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第1章
26節 おはよう
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まぶた越しに感じる光で目を覚ます。
薄っすらと目を開けると、辺りはすでに朝の日差しに照らされていた。
屋内と違い、直接浴びる陽の光は眼球を刺すほどに眩しい。せっかく開いたそれを、反射的に細めてしまう。
焚き火は昨夜から変わらず燃え続けている。
しかし若干の肌寒さを感じた私は、寝ぼけ眼でもぞもぞとマントを手繰り寄せ、自分の体に巻き付けた。
動いてわずかに意識が覚醒したのか、寒さと共に、体の各所に痛みを覚える。
おそらく、固い地面で寝るという初体験によるものだろう。ちゃんとした寝具での睡眠が如何にありがたいか、身に染みて実感する。
が、今はそうした実感より、眠気のほうが勝っていた。
細く開いていた目を再び閉じ、アレニエさんとの交代の時間までもう少し眠ろうとして……
「(…………!?)」
そんな時間はとうに過ぎていることを、ここでようやく認識する。
「えっ、あれっ、交代は……!?」
……ひょっとして、時間になっても全く気付かず、そのまま眠り続けてしまったのだろうか。……サーっと、顔から血の気が引いていく。
眠気と痛みを訴える体を無理矢理ねじ伏せ、気合いで体を起こす。すぐに隣の寝床を確認するが……誰もいない。
一瞬、不吉な想像が頭を過るが、周囲が荒らされた形跡は見受けられないし、彼女の荷物も、脱いだ鎧も、昨夜の位置から動いていなかった。
少なくともなにかに襲われたり、私一人を置いて出発したりしたのではなさそうだ。探せばすぐに見つけられるのではないか――
ビシュンっ
「(……?)」
不意に、耳に異音が届いた。
音はあまり大きくない。そう離れていない場所から、鋭くなにかを振るうような音が、かすかに、断続的に聞こえてくる。
ビシュっ
方向に見当をつけ、木立の間を抜けていく。
音の発生源へ足を進めると、徐々に小川のせせらぎも近づいてくる。そして、探していた彼女の姿も。
ピュン
水面に反射された陽光が、剣を逆手に握るアレニエさんの肢体を照らし出す。
荷物の場所に鎧も置いたままなのは先刻確認した。当然、今は鎧の下に着ていたものしか纏っていない。左篭手だけは変わらず外していないが。
ヒュっ
いつから続けていたのか。まだ肌寒い早朝だというのに、その身からは少なくない汗が滴り落ちていた。身体の動きに撥ね飛ばされた雫が、水面と同様に光を映す。
しばしその幻想的にすら見える光景に目を奪われていたが、彼女の剣が空を切り裂く音で我に返る。
軽く腰を落としただけの自然体に近い構えから、袈裟懸けに振り下ろすシンプルな剣閃。
動きを確認するためか、彼女は時折自身の手足に目を向けながら、再び同じ動作を繰り返し――
「――ん。……あぁ、リュイスちゃん」
ふと、なにかに気づいたように動きを止めた彼女は、次にはあっさりと私の姿を見つけ、こちらに姿勢を正す。
物音を立てたつもりはないのに、なにをきっかけに私の接近に気づいたのだろう。……動物並みに勘の鋭い人だ。
「おはよー。昨日はちゃんと眠れた?」
「あ、おはようございます…………じゃなくてっ!」
反射的に挨拶を返してから、すぐにそれどころじゃないと思い出す。
「え? あぁ、リュイスちゃん一人置いて寝床離れちゃったこと? ごめんね。一応周りに危ないのいないかは確認したし、寄ってこないように火もつけっぱなしにしたんだけど、こんなとこで置き去りはまずかったよね」
「いやそっちでもなく!」
なんで謝るつもりが謝られてるんだろう。
「すみません! 途中で交代するはずだったのに、私……!」
罪悪感からすぐさま力いっぱい頭を下げ、謝ったのだけど……
「なにが?」
「なに、って……」
彼女はただ柔らかく微笑むだけで、こちらを責める気配は全くなかった。
……もしかして、起こさなかったのはわざと? 旅慣れない私を気遣って? 事実、朝までぐっすり眠ってしまったけれど。
それに気づいたから、というわけでもないが、私は別のことを口にしていた。
