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第1章至る平安
因幡の白兎2
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「何ですかあなた。なぜこんなところにいるんです!?」
この聞き覚えのある声はオオナムジのものか。
こっちのセリフなんだけど。
振り返った俺の目に、衣服も顔もボロボロなオオナムジの姿が映った。
えっ。どうしたんだよお前。
「何があったんですかここで。」
オオナムジは、倒れている男達を見ながら困惑している。
彼の見た目ボロボロなところがどうしても気になる。
そちらを尋ねたい欲を我慢して俺はとりあえず疑問の答えを返した。
「なんかかかってきたのでボコボコにしました。」
「はあ。なるほど⋯⋯ 。とりあえず、よくやってくれたと言いたいですね。」
「あなたの関係者だったりするんですか?」
「ええ。この前言った女好きの兄達です。」
「なるほど⋯⋯ 。」
何と言うか、深く納得した。
「僕もおっつけ彼女のところに行こうとしていたんですが、兄達に止められた上に殴られて気絶してまして。」
「ボロボロなのはそのせいですか。」
「はい。お恥ずかしい話です。だから本当によくやってくれたと言いたいんです。スカッとしました。」
「かかってきたのを返り討ちにしただけですよ。」
とりあえずそう答えておこう。
「すごいですね。」
オオナムジは純粋な憧れの視線を向けてきてむず痒い。
そういえば、あの兎はどうなったんだろうか。
オオナムジの兄達が襲ってきてから意識から外してしまっていた。
キョロキョロと探す。
兎は岩の上で日光浴をしようとしていた。
「痛い痛い痛い。でも、これで治るんだから我慢我慢⋯⋯。」
そんなことをしても良くならないぞ⋯⋯。
因果応報とはいえ哀れである。
「そんなことしても治らないって言ったでしょ?」
「親切な人が教えてくれたんです。我慢すれば治ります!」
その親切な人たち、俺の足下で伸びてるけど。見てなかったんだろうな⋯⋯ 。兎だもんな。
「それじゃ良くならないよ。今すぐ水門へ行き、水で体を洗い、その水門のの穂をとって敷き散らして、その上を転がって花粉をつけると良いよ。皮膚はもとのように戻り、必ず癒えるはず。」
オオナムジが優しく言い聞かせた。こいつ、なかなか薬草の知識があるぞ。
「⋯⋯ 。わかりました。」
兎は、オオナムジの言ったことを信じたみたいだ。
俺が言っても信じなかったくせに。
もう少し説得力のある話し方を研究してみよう。そしたら説得力のある文章作りができるはず。
オオナムジの言った通りにした兎は、元々の姿に戻った。効果が現れるのが早すぎる気もするが、まあ、そんなもんだろ。俺も多分おんなじ速度で回復するし。
兎は白い毛並みが美しい。
割と位が高い生き物なのかな。まあ、喋っているしそうかもしれない。
「ありがとうございました。お礼にあなたの恋の成就の保障をしてあげます。」
「え?」
「早めに行くと良いでしょう。」
「ヤガミ姫に伝えたけどいい感触だったよ。めっちゃ惚気られたし。」
兎の言葉に俺も肯定材料を加えておく。
「早めに行くといいんじゃない?」
「わかりました。ありがとうございます。えっと⋯⋯ 。」
「そういえば言ってなかったですね。夜と言います。」
「夜さん。このお礼はいつか必ず。」
「ええ。また会うことがあれば。」
多分もう会わないと思うけど。
「それではこれで!」
オオナムジは幸せそうにスキップしながら西へ向かっていった。
まあ、いいやつではあったしせいぜい幸せになってくれ。
「さて。」
「なんでしょう?」
「いやなんでしょうじゃないぞお前。あいつが何をしているか知っているみたいな口ぶりだっただろ。」
「よそ行きじゃないとめちゃくちゃ口調が変わるわね。」
「お前もな。」
サメ相手にこの兎の口の悪さはすでに目撃している。
「で、あなたは何者なの。筋書きではここに来るのはと、だけだったはずなのに。」
「俺は夜。吸血姫だ。」
「一人称が俺だなんて、野蛮な姫もあったものね。笑っていい?」
「やめろ。これは俺の最後の記憶に従ったものだ。他人にとやかく言われる筋合いはない。」
「私を人扱いするんだ。」
「まあ、こうして話しているからな。兎とも言いきれないだろ?」
「私も私が何者なのかわかってないんだけどね。」
「そうなのか?」
「ある日突然使命が思い浮かんで沖ノ島からワニを使って渡ってきただけの兎だもの。」
「どんな?」
「おおなむぢに予言をするようにってね。」
「さっきの予言だったのか。単に励ましているだけかと思ったぞ。」
「下手だった⋯⋯ ?」
「まあ、それなり。」
「どう評価していいかわからないんだけど。」
彼女はため息をついた。
なかなか感情表現が多彩な兎だ。
「これからどうするの?」
「高天原に向かうつもり。」
「そこは?」
「神が住まう地。」
「私もいっても良い?」
「いきなりよそ行きになったね。」
「気にしないで。」
「ふふふ。あなた面白いね。」
兎に笑われて気に入られた。
よそ行きの性格の構築がうまくいきすぎているんだよな。
本当に俺の前世は男だったんだろうか。
知るすべはもはやない、か。
ともかく神が住む地と言う高天原には行ってみたいし、行く価値がある。
書物がある可能性も高いだろう。
南にあると言う都にも興味はあるが、神の住まう場所に行ける機会はまたとない。
こちらを優先しよう。
「それでどうやっていくの?」
「歩き。」
「もっとこう何かなかったのかな⋯⋯。」
