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第1章 雲上へ
雲上の世界
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「で、ルナさん。具体的にトロイメライに行くにはどうしたらいいんだ?早く行きたいから出来ることがあれば教えてほしい」
その言葉にルナさんは少し驚いたようにこっちを見る。
「あ、あの。私はルナで大丈夫です!……その、いいのですか?貴方をトロイメライに招くのはこの場ですぐに出来ます。
しかし、逆はもう不可能です。こちらの世界に招くことはできません。美味しいものを食べたり、家族や友人と会ったり、最後にやり残したことはないのですか……?」
それは信じられない、という目だった。実際彼女はソフィア様という人間らしい神様を見たからわかるのだろう。
この世界から離れること。即ち俺自身の存在をこの地球から文字通り跡形もなく消し去り、再び入る権利を失う。
だからこそ心配してくれているのだ。美味しいものは食べなくていいのか。最後に存在を忘れるであろう家族や友人と会わなくていいのか。気になっている漫画や小説を最後に見返さなくていいのか。
その問いに静かに頷く。
「俺は家族と喧嘩した身だ。確かに気にならないと言えばウソにはなるが、消えるのなら最後喧嘩するはめになるよりそのまま静かに消えたいさ。気になっていた漫画も、いつになったら更新されるか分からないしな。
それに、食べ物だってルナさ……ルナと食べたあの食事が一番美味しかったよ。お互い笑顔で食べて一緒に食べる。それでもう俺は満足だ。……だから、早くこの世界から連れて行ってくれ」
そうだ。俺はこの世界が本当に嫌いなんだ。こんな黒い檻に捕まってやる時間など、一秒たりともくれてやるものか。
その覚悟がルナに伝わったのか、彼女は頷いた。
「……わかりました!ではトロイメライに……私たちの世界へ、ご招待します!」
そう言って彼女が手で円を大きく正面の空間に描くとホワン、とワープゲートのようなものが出てくる。
「移動は一瞬です。ただ、辿り着くまでは絶対に私の手を離さないでください。……離してしまうと、最悪世界と世界の狭間を彷徨いますので」
「それは嫌だな。しっかりとルナの手を握ることにするよ」
そう言って彼女の白い手を握る。しっかりと握り返されると、一歩ずつ、ゆっくり円に向かって歩く。
(あばよ。クソみたいな牢獄)
俺は心の中で最後にそう思って、ルナと一緒にワープゲートに入った。
その瞬間。地球にて『赤坂 正司』という人間の存在は全て抹消された。
ふわり、とどこかに降り立つ感覚がする。しかし地面のような少し硬い感じはある、どこか不思議な感覚だ。
「到着です!……えっと、とりあえず羽織る物羽織る物……!」
彼女は俺の全裸を見て顔を真っ赤にしながらどこか小屋の中に入っていった。
その間、俺は周りを見渡す。すると、赤髪の少年がこちらに突進してきた。
「うおー!ルナが誰か連れ帰ってきた!」
「うおっ!?」
思いっきり突進されて慌てて抱っこする形で受け止めると、少年が小さい事に気づく。
ルナといい、彼といい、雲上には小さい子が多いのだろうか。そう思っていると遠くから声をかけられる。
「こーら、サン。あまりこの人に迷惑をかけてはいけませんよ。……すみません、自己紹介もせず」
「い、いえ。大丈夫です」
そこには大人のお姉さん、というべき金髪の落ち着いた雰囲気の女性がいた。
そのタイミングでルナが戻ってくる。
「あっ!サン!?もう……。ごめんなさいショージさん、いきなりでビックリしたでしょう?とりあえず、下界から献上された男性のお着物を持ってきました」
「あ、ありがとう。ルナ」
そういうとサンと呼ばれた男の子が離れて、ルナが丁寧に着物を着せてこようとする。
「いや、自分で着れるから……!」
「いいえ!あの世界の様式とトロイメライの着物の様式は違います!大人しく管理者様なのだから着せられてください!」
「せめて下着だけは自分で履かせてくれ!」
なんだか幼な妻のような圧力をかけられたが、確かにこれは日本でも昔着ていた着物に近い。
下着を着てからホールドアップすると、彼女がするするっと着物を着せる。
その間にサン、と呼ばれた赤髪の少年が大声でルナに対して問いかける。
「管理者様?……ってことは!やっと管理者様を見つけたのか!?ルナ!」
その問いに彼女が着せながら答える。
「はい。ここにいるショージさんこそ、新しいトロイメライの管理者様です」
その言葉を聞いて、どこからかぼーっとした緑髪の幼女が出てくる。