「……ひょっとして、夜通し起きていたんですか?」
「や、仮眠は取ったから、だいじょぶだよ」
それは果たして大丈夫なのでしょうか。
途端に心配になり、彼女の様子を窺うが……少なくとも外見からは、体の不調はなさそうに見える。
もっとも、彼女が本気でそれを隠そうとしたなら、私には見抜けないのだろうが。
「そのうえ、朝から稽古を……?」
「これは、まあ、やれる時にやる癖がついてて。とーさんやリュイスちゃんのお祈りと同じ、習慣みたいなもの。わたしもとーさんも才能とかあるほうじゃなかったから、こういうの積み重ねるしかなくて」
あれだけ実力があるのに才能がない、って……
いや。今現在の彼女の実力はつまり、それを補って余りあるほど、修練や実戦を重ねてきたという証、なのかもしれない。ジャイールさんの疑問の答えは、これだろうか――
「リュイスちゃんが起きたんなら、もう片づけて出発しよっか。今日中に次の街まで着きたいし。ん、しょっと」
私が考え込んでいる間に、彼女は滑らかに剣を鞘に納め、地面に置き、次いで着ていた服を脱ぎ始め……って――
「なんで脱いでるんですか!?」
「汗だけ流そうと思って」
話しながらも彼女は脱ぐ手を止めず、左篭手を残して全裸になってしまう。やはりそれだけは外さないらしい。
「ここ屋外で、私も目の前にいるんですけど!」
「え、なにか問題あった?」
「あるでしょう!?」
ありますよね? ……それとも私が間違ってるんだろうか。
「なにもいないのはさっき確認したし、こんなとこで覗く人もいないでしょ。少しくらいなら平気平気」
……私は?
疑問に思っている間に彼女は、器に汲んだ川の水を頭から豪快に被ってしまう。首や手足を振って水気を払い、テキパキと布で体を拭いていく。
……まさか、これだけで済ませてもう出発するつもりなのだろうか、この人は。
「あの……せめて、向こうで少し暖まってからにしませんか?」
「そう? じゃあ、そうしようかな」
ただでさえ見張りを任せきりにしてしまったのに、これで風邪でも引かれたらなんかもうよく分からない申し訳なさで私のほうがやられてしまう。あれ? 裸は私のせいだったろうか?
若干混乱しながらも、私はアレニエさんと共に、火を焚いたままの野営地に戻ることにした。
薄っすらと目を開けると、辺りはすでに朝の日差しに照らされていた。
屋内と違い、直接浴びる陽の光は眼球を刺すほどに眩しい。せっかく開いたそれを、反射的に細めてしまう。
焚き火は昨夜から変わらず燃え続けている。
しかし若干の肌寒さを感じた私は、寝ぼけ眼でもぞもぞとマントを手繰り寄せ、自分の体に巻き付けた。
動いてわずかに意識が覚醒したのか、寒さと共に、体の各所に痛みを覚える。
おそらく、固い地面で寝るという初体験によるものだろう。ちゃんとした寝具での睡眠が如何にありがたいか、身に染みて実感する。
が、今はそうした実感より、眠気のほうが勝っていた。
細く開いていた目を再び閉じ、アレニエさんとの交代の時間までもう少し眠ろうとして……
「(…………!?)」
そんな時間はとうに過ぎていることを、ここでようやく認識する。
「えっ、あれっ、交代は……!?」
……ひょっとして、時間になっても全く気付かず、そのまま眠り続けてしまったのだろうか。……サーっと、顔から血の気が引いていく。
眠気と痛みを訴える体を無理矢理ねじ伏せ、気合いで体を起こす。すぐに隣の寝床を確認するが……誰もいない。
一瞬、不吉な想像が頭を過るが、周囲が荒らされた形跡は見受けられないし、彼女の荷物も、脱いだ鎧も、昨夜の位置から動いていなかった。
少なくともなにかに襲われたり、私一人を置いて出発したりしたのではなさそうだ。探せばすぐに見つけられるのではないか――
ビシュンっ
「(……?)」
不意に、耳に異音が届いた。
音はあまり大きくない。そう離れていない場所から、鋭くなにかを振るうような音が、かすかに、断続的に聞こえてくる。
ビシュっ
方向に見当をつけ、木立の間を抜けていく。
音の発生源へ足を進めると、徐々に小川のせせらぎも近づいてくる。そして、探していた彼女の姿も。
ピュン
水面に反射された陽光が、剣を逆手に握るアレニエさんの肢体を照らし出す。
