおうと、椅子に座り直した。
スマホが短く鳴る。先に帰宅している千裕からのメッセージだった。
『傘もってないですよね? 迎えに行っても?』
就寝の報告かと思ったら。
どこまでも俺の世話を焼きたいらしい。
『頼む』
『もう少しで着きます』
返事をしたらすぐに応答があってたまげた。
もう少しで着くということは、どう考えても初めの連絡の時点で出発した後だ。
慌てて仕事を片付けて一階に降り、ロビーに出る。
玄関のガラスドアから外を見ると、遠くに千裕が見えた。
「わざわざすまないな」
「早く会いたかったので、この雨は味方です」
「そうか。で、俺のぶんの傘は?」
ウキウキしている千裕の手には、傘が一本しかなかった。
彼はそのことにいま気付いたようだ。びっくりした顔で己の手元を見たあと、意味もなく後ろを振り向き、それから俺を見た。
「…………わざとではないんです」
わざとではないらしい。
責めたりはしない。俺の目的も達成されている。
そもそも、外回りも多いこの俺が会社に置き傘をしてないわけがない。だがそれを伝えると話がややこしくなるので黙っていた。
ひとつの傘をさし、肩を片方ずつ濡らして帰る。
家に入ると玄関にはタオルがあり、風呂の準備も万全だった。
「夕飯まだだったら、冷蔵庫にありますからね」
俺はまじまじと千裕の顔を見る。
こいつ、個人医院を経営しながら家事してるの、俺より忙しいんじゃないか? 怖くなってきた。週末、風呂掃除くらいはするか……。
二人してのぼせ気味で風呂から上がり、冷蔵庫から水のペットボトルだけ持って寝室に移動した。
残りの体力を使い果たして添い寝する。
ベッドサイドの明かりが手元を柔らかく照らしている。自分の指に今も指輪があることをしみじみ眺めた。
千裕にも同じ指に同じものがある。
店で指輪のサイズを聞かれたとき、どの指にするか決めたのは千裕だった。
左手の薬指。──彼がここまでロマンチストだとはな。そう思っていたが、最近は超合理的な判断だったのだろうと感じている。
装着して生活してみると、ネックレスやファッションリングとは格段に違う効果を感じた。虫除けの。
取引先のセクハラ手前の探りもなければ、同僚Domの無闇なCommandも減った。
薬指の指輪という視覚的な力と、Collarとしてまとう千裕の気配がこの上ない牽制になっている。
この話をしたら、千裕は満足そうだった。
そっと手を握られ、指輪を撫でられる。横を見れば目が合った。
彼が幸せそうに微笑むと、つられて俺も表情が緩んでしまう。
■ ■ ■
ジュエリーショップからカフェに移動して、千裕は当たり障りのない話題をだらだらと続けている。最近できた近くの飲食店の話だったり、新作映画の話だったり。「退屈なら予定を変更しても良い」という雰囲気をかもしだしている。
ずっと気を揉んでいる彼を見て、無性に自分が情けなくなった。
そんな顔をさせたくてここにいるわけではない。
「予約は何時からなんだ?」
話を遮り、時間だけではなく店の名前もたずねる。
千裕は戸惑いながらも教えてくれた。時計を確認すると、予約の時間までもう間もない。
「行くぞ」
立ち上がり、千裕の腕をつかんでカフェを出る。
「え? え? 大慈さん?」
目的の店はそう遠くなく、早足で向かえば数分の遅刻で済んだ。
自動ドアを通れば待機していた店員が声をかけてくる。
予約の杜上だと名乗り、俺の後ろで息を切らす千裕を指差しながら単刀直入に言った。
「こいつから受け取るCollarを指輪にしたい。詳しくないんだ。見繕ってもらえるか、仕事中もつけていられるものがいい」
店員は品良く微笑んで俺たちを店の奥へと案内した。
あっけにとられている千裕の横で、俺はよくわからないなりに店員とやりとりを交わし、てきぱきと候補を絞っていく。
ペアリングとエンゲージリングとマリッジリングが別物で、Collarならどれという制限はなく二人の関係性によると言われた時点で思考を投げ出しそうになったが耐えた。
初手で俺が怯んだのを察知したのか、店員も慣れた様子で率先した提案をしてくれる。「婚約・結婚指輪といっても必ずしもそのためではなく、Collarのために選ばれる方も多いですよ」だとか「Domの方にとって特別感は大切ですからね」とかなんとか、心理的なハードルを下げつつ、ついでにどんどん予算が跳ね上がっていって、商売人からは学ぶことが多いなあと感心した。
「最終判断は千裕に任せる」
