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死にたがりオーディション
疑問
しおりを挟む「へ~、こんな偶然があるんだね!まさかカミ塾が死にたがりオーディションと繋がってるなんて、びっくりだよ!」
「いや…びっくりというか…」
びっくりなんてもんじゃないじゃなかった。
というか終夜くんは今とんでもないことを口走っていることに気付いてないんだろうか。
…カミ塾と死にたがりオーディションが繋がっている…なんて。
単なる偶然…?
そんな簡単に片付けていいものなの?
「ーあ!やっぱり僕にも同じ文面で来てるよ!」
そんなオレの様子はさて置き、終夜くんもまた自分に届いたメールをチェックしていた。
すごく嬉しそうに喜びを噛み締めている。
この喜び様はメールが来たことによってオーディションを受ける実感が湧いたせい?
喜び以上に興奮が勝っているみたいだ。
「…やっぱり、僕は本当に選ばれたんだ…」
その時、終夜くんはふと気になる台詞を呟いた。
…選ばれた?
「……ねぇ、今の選ばれたってどういう意味?」
「え…!!な、なにが?」
まただ。また何かを誤魔化そうとしている。
とはいえ終夜くんも今の言葉は完全に無意識だったらしく、明らかに動揺を隠し切れてない様子だった。
「何がじゃないよ。ハッキリ言わせてもらうけど、終夜くんオレに何か隠してない?」
「えっ…な、何言って…ッ」
目が泳いでいる。
間違いない。
「言っておくけど、もう誤魔化そうとしてもだめだよ。オレの資料も見たいんでしょ?だったらちゃんと話してよ。親友なんだから、約束でしょ?」
「うう…そ、それは…」
「終夜くん?」
後退りする終夜くんに対してオレは一歩、また一歩と近づいた。
そして、あっという間に壁際まで追い込む。
「あ…っ」
「…ほら、早く言いなよ」
状況的にちょっとした壁ドンみたいになってるけど、この際そんなことはどうでもいい。
「選ばれたって、どーいうこと?」
「~~~…!!!で、電話だよ!!」
「…へ?電話?」
終夜くんは耐えきれなかったのか、声を大にして言った。
そう言い切ると、力が抜けたのかずるずると下がっていき最終的には床にへたり込むような体制になった。
「……少し前に、僕が兎馬くんに聞いたでしょ?死にたがりオーディションって知ってる?って…」
「え、ああ…うん…」
忘れもしない。
それが全てのきっかけだったのだから。
「…それで?」
「実はその日の前日に…電話があったんだよ」
「…?誰から?」
「……死にたがりオーディションから」
「!!え…そうだったの!?」
「う、うん…最初はセールスか何かの電話なのかなって思ったんだけど、わざわざ僕のスマホに掛かってくるくらいだから、それはないのかなって思って話を聞いてみたんだよ」
「で、何て言ってたの?」
「ん?最初はなんか…ハッキリ言って嘘くさかったよ。電話に出た途端おめでとうございますって言うんだもん…」
「えっと…いかにもな感じなのに、終夜くんはそれを信じちゃったの?」
「だ、だって!僕のスマホに掛かってくるし、僕の名前だって知ってたし、逆に疑いようがなかったっていうか…」
「わ、わかったよ…ひとまず話続けて?」
「うん…それで話を聞いてみるとね、僕は死にたがりオーディションを顔パスで合格出来る権利を得たらしくて…あくまで一次審査だけど」
「顔パスって…いわゆるオーディションなんて受けても受けなくても合格必須みたいな…よくあるオーディション商法みたいなこと?」
「んん…?多分…。難しいことは良く分からないけど、それはとても名誉なことらしくて…一次審査だけでも一万人以上は受ける人がいるらしいから…」
「い、一万人!!?」
一万人って…死にたがりオーディションってそんな大規模なオーディションだったの!?
「ね!すごい数だよね!」
「いやそこは感心してる場合じゃなくて…じゃあ今の終夜くんは一次審査はもう合格したも当然ってこと?」
「うん…だから、兎馬くんには言えなかったんだ。だって、こんな出来レースみたいなこと…」
「まぁ…たしかに聞いてていい気持ちはしないけど…」
出来レースのオーディションなんて、漫画やアニメの話なんかと思ってたけど…やっぱり普通にあるものなんだ。
しかも、あくまで一次審査だけっていうのが妙にリアルというか…
「あ、でも僕も一次審査は受けに行くよ!形だけでも行かないと、死にたがりオーディションの信用に関わるからって」
「え…それ事務局の人に言われたの?」
「あ…えと…うん」
形だけって…ほんとリアルというか生々しいや。
これだけみると、よくある業界のオーディションみたいだけど…。
「でも…ならなんで終夜くんにも請求しに来たの?」
「?請求って?」
「ほら……資料請求のだよ。終夜くんの両親…請求されたでしょ?」
…そう、間違いなく。
何よりオレはちゃんと見たんだ。
….…オレの両親と同じように。
「それも、形だからね」
「え…」
「だって、いくら一次審査の合格が約束されてるからって資料請求しちゃった以上、条件は一緒でしょ?それにあくまで一次審査だけだし、そこから先はまだ分からないしね」
「……そっか。結局は死にたがりオーディションに資料請求したことは変わりないもんね…」
「うん、つまりはそういうこと。兎馬くんを友達紹介したのも、僕の一次審査の合格が決まってたからこそだったんだ。一瞬だけ一人で頑張って行こうかとも考えたけど…兎馬くんがあんまり優しいから、つい甘えたくなって…」
「はあ…それでオレが納得すると思う?」
「出来ればして欲しい…かな?だめ?」
「…わかった、もういいよ。仲直りに免じてもうそのことは追求しない」
「ほ、ほんと!?」
「うん、でもその代わりもう隠し事しないでよ?」
「これ以上の隠し事なんてないよ!!第一、塾と死にたがりオーディションがつながってることだって知らなかったんだよ?」
「わかってるって、ほら、オレの資料見たいんでしょ?さっさと立って」
「ーうん!見たい!」
オレがすかさず手をやると、今度は手を取ってくれた。
そしてそのまま立ち上がると、リビングにあるソファに一目散に向かう。
「ほら、ここで読もうよ!兎馬くん!」
来て来てと言わんばかりに、はしゃぐ終夜くん。
そんな終夜くんに誘われるがままオレも自分の資料を持ってソファに向かう。
「…じゃあ、開けるよ」
「うんうん!」
…なんだろう。
改めて開けるとなると妙に緊張する。
どうせ終夜くんの資料と何ら変わらないことが書いてあるはずなのに…なんでこんなにもざわつくんだろうか?
丁寧に閉じられたビニール封を開ける。
「…あれ?」
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