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第1章
31節 瞳と表情と
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話し終え、俯き、視線を彷徨わせる。
自身の罪を告白するのは苦痛ではあったが、吐き出すほどにそれが和らいでいくようにも感じていた。
内に抱え込み続けた日々が、自分で思う以上に重荷になっていたのかもしれない。神殿に告解に来る人が後を絶たないのも、今なら理解できる。
「……こんな話を聞いていただいて、ありがとうございました」
私が抱えていたつまらない事情。他人に聞かせる価値も無いどうしようもない話。
ここまで聞いてもらっただけでも感謝しているし、その代償が軽蔑だったとしても仕方がない。覚悟しながら、顔を上げる。
そうして私の目に映し出されたのは、けれど蔑視ではなく……なにかを考え込む様子で俯く、彼女の姿だった。
「……今の話に、色々言いたいこともあるんだけど……それとは別に、ちょっと聞いてもいいかな」
「……はい」
言いたいこと。そんなもの、糾弾以外に思いつかないが、あからさまに侮蔑されなかっただけでも安堵してしまう。宣告が先延ばしにされただけかもしれないが――
「つまり……例の『目』の持ち主は、リュイスちゃん、ってことで、いいのかな」
沈黙する。
「……どうして、そう思うんですか?」
それは、ほとんど肯定したも同然の問いだったが。
「んーと、最初の違和感は、初めて会った時かな。リュイスちゃん、『〈流視〉を知っている人間は神殿でも限られる』って言ってたでしょ? なのに、階級が低いはずのリュイスちゃんがそれを知ってるのはなんでだろう、って」
……そんな、初めの頃から?
「その時は、ちょっと疑問に思った程度だけどね」
「それなら……」
いつ、なにをきっかけに……?
「少なくともただの下級神官じゃない、って確信したのはその後。あのなんとかくんを斬ろうとしたのを、リュイスちゃんが止めたからだよ」
「……ジャイールさんとの決闘の、最後……?」
「そ。その最後の一撃。使うのに、色々条件もあるんだけど――」
初めて見せる相手であること。
相手を守勢に回らせること。
相手が、それでも反撃してくるほどの手練れであること。
そして、その反撃を受け流した不自然な体勢に全身の『気』を乗せるため、なるべく地に足をつけた状態で放つこと――
「剣を持つ魔物は少ないし、魔族も技を磨いたりしない――持ち前の腕力だけで十分だからね。だから、使う相手は主に人間の剣士。人殺しの剣なんて誇れるものじゃないし、いつでも使えるわけでもないけど……条件さえ満たせば、〝誰もかわせない〟」
剣士殺しの、必殺剣……
「だから使うのは、相手を本気で〝斬る〟って決めた時だけ。目の前の相手はもちろん、傍から見てたとしても、仕掛けに気づくのは剣を振り切ってからになる。たとえそれが、どれだけの達人でもね」
私は今さら自身の迂闊さに気づいたが……同時に疑問が、そして――こんな状況だというのに――好奇心が湧いた。
「それは……相手が、〈剣帝〉さまだったとしても?」
「……やっぱり、リュイスちゃんは面白いなぁ」
彼女はなぜか少し嬉しそうな、それでいて挑戦的な笑みを浮かべる。
「もし観察してたのが〈剣帝〉でも、技を出す前には見切れない。実際にやり合っても、〝完全に初見なら〟当てられる。まあ、そもそも〈剣帝〉相手じゃ、使える状況まで持っていくのが難しいだろうけど、ね」
自信があるような冷静なような。
「……私が、どこかで同じものを見聞きしていた可能性は……?」
騎士団や剣術道場などは、自流派の技を一部公開している。
また、決闘を見物した者が、あるいは生き残った決闘者自身が、見聞きした技を他者に伝える場合もある。彼女の剣技が、そうしたものの一つであれば――
「それはないよ。だってあれ考えたの、わたしだし」
「――」
「《透過剣》、って、わたしは呼んでる。今まで初見で防げた相手はいないし、誰かに教えたこともないから、多分、誰にも伝わってない。初めて見せた時は、とーさんにも通じた実績があります。そもそもとーさんに一発入れるために考えたんだけどね」
