運命の番じゃないあなたを愛している

9．届かない想い

「仕事に熱中するのは良いが、執務室に泊まり込んでばかりなのは感心しないな。もっと頻繁に帰ってきなさい」
「はぁ…。いくら世間的には『後見人』とはいえ、平民が公爵家に出入りするのはそっちの外聞が悪いだろ。今の居候状態だって、本当は良くねぇって」
「何度言えば分かってくれるんだ。居候なんかじゃない、お前は俺の家族だ。お前さえ望んでくれれば、いつだって公爵家に…」
「その話はもうしないって約束したじゃねぇかっ！」

ソニアは無理矢理話を終わらせると、そそくさと自分の部屋へと向かう。
クラウスは思いの届かないソニアに対して、その後ろ姿をじっと見つめるより他なかった。

翌日、エルランジュ邸にソニアを訪ねて、1人の客がやって来た。
レイモンドだった。

ソニアの部屋に通された彼は不機嫌な様子で口を開く。

「…まだここに住んでるんだな」
「当たり前だろ。オメガは寮に入るのも家を借りるのも嫌がられるんだからさ。ヒートのせいで問題が起きたら困るからって。別に俺だって好き好んで、ここに住んでる訳じゃねぇよ」
「…どうだかな」
「んだよ、その言い方…。それより何の要件だ？こないだのこと、謝りに来たのかよ？」
「いや、正式に婚約を解消してほしい」

思いがけない言葉にソニアは驚きを隠せない。

「…どういうつもりだ？お前が浮気しようと、俺が運命の番という事実に変わりはないだろうが…！」