雲上のスローライフ 〜地球で疲れたら異世界で色々司る事になりました〜

猫狐

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第1章 雲上へ

恵み

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よくもまあ、こんな美男美女ばかり揃うものだと思いながら見渡すと、階段のような物の上にある『何か』に気づいた。
それは球体のようであり、水のようであり、しかし不安定な形をしている。ふわふわとしている。

「ルナ。あれが?」

指で示しながら聞くと、頷かれる。

「はい。あれが下界から送られてきた『恵み』になります」

「なるほどなあ」

呟いてその恵みの元へと向かう。雲を歩くのは何だか慣れないが、じきに慣れるだろう。
皆がトコトコと後ろを着いてくる。可愛らしい、と思いながら階段の前まで来ると、何かがある事に気づいた。

「なんだこれ……壁?」

目には見えない、けれど何かを感じる。それに対してビナスが静かに言う。

「それは管理者様のみ通れる『結界』でございます。
私達の力の均衡が崩れないように、と先代様が提案して決めたのです。
……その、お恥ずかしいのですが恵みは私たちにとっては『酒』のようなものでして。管理者様が一旦受け取って、適度に分配しないと暴走してしまうのです」

「ああ、だからこの世界の人は雲上に昇れないのか……」

何となく納得がいった。神様で暴走するならば下界の人々は昇った時点でその酔いに当てられてしまうだろう。

兎にも角にもだ、ルナが見せてくれたあの状態が本当ならば下界の様子は悲惨なことになっているだろう。

見守られながら鼓動する心臓を抑えながらその結界に触れる。
これで俺に権限が無ければ、おしまいだ。
そう思いながら勢いよく突っ込むと、するりと手がすり抜ける。どうやらルナの言う通り、世界が違うから管理者として認められるらしい。
階段を一歩ずつ上がると、遂に恵みにたどり着く。

『権限確認……管理者資格を確認しました。これより前管理者より、現管理資格者への管理者権限移行を行います』

(随分とシステマチックだな……)

しかし管理者資格とは何だろうか。それをルナに問いかけようとした時、ズキンと頭が痛む。
正確には情報量の圧力だ。管理者としての情報が一気に頭に流れ込んでくる。

『恵みのコントロール権限、及び分配の方法を刻印……完了。管理者としての基礎情報を刻印……完了。雲上の管理者としての最終権限の移行……完了。これより、前個体より現個体に恵みは移行します』

「うっ、ぐぁ……」

本当に、情報量が多い。まるで学ぶべき事を覚えるのではなく、言葉通り脳に刻まれているようで、焼き付くような痛みが襲ってくる。
頭を抑えて恵みの前でのたうち回る俺に、後ろから声が聞こえる。

「ショージさん!?」
「ショージ!?」
「ショージさん……?」
「ショージお兄ちゃん……?」

皆心配している。なるほど、前管理者ソフィアが結界を作った本当の理由が分かった。
これだけの情報量を書き込むスペースが恐らく、後ろの皆には無いのだ。それぞれが何かを司っているからこそ、全てを司るこれを起こしてしまえば最悪廃人と化してしまうだろう。
実際俺もかなりの事を刻まれた。それでも大丈夫なのは、この世界の事を全く知らない、真っ白なスペースがあったからだろう。

数分して落ち着くと、冷や汗を掻きながら振り向く。

「だ、大丈夫だ。……しかしソフィアさんは凄いな。『コレ』を管理していたのか……」

そう、全てが刻まれたから分かる。前管理者、ソフィアさんはありとあらゆる事を司っていた。
それこそ雲上の皆の体調、するべき事、下界の異変、その他諸々全てだ。

しかし今するべき事はそれではない。
手で空間を撫でると、様々な景色が見える。
それは捨てた世界でルナに見せて貰った下界の様子そのものだった。
時間が無い。管理の仕事の開幕はいつだってブラックだ。

「ルナ!現状数多の湖が渇水している!恵みを渡す!水を満たせ!」

そう言って俺の中に流れ込んだ恵みをルナに分け与える。

「はい!分かりました!」

そう言って彼女は消える。恐らく下界へと飛んだのだろう。

「次にビナス!サン!現状日照りが酷い地域で穀物が育たない問題が起こっている!その影響で土壌にも良くない影響が!ルナと同じように、分かる範囲の対処をせよ!」

「待ってたぜ!ありがとう!」
「ありがとうございます、新しき主様」

二人に分け与えると、二人も消えた。そして、最後にクリウスに言う。

「クリウス!土壌が汚染されていた影響で人、動物が住む区域の空気が汚染されている!少しずつでいい!浄化せよ!」

「わかったよ!おにーちゃん!」

そう言ってクリウスも消えた。ふぅ、とひと段落つくと恵みから声が聞こえる。

『管理者としての責務を果たしたことを確認しました。これより、恵み……正式名称、ソフィアの完全譲渡を移行します』

「何……?正式名称、ソフィア……?」

そうか、彼女が最初の管理者ならソフィアというのも納得だ。
けれど、何故彼女はソフィアと言う名前から『恵み』に名前を変えたのだろう。

そう考えていると俺の身体に何かが流れてくる。
疲れていた身体が活性化する。どこか、紋章が刻まれていく感覚がする。

『完全譲渡を完了しました。これより、雲上での自由使用が可能になります』

そう言って恵み……ソフィアは沈黙した。

ふと俺の服を見ると、さっきルナに着せられた服じゃない事に気がついた。

神々しいとでも言えば良いのか。汚れひとつない羽織に、袴。そして恵みを管理するための扇子が腰に刺さっていた。
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