荷物の場所に鎧も置いたままなのは先刻確認した。当然、今は鎧の下に着ていたものしか纏っていない。左篭手だけは変わらず外していないが。
ヒュっ
いつから続けていたのか。まだ肌寒い早朝だというのに、その身からは少なくない汗が滴り落ちていた。身体の動きに撥ね飛ばされた雫が、水面と同様に光を映す。
しばしその幻想的にすら見える光景に目を奪われていたが、彼女の剣が空を切り裂く音で我に返る。
軽く腰を落としただけの自然体に近い構えから、袈裟懸けに振り下ろすシンプルな剣閃。
動きを確認するためか、彼女は時折自身の手足に目を向けながら、再び同じ動作を繰り返し――
「――ん。……あぁ、リュイスちゃん」
ふと、なにかに気づいたように動きを止めた彼女は、次にはあっさりと私の姿を見つけ、こちらに姿勢を正す。
物音を立てたつもりはないのに、なにをきっかけに私の接近に気づいたのだろう。……動物並みに勘の鋭い人だ。
「おはよー。昨日はちゃんと眠れた?」
「あ、おはようございます…………じゃなくてっ!」
反射的に挨拶を返してから、すぐにそれどころじゃないと思い出す。
「え? あぁ、リュイスちゃん一人置いて寝床離れちゃったこと? ごめんね。一応周りに危ないのいないかは確認したし、寄ってこないように火もつけっぱなしにしたんだけど、こんなとこで置き去りはまずかったよね」
「いやそっちでもなく!」
なんで謝るつもりが謝られてるんだろう。
「すみません! 途中で交代するはずだったのに、私……!」
罪悪感からすぐさま力いっぱい頭を下げ、謝ったのだけど……
「なにが?」
「なに、って……」
彼女はただ柔らかく微笑むだけで、こちらを責める気配は全くなかった。
……もしかして、起こさなかったのはわざと? 旅慣れない私を気遣って? 事実、朝までぐっすり眠ってしまったけれど。
それに気づいたから、というわけでもないが、私は別のことを口にしていた。
「……ひょっとして、夜通し起きていたんですか?」
「や、仮眠は取ったから、だいじょぶだよ」
それは果たして大丈夫なのでしょうか。
途端に心配になり、彼女の様子を窺うが……少なくとも外見からは、体の不調はなさそうに見える。
もっとも、彼女が本気でそれを隠そうとしたなら、私には見抜けないのだろうが。
「そのうえ、朝から稽古を……?」
「これは、まあ、やれる時にやる癖がついてて。とーさんやリュイスちゃんのお祈りと同じ、習慣みたいなもの。わたしもとーさんも才能とかあるほうじゃなかったから、こういうの積み重ねるしかなくて」
あれだけ実力があるのに才能がない、って……
いや。今現在の彼女の実力はつまり、それを補って余りあるほど、修練や実戦を重ねてきたという証、なのかもしれない。ジャイールさんの疑問の答えは、これだろうか――
「リュイスちゃんが起きたんなら、もう片づけて出発しよっか。今日中に次の街まで着きたいし。ん、しょっと」
私が考え込んでいる間に、彼女は滑らかに剣を鞘に納め、地面に置き、次いで着ていた服を脱ぎ始め……って――
「なんで脱いでるんですか!?」
「汗だけ流そうと思って」
話しながらも彼女は脱ぐ手を止めず、左篭手を残して全裸になってしまう。やはりそれだけは外さないらしい。
「ここ屋外で、私も目の前にいるんですけど!」
「え、なにか問題あった?」
「あるでしょう!?」
ありますよね? ……それとも私が間違ってるんだろうか。
「なにもいないのはさっき確認したし、こんなとこで覗く人もいないでしょ。少しくらいなら平気平気」
……私は?
疑問に思っている間に彼女は、器に汲んだ川の水を頭から豪快に被ってしまう。首や手足を振って水気を払い、テキパキと布で体を拭いていく。
……まさか、これだけで済ませてもう出発するつもりなのだろうか、この人は。
「あの……せめて、向こうで少し暖まってからにしませんか?」
「そう? じゃあ、そうしようかな」
ただでさえ見張りを任せきりにしてしまったのに、これで風邪でも引かれたらなんかもうよく分からない申し訳なさで私のほうがやられてしまう。あれ? 裸は私のせいだったろうか?
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