あぁ……だから剣士相手の技……
「つまりリュイスちゃんが止めたのは、誰も知らないはずの技。ううん、知っていてもいつ使うかなんて分からないし、普通の『目』なら交差する一瞬しか見えないはずの技。それを、あなたは〝振り切る前に〟止めてみせた」
「……」
「それに、あの時リュイスちゃんが呼んだのは、わたしの名前だけ。わたしだけを止めようとしてたよね。単純に、あの時は彼の名前を知らなかったのもあるだろうけど……今の話聞いてようやく、リュイスちゃんと例の『目』が繋がった。あの時のリュイスちゃんには、わたしたち二人の動きの流れが。その流れの行きつく先が。全部見えていたんじゃない?」
ここで私は、はぐらかすのを諦めた。
「…………はい。ご推察の、通りです」
まだ躊躇しながら……けれどハッキリと、肯定する。
物事の流れを見る瞳、〈流視〉を持つ者は、私、リュイス・フェルムであると。
推測が的中したからか、彼女はほんの少し、満足気に息を漏らす。
「どうりで、いろいろ詳しいわけだ」
「はい……当たり前ですよね。私自身が、持ち主なんですから」
「じゃあ、普段神殿から出ないっていうのも?」
「出ない、というより、出られない、ですね……依頼する際に説明した通り、必要時以外は外出も制限されていますから」
「ふむ。他に知ってるのは、あの人だけ?」
「それと、教主さまを含む数人だけです。公にならないよう、司祭以上で信用の置ける方だけに打ち明けています。その中で、長期にわたって神殿を空けても問題のない、身軽な立場の者は、私しかいませんでした」
だから私自身が依頼人となり総本山を離れることを、特例として許可してもらった。
「あの人は、反対したんじゃない?」
「……猛反対されました。私では、命を捨てに行くようなものだ、と。といっても司祭さま自身も、神殿を空けるのを周囲に反対されてしまったので……」
「その辺は、最初に説明してた通りなんだね。……そういえば例の、なんとかって貴族の司祭には?」
「ヴィオレ司祭には、明かしていません。ですが、私の不自然な経歴や、クラルテ司祭との関係性は、元々疑っていたのかもしれません。……もしかしたら、この『目』のことも」
「だから、狙われた?」
「……結局、彼女の関与は推測でしかありませんが……本当に関わっていたとしても、なんらかの確信がなければ、実行にまでは移さなかったと思うんです。……ただ、詳細までは、調べられなかったんでしょうね」
「リュイスちゃんの扱いは、『生死を問わず』、だったもんね」
「ええ……依頼人が誰であれ、〈流視〉の力を把握していたなら、おそらく私を生かして捕らえ、利用しようとするでしょうから」
「ここの人たちと……同じように?」
「……」
それは、私と私の『目』を知る者皆が、危惧し続けてきたことだ。
誰かに知られれば、私の両親のように囁きに耳を傾ける人が、必ず出る。今度は、金銭欲に留まらないかもしれない。
とはいえアレニエさんに話したのは、彼女なら悪用はしないと、妙な所で冷静な自分が判断したからでもあった。
依頼を懇願した時、それにジャイールさんたちに報酬を渡す際も、彼女は金銭に執着を見せなかった。少なくとも、それが理由で分別を失いはしないだろう、と。
「……この村で穏やかに暮らせていた頃も、確かにあったんです。それがあった、という記憶しか残っていなくて、具体的な思い出も、実感も湧かないんですけどね。なのに……おかしいですよね。皆が〈流視〉に目が眩んでからの、忘れてほしい記憶のほうは、忘れてくれないんです」
「うん」
「痛くて、苦しくて、悲しくて……でも、段々それに慣れて、薄れていって……そのうちなにも、感じなくなって。感じなくなったのに、なにがあったのかは、憶えてる」
「うん……」
噛みしめるように頷くアレニエさんに、私は言葉を続ける。
「先程の見立ては、正しいです。ジャイールさんの決闘の時、私には、二人を見ていることしかできなかった。だから、この『目』で見たんです。アレニエさんの推測通り、二人の動きも、その先でジャイールさんが死んでしまう未来も、全て、見えていました」
その未来は、かろうじて止めることができたが――
