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神の力
2.
しおりを挟む「突然人の進む道を塞いで何の用なのよ…用があるならはっきり名乗ってからにしてもらえない?」
柚杷は女をキツく睨みつけ普段とは声のトーンを下げて言う。女は少し驚いた顔をして、大きく笑った。
「あははっ、名乗ってだなんて面白いこと言うのね。…忘れたの?私よ、田宮祥香よ。」
妖しい笑みと上から物を言う姿が特徴的な田宮祥香は柚杷と同じ小中学校に通う、全国的にも有名な金持ちの一人娘であった。そして今も昔も親の金に物を言わせ、柚杷と同じ研究者として結果を出している。
「…お嬢様がこんな所まできて、わざわざ何の用かしら。」
柚杷は祥香の事が嫌いだ。昔、仲良くしていたにも関わらず、いじめがあった際には簡単に離れていき、そしてそのいじめのリーダー格が祥香だったことが分かってからは名前を聞いただけでも殺してしまいたいほど腹立たしい。
そして金持ちならではなのだろうが金に物を言わせ研究結果を出す祥香はほんとに嫌いだ。気持ちが表情に出るほど柚杷は祥香を睨みつけ用件を求める。
「そんなに焦らないでよ、久しぶり会ったんだから仲良く世間話でもしましょ?」
睨みつけても尚、妖しく微笑み続ける祥香が気味悪くてしょうがない。世間話なんてするつもりは全くないが避けようがないので、なるべく顔を見ないように目線を下げ近くの木に寄りかかる。そんな柚杷を見て、祥香はクスッと笑う。
「やっと話を聞いてくれるのね、嬉しいわ。世間話って言ってもほとんど本題なんだけどね。」
いつまでも余裕のある言葉を言う祥香を横目で睨む。
「あら、怖い顔するわね。生意気な子…。まぁ、いいわ。あなた、私が研究者として結果を上げていることは同業者なら分かってるわよね?私、吸血鬼を滅するための研究をしているの。それでね、最近やっと見つけたのよ。吸血鬼を殺す方法をね。」
柚杷は最後の言葉に反応する。吸血鬼を殺す方法…今まで柚杷がある特殊な武器でなら攻撃し、傷を付け、消滅出来ると言ったことがあったがきっとそれ以上の結果なのだろう。
研究者として心は躍るが、なるべく平常心を保ち続けた。
「今までずっと人間は力がなくて吸血鬼にされるがままだったのよ。力がないってことは力を付ければ対応出来るでしょう?吸血鬼を超える力…人知を超える力が必要だったのよ。」
柚杷は興奮しながら話す祥香をみて、嫌な汗を流す。
「人知を超える力…ねぇ、それって一体何だと思う?…ふふっ、それはね、神の力よ。」
最後の言葉を聞いた瞬間、柚杷は目を見開いた。
神の力。それは人が絶対手を出してはいけないものであり、非科学的なものでもある。そしてこの女はそれを使って憎き相手、いや被検体を殺そうとしている。
「そんな非科学的なもの認めない。それにもし仮にあったとしても手は出してはいけないものだし、そんなものに軽々しく手を出せるあなたは異常者の極みね。」
パンっと静かな場所に乾いた音が響く。柚杷はバランスを崩し、その場に座り込む。祥香が柚杷を隠し持っていた拳銃で撃ったのだ。そして酷い剣幕で怒鳴り散らす。
「あんたに何が分かるっ!この世紀の実験がわからないなんて、その頭どうかしてるんじゃないのっ!?」
怒鳴り散らし、座り込んだ柚杷を力のある限り殴り、蹴り続けた。柚杷は猛攻撃に必死に耐える。
「はぁはぁ…。まぁ、でも私あなたのその才能買いたいのよ。ただの凡人のくせにたった一人で吸血鬼に対抗する為の策を研究して提案してきたんですもの。」
傷だらけで横たえた柚杷を見下ろしながら祥香は話を続ける。
「ここからが本題よ。北川柚杷。私の研究の被検体になりなさい。この私からお願いされてるのよ?名誉なことだと思いなさい。」
どこまでも自分勝手。柚杷は話を聞いていて何となく今の言葉が出るのは予想出来ていた。が、本当に言われるとは。咳込みながら座り直し、祥香を見上げる形で静かに少し微笑み、口を開く。
「誰があなたみたいな自分勝手な研究の材料になるもんか。世界はあなた中心で回ってる訳じゃないのよ。いい加減、基本的なことわかったらどうなの?お嬢様?」
どっと鈍い音をたてながら祥香は再び柚杷を蹴る。
「なんですって。生意気なこと言ってるんじゃないわよ。あなたは昔から私の家畜も同然なの、拒否権なんてあんたには存在しないのよっ!」
息を荒げながら言う祥香は、もう先程までの上品さはどこにもない。柚杷は祥香を見て哀れみを覚えたが口には出さなかった。
「もう一度言ってあげる。あんたには拒否権なんてものないのよ。未来永劫私の家畜。研究材料よ。…大人しくついてくれば良かったものを、結局力ずくになっちゃったじゃない。余計な仕事増やすんじゃないわよ。」
祥香は乱れた服や髪を直し、少し考えた顔をしてから最初の笑みで言った。
「あんたが被検体にならないって言うんだったら、他をあたるわ。例えばそうね…あなたのとこに今月入ったばかりの朝堀真一とか?」
柚杷は真一の名前に反応し、打たれたように身体を起こす。その瞬間を狙ったように祥香は顔を蹴る。
「ぁぐっ…っ」
蹴られた反動で口の中が切れたらしく、口の中で血の味がした。口の端から温かい何かが流れる感覚がわかる。少し目の前がふらつくが先程より強く祥香を睨む。殴られ蹴られ続けた結果、柚杷の体は傷だらけでボロボロであったがこれでも祥香は自分を睨む柚杷の事が許せず、さらに痛めつける。
「ほんと家畜のくせに生意気なやつね。…初めからこうすれば良かったわ。」
祥香は痛めつけるのを止め、小瓶を鞄から出し、中の液体をタオルに染み込ませる。そして倒れている柚杷の上に馬乗りし、タオルを口元に押し当てる。
「ん…っ」
すぐに柚杷に眠気が襲う。意識が遠のく中で祥香が呟く。
「今も昔も関係なんて変わらない。家畜は家畜なのよ。私の為に死になさい、北川柚杷。」
-----柚杷の意識はそこで切れた。
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