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死にたがりオーディション:一次審査
事件
しおりを挟む「え…?」
ーその瞬間、オレの心臓が大きく音を立てた。
「…連続児童誘拐殺人事件?」
先に動いたのは終夜くんだった。
だけど、その口ぶりからして何も知らない様子だった。
無理もない。
なんたって、その情報は一切、公には公表していないのだから。
そう、知らなくて当然なんだ。
…少なくとも、当事者を除くオレ以外には。
「…っ…」
だからこそ、今彼女が口にした言葉が尚のこと理解出来なかった。
そもそも連続児童誘拐殺人事件なんてワード自体、オレが勝手にそう名付けただけの話だ。
だから彼女がそれを口にするなんてこと…絶対にあり得ないはずなんだ。
それにも関わらず彼女はそのワードを口にした。
…だとしたら、彼女はどこまでその事件のことを知っている?
ー駄目だ、考えれば考えるほど頭が混乱するばかりだ。
「…ごめんなさい。いきなり突拍子もない言い方をしてしまって。だけど、安心して。貴方達が知らなくても無理もないから」
「……どういう意味ですか?」
幸か不幸か、彼女はオレの動揺を別の意味で捉えてくれたらしい。
「そうね…順を追って説明をする前にちょっと場所を移動しましょ。」
「え、これからどこか行くの?オーディションだってあるのに…」
どうやら終夜くんにとっては連続児童誘拐殺人事件なんて、わけのわからない、ましてやこんな知らない事件なんかには興味がないらしい。
まるでぴんときてないといった感じだ。
「何言ってるのよ。これから行くところが、まさにそのオーディション会場よ?」
「オーディション会場って…まさか、そこに犯人がいるとでも?」
オレはあくまで知らないそぶりをし続けた。
「…大丈夫、確信はあるわ。それにオーディションだって、ちゃんと受けるわよ。それに私は絶対に受けなきゃいけないの」
「…」
彼女は唇を噛みしめながら、そう答えた。
確信…やっぱり、彼女は何かを知っている。
彼女のこの行動には、必ず何か意味がある。
だったらオレは…当事者としてそれを無視することは出来ない。
「終夜くん…仕方ないよ。ここまでお世話になったんだから協力しようよ。それに、オレ達まだ一次審査まで時間あるでしょ?」
「兎馬くん…それはそうだけど…。なんか、事件とか言うから…時間かかるのかなって思って…」
「なによそんなこと気にしてたの?大丈夫よ、そう時間は取らせないわ。」
「ね?ほら彼女もこう言ってるし」
「わかった…まぁ場所がオーディション会場なら、いいよ」
終夜くんはしぶしぶ納得した。
どうやら事はオレの思い通りに進みそうだ。
…とにかくオレは、彼女から情報を聞き出すんだ。
「ありがとう…改めてお礼を言うわ。入原くん、月鎖くん」
「!オレ達の名前…」
「ふふ…言ったでしょう?貴方達の声、ファミレスで丸聞こえだったって。」
「ああ…そういえばそうだったね…」
彼女は得意げに笑うけど、どれだけオレ達の会話に聞き耳を立てていたんだと思うとほんの少しだけ恐怖を感じた。
「じゃあ行くわよ」
こうしてオレ達は彼女に連れられて、再びあのオーディション会場に向かったのだった。
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