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第2章
4節 初めての師匠①
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とーさんに引き取られてパルティール王国の王都で暮らすようになった頃、わたしは自分から頼み込んでとーさんに稽古をつけてもらっていた。
とーさんは普段と同じで稽古中も口数は少なく、剣で語ることの方が多いような人だった。
短いアドバイスと、ほとんど実戦のような訓練の繰り返し。軽い怪我は日常茶飯事だし、命の危険を感じたことも多々あった。
けれど、とーさんと過ごすその時間はわたしにとって、決して嫌いなものではなかった。
他人に剣を教えたことがないというとーさんは、自身も試行錯誤しながらわたしに剣を教えてくれていた。
……まさか十年も経った今、自分が同じことをするとは思っていなかったけれど。
***
「確認するけど、わたし、人に教えたことなんてないから、ちゃんと成果が出るかわかんないよ。それでもいいんだね?」
「はい! お願いします!」
わたしと勇者――アルムちゃんは、訓練用の木剣を持って向かい合っていた。周囲では、リュイスちゃんと勇者の仲間たちとが遠巻きにわたしたち二人を眺めている。
「師匠になってほしい」とアルムちゃんに頼まれたわたしは、一緒に行動するのは問題がある(守護者の報奨などに関わるため)と一度は断ったのだが、こうして旅先で出会った時だけでもいいと押され、勢いに負けるかたちで結局引き受けることになっていた。
目的地に彼女らより先に行かなければという問題はあったが、考えようによってはこうして一緒に行動している限り、少なくとも先を越されることはないともいえる。
それに、先刻自分を負かした相手に屈託なく(ちょっとはあるみたいだったが)師事しようとする彼女に、勇者であるという以上の興味も湧いていた。
「じゃあ、とりあえず一本ね」
短く宣告し、わたしはアルムちゃんに向かって軽く踏み込み、逆手に握った木剣を振るう。
「……え? ……あいたっ!?」
「あぁっ!? 貴女、勇者さまになんてことを!」
彼女はろくに反応することもできず、額に一撃を食らい倒れ込む。あと、なんか後ろで神官の子が騒いでたけどそれは流しておく。
…………
「よけるか防ぐかしようよ」
「えぇ!?」
彼女は額を抑えながら、理不尽なことを告げられたとばかりに声を上げる。
「いえ、その……いきなり模擬戦じゃなくて、もう少し基礎から教えてほしかったんですけど……」
「……基礎?」
「なんで疑問形!?」
基礎……剣術の基礎って、どうやって教えればいいんだろ。わたし、とーさんとはほとんど模擬戦ばかりだったんだけど。
「実戦形式のほうが覚えは早いよ?」
「それはそうだと思いますけど……そもそもなにを覚えればいいのかが分からないので……」
「今まで誰かに教わったことは?」
「ありません」
「……ふむ」
さて、どうしたものだろう。
わたしの場合、かーさんと死別した後の森での暮らしで、ある程度基礎が出来上がっていた。それがあったからこそ、とーさんの稽古にもある程度ついていけたのだろう。
そのとーさんからわたしが教わったもの、教えられるものは、主に二つ。斬り方と受け方だけ。
ただ、それらも実戦に近い模擬戦で積み重ね、長い時間をかけて体に覚えさせたものなので、口頭で説明できるほど言語化できていない。
それに、仮に説明できたとしても、体格や動き方の違うアルムちゃんにそのまま教えていいものなのかもちょっと分からない。
……あ。アルムちゃんがどことなく不安げな顔してる。
いけない。渋々とはいえ師匠になることを引き受けたのはわたし自身だ。弟子が不安になるような教えかたはまずいよね。
「(とりあえず、アルムちゃんの剣筋をもう一度見てから、どう教えるかを考えて……そういえば、とーさんも最初は、わたしの動き方を確認してから修行に移ってた気も……うん。そんな感じでいってみよう)」
「えーと……じゃあ、今度はそっちから攻めてみて」
「はい!」
気合の入った返事と共に、彼女は木剣を構えてわたしを見据える。
身体を努めて自然体にしての中段の構え。多少力んではいるものの、悪くないと思う。
「はっ!」
掛け声と共にこちらに打ち込むアルムちゃん。先刻の戦いと同じく、全力で力いっぱい、悪く言えば力任せに剣を振り回す。
