[完結]勇者の旅の裏側で

八月森

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第1章

12節 初陣

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 私の相手は二人。
 向かって右に、全身に鎧を着込み斧槍ハルバードを持つ戦士。左には、短剣を握った盗賊風の男。
 どちらもニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ている。彼らをここから先に通さないのが私の役目だ。

「なんだ? 俺らの相手は神官の姉ちゃんか?」

「〈黒腕〉に泣きつかなくて大丈夫か、お嬢ちゃん」

 予想はしていたが、相当に侮られている。が、私はそれらをあえて聞き流し、彼らに問いかけた。

「アレニエさんも言っていましたが、ここで引く気はありませんか?」

「ないな」

「〈黒腕〉を討ち取れるうえに、お前さんみたいな上玉までおまけについてくるんだ。見逃すわけないだろ」

「……そうですか」

 やはり、聞く耳は持たないみたいだ。
 改めて覚悟を決め、私は両の手を組み、祈りを捧げる。

「《……どうか私に与えてください、アスタリアよ。天則を通して星の導きを……諸悪を打倒する正心を。攻の章、第――》」

「させるかよ!」

 法術を唱え始めた私に、そうはさせじと男たちが向かってくる。

 詠唱を始めれば、相手が阻止しようとしてくるのは予想出来ていた。
 私を非力な神官だと侮っているのも、彼らの態度から容易に察せられる。
 だから、隙をつくなら今しかない。

 即座に詠唱を破棄し、構えを取る。
 右拳を腰の高さに、左手を顔の前に掲げ、両足を軽く前後に開き、腰を落とす。
 掴みかかってくる戦士風の男(よほど油断しているのか武器を使おうともしていない)の手をかい潜り、軸足を捻り生み出した『気』を拳まで伝え、男の顔面に叩きつける!


  ――――


 力で劣る人間が魔物に対抗する方法は、主に三つ。
 一つは、術式。法術や魔術などの、魔力を用いるもの。
 一つは、技術。創意工夫を凝らした、武器や道具の数々。

 そして最後の一つが、武術。身体を動かす際に発生する力、『気』を行使し、戦う技法。
 その原型は、戦の勝利を司る神、〈戦神〉スリアンヴォスから、彼に仕える神官の一人に直接伝えられたとされる(彼は後に〈戦神の剣〉と呼ばれ、修得した技を人々に伝えることに残りの生涯を費やしたという)。

 人々は伝えられた技の鍛錬と研究に励み、その過程で新たな知見を得る。
 本来は多くが体の外に逃げ無駄になってしまう、身体を動かす際に発生する力。それを逃がさず集め、一気に解放すれば、瞬間的により大きな力に変えることができる――と。

 いつしかその技術、あるいはそれによって運用される力自体のことを、『気』と呼ぶようになる。
 神が授けた武の基礎。人が見出した『気』の技術。二つが組み合わさり、武術という、人類独自の武器が生み出された。

 修めた各人の研鑽けんさん、後の世代への伝承によって、さらに発展し、派生したそれらは、中には剣で鋼鉄を斬る技や、他者の『気』を操る術まで生まれたとされている。……未熟な私は、そんな境地にはとても届いていないが。
 それでもこの技術は、男女の筋力差を、現状の実力差を、一時的にでも埋めるのに十分な力を発揮してくれる!


  ――――


「がっ!?」

 当たった――が、浅い。わずかにだが、咄嗟とっさに反応して打点をずらされたようだ。
 男は仰け反り、たたらを踏む。鼻からは赤い飛沫が噴き出るが、意識を刈り取るには至らない。……できれば、ここで一人減らしておきたかったのだけど。

「このガキっ!」

 獲物が噛みついたことに逆上し、盗賊風の男が手にした短剣を突き出してくる。
 初撃を当てたほうも、しばらくすれば態勢を立て直し、反撃してくるはずだ。
 私は左手を突き出し、心中で祈りを――同時に魔力を――捧げ、最も使い慣れた法術を唱える。

「《守の章、第一節。護りの盾……プロテクション!》」

 その名を唱えると共に、掲げた手の先に光で編まれた盾が顕現けんげんする。

 バチィっ!

 男が前進しながら繰り出した短剣は弾かれたような音を響かせながら、光の盾にその切っ先を阻まれた。
 即座に、左手を後方に払う。その手を起点に生み出された盾も同期し、同じ動きを見せる。

 受け止めた短剣を、それを握ったままの男の右手を受け流し、身体を開かせ懐に潜り込み……
 無防備なその体に、すかさず盾を解除した両の拳を押し当て、体重を乗せ、思い切り踏み込む!

「ぐぼぁっ……!?」

 ダンっ!という強く地面を踏みしめる音と共に、目の前の襲撃者が吹き飛んでいく。
 苦悶の声を上げ、手にした短剣を放り出した男は、仰向けに倒れ、そのまま動かなくなった。
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