「おお~!やっとお仕事が出来るんだね!」
着物が着せられ終わると、改めて四人の雲上の神様が目の前に並ぶ。
「では私から自己紹介を。私の名前は『ビナス』。主に地上の豊穣、土、地の偏りに関することを司っています。よろしくお願いします。ショージ様」
「あ、ああ。よろしくお願いします。ビナスさん」
そういうと彼女は微笑みと共にお辞儀をする。俺もそれに合わせてお辞儀をする。
「じゃあ次は俺!俺の名前は『サン』!主に司るのはルナと共に天候の晴れや火山の活発化とか、火に関わる出来事だ!よろしくな、ショージさん!」
「よろしくな、サン君」
そういうとニカっと快活な顔で笑いかけられる。それに微笑みを返す。
「じゃあ次は私だね~!私の名前は『クリウス』っていうの!お仕事は突風とか、竜巻とか、風に関わることだよ!よろしくね、ショージお兄ちゃん!」
「よ、よろしく……お兄ちゃん?」
少し動揺しながら言うとルナが自己紹介と共に補足を入れてくれた。
「クリウスは自他共に認める幼い子なので容赦をしてあげてください。最後になりましたが、改めまして。私は『ルナ』。サンと共に天候の雨、主に水に関わる事と光を司っています。よろしくお願いします、ショージさん」
「ああ。よろしくな、ルナ」
そういうと、それと……とサンが切り出す。
「後はアイツがいるんだけど……流石に今はいないよなぁ」
「アイツ?」
そう俺が呟くと、ルナが言う。
「私たちが司っている事以外のイレギュラー……とどのつまり、今のような状態を解決する特別な役目を持った者がいます。口数は少ないですが、主様一筋なところがあるのできっとすぐに認めてもらえますよ。名を『ステュクス』と言います」
「ステュクスさん、か。わかった」
そうして面々を前にして、俺は自己紹介をする。
「俺は別世界からルナに連れられてやってきた赤坂 正司。ショージって呼んでくれて構わない。管理者……ってやつもなんだろうな、不思議と頭にやるべきことが入ってくるんだ。これから少しずつ頑張るから、よろしくな」
その言葉に四人の男女が膝をついて臣下の姿を取った。
「お、おいおい!?」
「私たちは貴方様が来るのをずっと、ずっとお待ちしておりました……」
「この力、ショージさんに預けるぜ!」
「私のこと、いっぱい使っていいからね!」
ビナス、サン、クリウスがそのままの姿で言う。そして、最後にルナが言った。
「私たちと共に、このトロイメライの世界をお救いください……新たなる管理者、ショージ様!」
その言葉にルナさんは少し驚いたようにこっちを見る。
「あ、あの。私はルナで大丈夫です!……その、いいのですか?貴方をトロイメライに招くのはこの場ですぐに出来ます。
しかし、逆はもう不可能です。こちらの世界に招くことはできません。美味しいものを食べたり、家族や友人と会ったり、最後にやり残したことはないのですか……?」
それは信じられない、という目だった。実際彼女はソフィア様という人間らしい神様を見たからわかるのだろう。
この世界から離れること。即ち俺自身の存在をこの地球から文字通り跡形もなく消し去り、再び入る権利を失う。
だからこそ心配してくれているのだ。美味しいものは食べなくていいのか。最後に存在を忘れるであろう家族や友人と会わなくていいのか。気になっている漫画や小説を最後に見返さなくていいのか。
その問いに静かに頷く。
「俺は家族と喧嘩した身だ。確かに気にならないと言えばウソにはなるが、消えるのなら最後喧嘩するはめになるよりそのまま静かに消えたいさ。気になっていた漫画も、いつになったら更新されるか分からないしな。
それに、食べ物だってルナさ……ルナと食べたあの食事が一番美味しかったよ。お互い笑顔で食べて一緒に食べる。それでもう俺は満足だ。……だから、早くこの世界から連れて行ってくれ」
そうだ。俺はこの世界が本当に嫌いなんだ。こんな黒い檻に捕まってやる時間など、一秒たりともくれてやるものか。
その覚悟がルナに伝わったのか、彼女は頷いた。
「……わかりました!ではトロイメライに……私たちの世界へ、ご招待します!」
そう言って彼女が手で円を大きく正面の空間に描くとホワン、とワープゲートのようなものが出てくる。
「移動は一瞬です。ただ、辿り着くまでは絶対に私の手を離さないでください。……離してしまうと、最悪世界と世界の狭間を彷徨いますので」
「それは嫌だな。しっかりとルナの手を握ることにするよ」
そう言って彼女の白い手を握る。しっかりと握り返されると、一歩ずつ、ゆっくり円に向かって歩く。
(あばよ。クソみたいな牢獄)
俺は心の中で最後にそう思って、ルナと一緒にワープゲートに入った。
