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地固まる。
48 水入らず【3】
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柾諒が言葉を詰まらせていると、芙美也が「そういえば」と呟く。
「そういえば父さん、俺の幼馴染の島岡って覚えてるよな?」
「うん。彼のお父さんは私の会社の人だからね」
「去年、島岡の親とこっそり連絡とってたの、俺にバレないと思ってたわけ?」
「あー……」
気まずそうに目を泳がせる英一を横目に、柾諒が口を挟んだ。
「芙美也、どういうことだ? 俺は聞いてないぞ」
「言うわけないだろ。父さんが学校の知り合いに『うちの息子が映ってる映像記録を持ってませんか』なんて聞いて回ってたなんて。運動会とか修学旅行のさ」
「は? なんで? ──親父、なにしてんの?」
「それは、その。前にね、照近さんに『キミたちの昔の写真が見てみたい』って言われてね」
「はぁ!? 再婚相手に思い出話するため……っ!?」
「違う違う! 最後まで聞いてくれ。私が家庭の記録を何にも持ってないと気付いたからなんだよ。キミたちの写真なんて特に、ぜんぶ元妻のスマホの中だからね。──自分はキミたちのことを何も見ようとしていなかった。今からでも、知らなきゃいけないと思ったんだよ。最近のことや昔の記録集めで、思いついた方法のひとつがそれだったんだ」
「そんな……ストーカーみたいな……」
「言い返す言葉もございません。みっともないことをしてすまない」
「で、俺たちはかわいかった?」
ふざける芙美也の質問に、英一はこくりと頷いた。
「見てよかったと思うよ」
「へー。父さんにもそういう感情あるんだ? 俺たちにも見せてよ。思い出の解説してあげてもいいぜ。なあ、ナツメ?」
次男が三男に意見を求めると、長男は三男を睨んだ。味方の取り合いをするみたいに。
「ナツメは言いたいことないのかよ! キモイとかウザイとか。前はあんなに言ってたじゃないか!」
兄弟の視線に挟まれたナツメは、けろっとしたままデザートのプリンを食べていた。
「それがさー、最近の父さん見てると毒気抜かれるんだよね。イラついてると、こっちが損してる気になる」
「なんだよそれ。……二対一ってわけか」
「父親なのに僕を見てくれない──ずっと怒ってた。けど、もう大人なんだから、いつまでも子供の気持ちでいる必要ないってわかったんだ。意地張ってても苦しいだけだよ」
「ナツメに諭されるなんて、最悪だ」
「ひど」
「俺はどっちの言い分もわかるけどね。必要なときにいてくれなかった事実が消えるでも無し、いまさら良い人ぶられてもムカつくよ。でもさ、柾諒。こじらせてないで、この波に乗っといたほうが楽になれるんじゃないか?」
「うるせぇ」
柾諒は気まずそうにぷいと顔を背けた。
仕方がなさそうに芙美也はその肩を抱く。
「俺たちは一言も『許す』とは言ってないんだぜ?」
テーブルに頬杖をつき、ナツメが悪い顔で笑った。
「悪いと思ってるなら、これからは心を入れ替えて僕たちのご機嫌とってくれるってことだもんね。パーパ?」
ナツメと芙美也の黒い微笑みに、英一は観念したような苦笑で返す。
すると、黙っていた柾諒が小さく呟いた。
「俺も……別に、親父のことが嫌いなわけじゃないんだ」
芙美也はテーブルのシャンパンを手に取ると、全員のグラスに注いで回った。そしてグラスを差し出せば、ナツメが続く。柾諒と英一も。
グラスが触れる音が小さく鳴る。
「ナツメも、芙美也も柾諒も。私を見捨てず、会ってくれてありがとうね」
空気はやわらぎ、それぞれ心が軽くなったような表情をしていた。
リビングのドアが開き、綃子が電話から戻ってきた。俺たちのほうへ歩いてきて、キッチン側の会話を見守っている様子を不思議がる。
「会話のグループ、分かれてるんですか?」
「いまだけ親子水入らずでしたからね」
俺と篠は静かに微笑みあった。
■
みんなが帰ると、家の中は途端に静かになる。
一日他者と過ごしていたわりにあまり疲れを感じない。子供たちから活力をもらったのかもしれない。
風呂を済ませてソファでくつろいでいると、英一がやってきた。冷たい水を飲むか聞かれて頷きを返す。
「なんていうか、見守ってくれてありがとう」
二人分のグラスがテーブルに置かれ、英一が隣に座った。
心なしか英一も機嫌が良さそうに見える。
「柾諒さんたちのことですか? 良かったですね」
「うん。照近さんがいてくれたから、どういうふうになっても受け入れようって覚悟できたよ。結局、あの子たちの優しさに救われたけどね」
「俺は何もしてないですよ」
「いてくれるだけで充分なんだ」
水を飲むと、さわやかな冷たさが喉を滑り落ちていく。
ふうと一息ついてから、昼間の嬉しかったことを話した。
「ナツメさんに服装を褒めてもらえたんですよ。ホッとしました」
お世辞を言わない彼だからこそ、英一のためのがんばりが認められていると素直に喜べる。
「こんなに磨かれてしまうと、なんだか焦りがわいてくるね。他の人が振り向いてしまうから、ちょっかい出されないように目を光らせてなきゃ」
「余計な心配ですよ」
「キミは謙虚すぎる」
