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地固まる。
45 風が吹く【5】
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自分も伝えなければならないことがあると思い出す。
「照近さん、何か言いたそうだね」
英一が、俺の表情から何かを察知してくれた。
言うなら今しかないと腹をくくる。
「実は……」
ナツメがいる中で、スマホに送られてきた写真も見せて記事のことを話す。
「なんだこれ。ひどいな」
「こんなの名誉毀損じゃない? 名前を出してないから逃げられると思ってるってこと?」
英一もナツメも不快感を隠さなかった。
俺は申し訳なくて椅子の上で小さくなる。
「会社に触れていたら発売前に申し立てができたんだけどね。向こうもやり方が汚いな」
いくらか覚悟していたのに、二人とも記事に怒るばかりで俺に問おうともしない。
居心地が悪くてこちらからたずねた。
「……俺が記事の通りの後妻業のΩだとは考えないんですか?」
二人が一斉にこちらを見て、きょとんとする。
「初めて会った日からのことがすべて演技なら、すごい役者だ」
「最初はそう疑ってたけど……照近さんにそんな器用なことは無理だよ」
「なんか、思ってたのと違う反応だ」
二人とも、俺のポンさを信用してくれているらしい。
「まあ、ネットだろうが週刊誌だろうが、一般人のこんな話、世間はすぐ忘れるさ。名誉の挽回は週刊誌とのやりとりになるけど、慣れてるから私に任せてくれる? 念のため、他のメディアで取り上げないようにもツテで働きかけておくよ」
英一によると、こういう暮らしをしているとプライベートを荒らされることはままあるらしい。こんなにずさんな悪意は初めてらしいが。
だからそう不安がらなくていい、と肩を叩かれた。
「こういうのは放っておくのが一番だよ」
「そう……ですよね。日々いろんな話題が現れますし、そのうち埋もれますよね」
気楽な俺たちとは反対に、ナツメはいつまでも煮えきらない顔をしていた。
自分が発信になってしまった罪悪感がぬぐえないのか、それとも懸念があるのか……。
■
腹の虫が鳴り、昼食にしては遅く、夕食にしては早い食事をとることにした。
ナツメがソファでごろごろしている間、俺が料理をして英一がテーブルの準備をする。
「僕はずっと無視してるんだけど、あのアカウントに返信したいとかある? 結婚式いくつもりなら、連絡とってもいいけど」
「本人たちは良くても、式の参列者が戸惑いますよ」
「私もそう思う。良い思い出のままにしてもらおうよ」
カフェでのことを思い出しながら、保留にしていた疑問を思い出した。
「そういえば、あのときの男性、俺たちを夫夫だとすぐ見抜いたんです。男二人が歩いていたとして、兄弟や友達かもしれないじゃないですか。なんでだと思いますか?」
英一はその理由に気付いていたようだったが、教えてくれなかった。
ナツメは目をぱちくりさせてこっちを見た。
「照近さん、自覚なかったの? 二人とも、歩いてるときぴったり寄り添ってるじゃん。肩がくっつくくらい。どう見たって距離感が友達じゃないよ」
雷に打たれるような衝撃を受けて顔が熱くなる。テーブルに料理の皿を運んでいた俺は隣に立つ英一を見やり、思わず一歩離れた。
「あーあ、言っちゃった。ナツメ、どうしてくれるの。照近さん離れちゃったじゃない」
「知らないよ。父さんからくっつけばいいんじゃない」
「なるほど」
「僕の前ではしないでよ。おしどりなのはいいけど、子供としては親のイチャイチャ見せられるのほんとキツイ」
二人の楽しそうな笑い声を聞きながら、俺も照れくさく笑った。
簡単な食事を終えた後はタクシーを呼んだ。
玄関でナツメを見送る。
「ネットのこと、進展があったら言うよ」
「ありがとうね」
「俺は、父さんじゃなくて照近さんの味方なだけだからね!」
ツンとそっぽを向く様子からは敵意が感じられなかった。俺だけでなく、英一のことも心配しているのは間違いなさそうだが素直になれないらしい。
玄関を施錠してリビングに戻る。
二人きりになると、少しだけ空気が緊張した。ら彼も俺も、子供の前ではできなかった話をしなければならないと理解している。
「射場さんのことだけど」
英一は淡々と言う。制裁を与えられるか弁護士と相談することもできる、と。
俺の気持ちを優先するため、感情抜きで話してくれているのが伝わってくる。
だからこそ悩んだ。
謝罪の言葉を期待できる人かも疑問だったし、それどころか火に油を注ぐ可能性さえある。
「……本当にあの人が記事の出どころかわからないですし、まずは俺が話してみようと思います」
「それは悪手じゃないかな。傷付くだけになるかもしれないよ」
静かに頷いた。そうだとしても、俺は彼女とちゃんと向き合わねばならない。いつまでも英一の後ろに隠れているなんてダメだ。