「この村を魔物が襲った時も同じです。これからなにが起こるのか、私には全部見えていた。村の皆が、両親が、その先でどういう目に遭うかも、予め知っていた。なのに私は……それを、誰にも知らせなかった……」
「……」
「だから、村が滅んだのは、私のせいなんです」
私は自嘲の笑みを浮かべた。少なくとも自分ではそのつもりだったけど……本当に笑えていたかは、分からなかった。
ここは、私の辛い記憶の象徴だ。
両親に、村人に虐待され、心身共に衰弱し、最後は魔物に蹂躙される様を、見ていることしかできなかった。
故郷に帰ってきたのになんの感慨も湧かないのは、そのせいだ。そもそもどんな感情を向ければいいのか、私自身、分からない。
けれど同時に、そこに住んでいた皆が命を奪われた事実を、見て見ぬふりもできない。警告さえしていれば、犠牲者はもっと少なかったかもしれないのだ。
私が眼前の死に怯えるようになったのは、彼らを見殺しにした罪の意識から、だろうか。
あの施療院で感情を取り戻して以来、目の前で命が失われるのが、怖くて堪らない。
相手が助かるまで、この胸の衝動が収まるまで、全て顧みずに動くようになった。
これは、善意なんかじゃない。
誰かの死に傷つくのは誰よりも自分で、そんな自分を守るために他人を助けようとしているのだ。浅ましい自己満足だ。自分自身に嫌気が差している。
だから私は、この任務を――
「……リュイスちゃん、時々そういう顔してるよね」
「……?」
その言葉は唐突で、私は初め、理解できなかった。
「今みたいな表情、わたしなんでか見覚えあってさ。それ見てずっともやもやしてたんだけど……やっと思い出したよ。わたしのかーさんと、同じなんだ」
「……アレニエさんの、お母さん、と?」
「そう。かーさんが…………死ぬ時の顔と」
「っ――」
喉元に、刃をねじ込まれたように感じた。
「ううん、それだとちょっと違うか。……死ぬのを覚悟してる顔、って言えばいいのかな。これから命を落とすって分かっていて……それを、受け入れてる顔。そんな顔する理由はさっき聞いた過去と、神殿での今の生活、だよね」
「……」
「だからリュイスちゃんは、自分より他人を助けようとする。自分の命はどうでもいいと思ってるから」
「そん……な、こと、は……」
ない――と、即座に言い切れなかった。
「だからリュイスちゃんは、この任務に志願した。『勇者を救うっていう善行のため』。『成功すれば周りに認められる』。それも嘘じゃないんだろうけど、一番の理由は……失敗したとしても、今の状況からも過去からも、逃げられるから」
「……」
「捨てに行くような、じゃない。リュイスちゃんは、本当に命を捨てに来たんだ」
自身の罪を告白するのは苦痛ではあったが、吐き出すほどにそれが和らいでいくようにも感じていた。
内に抱え込み続けた日々が、自分で思う以上に重荷になっていたのかもしれない。神殿に告解に来る人が後を絶たないのも、今なら理解できる。
「……こんな話を聞いていただいて、ありがとうございました」
私が抱えていたつまらない事情。他人に聞かせる価値も無いどうしようもない話。
ここまで聞いてもらっただけでも感謝しているし、その代償が軽蔑だったとしても仕方がない。覚悟しながら、顔を上げる。
そうして私の目に映し出されたのは、けれど蔑視ではなく……なにかを考え込む様子で俯く、彼女の姿だった。
「……今の話に、色々言いたいこともあるんだけど……それとは別に、ちょっと聞いてもいいかな」
「……はい」
言いたいこと。そんなもの、糾弾以外に思いつかないが、あからさまに侮蔑されなかっただけでも安堵してしまう。宣告が先延ばしにされただけかもしれないが――
「つまり……例の『目』の持ち主は、リュイスちゃん、ってことで、いいのかな」
沈黙する。
「……どうして、そう思うんですか?」
それは、ほとんど肯定したも同然の問いだったが。
「んーと、最初の違和感は、初めて会った時かな。リュイスちゃん、『〈流視〉を知っている人間は神殿でも限られる』って言ってたでしょ? なのに、階級が低いはずのリュイスちゃんがそれを知ってるのはなんでだろう、って」
……そんな、初めの頃から?
「その時は、ちょっと疑問に思った程度だけどね」
「それなら……」
いつ、なにをきっかけに……?
