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第1章 雲上へ
地球から異世界へ
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泣き終わるルナさんを待ってから、会計に行く。本当に彼女はお金を持っていたようで、ぽん、と千円札が出てきた。
「ショージさんの人を探す傍ら、あるばいと?というものをしていて……そうしたらいつの間にかお金がありました」
納得の話である。彼女のこの美貌でチラシ配りの日雇いアルバイトがしたい、なんて言ったら引く手あまただろう。
それはそうとして、別世界のことについてファミレスを出て自分のアパートの部屋に帰るまでの道中に質問する。
「もともとはその管理者様っていうのがいたんだろ?どこにいったんだ?」
それを問いかけると、少し曇った顔で彼女はポツリとつぶやいた。
「……亡くなりました」
「えっ……?」
「前代の管理者様は、私たちと同じ雲上の神と同じ存在でした。けれど、下界に降りて、人と結ばれたいと願ったために管理者様……ソフィア様は永遠の寿命を捨てて人と同じ道のりをたどりました。
最初はただ私たちを管理するだけのソフィア様に、好きな男性が出来たのだと皆両手を上げて喜びました。けれどソフィア様が雲上に指示を飛ばす声が徐々に弱っていくのを感じて不安にも思っていました。
ある日、勤勉なソフィア様から挨拶も指示もポツリと来なくなりました。不安に思った私は下界に降りてソフィア様と結ばれた男の人の場所へ訪ねると、男の人がしわくちゃの顔で『ソフィアは亡くなった』……と」
「つまり、本来永遠に司るべきだった人が男の人と結ばれる代償に永遠を失った、と……?」
ルナさんの言い方からして、そのソフィアという女性は雲上の神々から慕われる存在であったらしい。そして、同時に下界にもよく偵察していたのだろう。
何となく、ルナさんが神様なのに人間らしいのに納得がいった。雲上の上司である管理者が一番人間らしかったからだ。
彼女はその後、少し元気な声で言った。
「はい。でも皆ソフィア様の選択に後悔はありませんでした。ただ、その後……恵みを管理する人がいなくなってから、皆それぞれ頑張ってきたのですが……見ての通りです」
「誰かが管理者になるって選択肢はなかったのか?それこそ、雲上にはルナさんと同じような神様だっているし、下界の人もいただろう?」
普通、上司がいなくなれば部下の一人が上司になって回る。そういうものだ。返答は会社……もっといえば会社のPCでありそうな答えが返ってきた。
「……ないんです。権限が」
「権限っていうと……管理者になる?」
「はい。私たちはあくまで管理者様の部下としての役目を果たします。逆に言えば、ソフィア様のように寿命は捨てるなど下にはいけるけれど上へと上がる事はできないのです。
それは下界の人々も同じです。もっと言えば、下界の人々はその成り方して『雲上に昇る権限』すらないのです。だからソフィア様は寿命を捨てて、下界へ降りました」
それだと少し違和感がある。何故、俺なら管理者になれるのか。それを察したのか、答えてくれた。
「ショージさんは別世界の人間……つまり、私たちの世界の人とは根本的な成りが違います。少しばかり異世界に来るときに得る物と捨てる物がありますが、そこはご容赦いただきたいです」
「得る物と……捨てる物?」
自宅に到着すると、彼女は頷いてエナジードリンクの缶を指さした。
「例えばそこにある物。これはショージさんが使っていたものです。ですが、ショージさんがこちらの世界に来ると同時にショージさんがこちらで生きていた痕跡……使っていた物、人々からの記憶、戸籍……ありとあらゆるものが無くなります」
ということはスマートフォンもダメなわけだ。ことんと置くと、ルナさんは狭い部屋でいきなり土下座した。
「ど、どうしたルナさん!?」
「その、生きていた痕跡なのでっ!一瞬!本当に一瞬……私たちの世界に到着するまで来ている服も無くなります!そこだけは本当にご容赦をっ!」
(ああ……つまり、渡るときは全裸ってことね……)
苦笑しながら頷くと、座って話しかける。
「いいよ。多分そっちの世界の衣服を着せてもらえるだろうし。それよりも、メリットの方が知りたいな。得る物……って何かな?」
その問いによくぞ聞いてくれました!と目を輝かせて言う。
「まず、管理者としての権限……恵みの分配、どこの地域にどのような天候や自然現象を起こすか、抑えられるかを指示したり、決定したりできます。
次に寿命と見た目です!寿命は私たちと同じく永遠を生きる存在、見た目はショージさん疲れてあらゆるところがボロボロですが、それも恵みを使えば元の年齢……いえ!それよりも若くしたり、健康的に老けさせるのも自由です!
後はさっき言った待遇ですね!ショージさんの通っている場所に比べれば段違いに楽だと思うのですが……いかがですか?」
ホワイトもホワイトだ。頷くとルナさんの手を取る。
「もう、今すぐ行こう。……こんな地球より、ルナさんの異世界に行きたい」
その言葉に本当に……本当に、純粋な泣き笑いを見せながらもう片方の手で俺の手を包み込んでくれた。
「ありがとうございます、ショージさん……!では行きましょう!
