死にたがりオーディション

本音云海

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死にたがりオーディション

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「ふう…ジュース美味しかった!ありがとう」

「いいよ、オレも飲みたかったし」


こんな風にリビングでのんびりするのはいつぶりなんだろうか。

しかもまさか終夜くんとこうして、過ごしているなんて…なんか変な感じ。


「ねえねえ、兎馬くんはさ自分の資料見たの?」

「え?ああ…ごめん。まだ見てないや。なんか見るタイミングなくって…」

「ええ!?それじゃだめだよ!ちゃんと自分の資料は見なきゃ!それ、どこにあるの?」

「どこって、オレの部屋の机の上にあるけど…」

「机の上だね!わかった、僕が取ってくる!」

「!?ちょっとま…」


バタバタと騒ぎ立てながら、慌てて二階に向かって行った。

ほんとオーディションのことになると見境がなくなるというか…人が変わるよなぁ終夜くんは。


「…そういえば、終夜くんって何でこのオーディションをあんなに受けたがっていたんだろう?」


はじめは両親のことが理由なんだとばかり思っていたけど、本人ははっきりと違うと言っていた。

ただ、受けたかった、受けたい。

そのほぼ一方通行な感情ばかりに気を取られていたせいで、本当の理由は未だ聞いてない。

オレを巻き込んでまで受けたかったわけなんだから、きっとよっぽどの理由なんだとは思うんだけど…。

終夜くんが戻ってきたら思い切って聞いてみようかな。

そもそもオレは充分すぎるくらいその対価を払ってるんだし、理由を聞く権利くらいあるよね。



「ー兎馬くん!あったよ!」


資料を手に抱えて戻ってきた終夜くん。


「はい、これ!早く開けてみて」

「…ありがと」


すかさずオレに近寄って来ては資料を手渡してきた。

…早く開けてと言わんばかりに。


「あのさ、その前にまた一つ聞いていい?」

「それより資料開けてみようよ!僕のと中身違ったりするのかな?」

「………。」


まるで子供みたいにはしゃいでる。

どうやら興味がないことに関しては基本どうでもいいらしい。


「~~っ!資料の前に!オレの質問に答えて欲しいんだけどッ!ちゃんとオレの話も聞いてよ」

「…でも、資料…」

「もうっそれはわかったから!どっちみちオレもオーディション受けるんだし資料はちゃんと読むから!資料はオレの質問の後!」

「兎馬くん…さっきから質問質問ってそればっかり。…でも、いいよわかった。それで、今度は何が聞きたいの?」

「この際だから、聞けることは全部聞いておきたいんだよ…終夜くんってさ、どうして死にたがりオーディションを受けようと思ったの?」

「……それ、前にも話したよね?両親のこととか…色々…」

「たしかに聞いたよ?でも、そう聞いた後に、終夜くん思いっきり否定したよね?違うって言ってたでしょ?」

「え、あれ…そうだっけ?」


…やっぱり、終夜くんはまだ何かを隠している。

目も泳いでるし、明らかに動揺してる。


「…あのさ、ここまできたらオレにももう知る権利くらいあると思うんだけど。教えてくれないならこの資料、終夜くんには見せないから」

「そ、そんな…っ!酷いよ…そんなの…っ」

「全然酷くはないでしょ。それともなに?親友に隠し事するつもり?」


…親友。このワードに終夜くんはたしか弱いはず。


「…ずるいよ、そんないい方…でも、そうだよね…仲直りだってしたし、僕らはもう一心同体みたいなものだよね…っ…」


どうやら当たりだったみたいだ。
それよりも親友以上も何やら気になるワードをブツブツと呟いているけど、オレは突っ込むべきなんだろうか?


「えっと…それで?教えてくれるの?」

「…うん、いいよ。と言っても別にそんな深い理由はないんだけど…」

「深いとか浅いとかそんなこと気にしないから。早く言って」

「わかった、じゃあ先にこれをみて」

「…?」


…ポケットから差し出されたのは、スマホだった。

ん?いやでもちょっと待って。このスマホって…!


「しゅ、終夜くん…?これって…オレの部屋に置いてあったの持って来たの?」

「うん!兎馬くんのスマホだよ!資料の横に置いてあったから、かなと思って」

「いやいや…!!意味わかんないから!!何で資料と一緒にオレのスマホまで勝手に持ち出すんだよ!!」

「持ち出すんじゃなくて、持ってきただけだよ!なんか、メールが届いてるみたいだったから…」

「…いや…でもさー…」


あくまで終夜くんは親切心で持って来てくれたらしい。

というか、また露骨に話逸らされた?


「ほらほら!メール確認しようよ!」

「…っ…」


先にオレが主導権を握っていたのに、すっかり終夜くんのペースだ。

…でも、たしかにメールは届いている。

知らないアドレスだけど…イタズラメール?


「あれ、もしかして兎馬くんメールの送信先ピンと来てない感じ?」

「え、送信先…?」


アドレスは、kami_hikouki@kamihikouki.netと書いてある。

…?紙飛行機?

ーそして、件名は…【一次審査のお知らせ】って…



「ッ!これ…死にたがりオーディションからメールだ!!」

「ねっ?ねっ?こっちの方がよっぽど気になるでしょ?」

「…そりゃあそうだけど…」


どうやら終夜くんは一足先に察していたらしい。

なるほどね、だからさっきから妙に余裕そうにしていたのか…。

さっきまで動揺していたくせに、急に素直に応じた理由はこれだったんだ。



「……じゃあ、終夜くんの花は後でゆっくり聞くから」

「うん、もちろんわかってるよ」


そうして、オレと終夜くんはメールの本文を開いた。

すると、メール文にはこう書かれていた。



差出人: kami_hikouki@kamihikouki.net 
宛先:tooma@domomo.jp


【一次審査のお知らせ】

死にたがりオーディション事務局です。

一次審査のご案内申し上げます。

審査内容はとある某所にて面接をとり行います。

所要時間は一人5分程度。

なお内容に関しましては、皆様が気兼ね無くお答え出来るよう簡単な質問をさせていただきます。

手荷物及び筆記用具は不要です。
お気持ちの用意だけご準備下さい。


面接会場はこちら↓
https://~



至って普通の文面だった。

だけど、この中にはオレ含めて終夜くんさえも動揺を誘う驚きの文面があった。


「えっ…」

「…うそ…っ」


互いに目を合わせる。

…こんな偶然があっていいものなのか?







「と、兎馬くん…面接会場って、僕たちが通ってる塾だよね…?」

「う、うん…」



URLをクリックして飛んでみると、それは明らかだった。

そこは確かにオレ達が通っている塾ーー

ー紙飛行機塾、通称カミ塾の場所だったんだ。
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