ちんケア──"訳アリ"シェアハウスは今日もあほえろシチュに追われて大変です

牛丸 ちよ

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✧ Chapter 1

淫紋は突然に【1】

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 大和は皿を洗い、俺はその皿を拭く。
 そんな朝の作業中に、ちょっとしたことのように大和は自分に起きた異変を打ち明けた。

「着替えのときに気付いたんですけど、ヘソの下あたりにハートの模様みたいなあざができてたんですよね」

「もう手遅れなやつだ……」

 拭き終えた皿を重ねながら、心の中で十字を切る。
 形といい、現れる場所といい、痣ではなく《淫紋》としか考えられない。
 そうであれば、運命のお膳立ては済んだも同然だ。

 大和も薄々察してはいるようだが、まだ助かる見込みがあると信じているらしい。

「でもトリクシーさん、いまのところ何ともないんですよ。こういうときは悪魔祓い的なのを呼んだらいいんでしょうか」

聖職者ちんぽが来たところでなぁ……。原因に心当たりはないのかよ」

「あ、昨日から部屋に知らない鍵付きの古書があって」

「それだろ」

「その本が夢にも出てきたり」

「いやそれだろまじで」

 皿を洗う手を動かしたまま頬を赤らめていた。見た夢というのは言いづらい内容のようだ。

「……思い返せばこの痣、夢の中でつけられたのと同じかも」

「呪われたエロ魔導書だろどう考えても……。なんですぐ捨てねぇんだよ」

「ゴミの日じゃなかったし、明日でいいかなって……」

「危機感ガバガバだから尻もガバガバになるんだぞお前。今すぐ部屋から本とってきて、ここで燃やせ」

 そうですよね……と、素直に納得した大和は、最後の皿を洗い終えると濡れた手を拭き
キッチンから出ていった。


   ■


 洗い物をすべて食器棚に戻した頃、やっと大和が戻ってくる。が、何も持っていない。

「本、失くなってました……。ちゃんと探したんですけど、どこにもないです」

「痣は?」

「まだあります」

 ぺろんとシャツをめくると、ヘソ下あたりに紋様が赤く浮かび上がっている。
 おぼろげな濃さが未完成のようにも見える。それでも淫紋は淫紋。正真正銘の時限爆弾だ。

「大和、お前との思い出は忘れねぇよ。今までありがとな」

「見切り早」

 見捨てないでください、と大和が捨てられた子犬のような瞳でじっと見つめてくる。

「俺がなんでも知ってると思うなよ」

「せっかく禁欲記録が続いてるのに、こんなの嫌ですよ」

 いくら言われても、淫紋の対処法などわからない。発動すると具体的にどうなるのかも知らない。

「なんか情報あるまで、部屋に閉じこもっとくしかないだろ」

 シェアメイトを巻き込んで傷付くのは誰でもない大和だ。本人もそれをわかっているからこそ、アドバイスに従って自室に戻ることにしたようだ。

 部屋の前まで同伴し、内鍵がかかる音を聞き届ける。
 廊下側から扉越しに話しかけた。

「ちょくちょく様子を見に来てやるよ」

「すみません……」

 とは言ったが、一人にした途端に何かあってはいけないと、しばらく黙って待機する。
 すると、部屋からかすかにゲームの音が聞こえはじめた。とりあえず大丈夫そうだ。





ーーー
(本日より更新時間は朝7時と夜20時です)
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