MP節約家の効率厨ヒーラーちゃん パーティ追放後甘々になる

にぃ

文字の大きさ
2 / 3

第2話 過保護ヒーラーは泣きながら俺を治癒してくれる

しおりを挟む
 ガイ達のパーティから脱退した俺たちは二人で簡単なクエストをこなす日々を過ごしている。
 今もクエストボスである大型蜘蛛モンスターと対峙していた。
 俺はシールドを構えながら突進し、そのまま壁に押しつぶす。
 蜘蛛モンスターはそのまま動かなくなり、クエスト採取アイテムをドロップした。

「ヒール!!」

 リラさんの癒しの魔法が俺のHPを回復する。

「あ、ありがとうリラさん。でもヒールは必要ないよ? 反動ダメージくらいしか受けてないから」

「は、反動ダメージを受けているじゃないですか! 念のためもう一度ヒール掛けますね!」

「いや! 本当にいいから! MPもったいないから!」

 ガイ達のパーティから脱退してからリラさんの様子は180度変わっていた。
 今みたいにほんのちょっとのダメージでもすぐにヒールをを掛けようとしてくるようになったのだ。

 ——『MP節約という名目でキミは仲間に激痛を我慢させていたんだぞ』

 ガイの一言が物凄く効いたようだ。
 今や『MP効率厨』だったリラさんの面影は一切ない。
 代わりに『超過保護ヒーラー』として生まれ変わってしまっていた。

「おっとっと、岩に躓いてしまった」

「……っ!! ヒール! ヒール!!!」

「転んだだけだよ!? 回復なんて掛けなくて大丈夫だから!」

「転んだダメージでバドさんが死んじゃったらどうするつもりなんですか!!」

「キミの中で俺はどんだけ虚弱体質なの!?」

「だってぇ……バドさんすぐ我慢しちゃうんだもん。今も怪我を隠しているに違いないんだ」

「隠してないって! HP全快だって!」

「信じられません。身体に傷がないか見ますのでちょっと服脱いでください」

「ここで!?」

 どうしてダンジョンのど真ん中で追いはぎみたいな目に合わなければいけないんだ。
 ほら、他のパーティが微笑ましそうにクスクス笑ってるよ。

「と、とにかく、クエストは完了したから街に帰るよ」

「じゃあ帰りながら脱いでください」

「脱がすことに全力過ぎない!? キミ!」

 タンクがモンスターの攻撃を受け、ヒーラーがその傷を癒す。
 今の俺たちは間違いなくその役割を果たせているのだが……

「……っ!? ヒール!!」

「うお! ビックリした! どうして今ヒールしたの!?」

「バドさんの深爪が痛そうでしたので」

「深爪程度でヒールしないで!? ていうか深爪ってヒールで治るの!? 治ってるし!?」

「バドさん。今度から私がバドさんの爪を切りますので。ヒーラーとして当然の役割です」

「爪管理までしているヒーラーなんて聞いたことないから!」

 さすがに深爪程度でヒールを掛けてくるほどの過保護っぷりは問題だろう。
 うーん。どうしたものか。





「ヒール! ヒール! ヒール! ヒール!!」

「ぬおおおお!? リラさん! もうとっくに治ったよ! ていうかリラさんのヒールは回復量凄まじいんだから1回で十分だよ!」

「やだぁ! バドさんが痛いのやだぁ! 全部……全部治すんだもん!」

「治ってる! 本当に治ってるから!」

 リラさんは異常なほどに俺へのダメージに気を使うようなった。
 そう——今もスープで口の中を軽く火傷した程度でヒール4回重ねを行ってくれたのだ。
 ——過保護すぎん?
 このままでは朝食中にリラさんのMPが付きてしまうかもしれない。

