デバフ婆ちゃんのお通りです

古里唯一

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量産型ババア、鍋で覚醒

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「よし、やるぞフィルギャ!
まずはレジンアクセ量産化だ!」

「おー!なんかやる気がすごいねアキラ!
僕も隣でレジンアクセ作るぞー!」

 一先ず、私とフィルギャはポムニット家に戻ってきた。
商業ギルドに卸すレジンアクセを作るためだ。さすがに商業ギルドで大っぴらに合成鍋を出して、完成品はこちら!な料理番組みたいなことはできないからだ。
あの場にはユーリスとタルディちゃんしかいなかったが、壁の耳あり障子にメアリー(目有り)と言うからな。用心に越したことはない。

 ユーリスから受け取った剣コイン78枚。2枚は関所の通行料を支払ってもらった分として返却済み。
気にしなくて良いと言われたが、金の貸し借りだけはダメだ。これは私の信条だ。祖父母に口酸っぱくして言われてきたから耳にタコだよ。そして口癖になりつつある。

「では、俺はこれで失礼します
商業ギルドへ別のアクセサリーが卸される日を楽しみにしてます」

 そう言って私の手を取り、甲に口付けるフリをし去っていくユーリス。
前にも言ったかもしれんが、異世界の冒険者ってみんなああなのか?
絶対全力でお婆ちゃん殺しにかかってきてるよね?
 タルディちゃんはタルディちゃんで”はわわ”なセリフが吹き出しもなく飛び出してそうなくらい、頬を赤らめて去っていくユーリスの背中を見つめていたよ。仕舞いには――

「ユーリスさんってすごいカッコいいですね!」

 うん。お決まりのセリフを言ってたよ。
みんな好きだね、王子様キャラ。

「私も一度借り家に戻るよ
レジンアクセが完成したらまた持ってくるね」

「はい!お待ちしてまーす!」

 そうして冒頭に戻るわけだ。

「さて、まずはデザインからだな」

「頑張れアキラー!」

「フィルギャもレジン液に気をつけて作業するんだぞ」

 まず取り掛かるのはネックレスだ。
レジンアクセ自体女性向けな商品だが、きっと購入するのは冒険者…男性が圧倒的に多くなる気がする。
街中を歩いていても武器を持ち、軽装や重装で身を包んでいるのは男性が多かった。
一人二人女性の冒険者も見かけたが、圧倒的に冒険者は男の職業みたいになってる感がある。

 やはりここは可愛い系1個、シンプル系2個を作るとしよう。
女性向け男性向けなんて書いてあっても、趣味や好みは千差万別。可愛いもの好きな男性がいたり、カッコいいものが好きな女性がいたり様々だ。ジェンダー平等。好きなものを好きと言って何が悪いってな。

「シンプル系ならペンデュラムタイプ…パワーストーンがついたのも良いな
可愛い系なら…定番な花やハート系かな……うーん」

「悩むくらいなら全部作っちゃえば?」

「……それな」

 ヘイスが作ったチェーンや紐を通せるカンもついているミール皿!
これを使用させてもらう。いくぜ合成鍋!量産化計画まったなしだ!



「わあ…なんかすごいね」

 完成したミール皿を使ったネックレスは私が作るものよりマジで綺麗な仕上がりだった。
1個目は空の色のデザインペーパーが底に接着され、小さな鳥の羽根のパーツが2つ入ったもの。
2個目はピンクの乱切りホロが敷き詰められただけの本当にシンプルなデザインのもの。
3個目は冬の夜空を思わせるデザインペーパーが底に接着され、花と蝶のパーツが入ったもの。

 イメージしたのは自分なのに、イメージ通りのものを自分で作れる自信は今のところ持ち合わせていない…。
イメージは私がするから、作製は合成鍋がするという役割分担をしても良いのではなかろうか?
と、狡賢いことを考えてしまうくらい、合成鍋は万能鍋だった。

「これ、ぶっちゃけレジンアクセじゃなくても良くね?」

「…それじゃドリュアスちゃんの信者増えないよ?
木属性の魅力をアピールするための
レジンアクセなんでしょ?」

「あ、そうだった」

 ドリュアスちゃんのことすっかり忘れてた。
すっかり忘れてたついでに女神聖霊王様へのお供えも忘れてたわ。

「フィルギャフィルギャ!
女神聖霊王…アフロディーテ様へのお供えって
ドリュアスちゃんの像が放置されてるあそこで良いの?」

「うん。放置されてるあそこでも良いし
なんなら呼びつけちゃっても良いんじゃない…」

 え……ちょっとフィルギャさん?
お前最初女神精霊王様出てきた時のテンションと今にすごい落差がありません?
ダ女神過ぎて尊敬の念も感じられなくなったか?
もしくは私に影響されて性格破綻したか?