常人離れした力と、剣の重量を利用した叩き斬るような一撃は、まともに当たればそれだけでかなりの威力を誇るだろう。
とはいえ、それは当たればの話だ。
思い切り振りかぶり、全力を込める彼女の剣は、一撃一撃が重く、真っ直ぐすぎるため、率直に言えば狙いが丸わかりだった。
余計な力が入りすぎているので動きが固く、重くなる。だから動きを読まれて当たらない。当たらないのを無理に当てようとして、体のバランスが崩れる。そうなるとますます当たらない。負の連鎖だ。
わたしは彼女の剣を何度かかわし、あるいは受け流し、やがて無防備な態勢になったその首に一撃を打ち込む……寸前で、ピタリと木剣を止めた。
「っ……!」
喉元に切っ先を突き付けられ、アルムちゃんが小さく呻くのが聞こえる。
危ない危ない。危うくさっきみたいに当ててしまうところだった。心の中で額の汗を拭いつつ、剣を引く。彼女はと言えば、よほど緊張していたのか、その場に崩れるように座り込んだ。
「うん。大体は分かった、かな」
「……どう、ですか?」
不安そうに上目遣いで見てくる弟子に、わたしは率直に思ったことを口にする。
「筋は悪くないと思う。一人で鍛錬してたことを考えれば、なおさらね」
「本当、ですか?」
「うん。それに、なにより驚いたのは腕力だね。わたしの倍以上ありそう」
「は、はい。そこだけは、ぼくも自信があります」
「でも不思議だね。そんなに筋肉あるようには見えないんだけど」
「アニエスが言うには、この力は加護なんだそうです。〈超腕〉という、勝利を司る戦神の加護」
「へぇ……?」
どこからあんな力を引き出してるのかと思ったら、なるほど、神の加護ってやつか。
神さまは時折、気まぐれな贈り物を人々に与えることがある。
『加護』と呼ばれるそれは多くが人知を超えた力で、人が行使する魔術や法術では再現不可能なものばかりだという。
リュイスちゃんの〈流視〉もその一つであり、『物事の流れを視る』という特異な能力を発揮する。一方で、彼女は幼い頃からその力に振り回されてもきた。
「勇者さまは、その身に〈超腕〉〈久身〉〈聖眼〉と、三種の加護を授かっているんですよ」
「……一人で、三つも?」
「ええ。素晴らしいでしょう。これこそ勇者さまが神剣と神々に選ばれた証の――」
なにやら得意げに胸を反らすのは、守護者の一人、神官の少女だ。
確かに、一つでも多大な恩恵を得られる加護を三つも所持しているのは、勇者に相応しい資質かもしれない。
けれど、現状――
「でも、その自慢の力も、当たらないとどうしようもないよね」
「……そうなんですよね」
見るからにしょぼんと気を落とすアルムちゃん。本当に素直で分かりやすい。
「一応言うけど、棍棒とか使うって手もあるよ? 剣よりかなり扱いやすいし」
「……いえ、他の武器じゃダメなんです。剣の扱い方を覚えないと……」
「? なんで?」
「ぼくは、勇者ですから。いつかは、神剣を使いこなさないといけないんです」
「……なるほど」
確かに神剣が剣である以上、その扱い方を磨いて損はないように思う。
「なら、頑張って使い方覚えるしかないね。ちなみに、自分ではなにが問題だと思ってる?」
「実力の差……じゃ、ないんですか?」
「一言で纏めちゃえばそうかもだけど」
彼女の言葉に苦笑する。
「多分、攻撃の気配が大きすぎるんだと思うよ」
「気配? 攻撃の……?」
「うん。例えば……」
言いながら、わたしは右手に持った剣を、普段とは逆の順手に握り直す。それを頭上に掲げ、前方に踏み込み、座り込んでいるアルムちゃんに向けて軽く、そして大振りに振り下ろす。
ひゅっ――
「わっ!?」
彼女は咄嗟に手にした木剣でそれを防ぐ。カンっ!と、木が打ち合わされる音が辺りに響いた。
「い、いきなりなにを……!?」
唐突な攻撃に彼女は抗議の声を上げるが、わたしはそれを遮って問いかける。
「今、わたしがどう動くか見えた?」
「え? は、はい」
「どこを見て気づいた?」
「え、と……剣を振り上げた腕とか、踏み込んでくる足とかから、なんとなく……? ……あ……」
口にしながら、彼女も自分で気づいたようだった。
「そう。相手が攻撃するときは武器だけじゃなくて、それを握ってる手や腕が先に動く。もっと言えば、肘や肩、それを支える体や足腰……体は全部繋がっていて、連動してる」
木剣を引き、距離を取る。
