【完結】社畜でしたが冷酷で慈悲深い吸血鬼におやつとして愛されます――転移したら唯一無二の高級食材でした

牛丸 ちよ

文字の大きさ
8 / 63
狼男と人魚と吸血鬼 編

8 正式にエサになる【2】*R18

しおりを挟む
 黒い霧の移動はまさに魔法だ。
 空気が暖かくなったと思ったら、空調の効いたゲストルームへ移動が終わっている。

 ジェードは俺をベッドに座らせた。
 けれど身体に力が入らなくて、彼によりかかってしまう。

 彼は自分が濡れるのを嫌がりもせず、俺を支えて濡れた服を脱がせてくれた。

 タオルで拭かれているうちに、ぼーっとしていた思考力も、緩んだ四肢の力も戻ってくる。
 気怠い身体を自分で支えられるようにもなってきて、息苦しかった呼吸も落ち着いてきた。

 見ると、ジェードがクローゼットから新しいパジャマを取るところだった。
 そうしてやっと、自分が素っ裸で介護されている状態だと自覚する。

 服を着せようとする腕をつかみ、慌てて礼を言った。

「あ、ありがとうございます。あとはできるのでっ……自分で着ます……!」

「そうか」

 俺が服をせっせと着る間、ジェードは窓の外を眺めて黙っていた。
 気まずい。

 傷付いてガサガサの喉から声をしぼりだす。

「……朝、勝手に出て行ってすみません」

「仕方あるまい。おまえを怖がらせたのは私だ」

 それはそう。だが、礼を欠いた俺をこの人はまた助けてくれた。比べて今朝の自分はなんて幼稚で恥ずかしい。

「これを飲め。治癒薬だ」

 手の中に収まるくらいの小さなガラス瓶を渡される。ほんのりと輝く不思議な液体が中で揺れた。

(これだけ世話になっておいて、何が入ってるか聞くのは失礼かな……)

 腹をくくって飲み干すと、ロコのゲロと同じくらい変な味がする。
 が、みるみるうちに内臓の不調が軽くなり、喉の痛みも消えていく。

「……すごい」

「効いたようでなにより。明朝は紫色の尿が出るが心配しなくてよい」

「え!?」

 明日が不安になるが、それよりも目先の不安だ。──この薬は、身体の芯でくすぶる火照りには効かないようだった。

 ロコのゲ……変な汁を飲まされてからずっと、妙な興奮が消えない。
 明らかに場違いな、はしたない感覚だ。


「………」


 ジェードがまた俺をじっと見ている。なんでも見透かすようなその目、ちょっと苦手だ。
 特に今は悟られたくなくて、目を逸らしてしまう。

「魔族のほとんどは捕食を円滑にするための術を持っている。人魚あれ吸血鬼わたしと同じたぐいだからわかるが、その疼きは抜かないと治らないぞ」

「ぬ……っ!?」

 その上品な顔でそんな俗物的な言い回しをするとは思っていなくて、何を言われたのか一瞬わからなかった。

 ジェードが俺の真正面に立つ。窓の明かりを背にした彼の表情は見えなかった。
 一体何事かと息を呑んでいると、そのまま後ろへ──ベッドへ押し倒される。

 そして、何の躊躇ちゅうちょもなく俺のズボンへ手を突っ込んできた。
 下着も無視され、下腹あたりの肌を他人に触れられる感触に悲鳴をあげそうになる。

「なななな何して……!!?」

「喋るな。呼気に血のにおいが混ざってうっとうしい」

 理不尽な叱られすぎる。

「やはりあてられて・・・・・いるな。魅了をかけたことはあっても、かけられたことはないのか?」

 ほんのりと硬くなっている性器をすくうように握られ、今度こそ悲鳴が出た。

「キャーッ!!」

 耳元で叫ばれて、さすがにジェードも顔をしかめてのけぞっていた。
 でも、手はそこから離れない……どころか、事務的な手付きで揉まれている。

「我慢してもつらいだけだ。一度出してしまえば尾を引かずに済む」

「あっ、ちょ、ちょっと待っ」

 唐突に顔へ枕を置かれて驚く。
 彼はすぐに手を離したから、枕はずるりと顔の横へ落ちそうになる。とっさに両手でつかんだ。

 彼の意図がわからないようでわかる。羞恥で歪む目元を真っ白なクッションで覆い隠す。
 ──息が苦しくなってしまうし、唇の血が付くといけないから、顔の下半分には枕がかからないようにした。

 俺が恥じらっている間も淡々とした刺激は続いていた。
 彼の大きな手の中で自身がどんどん硬くなっていくのを感じて、枕をつかむ手に力が入る。

 追い立てるように扱く速度が早まると思わず腰が逃げた。が、大した抵抗にもならない。

「ふ、ぅ……っ……」

 もしかしてだが、ジェードは俺がどうしようもない無知でどこまでも介助が必要な子供だとでも思っているのか?
 大人の自覚があるし、一般常識としての性知識も持ち合わせているので、善意だとしても辱めを受けているようだった。