「……アキラ!
パーツはここかな?それともこっちかな?」

「…集中してただけかーい」

 まあ、フィルギャは小さな手で頑張って作ってるんだもんな。
女神精霊王様へのお供えは後日ということで、カバンの中に入れておこう。
私は私で次の商品作りだ!ブローチはシンプルに花の形をしたものと十字架、あと剣。
イヤリングが耳環タイプしかないということは耳に穴を空けている人はそういないはず…であればクリップ式のイヤリングパーツを使ったものにしよう。
耳たぶにパチンと挟むだけでお手軽。伴侶と片耳ずつ付けても良し。一人で付けても良し。
形は星と花と…魔核ジュエルをつけたのにするか。メルにたくさん貰った魔核ジュエルにも付与しまくって、レベリングしなきゃいけないしね。

「……待てよ?」

 1つの魔核ジュエルに付与できる能力は1つ。
一点狙いピンポイントCで付与できる能力も1つ。
魔核ジュエル一点狙いピンポイントC=能力2つ。
ヘイスが作ったミール皿に一点狙いピンポイントCで能力が付けば…能力2つ付いた魔核ジュエルを能力1つ付いたミール皿に埋め込めば…3つの能力が付いたレジンアクセが爆誕するのでは?

 待て待て!それ以前にレジンの中に封入するパーツに一点狙いピンポイントCで能力付ければ…パーツ入れた分だけ能力付与も可能では!?
1つの魔核ジュエル一点狙いピンポイントCのスキル2度使用はできないが、別のものと組み合わせて1つの装身具としてまとめれば十分いけるはずだ!

「やば……今まで気付かなかったとかババアかよ私は」

 うん…見た目ババアだったわ。

「と、とりあえず…ブローチとイヤリングをまずは作るか
商業ギルドに卸すものは普通のものにしとかないとね…」

 やばい…顔がニヤけてる。今すぐにでも魔核ジュエルに付与しまくりたい。
ヘイスが作ったミール皿に一点狙いピンポイントC発動させたい…!
……ひ、一つくらいなら試してみても良い、よね?

「………フィルギャ!」

「いきなりなに!?」

 硬化を始めたタイミングでフィルギャに声をかけてみれば、思いのほか声量が大きかったようで驚かせたようだ。
すまん。だが今はそれどころではない!

「これ……なにか能力ついてる?」

「ヘイスさんが作ったミール皿?
…え、付与効果つけられたの?」

「で!で!? なにか能力ついてるの?!」

「敏捷性Fがついてるよ」

「うおっしゃあああ!!」

 年甲斐もなく大声とオーバーリアクションを取ってしまい、ぎっくり腰を起こしかけたが私は元気です。
チートだと思ったら本当にチートなスキルだったことに気付かなかった私の馬鹿野郎!
しかしこれは大発見だ。

「ふっ…ふひっ…くくくっ…」

「ア、アキラ…大丈夫?
ぎっくり腰やっちゃった…?」

 待っていろよ褐色皇子……何重にもまとめた弱体能力デバフ増し増し呪いのアクセサリーで、地獄に叩き落してやるからな。

 あ。でもこれ使うのは褐色皇子への呪いだけな。あとは私のボケ防止のためにしか使わんさ。市場混乱させる良くない。



時は遡り《ディブル》9区画
冒険者の宿屋《ブルームス》

 しんと静まり返った宿の一室。木のテーブルへカチリと音を立てて置かれたレジンアクセサリーが、光を反射し小さく煌めいた。
 テーブルを囲むように座ったのは、ユーリス、ロットン、グラント、ギリィの4人。先ほどユーリスが商業ギルドであきらから受け取ったばかりのそれを前に、誰もがそれぞれの視線で見つめていた。

「……あの婆ちゃん
本当に、“知り合いに付与してもらった”って言ったの?」

 最初に口を開いたのは、ロットンだった。
いつもの軽薄な笑みは消えている。

「ああ…即答だった」

 ユーリスの答えは短く、感情の起伏も乏しい。ただ、それが逆にこの場にいる全員に、「嘘だと思っている」と伝えるには十分だった。

「あの婆ちゃんに連れがいるとは思わなかったぜ
田舎道一人で歩いてたしな」

 グラントは自分の目の前に置かれたレジンアクセサリーを手にし、じっくり封入されているパーツを見ながらそう言った。

「そもそも付与魔法士の知り合いなんて
どういう経緯で知り合うことができるのか…」

 ギリィが苦笑混じりに呟きながら、レジンアクセサリーを手にしていた。
それに同調するようにロットンもまた自身の前に置かれたそれを手にした。

「だよなー。“付与魔法士です!仲良くしようね~”
なんていう奴いねぇし……完ぺき婆ちゃんが付与魔法士じゃんね」

 付与魔法士。希少職。戦闘職よりは目立たず、かといって生産職ほどの自由もない。
 どこかに所属すれば搾取される運命。
加えて……“悪い噂”が多すぎる。

「……昔聞いたことがある」

 グラントが小さく呟く。

「貴族の屋敷で、“付与の腕を買われた”少女が……
連日、薬を飲まされながらも不眠不休で
付与を繰り返させられていたって話だ」

 誰もが言葉を失う。この世界で名を上げる者たちがいる中で、希少職とされる者たちが陽の目を浴びることは無に等しい。
ただ英雄のために尽力せよ。
ただひたすらに最高のものを用意せよ。
使ってやってるのだから感謝せよ。
お前たちの価値は我々が上げているのだと。

「……アキラさんには、そうなってほしくないな」

 ぽつりと漏らしたギリィの言葉に、誰も反論しなかった。

「そうならないための嘘だろ
…まあ、誤魔化し方がダメだけど」

「ああ……危なくてほっとけない人だな」

 小さく、しかし確かに呟いたのはユーリスだった。
 その手の中で、青と白のレイヤーに小さな剣をクロスさせたレジンアクセサリーが、光を反射して僅かに揺れた。
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