「攻撃の気配っていうのはつまり、体の動き出しや予備動作のこと。それが大きいほど、相手にとってはかわしやすくなるし、反撃もしやすくなる。さっきのアルムちゃんは、大きく振りかぶってたうえに力んで動きが固くなってたから、余計にね」
「……そっか。だからぼくの剣は……」
彼女の言葉に頷く。
「力を抜いて振りを小さくするだけでも、今までよりずっと当たりやすくなると思うよ」
「……でも、力を抜いたら、斬りたいものも斬れない気がして……」
「それは多分、腕だけで剣を振ってるせいじゃないかな」
「? 剣は腕以外じゃ使えないんじゃ……?」
「いやそういうことじゃなくて」
不思議そうな顔を浮かべる少女に苦笑する。わたしは数歩下がり、実際に動きを見せつつなんとか説明しようと試みる。
「こう、なんていうか……腕だけじゃなくて、体全体で剣を振る、って言えばいいのかな。腕力だけで振ると刃筋がぶれやすいし、『気』も腕の分しか込められないから――」
「はすじ? ……『気』?」
彼女はポカンとした表情でこちらを見る。そういえば一人で修行してたらしいし、知る機会がなくてもおかしくないか。
「刃筋は、斬るときの剣の角度。剣に限らず刃物は、切っ先を正しい角度で当てないと、途端に切れなくなっちゃうから。まぁ、鈍器として使うなら、あまり気にしなくていいかもだけど」
「角度……なるほど」
木剣をくるくる回して形を確認しつつ、彼女は納得した表情を見せる。
「『気』のほうは、体を動かす時に生まれる力……みたいなもの。体力や生命力って言い替えてもいい。わたしたちはみんな無意識に『気』を使って生活してる。こうやって、手を振るだけでもね」
「無意識に……?」
試しに振って見せたわたしの手に、アルムちゃんの視線が注がれる。
「無意識の『気』は、使った後はすぐに拡散する。でもそれを意識して集めて、普段より大きな力に変えることを、『気』を込めるとか、『気』を練るって言う。これを使って戦う技術が、剣術や格闘術なんかの武術だよ」
「はぁ~……」
わたしの言葉にアルムちゃんは感嘆のため息を漏らす。もしくはあまり理解できていない可能性もある。
「剣は斬るための道具で、道具には正しい使い方がある。刃筋と『気』。その両方を使いこなして、初めて剣は正しく斬れるようになる。だから――」
「……斬るための、道具……やっぱり、そうなんでしょうか」
「……ん?」
とーさんは普段と同じで稽古中も口数は少なく、剣で語ることの方が多いような人だった。
短いアドバイスと、ほとんど実戦のような訓練の繰り返し。軽い怪我は日常茶飯事だし、命の危険を感じたことも多々あった。
けれど、とーさんと過ごすその時間はわたしにとって、決して嫌いなものではなかった。
他人に剣を教えたことがないというとーさんは、自身も試行錯誤しながらわたしに剣を教えてくれていた。
……まさか十年も経った今、自分が同じことをするとは思っていなかったけれど。
***
「確認するけど、わたし、人に教えたことなんてないから、ちゃんと成果が出るかわかんないよ。それでもいいんだね?」
「はい! お願いします!」
わたしと勇者――アルムちゃんは、訓練用の木剣を持って向かい合っていた。周囲では、リュイスちゃんと勇者の仲間たちとが遠巻きにわたしたち二人を眺めている。
「師匠になってほしい」とアルムちゃんに頼まれたわたしは、一緒に行動するのは問題がある(守護者の報奨などに関わるため)と一度は断ったのだが、こうして旅先で出会った時だけでもいいと押され、勢いに負けるかたちで結局引き受けることになっていた。
目的地に彼女らより先に行かなければという問題はあったが、考えようによってはこうして一緒に行動している限り、少なくとも先を越されることはないともいえる。
それに、先刻自分を負かした相手に屈託なく(ちょっとはあるみたいだったが)師事しようとする彼女に、勇者であるという以上の興味も湧いていた。
「じゃあ、とりあえず一本ね」
短く宣告し、わたしはアルムちゃんに向かって軽く踏み込み、逆手に握った木剣を振るう。
「……え? ……あいたっ!?」
「あぁっ!? 貴女、勇者さまになんてことを!」
彼女はろくに反応することもできず、額に一撃を食らい倒れ込む。あと、なんか後ろで神官の子が騒いでたけどそれは流しておく。
…………
「よけるか防ぐかしようよ」
「えぇ!?」