千裕は、カウンターの上に並んだ数種類の指輪を見下ろし、まだ目をぱちぱちとしばたかせていた。おまえが言い出したことだろ。
そうして、できあがった指輪を受け取ったのが先日のことだ。
二人で再び店を訪れ、サイズ確認のために指に嵌める。
同じ指輪で飾られた俺の手と千裕の手を交互に見ながら、やっぱり奇妙な心地になる。
Collarをかけたいだけならひとつ買えば充分だろうに。なぜおまえまで。
ふいに手を握られた。
もう片手も添えられ、彼の両手で俺の左手が捕まえられている。
「千裕?」
手元ばかり見てしまっていた。顔を上げると千裕と目が合う。彼は俺の顔をずっと見ていたらしい。
「《僕はあなたのものです》」
驚いてしまう。
急にMindのCommandを投げられたせいでもあるし、それがCollarを渡す言葉だったからでもある。それに、そのCollarの内容はあまりにも想像とかけ離れていた。DomがSubに独占される誓いを立てるなんて聞いたことがない。
千裕は俺の手を握ったまま、目を泳がせはじめていた。ここが公衆の面前だと、今思い出したみたいに。
(こいつ、感極まって勢いで言ったな)
周りのスタッフは満面の笑みで俺たちを見守っている。
おかげさまで、自分の顔が熱いのが嬉しいからなのか恥ずかしいからなのか、わからない。
■ ■ ■
ベッドで心地良く髪を撫でられるうち、小さくあくびが出た。千裕と暮らすようになってからは、夜になると人並みに眠気を感じる。
各々の寝室があるが、このまま千裕のベッドで寝てしまうのもひとつだ。
時間的にはいつもの就寝時間より早い。考えてみれば夕食をスキップしているから当たり前だ。
千裕はもう済ませているのだろうか。
──ぐうう。
腹の音だ。俺のじゃない。
「冷蔵庫のやつ、温めるか?」
「……おにぎりも、作っていいですか」
ベッドを這い出してリビングに移動し、冷蔵庫の中のものを温めた。
テーブルを挟んで夕食をとりながら、千裕が思い出したように言う。
「あ、そうそう。とがみクリニックはプロヴィデーレと産業カウンセラー契約を結びました。今後はうちのスタッフがそちらに常駐します」
「いつの間に……!?」
「大慈さん、ひいては大慈さんの職場を、僕も支えたくて」
俺と交際している観点から千裕自身はプロヴィデーレに出入りするつもりがないようだが、それでもなかなか、外堀を埋められているような気がする。
「おまえ、本当に重いな」
「ふふふ。まだまだこんなもんじゃないですよ」
さすがと言うべきか。
それで悪い気がしない俺も大概だろう。
とはいえ、囲われすぎるのは本望ではない。俺がDomになったときにはバランスをとるから覚悟しておけよ。──千裕の指輪を指差した。
「おまえは俺のものなんだろ。しっかり心得ておけ」
調子に乗るなと釘を刺したつもりだったが、千裕はますます笑顔になって左手の甲を俺へ見せつける。まるで俺からのCollarを受け取ったみたいに。
つくづく、物好きな男だ。
壁の時計は定時過ぎを指し、隣の小紅はクッキーを食べながら手元の資料をめくっていた。
向き合い続けたパソコンには完成間近のデータが表示されている。これが終わったら帰ろう……千裕が待つあの部屋を頭に思い描く。
先日、ついに自分が借りていたマンションの部屋を解約した。
千裕の家で寝起きしながらも家賃を払い続けていたが無駄金に思えてきて、千裕に本格的な同棲について相談したら二つ返事だった。
代わりに千裕へ家賃を渡すことを提案したが、丁寧に断られた。
完全な引越しが終わっても、千裕は俺の暮らし方にほとんど口出ししないでいてくれている。俺らしくいてくれることが嬉しいと言い、食事と睡眠の心配をするくらいだ。
だから、無茶なスケジュールのまま好きに働いている。
自分の左手を見る。
結局、ずっとつけていられるという理由からCollarは指輪になった。
揃いのデザインを千裕も身に付けている。
レストランで食事をした数日後、半休をとらされて高級ブランドのジュエリーショップが立ち並ぶエリアに連れて行かれた。
予約をとった店もあるが、ふらっと入れる店もあるからどこが好みかと聞かれた。俺にわかるはずもない。
ひとまず一番近い店に入ってみると、いくつかのぎらぎらとしたアクセサリーを紹介される。
店員とやりとりする千裕の横で、俺は借りてきた猫のようだった。興味の有無以前に、何もわからなさすぎる。
俺がどれを着けたところで喜ぶのは千裕だけだから、千裕の好みにしたらいいと思っていた。
