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第1章至る平安
アマノウズメ2
しおりを挟む幸い、建物の中に入ったウズメはきちんと服を着なおした。
踊りを踊るときだけ気分が高ぶってあんなことになるんだよなあ。
いつもはそれなりに常識的なんだけど、これはもう、彼女の性分というよりないのかもしれない。
落ち着いたので、互いに、今まで何をやってたか話すことにした。
ウズメの方は、猿田彦に付いて行って、子作りと神社づくりと権能の共有化を行なっていたらしい。子作りは生々しかったので聞かなかったことにするとして、権能の共有化ってなんだよ。
詳しく聞くと、猿田彦の権能をウズメも使えるようになったということらしい。
流石に劣化は避けられないが、彼のできることはだいたい彼女もできるようになったとのことだった。
なんだかとっても高度なことをしている気がするんだけど、気のせいかな?
神の権能って、一つに決まっているものなんじゃないの?特に日本神話なら。
天照なら太陽、ウズメなら芸能、オモイカネなら知恵。
なんで八百万の神がいるのかって、全能神がいないからだろうに。
統合できるのならワンチャン全能神が生まれるぞ。
なんか、神話の前提を揺るがしかねないものをやったって言っている気がするんだけど。いいのかな、見逃して。
まあ、ウズメなら大丈夫か。
こちらの方も、ここに来るまでの出来事を話すことにした。
天皇家の東征に付き合い、大麻農家になり、闇堕ちして、歴史書を書き、今は平安調の物語が書けないか四苦八苦している。
正直に伝えたところ、爆笑された。
「笑うことないでしょ⋯⋯。」
「やっぱ夜っていいよね。大好き。」
唐突な告白に勘違いしそうになるけどウズメは人妻だ。
友達として大好きという意味だろう。
まあ、俺も、ウズメのことは好きだしね。
おあいこだ。
「そーいえばさあ、一回、試したい術があるんだけど、夜、かけられてみない?」
「どんな術?」
なんか天照様が気をつけるように言ってたけど、ウズメが俺の不利益になるようなことをするとも思えないんだよなあ。だいぶ絆されている。
「えっとね。境界を浮き彫りにする術?」
「ちょっと何を言っているのかよくわからないんだけど。」
「なんかさ、夜って、魂と身体が一致してないように見えるんだよね。位相がずれているというか。この術が成功したら、夜の力はもっと高まると思うよ。」
「力が高まる、ねえ?」
俺はあんまりピンときていなかった。
「やってみよう? 体と魂で対話すれば、夜の抱えている問題の一つは解消されるから。」
ウズメの耳触りのいい声に導かれるように、俺はいつの間にか、頷いていた。
「よし、決まりね。じゃあ、そこに正座して。」
ウズメと向かい合って座る。
整ったウズメの顔が真正面にあって、少々気恥ずかしい。
ウズメは真剣な表情で祝詞(のりと)を唱えていく。
俺は、その厳粛な雰囲気に飲まれるように押し黙った。
体と魂、ね。
天照様の忠告を考えると、大変なことが起こる可能性はある。
でも、ウズメがわざわざ俺のために、やってくれることを、無碍には出来ない。
ウズメの身体が、左右に揺れ始める。
表情は変わらず真剣なので無意識だろう。トランス状態ってやつだろうか。
そのまま、祝詞の言葉が連なっていく。
徐々に大きく、徐々に早く。
今まで聞いていたはずの言葉の意味がわからなくなってくる。
意識が、この場所を離れるような、ぐるぐると回る酔いが進んでいく。
目の前が暗くなって、一瞬、意識が途切れた。
目を開ける。
正面に、赤の袿(うちぎ)を着た女がいる。
目元が爽やかで、怜悧な印象を与える美しい女だ。
服装的に、貴族か、貴族の女房だと思われる。
目をつぶって、動かない。
なぜ、今までいなかった女が現れたのか。どこか見覚えがあるような気もするが⋯⋯。
そして、さっきまでそこにいたはずのウズメの姿が見えない。
俺は、状況を把握しようと、膝を起こした。
胸が擦れる。違和感を覚えた。なんだか、いつもの胸の感触と違うような⋯⋯?
視線を下に向ける。
服装が、違う⋯⋯?
今の自分が着ている服は、ウズメの着ていたような、白の単に朱(あか)の長袴。
つまるところ巫女服だ。
ウズメの着ていたような⋯⋯?
俺は慌てて辺りを見渡して、ご神体らしき鏡で、自分の姿を映してみた。
「俺が、ウズメになっている⋯⋯?」
鏡の中で、ウズメの姿をした女が、パチクリと瞬きをした。
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