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死にたがりオーディション:一次審査
会計
しおりを挟む一目でそう思った。
日本人離れした端正な顔立ちに思わず見惚れてしまう。
「あの、何か…?」
「…何か、じゃないでしょう?私の後ろを見てもまだ分からない?」
「後ろ…?」
彼女に言われるがまま後ろを覗き込むと、数人ではあるが人が並んでいるのが見えた。
「これでわかったでしょう?わかったなら、さっさと会計を終わらせて欲しいのだけど」
彼女は口調こそは物静かであったが、そこには明らかに怒気あった。
…というか、状況から見て怒っているのは彼女だけではなさそうだ。
並んでいる他のお客さんにも迷惑が掛かっている。
ここはもう…迷っている時間はない。せめて、謝らないと…!
「す、すみません!実はオレ達…お金、持ってなくて…!!」
オレと終夜くんは、頭を下げて必死に謝った。
この際、なら何でファミレスに入ったんだと言われても仕方ない。
「はあ…?なにそれ。まさかお金もないのにファミレスに来たっていうの?」
彼女は唖然としていた。
いやむしろ引いていたのかもしれない。
とにかく、この時の気まずさったら尋常じゃなかった。
彼女に言ってることは最もであり、何も言うことが出来なかった。
正論過ぎて、黙るしか他なかった。
「…っ」
きっと、店員さんも他のお客さんも、彼女と同じことを思っただろう。
みんなの視線が一気に集まり、身動き一つ取れなくなってしまう。
…まさか、こんなところで積んでしまうなんて。
まだ、オーディションすら受けてない。始まってすらいないのに…!
こんな最後なんて…
ーーと、半ば諦めかけていたその時だった。
彼女が思いがけない台詞を口にした。
「…いいわ、ならここは私が奢ってあげるわよ」
「え…?」
耳を疑った。
え、うそ?
向こうからしたらオレ達なんて見ず知らずの相手なのにもかかわらず、彼女は…いや、この美女は今なんて言った?
「い、いいんですか…?」
オレが思考を巡らせていると、終夜くんが真っ先に彼女に声を掛けた。
「いいって言ってるでしょ。それにこのままだと他のお客さんにも迷惑かかるわ。ほら、伝票かして」
「は、はい…ッ!」
オレはすかさず彼女に伝票を手渡した。
「なによこれ、あなた達…いくらお金ないといっても、ドリンクバー2人分のお金すら持ってないって一体どういうわけ!?」
「いやぁその…ね?終夜くん…」
「う、うん…」
オレと終夜くんは互いに顔を見て頷き合う。
まさか、死にたがりオーディションからのメールで手荷物不要と言われたから本当に何も持って来なかったとは言えまい…。
…あくまでスマホは別としてだけど。
「はあ…まぁいいわ。逆に言えばこれくらいで済んで良かったともいえるし」
「すみません…」
「あ、ありがとうございます…」
オレは謝り、終夜くんはお礼を彼女に言う。
半ば呆れ気味だったが、彼女は自分の分の支払いを含め本当にオレ達のドリンクバーの支払いまでしてくれた。
…つくづく思う、感謝しかない。
「さあ、終わったわよ。ほら、これ以上迷惑かけるわけにはいかないでしょ?早く出るわよ」
「は、はい…!」
思わず敬語になってしまうが、それも仕方ない。
オレ達は彼女に言われるがまま、そのファミレスを後にした。
*
「あの…本当にありがとうございました」
ファミレスを出た後、オレ達は彼女に改めて礼を言った。
「いいわよ別に。もう終わったことでしょ?」
「いやそんな…だって貴方がいなければ、今頃オレ達はどうなっていたか…」
「うん…本当に…。あっもちろん、お金は後日返しますので…」
「いいわよ、別に。たかがドリンクバー2人分の値段くらい、わざわざ返さなくでもいいわ」
終夜くんはお金の返金を提案したが、何故か彼女は頑なにそれを受け入れようとはしなかった。
まさか、本当にただの親切心だけで奢ってくれたんだろうか?
てっきりオレはあの場を収めるための行為だと思っていたんだけど…
「でも…それじゃあオレ達の気がおさまらないですよ…」
オレがそう言うと、彼女は待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑った。
「そう…なら、貴方達に頼みたいことがあるの。返金はいらないから、代わりに私のお願い聞いてくれる?」
オレ達は突然の彼女の提案に不思議に思いながらも、頷いた。
「そうね…まずは自己紹介でもしようかしら。私の名前は春風優空(ハルカゼ ソラ)実は私もね、貴方達と同じように今日死にたがりオーディションの一次審査を受けるのよ」
「ええ!?」
思わず声に出た。というか普通に驚いた。
というか今、貴方達と同じようにって…!!
「…言っておくけど、貴方達の声ファミレスで丸聞こえだったわよ。お金もそうだけど、公共の場に赴く時は少しぐらい常識をわきまえないと…ねっ?」
クスッと妖しい笑み浮かべる彼女。
もちろんこれもぐうの音も出ない正論であり、オレ達ただ彼女の…いや春風さんの話をただ聞くことしか出来なかった。
「ああ…話が逸れたわね、本題に入るんだけど、お願いっていうのはね…貴方達にとある人を探して欲しいのよ」
「…とある人?」
まさかの探し人…?
でも、死にたがりオーディションの一次審査を受ける人が、何でそんなことをする必要があるんだろう?
…もしかして、春風さんもオレ達と同じように…友達紹介みたいな、誰かと一緒に受けるつもりだったのかな?
「で、どう?引き受けてくれる?」
「えっと…別にそれくらいならお安い御用ですけど…。」
「うん…どうせ僕たちもうファミレスに入れなくなっちゃったし、それなら全然」
「ありがとう。あ、それと…敬語は別にしなくていいから。奢ったこともこれでイーブンってことでいいわよね?」
「はい、もちろん…じゃなくて、うん。春風さんが、それでいいなら」
「ええ、交渉成立ね」
彼女はにっこりと微笑んだ。
ここにきてようやく彼女の本当の笑顔が見れた気がする。
…というか、普通に笑うとめちゃくちゃ可愛い。
「あの…ところでその、探して欲しい人ってどんな人なの?」
終夜くんが言った。
…たしかに、特徴がないと探しようがないか。
「…それもそうだね、例えば…性別とか背丈とか見た目の特徴とかあれば教えて欲しいかな」
「…」
オレも終夜くんに続けて彼女に尋ねてみた。
ーが、彼女は答えてくれなかった。
さっきまでの笑顔とは一変してまたもや、物静かな口調になりゆっくりと話し始めた。
「…実をいうと、私も良く知らないの。だから、貴方達は…怪しいと思える人を見かけたら私に教えて。ただそれだけをしてくれればいいから…」
「?それはどういうーー」
彼女は濁すかのように言った。
けどあまりにも抽象的過ぎて、いくらなんでも探しようがない。
オレが少しばかり、その事について反論すると…彼女は断念したのか、更に言葉を続けた。
「……ある、事件よ…私の、…いえ、私が探している人は……連続児童誘拐殺人事件の犯人よ」
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