死にたがりオーディション

本音云海

文字の大きさ
12 / 29
死にたがりオーディション

動揺

しおりを挟む
 


「あっ…」


玄関に行くと、母さんと父さんの靴はすでにそこにはなかった。

…ということは…二人はもう出かけたってことになる。


「…よ、良かった…」


ほっとしたのも束の間、本当の問題はここからだった。

開けると言った手前、今更開けないわけにもいかない。

…しぶしぶ玄関の扉を開ける。


「…あっ兎馬くん…」

「終夜くん…」


まさか、こうして家に来るなんて思いもよらなかった。

…電話で済まそうと思っていたのに。


「…あの、大丈夫?」

「え。なにが?」

「いやさっきの電話…ちょっと慌ててたみたいだったから…何かあったのかなって」


…もしかして、心配してくれてるのかな?


「ううん、大丈夫だよ。単なるオレの早とちりだから心配しないで」

「そ、そう…?」


終夜くんは不安そうな顔でオレを見る。

とはいえ、いくらなんでもについては…言えない。

…余計な心配かけたくないしね。



「…じゃあ、上がってもいいんだよね?」

「!う、うん…っ」


その時、オレは見てしまった。

終夜くんの手元にあるーーあの資料の存在を。

…わざわざビニール状の封にいれて、大事そうに両手に抱えちゃって。


「…先、二階行ってて。オレの部屋…二階だから」

「終夜くんは来ないの?」

「オレはその…飲み物持ってくるから!ちょっと待って」

「…わかった」



ひとまず終夜くんを先に行かせたのは良いとして…オレはどうしたものかと頭を抱えていた。

とりあえず飲み物を取りにキッチンに向かう。

飲み物はそうだな…無難にオレンジジュースでいっか。


「…コップ、と」


こんなのは単なる時間稼ぎにしかならないことくらい、オレにもわかっていた。

無駄な抵抗と言われれば、そうかもしれない。

実際にオレの答えは未だ変わらない。

だから…問題はどう言えば終夜くんは納得してくれるかなんだよなぁ…。


「…」


たかがジュースの準備、そう時間はかからない。

けど心の準備くらいは出来たと思う。


「……さて、いくか」


















部屋を開けると、終夜くんはベッドの上に座っていた。


「あ、兎馬くん!ごめんね…どこに座っていいか分からなくて…」

「別にいいけど…」


ほんの少し戸惑ったけど、気にしないことにした。

持って来たジュースを机において、そのまま椅子に座る。

…いくらなんでもオレまでベッドに座るわけにはいかないし。


「ジュース、ありがと」

「…うん」


まずは、オレ達二人ともジュースを手に取り一口飲む。

…なんかこの流れ妙にデジャブを感じるなぁ…



「…あの、兎馬くん」

「なに…?」


最初に切り出したのは、終夜くんだった。

何を言われるかは、既にわかっているんだけど。



「その…答えを聞かせてを聞かせて欲しいんだ」

「…っ!」


案の定…だったわけだけど。

直球、で来たか…。

ああ…どうしよう、昨日のこともあるから…やっぱりどうしても緊張する。

…でも、いくら聞かれたところで答えは変わらないんだよね。

終夜くんには悪いけど…。




「…ごめん。やっぱり…オレは受けたくない」


今度はちゃんと…終夜くんの顔を見て言った。

目を見て、ちゃんと。



「………!」


…終夜くんは、一瞬驚いた顔をした後…そのまま俯いてしまった。



「ううっ…」


…俯いてるせいで顔は見えなかった。

けど…すするような声が聞こえてたことで…泣いていることが分かった。



「…ッ…」


…親友を泣かせてしまった。

心が痛い。

…けど、無理なんだ。
オレの頭のことしか心配してくれない両親だけれど…それでも、やっぱりオレにとってはーー



「………そっか。わかった…」

「終夜くん…っ!わかってくれたんだね!」

「うん、もう…

「え?」


…?わかってたこと?
なんか変な言い回しのような…。



「…だからね!前もって僕が、

「へ…?」


友達…紹介…?


「…はい、だからこれ!」


そう言って、終夜くんは手元に持っていた資料を手渡してきた。


「これなら、昨日も見たけど…」

「いいからいいから」


終夜くんは絶えずニコニコと笑っていた。


「…?」


疑問に持ちながらも、改めてその資料の入った封を手に取る。



「…え、…?」


するとそこには、こう書いてあった。



宛名には【月鎖兎馬様】の文字。



…何故か入原終夜の名前ではなくーーオレの名前が、記されていたんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/16:『よってくる』の章を追加。2025/12/23の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

視える僕らのシェアハウス

橘しづき
ホラー
 安藤花音は、ごく普通のOLだった。だが25歳の誕生日を境に、急におかしなものが見え始める。    電車に飛び込んでバラバラになる男性、やせ細った子供の姿、どれもこの世のものではない者たち。家の中にまで入ってくるそれらに、花音は仕事にも行けず追い詰められていた。    ある日、駅のホームで電車を待っていると、霊に引き込まれそうになってしまう。そこを、見知らぬ男性が間一髪で救ってくれる。彼は花音の話を聞いて名刺を一枚手渡す。 『月乃庭 管理人 竜崎奏多』      不思議なルームシェアが、始まる。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

処理中です...