(こんな状況、普通じゃないってわかってるのに……)

「ぁ、……ぁ……っ!」

 毒された身体は異常なほど反応してしまう。与えられる快楽を貪欲に求めていた。
 他人に刺激される行為は、自分の思い通りにやる自慰とは感覚がまったく違う。もどかしくてたまらない。
 無意識に腰が浮いてしまう。彼の手に自身を差し出すようなみっともない姿勢だ。

「……少しだけ、良いか?」

 返事も待たずに唇に彼の唇が重なる。切れた箇所を舐められ、まだ柔らかいかさぶたが破れてじわりと血があふれた。

「っ、ん……!」

 舐めとられるも、物足りなかったらしく軽く噛まれた。痛みに驚いて舌先でかばおうとしたところ、その舌さえ吸われる。いやらしくねぶられ、舌の先に牙がぷつりと食い込む。

「あゥ」

 何が起きているのかよくわからない──少なくともこれはキスではなく、単なるつまみ食いだ──まま、唾液に溶けた血を味わわれていく。
 人魚にされたことと同じだが、こっちはずいぶんと優しいみ方だった。

 どさくさに紛れて捕食されているのに、今の俺はそれどころじゃなくて怖がることも忘れていた。

(これ、やばい……っ)

 ぬちぬちと下肢から卑猥な水音がする。
 口の中を荒らされているせいで声が抑えきれない。相手と比べて自分の吐息ばかりが熱っぽくて恥ずかしい。

 吸血鬼たるジェードに血を舐められているとそこがもっと熱くなっていく。それが彼の能力だから。──血の味がする舌を、吸われているのか、吸って欲しくて自分から絡ませているのか、わからない。舌と舌が擦れるたび、頭が甘く痺れてうっとりする。

 上からも下からも快楽で蕩かされて、いつの間にか顔から枕がずり落ちている。自分の両手はすがるようにジェードの服をつかんでいた。

「う、ぁ、だめ、も、もう、」

 高まっていく射精欲で目の奥がチカチカしている。
 どうしたらいいかわからないまま喘いだ。
 他人に射精するところを見せるなんて嫌だが、いまさら刺激を止められても困る。理性と欲望がせめぎ合う。

「ッあ、い、く、出るっ……!」

 ついには、彼の手の中で射精してしまった。
 仕事の忙しさで自分に性欲があることも忘れていたくらいだ。こんなに生々しく強烈な絶頂感は久しぶりで、膝が震えて止まらない。
 刺激が止まっても、溜まっていた精液をしばらく吐き出し続けた。

「は……っ、はぁ……っ、……っ」

 くったりと脱力して、ベッドに沈み込む。

(なんだこれ……気持ち……良かった……)

 でも、なんてことを。
 こんな状況で余韻に浸れるほどバカじゃない。いわゆる賢者モードへ即座に切り替わって、おそるおそるジェードの様子をうかがう。

 彼はとうにベッドから降り、ポケットからハンカチを取り出して手を拭いていた。
 涼しい顔で唇についた俺の血を舐めとっている。

 ……相手があまりにケロッとしていて混乱する。俺のほうがおかしいみたいじゃないか。絶対そんなことない。

「では、少し寝ろ。体力が回復したら屋敷を案内する。まずは浴場がいいか?」

 当たり前のことのように進んでいく話で、さらに混乱した。

「ど……ういうこと……?」

「おまえから言ったのだろう。寝床を貸し、面倒を見てやる。代価は血だ」

 この森で目を覚ましてから、俺は一度も自分の力でトラブルを乗り越えられていない。
 どうあがいてもジェード無しでは生き残れないのだから、提案を受け入れる以外に俺の選択肢はなかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。 読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)  魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。  ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。  それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。  それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。  勘弁してほしい。  僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

溺愛の加速が尋常じゃない!?~味方作りに全振りしたら兄たちに溺愛されました~

液体猫(299)
BL
毎日AM2時10分投稿 【《血の繋がりは"絶対"ではない。》この言葉を胸に、末っ子クリスは過保護な兄たちに溺愛されながら、大好きな四男と幸せに暮らす】  アルバディア王国の第五皇子クリスが目を覚ましたとき、九年前へと戻っていた。  巻き戻す前の世界とは異なるけれど同じ場所で、クリスは生き残るために知恵を振り絞る。  かわいい末っ子が過剰なまでにかわいがられて溺愛されていく──  やり直しもほどほどに。罪を着せた者への復讐はついで。そんな軽い気持ちで始まった新たな人生はコミカル&シリアス。だけどほのぼのとしたハッピーエンド確定物語。  主人公は後に18歳へと成長します(*・ω・)*_ _)ペコリ ⚠️濡れ場のサブタイトルに*のマークがついてます。冒頭のみ重い展開あり。それ以降はコミカルでほのぼの✌ ⚠️本格的な塗れ場シーンは三章(18歳になって)からとなります。 ⚠️若干の謎解き要素を含んでいますが、オマケ程度です!

処理中です...