どうやら英一は「俺に振り向く人なんていない」の意で受け取ったようだ。「なんにせよ、俺は英一しか見ちゃいないんだから」の意味だったんだけれど。
謙虚なのはどっちなんだか。
「そういえば父さん、俺の幼馴染の島岡って覚えてるよな?」
「うん。彼のお父さんは私の会社の人だからね」
「去年、島岡の親とこっそり連絡とってたの、俺にバレないと思ってたわけ?」
「あー……」
気まずそうに目を泳がせる英一を横目に、柾諒が口を挟んだ。
「芙美也、どういうことだ? 俺は聞いてないぞ」
「言うわけないだろ。父さんが学校の知り合いに『うちの息子が映ってる映像記録を持ってませんか』なんて聞いて回ってたなんて。運動会とか修学旅行のさ」
「は? なんで? ──親父、なにしてんの?」
「それは、その。前にね、照近さんに『キミたちの昔の写真が見てみたい』って言われてね」
「はぁ!? 再婚相手に思い出話するため……っ!?」
「違う違う! 最後まで聞いてくれ。私が家庭の記録を何にも持ってないと気付いたからなんだよ。キミたちの写真なんて特に、ぜんぶ元妻のスマホの中だからね。──自分はキミたちのことを何も見ようとしていなかった。今からでも、知らなきゃいけないと思ったんだよ。最近のことや昔の記録集めで、思いついた方法のひとつがそれだったんだ」
「そんな……ストーカーみたいな……」
「言い返す言葉もございません。みっともないことをしてすまない」
「で、俺たちはかわいかった?」
ふざける芙美也の質問に、英一はこくりと頷いた。
「見てよかったと思うよ」
「へー。父さんにもそういう感情あるんだ? 俺たちにも見せてよ。思い出の解説してあげてもいいぜ。なあ、ナツメ?」
次男が三男に意見を求めると、長男は三男を睨んだ。味方の取り合いをするみたいに。
「ナツメは言いたいことないのかよ! キモイとかウザイとか。前はあんなに言ってたじゃないか!」
兄弟の視線に挟まれたナツメは、けろっとしたままデザートのプリンを食べていた。
「それがさー、最近の父さん見てると毒気抜かれるんだよね。イラついてると、こっちが損してる気になる」
「なんだよそれ。……二対一ってわけか」
「父親なのに僕を見てくれない──ずっと怒ってた。けど、もう大人なんだから、いつまでも子供の気持ちでいる必要ないってわかったんだ。意地張ってても苦しいだけだよ」
「ナツメに諭されるなんて、最悪だ」
「ひど」
「俺はどっちの言い分もわかるけどね。必要なときにいてくれなかった事実が消えるでも無し、いまさら良い人ぶられてもムカつくよ。でもさ、柾諒。こじらせてないで、この波に乗っといたほうが楽になれるんじゃないか?」
「うるせぇ」
柾諒は気まずそうにぷいと顔を背けた。
仕方がなさそうに芙美也はその肩を抱く。
「俺たちは一言も『許す』とは言ってないんだぜ?」
テーブルに頬杖をつき、ナツメが悪い顔で笑った。
「悪いと思ってるなら、これからは心を入れ替えて僕たちのご機嫌とってくれるってことだもんね。パーパ?」
ナツメと芙美也の黒い微笑みに、英一は観念したような苦笑で返す。
すると、黙っていた柾諒が小さく呟いた。
「俺も……別に、親父のことが嫌いなわけじゃないんだ」
芙美也はテーブルのシャンパンを手に取ると、全員のグラスに注いで回った。そしてグラスを差し出せば、ナツメが続く。柾諒と英一も。
グラスが触れる音が小さく鳴る。
「ナツメも、芙美也も柾諒も。私を見捨てず、会ってくれてありがとうね」
空気はやわらぎ、それぞれ心が軽くなったような表情をしていた。
リビングのドアが開き、綃子が電話から戻ってきた。俺たちのほうへ歩いてきて、キッチン側の会話を見守っている様子を不思議がる。
「会話のグループ、分かれてるんですか?」
「いまだけ親子水入らずでしたからね」
俺と篠は静かに微笑みあった。
■
みんなが帰ると、家の中は途端に静かになる。
一日他者と過ごしていたわりにあまり疲れを感じない。子供たちから活力をもらったのかもしれない。
風呂を済ませてソファでくつろいでいると、英一がやってきた。冷たい水を飲むか聞かれて頷きを返す。
「なんていうか、見守ってくれてありがとう」
二人分のグラスがテーブルに置かれ、英一が隣に座った。
心なしか英一も機嫌が良さそうに見える。
「柾諒さんたちのことですか? 良かったですね」
「うん。照近さんがいてくれたから、どういうふうになっても受け入れようって覚悟できたよ。結局、あの子たちの優しさに救われたけどね」
「俺は何もしてないですよ」
「いてくれるだけで充分なんだ」
水を飲むと、さわやかな冷たさが喉を滑り落ちていく。
ふうと一息ついてから、昼間の嬉しかったことを話した。
「ナツメさんに服装を褒めてもらえたんですよ。ホッとしました」
お世辞を言わない彼だからこそ、英一のためのがんばりが認められていると素直に喜べる。
「こんなに磨かれてしまうと、なんだか焦りがわいてくるね。他の人が振り向いてしまうから、ちょっかい出されないように目を光らせてなきゃ」
「余計な心配ですよ」
「キミは謙虚すぎる」
どうやら英一は「俺に振り向く人なんていない」の意で受け取ったようだ。「なんにせよ、俺は英一しか見ちゃいないんだから」の意味だったんだけれど。
謙虚なのはどっちなんだか。
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