「リラさん。MPはしっかり節約しよう。過去のキミはそれが出来ていたんだから」

「怪我を放置してヒールを掛けない駄目ヒーラーから学ぶことなんて一つもありません」

 うーん。こじらせているなぁ。
 リラさんの気持ちは正直嬉しいのだけど、MP効率厨の頃の方が冒険者としては正しい形だったと思う。

「リラさん。せめて俺のHPが半分になるまでヒールは掛けないってことにしない?」

 その提案にリラさんは息を飲むような仕草でショックを受けていた。

「だ、だめ。それだとバドさん痛いままじゃないですか。怪我をさせたまま貴方を放置するなんて、今のは私には絶対できません!」

「わ、わかった。じゃあせめて『戦闘中』はHP半分ルールを適用しよう。そして戦闘後にはしっかりヒールを貰って全快の状態で次へ進む——これならどう?」

「ぅぅぅ」

 明らかに納得の言っていない様子だけど、最終的には首を縦に振ってくれた。
 妥協点としてはこの辺りが妥当か。
 でもいつかはリラさんの過保護っぷりをどうにかしないといけないな。
 それは今後ゆっくり改善させていけばいいか。

「——あの……バドさん。当り前のように私と一緒にいてくれてますが……どうしてなのですか?」

 リラさんが追放されたその日、俺も便乗するようにパーティから自主脱退を申し出た。
 『心を痛めたままのリラさんを放っておけない』。
 そんな俺の心情を察してくれたのか、ガイは反対したりしなかった。
 それにリラさんと共に居たいと思う理由は他にもある。

「ああ。単純な話だよ。俺にはリラさんが必要だからさ」

「ほえっ!? ひ、必要、ですか?」

 俺の言葉になぜか驚きを示すリラさん。

「ああ。俺さ。好きなんだ」

「す、すすすすすす、好き!?」

 そう——俺はリラさんの回復魔法が好きなのだ。
 『ヒール』というのは回復魔法の投擲だ。
 球のようなものを対象を投げ、当たった箇所を中心に患部が治療されていく。
 リラさんはその投擲がとても上手い。
 一番回復が欲しい箇所へ明確にヒールを掛けられるヒーラーを俺はリラさん以外に知らない。

「俺にはリラさんしかいない。他の人なんて考えられない」

「~~~~っ!?!?」

 以前1度だけ他のヒーラーと即席パーティを組んだことがある。
 でも、その、言っては悪いけどお粗末に感じた。
 いや、リラさんのヒーラー技術が高すぎるのが原因だろう。
 高位のヒーラーと一度でもパーティを組んでしまうともはや他のヒーラーでは物足りなく思えてしまうのだ。

「俺が冒険者でいるうちはリラさん以外を相棒にする気は一切ないよ。まぁ、リラさんの方が俺のことを嫌がっているというのならさすがに諦めるけど」

「そんなこと! 全然! 嫌だなんて思うわけないです!」

 やたら前のめりに詰め寄ってくるリラさんに俺の方が困惑してしまう。
 でもよかった。嫌われているわけではないらしい。

「本当に? 俺、タンクとしては並だし、いつも迷惑ばかりかけてしまうけど」

「わ、私もバドさんを、その、す、好きなので。だから、んと、大丈夫なんです!」

 それは嬉しい。
 タンクとして俺もリラさんに認められていたのか。
 これは冒険者として自信になるぞ。

「——私、もうバドさん以外の人とパーティ組みません」

「へっ!?」

「決めました。私の一生を貴方に捧げます」

「一生って。あはは。そりゃあこの先ずっと安泰だなぁ」

 リラさんとずっとパーティ組めることは正直嬉しいが、他の人とパーティを組む気がないという発言はちょっと考えないといけない。
 んー、タンクとヒーラーの2人パーティか。
 ……アタッカーどうしよう。
 まっ、今はリラさんとの絆が確認できたことを素直に喜ぼう。

「んじゃ、改めてよろしくねリラさん」

「はい。生涯貴方だけを癒し続けますね」

 真剣な言葉を向けられて思わず笑みが零れた。
 しかし、今の俺はまるで気が付いていなかった。
 リラさんの言葉は俺の思っていた以上に重い意味があったということに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愚者による愚行と愚策の結果……《完結》

アーエル
ファンタジー
その愚者は無知だった。 それが転落の始まり……ではなかった。 本当の愚者は誰だったのか。 誰を相手にしていたのか。 後悔は……してもし足りない。 全13話 ‪☆他社でも公開します

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷 むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

処理中です...