とあみ

palo

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 船を乗り捨てた時は、虚しくもなりました。しかし、何かこう清々しさも感じました。都会の港は、潮の香りはすれど、血生臭さは薄れており、肺の奥まで鼻から息を吸い、爽快感で涙の滲むようでした。二度と戻るまいと、決心しました。
本土に渡った私は、行くあてなどありませんでしたが、とにかく歩きに歩いて海から離れました。山へ山へと。ここではなく此処ではなくと、繰り返しながら、つま先だけ見つめ、歩き続けました。とにかく山へとにかく上へ、そうして信州の北アルプスの方へたどり着いたのでした。
新緑の群青。北アルプスの山稜を眺め私は人に戻れたのだと感じました。もう二度とあの修羅に近づくまいと思いました。心が洗われるようでした。
夏であるのに清浄で、冷たく軽い信濃川のせせらぎは、あの濁った海と同じ水とはとても思えませんでした。川の水を指で遊びながら、一体自分はなぜにぼうっとしておったのかと、さっさと此処に来ればよかったのだと、愉快な気持ちになりました。
 それは、今も私のうちにあります。
 北アルプスに分け入った私は、ある丘陵に朽ちた木こり小屋を見つけ、そこにいつくことになりました。苔むしておりましたが、木の皮で雑巾掛けし、屋根の穴を塞ぎ、蔦を払い、新居を整える作業はそれは楽しいものでした。谷川から竹で水を引き、軒先に囲炉裏を作り。充実の日々。
 慣れないうちは鳥など取れず、ずいぶんとひもじい思いもしました。それでも蕨を集め、あけびを啜り、よもぎを噛みました。
 鮎はずいぶんと簡単に取れましたので、主食はあゆとなりました。透明で軽く艶やかな白色の身。晩酌の習慣が無い私も、初めての鮎を食った時は、日本酒などあればと思ったものです。
 
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