私たちの暮らす雲上の世界、『トロイメライ』へ!」
「ショージさんの人を探す傍ら、あるばいと?というものをしていて……そうしたらいつの間にかお金がありました」
納得の話である。彼女のこの美貌でチラシ配りの日雇いアルバイトがしたい、なんて言ったら引く手あまただろう。
それはそうとして、別世界のことについてファミレスを出て自分のアパートの部屋に帰るまでの道中に質問する。
「もともとはその管理者様っていうのがいたんだろ?どこにいったんだ?」
それを問いかけると、少し曇った顔で彼女はポツリとつぶやいた。
「……亡くなりました」
「えっ……?」
「前代の管理者様は、私たちと同じ雲上の神と同じ存在でした。けれど、下界に降りて、人と結ばれたいと願ったために管理者様……ソフィア様は永遠の寿命を捨てて人と同じ道のりをたどりました。
最初はただ私たちを管理するだけのソフィア様に、好きな男性が出来たのだと皆両手を上げて喜びました。けれどソフィア様が雲上に指示を飛ばす声が徐々に弱っていくのを感じて不安にも思っていました。
ある日、勤勉なソフィア様から挨拶も指示もポツリと来なくなりました。不安に思った私は下界に降りてソフィア様と結ばれた男の人の場所へ訪ねると、男の人がしわくちゃの顔で『ソフィアは亡くなった』……と」
「つまり、本来永遠に司るべきだった人が男の人と結ばれる代償に永遠を失った、と……?」
ルナさんの言い方からして、そのソフィアという女性は雲上の神々から慕われる存在であったらしい。そして、同時に下界にもよく偵察していたのだろう。
何となく、ルナさんが神様なのに人間らしいのに納得がいった。雲上の上司である管理者が一番人間らしかったからだ。
彼女はその後、少し元気な声で言った。
「はい。でも皆ソフィア様の選択に後悔はありませんでした。ただ、その後……恵みを管理する人がいなくなってから、皆それぞれ頑張ってきたのですが……見ての通りです」
「誰かが管理者になるって選択肢はなかったのか?それこそ、雲上にはルナさんと同じような神様だっているし、下界の人もいただろう?」
普通、上司がいなくなれば部下の一人が上司になって回る。そういうものだ。返答は会社……もっといえば会社のPCでありそうな答えが返ってきた。
「……ないんです。権限が」
「権限っていうと……管理者になる?」
「はい。私たちはあくまで管理者様の部下としての役目を果たします。逆に言えば、ソフィア様のように寿命は捨てるなど下にはいけるけれど上へと上がる事はできないのです。
それは下界の人々も同じです。もっと言えば、下界の人々はその成り方して『雲上に昇る権限』すらないのです。だからソフィア様は寿命を捨てて、下界へ降りました」
それだと少し違和感がある。何故、俺なら管理者になれるのか。それを察したのか、答えてくれた。
「ショージさんは別世界の人間……つまり、私たちの世界の人とは根本的な成りが違います。少しばかり異世界に来るときに得る物と捨てる物がありますが、そこはご容赦いただきたいです」
「得る物と……捨てる物?」
自宅に到着すると、彼女は頷いてエナジードリンクの缶を指さした。
「例えばそこにある物。これはショージさんが使っていたものです。ですが、ショージさんがこちらの世界に来ると同時にショージさんがこちらで生きていた痕跡……使っていた物、人々からの記憶、戸籍……ありとあらゆるものが無くなります」
ということはスマートフォンもダメなわけだ。ことんと置くと、ルナさんは狭い部屋でいきなり土下座した。
「ど、どうしたルナさん!?」
「その、生きていた痕跡なのでっ!一瞬!本当に一瞬……私たちの世界に到着するまで来ている服も無くなります!そこだけは本当にご容赦をっ!」
(ああ……つまり、渡るときは全裸ってことね……)
苦笑しながら頷くと、座って話しかける。
「いいよ。多分そっちの世界の衣服を着せてもらえるだろうし。それよりも、メリットの方が知りたいな。得る物……って何かな?」
その問いによくぞ聞いてくれました!と目を輝かせて言う。
「まず、管理者としての権限……恵みの分配、どこの地域にどのような天候や自然現象を起こすか、抑えられるかを指示したり、決定したりできます。
次に寿命と見た目です!寿命は私たちと同じく永遠を生きる存在、見た目はショージさん疲れてあらゆるところがボロボロですが、それも恵みを使えば元の年齢……いえ!それよりも若くしたり、健康的に老けさせるのも自由です!
後はさっき言った待遇ですね!ショージさんの通っている場所に比べれば段違いに楽だと思うのですが……いかがですか?」
ホワイトもホワイトだ。頷くとルナさんの手を取る。
「もう、今すぐ行こう。……こんな地球より、ルナさんの異世界に行きたい」
その言葉に本当に……本当に、純粋な泣き笑いを見せながらもう片方の手で俺の手を包み込んでくれた。
「ありがとうございます、ショージさん……!では行きましょう!
私たちの暮らす雲上の世界、『トロイメライ』へ!」
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