異界の師、弟子の世界に転生する

猫狐

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三章 破滅のタルタロス

タルタロス侵攻 3

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「……さて、本当に攻めてきただけか?」
どこかの城の奥。仄暗い光すらない、暗闇の中で椅子に座った人は呟く。
「……案内屋。いるのだろう」
後ろを振り向かず、ただ淡々と名前を呼ぶ。するとそっと影が現れる。
「父上……」
「……父上、か。それは今はどうでもいい。お前は子供ではないがな。さて。お前はこの戦いをどう見る?」
影……ミヤコにいた案内屋は少し悩むと話す。
「ただの侵攻じゃないと思うヨ。自ら犠牲になりにきた酔狂な連中でもないと思う。何かウチに目的がアルと見た」
「……ふむ。この国……世界への目的か。ならば相手は何故引かない?ティネモシリを見ればわかるはずだ。この世界に資源など無いのだと」
うーん、と少し悩むと案内屋は少し黙った後に答えを出す。
「……奥に資源があると思っているとカ。他の世界にはこの世界は特異に見えるカラね。何か特別な物が眠っていると思っても不思議じゃないと思うヨ」
「……そうか。お前はこの世界をそう見るか」
くっくっと笑いながらその人は立ち上がる。そしてゆっくりと案内屋へと近づいてくる。
「うん。僕はそう思……」
「いいや?お前はそんな事など微塵も思っていない。私に隠し通せると思ったか?あれだけ『手引き』しておいて」
「……!」
その言葉に揺らがないようにしながら首を傾げる。
「……手引き?異界人を屠る役割のこの僕が?」
「ああ、そうだ。手引きだ。お前……この世界を、私を殺すために手引きしただろう。それなりに上手くやっていたようだが……隠し通せるものではあるまい。お前があの勢力に加担している事など知っておるよ」
「……」
「沈黙は肯定なり。さて……では敵には味方だと思っていたお前を、私は利用させてもらおう」
その時案内屋の陰った目が見開く。
「何をするつもりダ!父上!」
「何。元の役割に戻すだけだよ……?異界人を屠る。その役割だけを……考えていればいい……」
そう言って案内屋を頭からわしずかみにすると、魔力を込めた。
(まずイ……抵抗、しな、く……テハ……)
しかしその考えは叶わず。
案内屋が床にゆっくりと倒れた所で一人、高らかに笑う人がいた。

ティネモシリ郊外。戦い始めてから既に一時間も二時間も過ぎているように感じる。ただ、常に闇が覆っていて時間は分からない。
「ティネモシリに十分な兵が集まった模様。ミヤコの状況は?」
広域感知の魔術師から情報を得ると、ファレスは意識を入れ替えてフォレスに報告を頼む。
「……ミヤコ側。ほぼ全ての兵士がそちらへに向けて出陣した模様。恐らく戦えない者だけが残っているというのが見解」
その報告を聞くと、部隊長が高らかに宣言する。
「これよりミヤコの錯乱作戦に入る!……少女。これがこの戦の最後の仕事だ。ミヤコ側にこの事を連絡し、そして門を通ってイシュリア側に成功を報告するのだ」
その言葉を黙って聞くと、大きく頷いた。
意識をもう一度入れ替えるとミヤコに報告する。
「ティネモシリ側から報告。今を持ってミヤコの錯乱に作戦を移行。同時に私達を門により帰還させ、イシュリア側に伝達させよ、と」
「了解した。……よく戦った。後は残りの者に任せよ。この目で見届けた。君達はやはり『兵士』だ」
そう言うと門が展開される。そしてその中にそっと優しく背中を押されながら、フォレスはイシュリアへと帰還した。

イシュリア、玉座の間にて。緊張を保ったままの所に玉座の真横に二つの門が開く。
「……この門は!」
どの兵がそう言ったか。それは分からない。しかし兵は皆同じ気持ちだった。
別々の門から瓜二つの少女が現れると、丁寧に報告する。
「第一陣、ティネモシリの撹乱作戦は成功。続いて第二陣に移ります!」
「……ミヤコの錯乱。現在ティネモシリに多くの兵が集まっています。予定通り、ミヤコを引っ掻き回します」
おぉぉおおおッ!と兵が声を上げる。そこにイシュリア王が号令を発する。
「今を持って作戦を次の段階へと移行する!幼き兵士の戦いを無駄にするな!次の作戦を取れるようになるまで、タルタロスを引っ掻き回せッ!」
その言葉と共に部隊長が門を開ける。
「さあ行くぞ!次なる戦いへ!我らがイシュリアに勝利を!」
「「イシュリアに勝利を!」」
そう言って次々に飛び込む中、クロウ達がゆっくりと進む。
「……幼き兵士よ」
残っていた部隊長から声をかけられて、皆が視線を向ける。
「良いか。この戦いにおいて最も大事な事を再度伝えよう。『生きて帰ってくる』事だ。撹乱、敵の殲滅……確かに大事だ。しかし!イシュリア王が最も望むのはそなたら、そして我らの生還!生きて成果を報告するのだ!」
その言葉に皆が決意を固めた顔で頷く。
「……はいっ!」
「わかりました!」
「……生き残りましょう。何としてでも」
「死ぬ気はサラサラねぇ!」
「うんうん。ショウは離れないでね~」
「私達は団体行動ですよ。……さぁ、行きましょう」
そう言って飛び込む彼らを見て、部隊長も飛び込んで行った。
その後ファレスとフォレスが同時に膝を着いてイシュリア王を見る。
「……どうかしたのかしら?」
「作戦には関係ありませんが」
「……一つだけ、どうしてもご報告したいことが」
ふむ、と考えた後にイシュリア王は頷く。
「許可する。申してみよ」
「「有り難き幸せ」」
同時に頭を下げると、ファレスから話した。
「王妃ティネモシリの好物はティラミスだったそうです。民からも慕われていて、よく貢ぎ物……というよりも贈り物のような感じで貰っていたようです」
「……もしも、この作戦の成功した暁。彼らのことを偲ぶのなら……ティラミスを、光の中で食べるべきかと。一人の兵士がそう言っておりました」
その言葉にイシュリア王は目をぎゅっと瞑り、そしてゆっくりと頷いた。
「そうか。……それは、大事な事を聞いた。ありがとう。この作戦の終わりの暁……皆で、腕を奮ってティラミスを作り、光を眺めながら食べよう。よく報告してくれた」
そう言ったイシュリア王の目には一筋の涙が伝っていた。
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