彼女は額を抑えながら、理不尽なことを告げられたとばかりに声を上げる。
「いえ、その……いきなり模擬戦じゃなくて、もう少し基礎から教えてほしかったんですけど……」
「……基礎?」
「なんで疑問形!?」
基礎……剣術の基礎って、どうやって教えればいいんだろ。わたし、とーさんとはほとんど模擬戦ばかりだったんだけど。
「実戦形式のほうが覚えは早いよ?」
「それはそうだと思いますけど……そもそもなにを覚えればいいのかが分からないので……」
「今まで誰かに教わったことは?」
「ありません」
「……ふむ」
さて、どうしたものだろう。
わたしの場合、かーさんと死別した後の森での暮らしで、ある程度基礎が出来上がっていた。それがあったからこそ、とーさんの稽古にもある程度ついていけたのだろう。
そのとーさんからわたしが教わったもの、教えられるものは、主に二つ。斬り方と受け方だけ。
ただ、それらも実戦に近い模擬戦で積み重ね、長い時間をかけて体に覚えさせたものなので、口頭で説明できるほど言語化できていない。
それに、仮に説明できたとしても、体格や動き方の違うアルムちゃんにそのまま教えていいものなのかもちょっと分からない。
……あ。アルムちゃんがどことなく不安げな顔してる。
いけない。渋々とはいえ師匠になることを引き受けたのはわたし自身だ。弟子が不安になるような教えかたはまずいよね。
「(とりあえず、アルムちゃんの剣筋をもう一度見てから、どう教えるかを考えて……そういえば、とーさんも最初は、わたしの動き方を確認してから修行に移ってた気も……うん。そんな感じでいってみよう)」
「えーと……じゃあ、今度はそっちから攻めてみて」
「はい!」
気合の入った返事と共に、彼女は木剣を構えてわたしを見据える。
身体を努めて自然体にしての中段の構え。多少力んではいるものの、悪くないと思う。
「はっ!」
掛け声と共にこちらに打ち込むアルムちゃん。先刻の戦いと同じく、全力で力いっぱい、悪く言えば力任せに剣を振り回す。
常人離れした力と、剣の重量を利用した叩き斬るような一撃は、まともに当たればそれだけでかなりの威力を誇るだろう。
とはいえ、それは当たればの話だ。
思い切り振りかぶり、全力を込める彼女の剣は、一撃一撃が重く、真っ直ぐすぎるため、率直に言えば狙いが丸わかりだった。
余計な力が入りすぎているので動きが固く、重くなる。だから動きを読まれて当たらない。当たらないのを無理に当てようとして、体のバランスが崩れる。そうなるとますます当たらない。負の連鎖だ。
わたしは彼女の剣を何度かかわし、あるいは受け流し、やがて無防備な態勢になったその首に一撃を打ち込む……寸前で、ピタリと木剣を止めた。
「っ……!」
喉元に切っ先を突き付けられ、アルムちゃんが小さく呻くのが聞こえる。
危ない危ない。危うくさっきみたいに当ててしまうところだった。心の中で額の汗を拭いつつ、剣を引く。彼女はと言えば、よほど緊張していたのか、その場に崩れるように座り込んだ。
「うん。大体は分かった、かな」
「……どう、ですか?」
不安そうに上目遣いで見てくる弟子に、わたしは率直に思ったことを口にする。
「筋は悪くないと思う。一人で鍛錬してたことを考えれば、なおさらね」
「本当、ですか?」
「うん。それに、なにより驚いたのは腕力だね。わたしの倍以上ありそう」
「は、はい。そこだけは、ぼくも自信があります」
「でも不思議だね。そんなに筋肉あるようには見えないんだけど」
「アニエスが言うには、この力は加護なんだそうです。〈超腕〉という、勝利を司る戦神の加護」
「へぇ……?」
どこからあんな力を引き出してるのかと思ったら、なるほど、神の加護ってやつか。
神さまは時折、気まぐれな贈り物を人々に与えることがある。
『加護』と呼ばれるそれは多くが人知を超えた力で、人が行使する魔術や法術では再現不可能なものばかりだという。
リュイスちゃんの〈流視〉もその一つであり、『物事の流れを視る』という特異な能力を発揮する。一方で、彼女は幼い頃からその力に振り回されてもきた。
「勇者さまは、その身に〈超腕〉〈久身〉〈聖眼〉と、三種の加護を授かっているんですよ」
「……一人で、三つも?」
「ええ。素晴らしいでしょう。これこそ勇者さまが神剣と神々に選ばれた証の――」
なにやら得意げに胸を反らすのは、守護者の一人、神官の少女だ。