だが、電話にせよ、直接会うにせよ、今すぐは冷静に話せないかもしれない。
少し時間が欲しいとお願いした。
「照近さん、何か言いたそうだね」
英一が、俺の表情から何かを察知してくれた。
言うなら今しかないと腹をくくる。
「実は……」
ナツメがいる中で、スマホに送られてきた写真も見せて記事のことを話す。
「なんだこれ。ひどいな」
「こんなの名誉毀損じゃない? 名前を出してないから逃げられると思ってるってこと?」
英一もナツメも不快感を隠さなかった。
俺は申し訳なくて椅子の上で小さくなる。
「会社に触れていたら発売前に申し立てができたんだけどね。向こうもやり方が汚いな」
いくらか覚悟していたのに、二人とも記事に怒るばかりで俺に問おうともしない。
居心地が悪くてこちらからたずねた。
「……俺が記事の通りの後妻業のΩだとは考えないんですか?」
二人が一斉にこちらを見て、きょとんとする。
「初めて会った日からのことがすべて演技なら、すごい役者だ」
「最初はそう疑ってたけど……照近さんにそんな器用なことは無理だよ」
「なんか、思ってたのと違う反応だ」
二人とも、俺のポンさを信用してくれているらしい。
「まあ、ネットだろうが週刊誌だろうが、一般人のこんな話、世間はすぐ忘れるさ。名誉の挽回は週刊誌とのやりとりになるけど、慣れてるから私に任せてくれる? 念のため、他のメディアで取り上げないようにもツテで働きかけておくよ」
英一によると、こういう暮らしをしているとプライベートを荒らされることはままあるらしい。こんなにずさんな悪意は初めてらしいが。
だからそう不安がらなくていい、と肩を叩かれた。
「こういうのは放っておくのが一番だよ」
「そう……ですよね。日々いろんな話題が現れますし、そのうち埋もれますよね」
気楽な俺たちとは反対に、ナツメはいつまでも煮えきらない顔をしていた。
自分が発信になってしまった罪悪感がぬぐえないのか、それとも懸念があるのか……。
■
腹の虫が鳴り、昼食にしては遅く、夕食にしては早い食事をとることにした。
ナツメがソファでごろごろしている間、俺が料理をして英一がテーブルの準備をする。
「僕はずっと無視してるんだけど、あのアカウントに返信したいとかある? 結婚式いくつもりなら、連絡とってもいいけど」
「本人たちは良くても、式の参列者が戸惑いますよ」
「私もそう思う。良い思い出のままにしてもらおうよ」
カフェでのことを思い出しながら、保留にしていた疑問を思い出した。
「そういえば、あのときの男性、俺たちを夫夫だとすぐ見抜いたんです。男二人が歩いていたとして、兄弟や友達かもしれないじゃないですか。なんでだと思いますか?」
英一はその理由に気付いていたようだったが、教えてくれなかった。
ナツメは目をぱちくりさせてこっちを見た。
「照近さん、自覚なかったの? 二人とも、歩いてるときぴったり寄り添ってるじゃん。肩がくっつくくらい。どう見たって距離感が友達じゃないよ」
雷に打たれるような衝撃を受けて顔が熱くなる。テーブルに料理の皿を運んでいた俺は隣に立つ英一を見やり、思わず一歩離れた。
「あーあ、言っちゃった。ナツメ、どうしてくれるの。照近さん離れちゃったじゃない」
「知らないよ。父さんからくっつけばいいんじゃない」
「なるほど」
「僕の前ではしないでよ。おしどりなのはいいけど、子供としては親のイチャイチャ見せられるのほんとキツイ」
二人の楽しそうな笑い声を聞きながら、俺も照れくさく笑った。
簡単な食事を終えた後はタクシーを呼んだ。
玄関でナツメを見送る。
「ネットのこと、進展があったら言うよ」
「ありがとうね」
「俺は、父さんじゃなくて照近さんの味方なだけだからね!」
ツンとそっぽを向く様子からは敵意が感じられなかった。俺だけでなく、英一のことも心配しているのは間違いなさそうだが素直になれないらしい。
玄関を施錠してリビングに戻る。
二人きりになると、少しだけ空気が緊張した。ら彼も俺も、子供の前ではできなかった話をしなければならないと理解している。
「射場さんのことだけど」
英一は淡々と言う。制裁を与えられるか弁護士と相談することもできる、と。
俺の気持ちを優先するため、感情抜きで話してくれているのが伝わってくる。
だからこそ悩んだ。
謝罪の言葉を期待できる人かも疑問だったし、それどころか火に油を注ぐ可能性さえある。
「……本当にあの人が記事の出どころかわからないですし、まずは俺が話してみようと思います」
「それは悪手じゃないかな。傷付くだけになるかもしれないよ」
静かに頷いた。そうだとしても、俺は彼女とちゃんと向き合わねばならない。いつまでも英一の後ろに隠れているなんてダメだ。
だが、電話にせよ、直接会うにせよ、今すぐは冷静に話せないかもしれない。
少し時間が欲しいとお願いした。
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