追放された俺は逆行転生した〜TS吸血姫は文化を牛耳る〜

石化

文字の大きさ
43 / 49
第1章至る平安

香子VS清少納言

しおりを挟む

安倍晴明の屋敷。
賑やかに立働く式神たちを物珍しげに眺めながら、清少納言は、香子の元にたどり着いた。

式神から来客があると聞かされていたのだろう。
香子の表情は硬い。

「おはよう香子。こっちが俺の親友の清少納言だ。」

「⋯⋯よろしくお願いします。」

「ああ。よろしく。って、夜あんたなんだいその喋り方は。そっちが素かい。笑っていいかい。だめだこらえきれない笑わせておくれ。」

清少納言はひとしきり爆笑していた。

清少納言の前では猫かぶりモードしか見せていない夜だ。
美しく丁寧で本が大好きな女官というイメージは脆く崩れ去る。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか⋯⋯。」

「こっちには丁寧語かい。いやだめだわらう。面白すぎる。そうだ、夜、これからは私にもその口調で喋ってくれ。」

「いいのか?」

「ああ。それがあんたの個性だろ。私はそっちの喋り方の方が好きだ。」

「わかった。」


夜の猫かぶりはかなりの筋金入りである。
もともと人がいるところでは大体女言葉を使いこなし、たとえ白とアメノウズメが相手でもその丁寧語は崩れない。唯一の例外は戦闘を行う時のみだ。
それを聞かれた香子と、香子と喋るのを聞かれてしまった清少納言。
この二人は、類稀な幸運を有しているといえよう。

それが良いのか悪いのかはまた別の話だが。


「むうう。」
仲の良さを存分に見せつけながら清少納言と夜が喋っているのを見た香子はとても不満そうだ。

先ほど地獄から救われた時、香子は、夜のことを無条件で信頼して良い、頼りになる大好きな人と定義した。
幼い頃からの信頼と、それを上書きする昨晩の出来事。
二つの理由で、もはや依存していると言ってもいいほどに、彼女は夜を頼りにしている。

その関係を横からかっさらっていきそうな清少納言のことが面白くないのは当然のことだった。

「あなたの文章を見せてください。」

「いいよ。私も夜が才能の塊だというあんたの文章を見てみたい。」

「私の文章は、ここには⋯⋯。」

「えっ?もちろん持ってるよ。当然じゃん。」

愛読者第一号でありファンの鑑である夜は当然のように彼女の物語を持ち歩いていた。

「ちょっとさすがに引くよそれは。」

「さすがね!夜!」

両者からの評価は正反対だったが、何はともあれ二人とも相手の文章を読む用意は整った。

どちらも大好きな夜はニコニコしながら二人の読書を見守る。
本好きにとって、自分が好きな本を他人が読んでいるのを見るのは、幸せの一つの形である。
夜は、とても嬉しかった。これで互いに認め会ってくれたら最高だ。
高望みだろうか。

枕草子を読む香子は、とても苦しそうな表情である。
 一番最初の、読み始める前のスタンスがなんとか難癖をつけてやろうだったのがよくない。文章力で殴られてしまって、難癖をつけようにもつけられないのだ。彼女は当然、文章の良し悪しは読めばわかる。
 その感覚が、この文章はとても良いものだと叫ぶのだ。その声を押さえつけて、難癖をつけられる場所を探すのはとても苦しい作業に他ならない。

一方、清少納言の方は、時々頷いてはパラリとめくる。とても楽しそうだ。その証拠に徐々に捲るスピードが早くなっていく。物語に没入している証拠である。
香子の物語は長編でありながら、もっともっとと先を求めずにいられない、麻薬のような性質を有している稀有な作品である。
自分の目から見て才能があると思える夜の過剰な持ち上げも、これを読んだら納得できる。自分が小説を書いたとして、これに勝るものを果たして書けるのか。自分の才能に絶対の自負がある清少納言でも、冷や汗を流さずにはいられない空恐ろしい話運びだ。

どちらも集中して、本をめくる。静かな時間が流れる空間。
夜は、いつしか前世の図書館という場所を思い出していた。
あそこは、前世の自分がもっとも好きな場所だった。
叶えられるのならこの世界でも、作ってみたい。

そんなことを考えていた。
それはいつしかとりとめもない妄想に変わっていった。とても幸せな妄想だった。
夜はこの時間が永遠に続けば良いのにとまで思うのだった。

読み終わったのは、果たして、両方同じだった。

「どうして未完なんだいこれは?早く続きを書いてくれよ。子供をさらってしまった貴公子は一体どうなるんだい?」

清少納言はすっかり香子の物語にはまってしまった様子だ。
わかる。夜は深く頷いた。

「なんですかこれは。いい気になって漢字なんて書き散らしちゃって。全然ダメです。」

一方香子は、とても苦しそうな表情でそう言った。批判するという行為に抵抗を感じているようだ。

「まあまあ、お嬢さんがどう感じようとそれは自由さ。」

清少納言は大人である。きちんと香子の言外の意味を読み取って、さらっと流した。
自分の好きな文章を批判されて少しムッとしていた夜も、そう言われるとなんでもないような気がしてきた。年の功というものは偉大である。この中で圧倒的に一番歳を食っているのは夜のはずなのだが⋯⋯。夜の名誉のために、気づかなかったことにしよう。

「それより続きはないのかい?なんなら布教して良いかい?」

「ダメだ。これから香子がちゃんと続きを書けるようになるのかなんてわからないんだぞ。香子の体が一番だ。」

香子は赤面した。それほど大切に思ってもらえているとは考えていなかった。
夜が本より優先度を上にするのは相当である。
よくなって体調を整えてもらってから十全の続きを読みたいからという説も濃厚かもしれないが。

「夜は過保護だねえ。でも、それなら仕方がない。」
清少納言はカラカラと笑った。

「あんたの物語が完成するのを楽しみにしているよ。もちろん、夜。あんたのもね?」

「言われなくたって完成させます。」

「香子には負けない。」

夜の目の中に、強い意思の輝きが宿っているのを確認した清少納言は満足そうに頷いた。

「そうかい。なら良いさ。きっと、私が死ぬ前に完成させなよ?
下手したらあと二十年はかかりそうだ。」

「そんなには行かないだろ⋯⋯。」

「文章を舐めるんじゃないよ? 気づいたら十年は持っていかれるよ?」

それは、文章に魂を込めた先駆者の不思議と実感のこもった脅しだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...