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神の力
6.
しおりを挟むどんなに無様な姿であろうとも必死に懇願した。その時だった。
『…やめて欲しいの?北川柚杷。』
もう聞きたくない声。祥華の声だ。
部屋にいつの間にか設置されていたスピーカーから醜い姿を嘲笑うように甘い囁きが聞こえる。
『ふふっ。やめて欲しいんでしょ?』
痛みに必死に耐えながら、祥華の声を聞く。
『…だったら、もっともっと懇願なさいっ!今の醜い姿を私に見せながら願いなさいよっ!』
笑いながら言う。
狂ってる。
だが今の柚杷にはそんなことを考える時間はない。
「…おね、が……。たすけ…て…。」
『…違うでしょ。人にものを頼む時はちゃんと頼みなさいな。』
虚ろな目をして顔を上げる。全身には耐え難い痛みがまだ走っているからか、荒い息も涙も止まらない。柚杷は力なく懇願する。
「ぉ、ねが…ぃ…しま…す。たすけて…くだ…さい…。」
頭を下げるというよりは項垂れるの表現が正しい。動ける範囲内で柚杷は頭を下げる。
すると再びドアが開き、金田が入ってくる。金田は片手で柚杷の腕を掴み、無理矢理立たせる。もう片方の手は頭を掴み俯かせ、首を出させる。
柚杷を抑えた金田の後ろから祥華が手に注射器を持って姿を現す。それを柚杷は虚ろとしか確認出来なかったが祥華は手に持っていた注射器を露わになった柚杷の首に刺し、中の薬品を注射していく。打たれた直後、柚杷は安定したかに見えた。たしかに息は苦しそうだが整い始めていたし、痛みは消えていた。
だが、それは一瞬だけだった。
「っ!?……ぁぁぁああっ!!」
再び柚杷は苦しみ出す。
先ほどより激しい痛みが柚杷を襲う。
その様子を見ていた祥華が怪しく微笑み、見下ろす。そして嘲笑うように言い捨てた。
「バカね。そう簡単に聞き入れて助けるわけないじゃない。この世のどこに家畜を助ける主人がいるのよ。」
言い捨てて高笑う。
柚杷の悲痛な声と祥華の高く笑う声が小さい研究部屋に響きわたる。
柚杷は唇を噛み締め、痛みに耐える。だがそんなではやはり耐えられるわけなく、目からたくさんの涙がこぼれ落ちる。視界がぼやけながらもしっかり祥華を睨みつけ、怨む。
今回の巻き込まれた人体実験に対して、子供の頃に裏切ったことに対して、そして、人と見ずに嘲笑うこと対して。
関係ある、ないに限らず、全てが憎くなってしょうがなかった。
ただただ憎い全てを形がなくなるまで壊してしまいたくなる。
ただただ憎い人間を殺したくなる。
そんな感情が柚杷の感情をすぐに支配していった。痛みより怨みが勝ち、いつしか柚杷は悲痛な声をあげるのをやめていて、ただ深く濁った、怨みの念が詰まった目で何もかもを、全てを睨みつける。
そんな柚杷の姿に気付いて気に入らないのか、祥華が再び醜い顔で口を開き打ったり蹴ったりしてくるが、そんなのはもう今の柚杷には聞こえないし痛みも感じない。
柚杷が完全に抱いてはいけない感情に支配されきった時、頭の中に突然声が響く。
ひどく甘くて、だがそれでいて恐ろしい声。そんな声が柚杷に選択を迫る。
「…すべてが恨めしいか…人間。
全てを壊してしまいたいほど恨めしいか…?
ふっ…
全てが憎いなら、壊してしまいたいなら…
妾がお主に力をやろう。
さぁ…妾の手を取れ、人間。
妾の手を取れば、お主の恨む全てを壊してしまえるぞ?
まぁ…妾が力をやる代償に、お主は人間ではなくなる。奴らの言う、神と同等の存在になり得る。
だがそれでもよいと思えてしまうのだろう。
人間はいつでも愚かだな。
愚か過ぎて愛おしいわ…。
妾もそんなお主を気に入ったからあまり言えんがの。
妾の手を取れ。
お主の望み、叶えてやろうぞ。
さぁ、柚杷…!!」
恐ろしくて甘い声の人物…いや、限りなく白に近い白銀のきつねのような獣耳と九つの尾を付け、長く伸びた髪を後ろで1つにまとめ、白い肌に美しく映える淡い桃色の着物を身にまとった人。狐目だが妖艶な顔で柚杷に問いかけた。
目の前にいる人が人間ではない。
確信はないが柚杷は本能的にそう思った。
だがそんな考えも束の間、再び抱いてはいけない感情に支配され、差し出された手に手が伸びる。
「…あなたが人間じゃないとかどうでもいい。
力が欲しい。
憎いものを壊せる力、あいつらの大切なものまで全てを壊せる力。
…あと大事なものを守る力。
私は人間を捨ててでも、ここを出て大事な人たちの所へ帰りたい。
だから、私は……
ひとを捨てる。」
柚杷は差し出された白い手を、何かを恐れるようにでも何かを求めるように手に取った。
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壊れた針が動き出す。
カチコチカチコチ…。
鈍い音が鳴り響く。
足取りが重かったのにだんだん軽くなっていく。
さぁさぁ、君はこれからどんな破滅の物語を紡いでいくのかな?
応援ありがとうございます!
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