そんな他人事の顔をしていたら、千裕は店員に礼を言い、商談を打ち切った。
次の店に行くのかと思いきやカフェへ移動し、アイスコーヒーを飲みながら疲れていないかやたらめったら確認された。
そのあたりで、俺が乗り気じゃない可能性を千裕が心配していることに気付いた。無関心な態度を取りすぎていたのだ。
「おーじサマ、また指輪見てる」
小紅にニヤニヤと話しかけられ、ハッとして手を下ろした。このやりとりは今日で三回目くらいだ。
「見慣れてないんだ」
「はいはい。僕もう帰るから、おーじサマもほどほどにね」
オフィスを出ていく小紅を見送る。花の金曜日ということもあり、いつまでも残業する社員は少ない。
俺も早く仕事を片付けてしまおうと、椅子に座り直した。
スマホが短く鳴る。先に帰宅している千裕からのメッセージだった。
『傘もってないですよね? 迎えに行っても?』
就寝の報告かと思ったら。
どこまでも俺の世話を焼きたいらしい。
『頼む』
『もう少しで着きます』
返事をしたらすぐに応答があってたまげた。
もう少しで着くということは、どう考えても初めの連絡の時点で出発した後だ。
慌てて仕事を片付けて一階に降り、ロビーに出る。
玄関のガラスドアから外を見ると、遠くに千裕が見えた。
「わざわざすまないな」
「早く会いたかったので、この雨は味方です」
「そうか。で、俺のぶんの傘は?」
ウキウキしている千裕の手には、傘が一本しかなかった。
彼はそのことにいま気付いたようだ。びっくりした顔で己の手元を見たあと、意味もなく後ろを振り向き、それから俺を見た。
「…………わざとではないんです」
わざとではないらしい。
責めたりはしない。俺の目的も達成されている。
そもそも、外回りも多いこの俺が会社に置き傘をしてないわけがない。だがそれを伝えると話がややこしくなるので黙っていた。
ひとつの傘をさし、肩を片方ずつ濡らして帰る。
家に入ると玄関にはタオルがあり、風呂の準備も万全だった。
「夕飯まだだったら、冷蔵庫にありますからね」
俺はまじまじと千裕の顔を見る。
こいつ、個人医院を経営しながら家事してるの、俺より忙しいんじゃないか? 怖くなってきた。週末、風呂掃除くらいはするか……。
二人してのぼせ気味で風呂から上がり、冷蔵庫から水のペットボトルだけ持って寝室に移動した。
残りの体力を使い果たして添い寝する。
ベッドサイドの明かりが手元を柔らかく照らしている。自分の指に今も指輪があることをしみじみ眺めた。
千裕にも同じ指に同じものがある。
店で指輪のサイズを聞かれたとき、どの指にするか決めたのは千裕だった。
左手の薬指。──彼がここまでロマンチストだとはな。そう思っていたが、最近は超合理的な判断だったのだろうと感じている。
装着して生活してみると、ネックレスやファッションリングとは格段に違う効果を感じた。虫除けの。
取引先のセクハラ手前の探りもなければ、同僚Domの無闇なCommandも減った。
薬指の指輪という視覚的な力と、Collarとしてまとう千裕の気配がこの上ない牽制になっている。
この話をしたら、千裕は満足そうだった。
そっと手を握られ、指輪を撫でられる。横を見れば目が合った。
彼が幸せそうに微笑むと、つられて俺も表情が緩んでしまう。
■ ■ ■
ジュエリーショップからカフェに移動して、千裕は当たり障りのない話題をだらだらと続けている。最近できた近くの飲食店の話だったり、新作映画の話だったり。「退屈なら予定を変更しても良い」という雰囲気をかもしだしている。
ずっと気を揉んでいる彼を見て、無性に自分が情けなくなった。
そんな顔をさせたくてここにいるわけではない。
「予約は何時からなんだ?」
話を遮り、時間だけではなく店の名前もたずねる。
千裕は戸惑いながらも教えてくれた。時計を確認すると、予約の時間までもう間もない。
「行くぞ」
立ち上がり、千裕の腕をつかんでカフェを出る。
「え? え? 大慈さん?」
目的の店はそう遠くなく、早足で向かえば数分の遅刻で済んだ。
自動ドアを通れば待機していた店員が声をかけてくる。
予約の杜上だと名乗り、俺の後ろで息を切らす千裕を指差しながら単刀直入に言った。
「こいつから受け取るCollarを指輪にしたい。詳しくないんだ。見繕ってもらえるか、仕事中もつけていられるものがいい」
店員は品良く微笑んで俺たちを店の奥へと案内した。
あっけにとられている千裕の横で、俺はよくわからないなりに店員とやりとりを交わし、てきぱきと候補を絞っていく。
