[完結]勇者の旅の裏側で

八月森

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第2章

3節 一対多の決闘

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「アレニエさん……」

 リュイスちゃんが心配そうな声をあげるが、わたしは彼女の肩にぽんと手を乗せてから、少し離れた位置まで下がってもらった。

 さて。大きい口を叩いたからには、リュイスちゃんに心配かけないような勝ち方をしないといけない。わたしはさりげなく気合いを入れて、目の前の四人を見据える。

 向こうは、前衛に勇者ちゃんとシエラちゃん。後衛に神官ちゃんと魔術師くん。
 その前衛のシエラちゃんは、緊張した面持ちで隣の勇者に注意を促していたが……

「気をつけてください、アルム。素手とはいえ、彼女はこの場の全員でかかっても勝てるかわかりません。連携して――」

 ダっ!

 シエラちゃんの言葉の途中で、勇者が単身、突撃してくる。

「はああぁぁぁっ!」

 気合いと共に剣を大上段から振るう勇者。小柄な体に似つかわしくない長大な剣を、彼女は軽々と振るう。
 大振りのその剣は、かわす前から狙いが丸わかりのものだったけれど……その後の剣撃は思った以上に鋭く、地面を強く打ち付けながら土砂を広範に撒き散らす。

「――っ!」

 力が強いのは先刻の握手で予想できていたが、それをさらに上回る破壊力に少なからず驚愕し、飛び散る土に顔をしかめる。

 リュイスちゃんより小柄なのに、どこからこんな力を発揮しているのだろう。下手をすれば、あの大男くんといい勝負かもしれない。彼があの時、「面白い」と評していた理由は……

 続けて、二撃、三撃と剣を振り回す勇者だったが、わたしはその全てを余裕をもってかわしていく。膂力りょりょくには驚いたけど、それ以外は事前に感じた通りだ。技も経験も圧倒的に足りない。

 いくら剣を振れど全く当たる気配がないことに業を煮やしたのか、彼女は今までよりも大きく前方に踏み込み、横薙ぎの一閃を繰り出してくる。が――
 わたしは力を抜き、重力に預けた体を沈み込ませ剣閃をかい潜りながら、勇者の足元を蹴り払った。

 スパンっ!

「――……!?」

 宙を半回転して倒れ込む勇者。おそらく一瞬のことで、本人はなにをされたかも分かっていないだろう。

 そうして倒れる勇者の陰から獣のように這い出し、わたしは次なる相手――シエラちゃんに向かって駆け出す。

 元から警戒していたのだろう、こちらの動きに合わせて彼女は即座に槍を突いてくる。
 跳躍してその一撃をかわし、彼女の頭上をとる。が、こちらの動きを予測していたのか、彼女は槍を即座に引き戻し、背後に背負い投げるように振り回して自身の頭上を、そこにいるわたしを薙ぎ払おうとする。

 自分を追いかけてくるその槍をわたしは……穂先の下、柄の部分を靴底で蹴って防ぎ、それを足場代わりにしてさらに跳躍した。

「なっ……!」

 シエラちゃんが漏らす驚きの声を背に、前方へ跳ぶ。
 向かう先には、魔術を詠唱中の魔術師くん。わたしは空中で姿勢を制御し、そのまま無防備なところを蹴り飛ばそうとする。が――

「くっ!?」

 彼は自分が狙われていることに気づくとすぐさま詠唱を破棄。腕を十字に組み、わたしの蹴りを受け止めてみせる。

「(……防がれた?)」

 接近戦に不得手な魔術師なら、防ぐどころか反応もできないと思ってたんだけど……武術の心得でもあるんだろうか、この魔術師くん。
 ともあれ、今度は彼の腕を足場にして態勢を整えたわたしは、反対の足で彼の顔面を蹴りつけて跳躍する。

「がっ!?」

 そして神官ちゃんの目の前に着地し、最後に彼女の額に指を突き付けた。

「うっ……」

「はい、おしまい」

「きゃっ!?」

 たじろぐ少女の額を指で弾くと、彼女はその場に倒れ、尻もちをつく。
 周囲を見回せば、まともに立っているのはシエラちゃんだけだった。わたしは彼女に短く問いかける。

「続ける?」

「……いいえ、降参です」

 そう告げると彼女は緊張を解き、疲れたようにその場に座り込むのだった。


  ***


「これで分かったでしょ? どれだけ実力が足りないか。ただの一冒険者のわたしに勝てないようじゃ、魔王どころか魔将も倒せないよ?」

 戦いを終えたわたしは、うなだれる彼女らに言葉で追い打ちを加えていた。

「今の実力じゃ無駄死にするだけだと思うし、修行してから出直したほうがいいんじゃない?」

 察しのいい人はとっくに気づいてるだろうけど、これがわたしが思いついた方法だった。
 彼女らに実力を自覚させ、腕を磨くよう促せば、しばらく足止めできるうえ、死ぬ可能性も下げられるんじゃないかという浅知恵だ。

 勇者の旅の邪魔をしたら極刑の可能性もある、というのを思い出したのは戦い終わってからだった。なにせ急に思いついたので。最悪の場合は逃げよう。

「……でも、ぼくは勇者だから。困ってる人を助けに行かなきゃ……魔王を、倒さなきゃいけなくて……」

 ……この子は、とても真面目な子なのだろう。与えられた務めを果たそうと、必死に勇者になろうとしている。その姿勢は、あの絵本の勇者を想起させて好ましく思えたけれど。

「あなたが死んだら、それこそ魔王を倒す手がなくなっちゃうでしょ?」

「う……」

 魔王を倒す唯一の手段、神剣。それを扱える勇者が命を落とした場合、新たな使い手を見つけ出すまでの間、人類は対抗手段を失ってしまう。だからこそ魔物の側は、常に勇者の命を狙っている。

 彼女は悔しさからか両手を握りしめ、俯いたままで口を開く。

「……あなたの言いたいことは分かります。先に進むためには、もっと実力が必要だと」

 良かった、分かってくれたみたいだ。表には出さないが、内心で安堵する。

「でもぼくは、やっぱり困っている人たちを助けたいし、一刻も早く魔王を倒しに行きたいです。だから……」

 そう言うと彼女は顔を上げ、なにやら覚悟を決めたような表情でこちらを見つめる。そして、懇願する。

「だから、ぼくに戦い方を教えてください、アレニエさん……――いえ、師匠!」

「…………はい?」
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