その瞬間。地球にて『赤坂 正司』という人間の存在は全て抹消された。
ふわり、とどこかに降り立つ感覚がする。しかし地面のような少し硬い感じはある、どこか不思議な感覚だ。
「到着です!……えっと、とりあえず羽織る物羽織る物……!」
彼女は俺の全裸を見て顔を真っ赤にしながらどこか小屋の中に入っていった。
その間、俺は周りを見渡す。すると、赤髪の少年がこちらに突進してきた。
「うおー!ルナが誰か連れ帰ってきた!」
「うおっ!?」
思いっきり突進されて慌てて抱っこする形で受け止めると、少年が小さい事に気づく。
ルナといい、彼といい、雲上には小さい子が多いのだろうか。そう思っていると遠くから声をかけられる。
「こーら、サン。あまりこの人に迷惑をかけてはいけませんよ。……すみません、自己紹介もせず」
「い、いえ。大丈夫です」
そこには大人のお姉さん、というべき金髪の落ち着いた雰囲気の女性がいた。
そのタイミングでルナが戻ってくる。
「あっ!サン!?もう……。ごめんなさいショージさん、いきなりでビックリしたでしょう?とりあえず、下界から献上された男性のお着物を持ってきました」
「あ、ありがとう。ルナ」
そういうとサンと呼ばれた男の子が離れて、ルナが丁寧に着物を着せてこようとする。
「いや、自分で着れるから……!」
「いいえ!あの世界の様式とトロイメライの着物の様式は違います!大人しく管理者様なのだから着せられてください!」
「せめて下着だけは自分で履かせてくれ!」
なんだか幼な妻のような圧力をかけられたが、確かにこれは日本でも昔着ていた着物に近い。
下着を着てからホールドアップすると、彼女がするするっと着物を着せる。
その間にサン、と呼ばれた赤髪の少年が大声でルナに対して問いかける。
「管理者様?……ってことは!やっと管理者様を見つけたのか!?ルナ!」
その問いに彼女が着せながら答える。
「はい。ここにいるショージさんこそ、新しいトロイメライの管理者様です」
その言葉を聞いて、どこからかぼーっとした緑髪の幼女が出てくる。
「おお~!やっとお仕事が出来るんだね!」
着物が着せられ終わると、改めて四人の雲上の神様が目の前に並ぶ。
「では私から自己紹介を。私の名前は『ビナス』。主に地上の豊穣、土、地の偏りに関することを司っています。よろしくお願いします。ショージ様」
「あ、ああ。よろしくお願いします。ビナスさん」
そういうと彼女は微笑みと共にお辞儀をする。俺もそれに合わせてお辞儀をする。
「じゃあ次は俺!俺の名前は『サン』!主に司るのはルナと共に天候の晴れや火山の活発化とか、火に関わる出来事だ!よろしくな、ショージさん!」
「よろしくな、サン君」
そういうとニカっと快活な顔で笑いかけられる。それに微笑みを返す。
「じゃあ次は私だね~!私の名前は『クリウス』っていうの!お仕事は突風とか、竜巻とか、風に関わることだよ!よろしくね、ショージお兄ちゃん!」
「よ、よろしく……お兄ちゃん?」
少し動揺しながら言うとルナが自己紹介と共に補足を入れてくれた。
「クリウスは自他共に認める幼い子なので容赦をしてあげてください。最後になりましたが、改めまして。私は『ルナ』。サンと共に天候の雨、主に水に関わる事と光を司っています。よろしくお願いします、ショージさん」
「ああ。よろしくな、ルナ」
そういうと、それと……とサンが切り出す。
「後はアイツがいるんだけど……流石に今はいないよなぁ」
「アイツ?」
そう俺が呟くと、ルナが言う。
「私たちが司っている事以外のイレギュラー……とどのつまり、今のような状態を解決する特別な役目を持った者がいます。口数は少ないですが、主様一筋なところがあるのできっとすぐに認めてもらえますよ。名を『ステュクス』と言います」
「ステュクスさん、か。わかった」
そうして面々を前にして、俺は自己紹介をする。
「俺は別世界からルナに連れられてやってきた赤坂 正司。ショージって呼んでくれて構わない。管理者……ってやつもなんだろうな、不思議と頭にやるべきことが入ってくるんだ。これから少しずつ頑張るから、よろしくな」
その言葉に四人の男女が膝をついて臣下の姿を取った。
「お、おいおい!?」
「私たちは貴方様が来るのをずっと、ずっとお待ちしておりました……」
「この力、ショージさんに預けるぜ!」
「私のこと、いっぱい使っていいからね!」
ビナス、サン、クリウスがそのままの姿で言う。そして、最後にルナが言った。
「私たちと共に、このトロイメライの世界をお救いください……新たなる管理者、ショージ様!」
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