「少なくともただの下級神官じゃない、って確信したのはその後。あのなんとかくんを斬ろうとしたのを、リュイスちゃんが止めたからだよ」
「……ジャイールさんとの決闘の、最後……?」
「そ。その最後の一撃。使うのに、色々条件もあるんだけど――」
初めて見せる相手であること。
相手を守勢に回らせること。
相手が、それでも反撃してくるほどの手練れであること。
そして、その反撃を受け流した不自然な体勢に全身の『気』を乗せるため、なるべく地に足をつけた状態で放つこと――
「剣を持つ魔物は少ないし、魔族も技を磨いたりしない――持ち前の腕力だけで十分だからね。だから、使う相手は主に人間の剣士。人殺しの剣なんて誇れるものじゃないし、いつでも使えるわけでもないけど……条件さえ満たせば、〝誰もかわせない〟」
剣士殺しの、必殺剣……
「だから使うのは、相手を本気で〝斬る〟って決めた時だけ。目の前の相手はもちろん、傍から見てたとしても、仕掛けに気づくのは剣を振り切ってからになる。たとえそれが、どれだけの達人でもね」
私は今さら自身の迂闊さに気づいたが……同時に疑問が、そして――こんな状況だというのに――好奇心が湧いた。
「それは……相手が、〈剣帝〉さまだったとしても?」
「……やっぱり、リュイスちゃんは面白いなぁ」
彼女はなぜか少し嬉しそうな、それでいて挑戦的な笑みを浮かべる。
「もし観察してたのが〈剣帝〉でも、技を出す前には見切れない。実際にやり合っても、〝完全に初見なら〟当てられる。まあ、そもそも〈剣帝〉相手じゃ、使える状況まで持っていくのが難しいだろうけど、ね」
自信があるような冷静なような。
「……私が、どこかで同じものを見聞きしていた可能性は……?」
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また、決闘を見物した者が、あるいは生き残った決闘者自身が、見聞きした技を他者に伝える場合もある。彼女の剣技が、そうしたものの一つであれば――
「それはないよ。だってあれ考えたの、わたしだし」
「――」
「《透過剣》、って、わたしは呼んでる。今まで初見で防げた相手はいないし、誰かに教えたこともないから、多分、誰にも伝わってない。初めて見せた時は、とーさんにも通じた実績があります。そもそもとーさんに一発入れるために考えたんだけどね」
あぁ……だから剣士相手の技……
「つまりリュイスちゃんが止めたのは、誰も知らないはずの技。ううん、知っていてもいつ使うかなんて分からないし、普通の『目』なら交差する一瞬しか見えないはずの技。それを、あなたは〝振り切る前に〟止めてみせた」
「……」
「それに、あの時リュイスちゃんが呼んだのは、わたしの名前だけ。わたしだけを止めようとしてたよね。単純に、あの時は彼の名前を知らなかったのもあるだろうけど……今の話聞いてようやく、リュイスちゃんと例の『目』が繋がった。あの時のリュイスちゃんには、わたしたち二人の動きの流れが。その流れの行きつく先が。全部見えていたんじゃない?」
ここで私は、はぐらかすのを諦めた。
「…………はい。ご推察の、通りです」
まだ躊躇しながら……けれどハッキリと、肯定する。
物事の流れを見る瞳、〈流視〉を持つ者は、私、リュイス・フェルムであると。
推測が的中したからか、彼女はほんの少し、満足気に息を漏らす。
「どうりで、いろいろ詳しいわけだ」
「はい……当たり前ですよね。私自身が、持ち主なんですから」
「じゃあ、普段神殿から出ないっていうのも?」
「出ない、というより、出られない、ですね……依頼する際に説明した通り、必要時以外は外出も制限されていますから」
「ふむ。他に知ってるのは、あの人だけ?」
「それと、教主さまを含む数人だけです。公にならないよう、司祭以上で信用の置ける方だけに打ち明けています。その中で、長期にわたって神殿を空けても問題のない、身軽な立場の者は、私しかいませんでした」
だから私自身が依頼人となり総本山を離れることを、特例として許可してもらった。
「あの人は、反対したんじゃない?」
「……猛反対されました。私では、命を捨てに行くようなものだ、と。といっても司祭さま自身も、神殿を空けるのを周囲に反対されてしまったので……」
「その辺は、最初に説明してた通りなんだね。……そういえば例の、なんとかって貴族の司祭には?」
「ヴィオレ司祭には、明かしていません。ですが、私の不自然な経歴や、クラルテ司祭との関係性は、元々疑っていたのかもしれません。……もしかしたら、この『目』のことも」
「だから、狙われた?」