俺のつぶやきは虚空に溶けていった。
この聞き覚えのある声はオオナムジのものか。
こっちのセリフなんだけど。
振り返った俺の目に、衣服も顔もボロボロなオオナムジの姿が映った。
えっ。どうしたんだよお前。
「何があったんですかここで。」
オオナムジは、倒れている男達を見ながら困惑している。
彼の見た目ボロボロなところがどうしても気になる。
そちらを尋ねたい欲を我慢して俺はとりあえず疑問の答えを返した。
「なんかかかってきたのでボコボコにしました。」
「はあ。なるほど⋯⋯ 。とりあえず、よくやってくれたと言いたいですね。」
「あなたの関係者だったりするんですか?」
「ええ。この前言った女好きの兄達です。」
「なるほど⋯⋯ 。」
何と言うか、深く納得した。
「僕もおっつけ彼女のところに行こうとしていたんですが、兄達に止められた上に殴られて気絶してまして。」
「ボロボロなのはそのせいですか。」
「はい。お恥ずかしい話です。だから本当によくやってくれたと言いたいんです。スカッとしました。」
「かかってきたのを返り討ちにしただけですよ。」
とりあえずそう答えておこう。
「すごいですね。」
オオナムジは純粋な憧れの視線を向けてきてむず痒い。
そういえば、あの兎はどうなったんだろうか。
オオナムジの兄達が襲ってきてから意識から外してしまっていた。
キョロキョロと探す。
兎は岩の上で日光浴をしようとしていた。
「痛い痛い痛い。でも、これで治るんだから我慢我慢⋯⋯。」
そんなことをしても良くならないぞ⋯⋯。
因果応報とはいえ哀れである。
「そんなことしても治らないって言ったでしょ?」
「親切な人が教えてくれたんです。我慢すれば治ります!」
その親切な人たち、俺の足下で伸びてるけど。見てなかったんだろうな⋯⋯ 。兎だもんな。
「それじゃ良くならないよ。今すぐ水門へ行き、水で体を洗い、その水門のの穂をとって敷き散らして、その上を転がって花粉をつけると良いよ。皮膚はもとのように戻り、必ず癒えるはず。」
オオナムジが優しく言い聞かせた。こいつ、なかなか薬草の知識があるぞ。
「⋯⋯ 。わかりました。」
兎は、オオナムジの言ったことを信じたみたいだ。
俺が言っても信じなかったくせに。
もう少し説得力のある話し方を研究してみよう。そしたら説得力のある文章作りができるはず。
オオナムジの言った通りにした兎は、元々の姿に戻った。効果が現れるのが早すぎる気もするが、まあ、そんなもんだろ。俺も多分おんなじ速度で回復するし。
兎は白い毛並みが美しい。
割と位が高い生き物なのかな。まあ、喋っているしそうかもしれない。
「ありがとうございました。お礼にあなたの恋の成就の保障をしてあげます。」
「え?」
「早めに行くと良いでしょう。」
「ヤガミ姫に伝えたけどいい感触だったよ。めっちゃ惚気られたし。」
兎の言葉に俺も肯定材料を加えておく。
「早めに行くといいんじゃない?」
「わかりました。ありがとうございます。えっと⋯⋯ 。」
「そういえば言ってなかったですね。夜と言います。」
「夜さん。このお礼はいつか必ず。」
「ええ。また会うことがあれば。」
多分もう会わないと思うけど。
「それではこれで!」
オオナムジは幸せそうにスキップしながら西へ向かっていった。
まあ、いいやつではあったしせいぜい幸せになってくれ。
「さて。」
「なんでしょう?」
「いやなんでしょうじゃないぞお前。あいつが何をしているか知っているみたいな口ぶりだっただろ。」
「よそ行きじゃないとめちゃくちゃ口調が変わるわね。」
「お前もな。」
サメ相手にこの兎の口の悪さはすでに目撃している。
「で、あなたは何者なの。筋書きではここに来るのはと、だけだったはずなのに。」
「俺は夜。吸血姫だ。」
「一人称が俺だなんて、野蛮な姫もあったものね。笑っていい?」
「やめろ。これは俺の最後の記憶に従ったものだ。他人にとやかく言われる筋合いはない。」
「私を人扱いするんだ。」
「まあ、こうして話しているからな。兎とも言いきれないだろ?」
「私も私が何者なのかわかってないんだけどね。」
「そうなのか?」
「ある日突然使命が思い浮かんで沖ノ島からワニを使って渡ってきただけの兎だもの。」
「どんな?」
「おおなむぢに予言をするようにってね。」
「さっきの予言だったのか。単に励ましているだけかと思ったぞ。」
「下手だった⋯⋯ ?」
「まあ、それなり。」
「どう評価していいかわからないんだけど。」
彼女はため息をついた。
なかなか感情表現が多彩な兎だ。
「これからどうするの?」
「高天原に向かうつもり。」
「そこは?」
「神が住まう地。」
「私もいっても良い?」
「いきなりよそ行きになったね。」
「気にしないで。」
「ふふふ。あなた面白いね。」
兎に笑われて気に入られた。
よそ行きの性格の構築がうまくいきすぎているんだよな。
本当に俺の前世は男だったんだろうか。
知るすべはもはやない、か。
ともかく神が住む地と言う高天原には行ってみたいし、行く価値がある。
書物がある可能性も高いだろう。
南にあると言う都にも興味はあるが、神の住まう場所に行ける機会はまたとない。
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「それでどうやっていくの?」
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「もっとこう何かなかったのかな⋯⋯。」
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