ペアリングとエンゲージリングとマリッジリングが別物で、Collarならどれという制限はなく二人の関係性によると言われた時点で思考を投げ出しそうになったが耐えた。
初手で俺が怯んだのを察知したのか、店員も慣れた様子で率先した提案をしてくれる。「婚約・結婚指輪といっても必ずしもそのためではなく、Collarのために選ばれる方も多いですよ」だとか「Domの方にとって特別感は大切ですからね」とかなんとか、心理的なハードルを下げつつ、ついでにどんどん予算が跳ね上がっていって、商売人からは学ぶことが多いなあと感心した。
「最終判断は千裕に任せる」
千裕は、カウンターの上に並んだ数種類の指輪を見下ろし、まだ目をぱちぱちとしばたかせていた。おまえが言い出したことだろ。
そうして、できあがった指輪を受け取ったのが先日のことだ。
二人で再び店を訪れ、サイズ確認のために指に嵌める。
同じ指輪で飾られた俺の手と千裕の手を交互に見ながら、やっぱり奇妙な心地になる。
Collarをかけたいだけならひとつ買えば充分だろうに。なぜおまえまで。
ふいに手を握られた。
もう片手も添えられ、彼の両手で俺の左手が捕まえられている。
「千裕?」
手元ばかり見てしまっていた。顔を上げると千裕と目が合う。彼は俺の顔をずっと見ていたらしい。
「《僕はあなたのものです》」
驚いてしまう。
急にMindのCommandを投げられたせいでもあるし、それがCollarを渡す言葉だったからでもある。それに、そのCollarの内容はあまりにも想像とかけ離れていた。DomがSubに独占される誓いを立てるなんて聞いたことがない。
千裕は俺の手を握ったまま、目を泳がせはじめていた。ここが公衆の面前だと、今思い出したみたいに。
(こいつ、感極まって勢いで言ったな)
周りのスタッフは満面の笑みで俺たちを見守っている。
おかげさまで、自分の顔が熱いのが嬉しいからなのか恥ずかしいからなのか、わからない。
■ ■ ■
ベッドで心地良く髪を撫でられるうち、小さくあくびが出た。千裕と暮らすようになってからは、夜になると人並みに眠気を感じる。
各々の寝室があるが、このまま千裕のベッドで寝てしまうのもひとつだ。
時間的にはいつもの就寝時間より早い。考えてみれば夕食をスキップしているから当たり前だ。
千裕はもう済ませているのだろうか。
──ぐうう。
腹の音だ。俺のじゃない。
「冷蔵庫のやつ、温めるか?」
「……おにぎりも、作っていいですか」
ベッドを這い出してリビングに移動し、冷蔵庫の中のものを温めた。
テーブルを挟んで夕食をとりながら、千裕が思い出したように言う。
「あ、そうそう。とがみクリニックはプロヴィデーレと産業カウンセラー契約を結びました。今後はうちのスタッフがそちらに常駐します」
「いつの間に……!?」
「大慈さん、ひいては大慈さんの職場を、僕も支えたくて」
俺と交際している観点から千裕自身はプロヴィデーレに出入りするつもりがないようだが、それでもなかなか、外堀を埋められているような気がする。
「おまえ、本当に重いな」
「ふふふ。まだまだこんなもんじゃないですよ」
さすがと言うべきか。
それで悪い気がしない俺も大概だろう。
とはいえ、囲われすぎるのは本望ではない。俺がDomになったときにはバランスをとるから覚悟しておけよ。──千裕の指輪を指差した。
「おまえは俺のものなんだろ。しっかり心得ておけ」
調子に乗るなと釘を刺したつもりだったが、千裕はますます笑顔になって左手の甲を俺へ見せつける。まるで俺からのCollarを受け取ったみたいに。
つくづく、物好きな男だ。
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この2人の関係が大好きで毎日ドキドキしながら読んでました!😍
本当に素敵なお話しだったので2人が幸せになってくれてとっても嬉しいのですがもう終わっちゃったのかとちょっぴり寂しい気持ちです😢
なので今日からもう1周したいと思います💪
大事に読んでいただけてとても嬉しいです…!ありがとうございます!
私もお気に入りのキャラたちです。彼らのこれからについても短編などで更新できたらと思います。
楽しく拝読してます。めちゃ好みです。続き楽しみにしてます。
返信できるのいま知りました…承認してから間が空いて申し訳ないです…
感想ありがとうございます!
とっても嬉しいです!
完結までもう一息、お付き合いいただけたら嬉しいです!