「……結局、彼女の関与は推測でしかありませんが……本当に関わっていたとしても、なんらかの確信がなければ、実行にまでは移さなかったと思うんです。……ただ、詳細までは、調べられなかったんでしょうね」
「リュイスちゃんの扱いは、『生死を問わず』、だったもんね」
「ええ……依頼人が誰であれ、〈流視〉の力を把握していたなら、おそらく私を生かして捕らえ、利用しようとするでしょうから」
「ここの人たちと……同じように?」
「……」
それは、私と私の『目』を知る者皆が、危惧し続けてきたことだ。
誰かに知られれば、私の両親のように囁きに耳を傾ける人が、必ず出る。今度は、金銭欲に留まらないかもしれない。
とはいえアレニエさんに話したのは、彼女なら悪用はしないと、妙な所で冷静な自分が判断したからでもあった。
依頼を懇願した時、それにジャイールさんたちに報酬を渡す際も、彼女は金銭に執着を見せなかった。少なくとも、それが理由で分別を失いはしないだろう、と。
「……この村で穏やかに暮らせていた頃も、確かにあったんです。それがあった、という記憶しか残っていなくて、具体的な思い出も、実感も湧かないんですけどね。なのに……おかしいですよね。皆が〈流視〉に目が眩んでからの、忘れてほしい記憶のほうは、忘れてくれないんです」
「うん」
「痛くて、苦しくて、悲しくて……でも、段々それに慣れて、薄れていって……そのうちなにも、感じなくなって。感じなくなったのに、なにがあったのかは、憶えてる」
「うん……」
噛みしめるように頷くアレニエさんに、私は言葉を続ける。
「先程の見立ては、正しいです。ジャイールさんの決闘の時、私には、二人を見ていることしかできなかった。だから、この『目』で見たんです。アレニエさんの推測通り、二人の動きも、その先でジャイールさんが死んでしまう未来も、全て、見えていました」
その未来は、かろうじて止めることができたが――
「この村を魔物が襲った時も同じです。これからなにが起こるのか、私には全部見えていた。村の皆が、両親が、その先でどういう目に遭うかも、予め知っていた。なのに私は……それを、誰にも知らせなかった……」
「……」
「だから、村が滅んだのは、私のせいなんです」
私は自嘲の笑みを浮かべた。少なくとも自分ではそのつもりだったけど……本当に笑えていたかは、分からなかった。
ここは、私の辛い記憶の象徴だ。
両親に、村人に虐待され、心身共に衰弱し、最後は魔物に蹂躙される様を、見ていることしかできなかった。
故郷に帰ってきたのになんの感慨も湧かないのは、そのせいだ。そもそもどんな感情を向ければいいのか、私自身、分からない。
けれど同時に、そこに住んでいた皆が命を奪われた事実を、見て見ぬふりもできない。警告さえしていれば、犠牲者はもっと少なかったかもしれないのだ。
私が眼前の死に怯えるようになったのは、彼らを見殺しにした罪の意識から、だろうか。
あの施療院で感情を取り戻して以来、目の前で命が失われるのが、怖くて堪らない。
相手が助かるまで、この胸の衝動が収まるまで、全て顧みずに動くようになった。
これは、善意なんかじゃない。
誰かの死に傷つくのは誰よりも自分で、そんな自分を守るために他人を助けようとしているのだ。浅ましい自己満足だ。自分自身に嫌気が差している。
だから私は、この任務を――
「……リュイスちゃん、時々そういう顔してるよね」
「……?」
その言葉は唐突で、私は初め、理解できなかった。
「今みたいな表情、わたしなんでか見覚えあってさ。それ見てずっともやもやしてたんだけど……やっと思い出したよ。わたしのかーさんと、同じなんだ」
「……アレニエさんの、お母さん、と?」
「そう。かーさんが…………死ぬ時の顔と」
「っ――」
喉元に、刃をねじ込まれたように感じた。
「ううん、それだとちょっと違うか。……死ぬのを覚悟してる顔、って言えばいいのかな。これから命を落とすって分かっていて……それを、受け入れてる顔。そんな顔する理由はさっき聞いた過去と、神殿での今の生活、だよね」
「……」
「だからリュイスちゃんは、自分より他人を助けようとする。自分の命はどうでもいいと思ってるから」
「そん……な、こと、は……」
ない――と、即座に言い切れなかった。
「だからリュイスちゃんは、この任務に志願した。『勇者を救うっていう善行のため』。『成功すれば周りに認められる』。それも嘘じゃないんだろうけど、一番の理由は……失敗したとしても、今の状況からも過去からも、逃げられるから」
「……」
「捨てに行くような、じゃない。リュイスちゃんは、本当に命を捨てに来たんだ」
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