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第1章至る平安
アマノウズメ1
しおりを挟む貫之の死を看取った夜は、京都を離れることにした。
流石に、姿が変わらないまま五十年以上居続けることは、不可能だった。
しばらく考えた夜はウズメに会いに行くことにした。
白に百年ごとに来るようにと言われたのにも関わらず、五十年すぎてようやくである。やはり、時間感覚は人間のものと異なってしまっているのかもしれない。
確か、白によると、猿田彦の神社に行けば会えるということだったな。
五十年前のことだと言うのに優秀な記憶力を発揮した夜はそのまま、猿田彦神社の場所を聞き込み、伊勢にあることを突き止めた。
伊勢なら紀伊山脈を越えたらすぐだ。
旅行記を書くのもいいかもしれない。
そろそろ、旅をする商人も現れてくる頃だろうし、需要はあるはず。
⋯⋯、流石に無理か。
紙が潤沢なのは、相変わらず貴族社会だけのようだ。
あそこは特権階級だから仕方のない部分はある。
この前までその恵みを享受していたわけだし、文句を言うわけにもいかない。
大人しく、記憶のメモ帳に刻みつけておこう。
伊勢まではそこそこ遠かったが、この体のスペックなら問題ない。
襲いかかってくる盗賊を下し、言い寄ってくる男をはねのけ、大した障害もなく伊勢にたどり着いた。⋯⋯多分普通の人だったら波乱万丈の旅なんだろうけど、今は感覚が麻痺しているからわからない。特別なイベント起こりましたか?って感じだ。
伊勢に来て伊勢神宮に参らないのは、天照様に怒られそうな気がしたので、とりあえず伊勢神宮から参ることにする。
いきなり真新しい正殿に驚いた。たしか二十年毎に作り変えるんだったか。
さすが天照様。やることが違うな。
最高神だからできる贅沢だと言えるだろう。
二礼二拍手一礼をしていたら、天照様の機嫌の良さそうな声が聞こえてきた。
「ワシのところに参るとは感心じゃの。礼に、アドバイスを一つ。ウズメの提案に乗るかはよく考えたほうが良いぞ。結果は保証できんからのう。」
天照様は、それだけ言って気配を消した。
おそらく高天原から直接飛ばしてきたんだろうが、相変わらず規格外だ。
そして、ウズメの提案に、危険性がある、とのことだった。
日本最高神からのアドバイスだ。
忠告に感謝して、できるだけ、提案されても用いない方向で行こう。ウズメには悪いけれど。
●
猿田彦神社は、民家の一角にあった。
それで神社と言えるのだろうか。
まあ、お参りに来る人には門戸を開いていたので、ぎりぎりセーフといったところだろう。
家の人の言うことには、自分たちこそが猿田彦とウズメの子孫と言うことだった。
ほーん。そうなのか。お盛んなことで。
俺は、何とも言えない表情になった。
自分でそういうことをしようとは思わないんだよな⋯⋯。
釣り合う相手がいないというか。
一人称が俺の吸血姫を貰ってくれる人なんてそうそういるわけがない。
というか、俺的には、女の子を嫁にもらいたいところだしな。
需要と供給が一致しないと言うよりないか。
悲しい。
さて、ウズメの祭壇の前で祈る。
二礼二拍手一礼。
「ウズメに会いたい。」
あのテンションの高い彼女と話して、浮世のことを忘れてしまいたい。
そう、深く祈る。
「はいはーい。ウズメちゃんだよー!あっ、夜。おひさー!」
社から当然のように出現した彼女は、裏手でピースを作ってポーズをとった。
いや再会の感動、軽すぎない?
下手したら400年ぶりくらいなんだけど。
俺が胡乱な目を向けていると、ウズメはあざとく小首を傾げる。
「それで、何の用なの?わざわざ私に会いにくるなんて。もしかして、ウズメちゃんに会いたくなっちゃった?」
「もういいよそれで。」
一面的には事実だし。と、声に出さずに思う。
「嬉しいなあ。そうだ。久しぶりにウズメちゃんの踊り、見ていく?今なら、夜のためだけに踊ってあげるよ?」
「やだよめんどくさい。」
「そんなこと言ってー。本当は見たいんでしょ?」
「まあ、多少は。」
「やったー!夜ちゃんがデレた!」
「デレてない。」
「照れちゃってーこのこのー。」
胸のあたりを突っつかないでくれます?
変な気分になるので。
「まあ、見てってよ。あれからウズメも成長したんだから。」
そのまま彼女は流れるように踊り始めた。
最後に彼女の踊りを見たのは、高天原を離れる日か。
流麗な足運びだ。
高天原にいた頃も凄まじかったが、今のウズメの踊りには、不思議な色気がある。これが人妻の色気か⋯⋯。とてもえっちだ。
⋯⋯えっちといえば、確かウズメには、よくない癖があったような覚えがあるんだが。
「うんうん。いい感じの盛り上がってきたよー!」
弾けるような笑顔とともに、彼女の上着がはだけられ、前より成長した胸がお天道様の元に曝け出された。
そうだった。ウズメ、脱ぎグセがあるんだった。すっかり忘れてた。
「ウズメ一旦落ち着いて。」
「なになにー? 夜も踊るの? 私を捕まえられるかなー!」
踊っている相手を捕まえる遊びと勘違いしたウズメは、その華麗な身のこなしで、俺の腕をするりと抜ける。
なんどやっても結果は同じ。
俺のスペックでも捉えきれないとか、本当にウズメの体さばきはどうなっているんだ。
最終的に俺が疲れてへたり込んでいるところを、ウズメが腕を引いて起こしてくれた。
「体力なくなっちゃった?」
「ウズメについていけるわけないでしょ。」
この子を捕まえられるとしたら誰なんだろう。
生半可な人物では不可能だと思うんだけど。
「ま、とりあえず、社に上ってよ。」
裸のウズメに手を引かれる。
そろそろ、服を着てくれないだろうか。
心の中の男性性が目覚めてしまいそうだ。
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