死にたがりオーディション

本音云海

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死にたがりオーディション:一次審査

話3

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「…俺は理解出来なかった。親父ならまだしも何で母さんがって…思った。だって、おかしいだろ?母さんの遺体は警察が持っていったはずなのに、何で死んでもなお母さんがこんな目に合わなきゃならねーんだって…」

「守山、くん…」


守山くんの手は震えていた。

確かに話を聞いてみると不可解な点が多すぎるような気がする。

守山くんのお母さんは、守山くんのお父さんに殺された。

そして、そのお父さんは警察に捕まってお母さんの遺体は警察の手に渡った。

ここまでは特におかしな点はない。

だけど、問題はその先にある。


「…まさか、その資料請求がなんてこと、誰が思うかよ…」


守山くんは言った。そう…オレの気になった点はこれなんだ。

死にたがりオーディションは、生きている人間の生首だけでなく既に死んでいた人間の生首まで請求したってことになる。

しかも、その遺体は警察の手の中にあるはずなのに、こうして死にたがりオーディションによって請求されてしまった…。

…それにもかかわらず、どうして死にたがりオーディションはこうも容易く警察から遺体を徴集することが出来たんだ…?

オレが頭を抱えていると、終夜くんが突然何食わぬ顔で話し始めた。


「それってさ…多分だけど、資料の3ページに書いてあった【このオーディションは国家公認のオーディションのため法は一切関与しないものとする。】っていうのと何か関係あるんじゃないかな…?」

「え?どういうこと?」


オレは何一つ分からなかったが、守山くんは何かに気付いたらしい。


「…なあ、シューヤ?もしかしてお前が言いたいことようはこういうことなんじゃないか?その規定があるからこそ、警察は一切関与出来ないって…」

「ううん…むしろその逆。なんじゃないかなって。…だからこそ、その規定も成り立つっていうか…それにそうだと仮定すれば、お母さんの亡骸を請求出来たとしても辻褄が合うでしょ?」

「…」


ここまでの話を経て、オレ含めて守山くんも終夜くんの説明に呆気に取られていた。


「あっ…ご、ごめん…!変に喋りすぎたよね…あくまで予想だし、そんな気にしないで」

「いや…一理あるかもしれねぇ」

「え」


守山くんはそういうと、すぐさま立ち上がった。


「…ありがとな。シューヤ、トーマ。話聞いて貰えてすげー楽になった。それに、次の目的も出来た」

「次の目的?」

「ああ、俺は必ず死にたがりオーディションを合格してみせる。んでもって、母さんのこともまだまだ聞かなきゃならねーことが、たくさんあるってわかったしよ!そのためにも、まずは一次審査を突破しねーとな!」


彼は笑った。

まるで胸の突っかかりでも取れたみたいに、スッキリした表情で笑っていた。


「そういや今何時か分かるか?俺の一次審査12時からあんだけど…」

「え、そうなの?今はえっと…11時40分だから…」

「やっべ!もうそんな時間かよ!走っていかねーと!」

「…じゃあ、ここでお別れだね」

「んなしょぼくれた顔すんなよ。これ、俺の連絡先な!」


彼はそう言って一枚の紙切れを渡してきた。


「あ、ありがとう…」

「じゃあなー!お前らも絶対受かれよー!」


彼は、一言そう言い残すとそのまま一次審査の会場であるカミ塾に向かっていった。

そして、残ったオレ達はというと…。



「…ところでさ、そのジュース飲まないの?」

「え、そういう終夜くんこそ…」


そうだった。

オレ達せっかく守山くんが作ってきてくれたジュースを、まだ一口も飲んでないんだった。


「でも…飲まないと駄目、だよね…」

「た、多分…」


手元にあるのは、あの守山くん特性の真っ黒いジュース。

見た目のヤバさゆえに躊躇してしまう。

けど、オレ達はお互い初ファミレス。

残していいのか…そもそもの、かってが良く分からない。


「…いや、僕は飲むよ」

「え」


何を思ったのか、終夜くんはそれを一気に飲み干した。


「ど、どう…?」


おそるおそる尋ねてみる。


「………あれ、意外と美味しい…」

「え、嘘でしょ…?」

「いやいや嘘じゃないって。飲んでみてよ」

「う、うん…」


表情こそは不味そうに飲んでるようには見えなかった。

終夜くんに施されるまま、オレも一口飲んでみた。



「…あ、ほんとだ」


不味いどころか、普通に美味しい…!

味はなんだろう…?甘いんだけど、程かな酸味もあって…うん、とにかく美味しかった。

ひとまずオレはコップ一杯のジュースを飲むことに専念した。

ーすると。


「あー!!!」

「ーぶふぅっ?!!」


突然、終夜くんが叫ぶ。

いきなりのことに驚いてしまい、思わずジュースを吹き出してしまった。


「ちょ、ちょっと…いきなり何?」


慌てて近くにあった紙ナプキンを数枚取り、テーブルと自分の口を吹いた。



「…ねぇ、兎馬くん。僕…とんでもないことに気付いちゃった…」

「は…?気付いたって何が?」


その表情は微かに青ざめてるようにも見えた。

…え、何?もしかしてただ事じゃない…?



「僕たちさ…手荷物不要ってことで、スマホくらいしか持ってきてなかったでしょ…?」

「うん…そうだけど。それが何か……ーあっ」


ここで、ハッと気づく。

…そうだ、オレ達今…



「お金…持ってない……….」

「そ、そうだよ…ど、どうしよう!?無銭飲食だよね!?これって…」

「いやえっと…確かにこのままだとそうなってしまうような…?」


や、やばい。
終夜くんの慌てっぷりからして、非常にまずいことになっているってことは分かる。

と、とりあえず冷静に…まずは店員に事情を説明しに行こう。


「あ、あの…」

「はーい、どうしました?」


ひとまずオレ達はテーブルにあった伝票を取ってレジに向かい、店員に話をしてみることにした。


「いやその…非常に言いにくいんですけど…オレ達いま…」

「はい…?」


店員は不思議そうに、こちらを見ていた。

その視線で、より一層緊張してしまう。

い、言いにくい…!だったら何でファミレスに入ったんだって言われたら元もこうも…っ



「ーちょっと…」


と、オレ達がレジで戸惑っていると突然背後から声を掛けられた。

声にそそのかされ、後ろを振り返ると…そこには、とても綺麗な女の人が立っていた。
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