確かに、一つでも多大な恩恵を得られる加護を三つも所持しているのは、勇者に相応しい資質かもしれない。
けれど、現状――
「でも、その自慢の力も、当たらないとどうしようもないよね」
「……そうなんですよね」
見るからにしょぼんと気を落とすアルムちゃん。本当に素直で分かりやすい。
「一応言うけど、棍棒とか使うって手もあるよ? 剣よりかなり扱いやすいし」
「……いえ、他の武器じゃダメなんです。剣の扱い方を覚えないと……」
「? なんで?」
「ぼくは、勇者ですから。いつかは、神剣を使いこなさないといけないんです」
「……なるほど」
確かに神剣が剣である以上、その扱い方を磨いて損はないように思う。
「なら、頑張って使い方覚えるしかないね。ちなみに、自分ではなにが問題だと思ってる?」
「実力の差……じゃ、ないんですか?」
「一言で纏めちゃえばそうかもだけど」
彼女の言葉に苦笑する。
「多分、攻撃の気配が大きすぎるんだと思うよ」
「気配? 攻撃の……?」
「うん。例えば……」
言いながら、わたしは右手に持った剣を、普段とは逆の順手に握り直す。それを頭上に掲げ、前方に踏み込み、座り込んでいるアルムちゃんに向けて軽く、そして大振りに振り下ろす。
ひゅっ――
「わっ!?」
彼女は咄嗟に手にした木剣でそれを防ぐ。カンっ!と、木が打ち合わされる音が辺りに響いた。
「い、いきなりなにを……!?」
唐突な攻撃に彼女は抗議の声を上げるが、わたしはそれを遮って問いかける。
「今、わたしがどう動くか見えた?」
「え? は、はい」
「どこを見て気づいた?」
「え、と……剣を振り上げた腕とか、踏み込んでくる足とかから、なんとなく……? ……あ……」
口にしながら、彼女も自分で気づいたようだった。
「そう。相手が攻撃するときは武器だけじゃなくて、それを握ってる手や腕が先に動く。もっと言えば、肘や肩、それを支える体や足腰……体は全部繋がっていて、連動してる」
木剣を引き、距離を取る。
「攻撃の気配っていうのはつまり、体の動き出しや予備動作のこと。それが大きいほど、相手にとってはかわしやすくなるし、反撃もしやすくなる。さっきのアルムちゃんは、大きく振りかぶってたうえに力んで動きが固くなってたから、余計にね」
「……そっか。だからぼくの剣は……」
彼女の言葉に頷く。
「力を抜いて振りを小さくするだけでも、今までよりずっと当たりやすくなると思うよ」
「……でも、力を抜いたら、斬りたいものも斬れない気がして……」
「それは多分、腕だけで剣を振ってるせいじゃないかな」
「? 剣は腕以外じゃ使えないんじゃ……?」
「いやそういうことじゃなくて」
不思議そうな顔を浮かべる少女に苦笑する。わたしは数歩下がり、実際に動きを見せつつなんとか説明しようと試みる。
「こう、なんていうか……腕だけじゃなくて、体全体で剣を振る、って言えばいいのかな。腕力だけで振ると刃筋がぶれやすいし、『気』も腕の分しか込められないから――」
「はすじ? ……『気』?」
彼女はポカンとした表情でこちらを見る。そういえば一人で修行してたらしいし、知る機会がなくてもおかしくないか。
「刃筋は、斬るときの剣の角度。剣に限らず刃物は、切っ先を正しい角度で当てないと、途端に切れなくなっちゃうから。まぁ、鈍器として使うなら、あまり気にしなくていいかもだけど」
「角度……なるほど」
木剣をくるくる回して形を確認しつつ、彼女は納得した表情を見せる。
「『気』のほうは、体を動かす時に生まれる力……みたいなもの。体力や生命力って言い替えてもいい。わたしたちはみんな無意識に『気』を使って生活してる。こうやって、手を振るだけでもね」
「無意識に……?」
試しに振って見せたわたしの手に、アルムちゃんの視線が注がれる。
「無意識の『気』は、使った後はすぐに拡散する。でもそれを意識して集めて、普段より大きな力に変えることを、『気』を込めるとか、『気』を練るって言う。これを使って戦う技術が、剣術や格闘術なんかの武術だよ」
「はぁ~……」
わたしの言葉にアルムちゃんは感嘆のため息を漏らす。もしくはあまり理解できていない可能性もある。
「剣は斬るための道具で、道具には正しい使い方がある。刃筋と『気』。その両方を使いこなして、初めて剣は正しく斬れるようになる。だから――」
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