キミを幸せにするデータ

にぃ

文字の大きさ
1 / 3

キミを幸せにするデータ(前編)

しおりを挟む
 ウチのクラスにはデータマンが居る。
 今も球技大会のソフトボールにて、彼は持ち味のデータを活かした知略を繰り広げようとしていた。

「ふっ、俺のデータによれば、次の投球は内角高めのストレートの確率100%! ——見えた!」

「……ストラーイク。バッターアウト」

「ここで外角低めのシンカーだってぇぇぇっ! そんなの俺のデータにないぞっ!!」

    パリ―ンっ!

「うわわわっ! 神宮寺の眼鏡がまた割れたぁぁっ!」

「データにないことが起こるとメガネが割れる仕組みなんなの!?」

 とまぁ、データを基に行動する人でして。
 だけど、そのデータの信用度は半々といった所みたいだった。

「——やっほ。あかり。男子の方はソフトボール勝てそう?」

 友人の真衣が隣にやってくる。

「勝てそうな感じだよ。その、神宮司くん以外は全員ヒット打っているから」

「あー、神宮司くんね。運動神経良くて長身で美形なんだけど、なぜか三枚目だよね。残念なイケメンって感じ。いいヤツではあるんだけど」

「……でも、とっても頑張っているから」

 神宮寺くんの評価はクラス内では微妙だった。
 人気者ではあるのだけど、付き合いたいほどではない。
 友達としてはアリだけど、それ以上の関係は無理。
 女子の共通認識としてはそんな感じ。
 だから、そんな彼の評価を聞くたびにいつも思ってしまう。

 ——神宮司君の素敵な所を知っているのは私だけなんだなぁ。






 時は少し前に遡る。
 私が神宮司くんに興味をもったきっかけはほんの些細な出来事からだった。

「なー、神宮司~。頼むよ~。課題のプリント写させてくれ! なっ?」

「お前のデータが俺らを救ってくれるんさ。よっ、知将! 下々の俺らに愛の手を!」

 クラスメイト数人が神宮司くんを囲って課題を映してもらおうと頼み込んでいた。

「駄目だ駄目だ。課題プリントは自分の力でやれ。それに俺のデータは俺だけのものだ。他人に譲渡するつもりはない」

 神宮寺くんはきっぱりと断っていた。

「ちぇ~」

「せっかくお前のデータを役立ててやろうと思ったのに」

「まっ、こいつのデータなんて元々充てにならんしな。自分で解いた方がマシか」

 若干恨めしい視線を向けながら去っていく男子達。
 何を勝手なことを言っているんだこの男子達は。
 さすがにカチンときた私は文句を言いにいこうと立ち上がったのだけど……

「……自分の力で解いた方が身になる確率——100%」

 ぽつりと呟かれた独り言に自然と足が止まる。
 そっか。神宮司君は彼らの為に頑なにプリントを見せなかったんだ。
 優しい……人なんだな。
 それに思いやりもある。

 その日から私は事あるごとに神宮司くんの様子を目で追うようになっていた。

 補足だけど、さっき神宮司君に絡んでいた男子達への制裁はドロップキック一発ずつで勘弁してやった。私ってば超優しい。






「では、この問題を——神宮司、答えてみろ」

「ふっ。その解が『ES細胞』である確率——45%!」

「割と自信ないのな。ちゃんと正解だから安心しろ。神宮司に拍手」

「……ふっ、ふふっ。俺のデータは今日も冴えているな」

 声、震えているよ? 神宮司君。






「神宮司~、学食で何食う~?」

「ふっ。今日のB定食にプディングが付く可能性——89%!」

「おぉ。さすがデータマン! じゃあB定食一択だな」

「ああ」

 ………………
 …………
 ……

「B定食が完売だなんて俺のデータにないぞ!」

    パリ―ン!!

「いや、よくあることだから! それくらい想定しとけ!? ほら。C定食にはプチシュークリームが付くんだと。そっちにしようぜ。なっ?」

「C定食にプチシューが付くだなんて、俺のデータにないいいいいぃっ!!」

    パリ―ン、パリ―ン!

 貴方の眼鏡のレンズは何重仕込みなの!?






「ねぇねぇ。最近さ、萌黄くんと赤井さん、なんかいい感じじゃない?」

「だよねだよね! 超推しカプ。赤井さん、高飛車なイメージあったけど最近ひたすらに可愛いよね」

「——萌黄と赤井がカップルになる確率……99%!」

「きゃー! やっぱり神宮司君もそう思う~?」

「ああ。恋愛に関するデータは充分に取れている。あの二人がくっつくのは時間の問題だろうな」

「そういう神宮司君は誰か良い人いないのかな~?」

「——俺が高校在学中に誰かと付き合う確率……1%」

「「「「…………」」」」

「ええい! 憐みの目で見るな! 別にいいのだ俺のことは! データマンに恋愛感情なんて必要ないのだ!」

「そ、その、頑張れ」

「神宮司君のこと応援しているよ」

「な、なんだったら誰かいい子紹介してあげるからさ、その、元気出せ」

「優しさが時に人を傷つける確率……100パーセントォォォォォォッ!」

 涙を散らしながら走り去っていく神宮司君。
 神宮司くん、彼女欲しいのかな?
 なるほどなるほど……
 ふーん……






「うー、超風邪引いたぁ、頭が頭痛で痛い」

 酔っぱらいの千鳥足みたいにフラフラになりながらようやく病院にたどり着く。
 受付を済ませ、待合室へ向かう。

    くらっ……

 あ、やば。
 めまいにより意識が霞み、一瞬視界が暗転した。
 そのまま前のめりに倒れ——

    がしっ!

 倒れる直前に誰かに抱えられる。

「あ……すみませ——」

「——だ、大丈夫か!? 公野きみのさん! フラフラじゃないか!」

 この聞き覚えのある声……

「んと……もしかして神宮司くん?」

「ああ! 奇遇だな公野さん。風邪か? 辛そうだな。とにかく喋らない方がいい。その掠れ声からノドが炎症している可能性79%だ。無理するな」

 相変わらず思いやりあるなぁ。優しさの権化かな?
 私は神宮司君に肩を支えられながらゆっくりと待合室の長いすに腰を掛ける。

    ぐぃ……

「んん?」

 神宮司くんが私の肩を自分の方に寄せてきた。
 抵抗することなく、私は彼の腕に凭れかかるような姿勢になってしまう。

「じ、じじじ神宮司くん? な、なに?」

「座っているのもつらいだろ? 本当は横になった方がいいのだが、他にも座る人が居るかもしれんからな。俺の腕にもたれかかった方が聊か楽になる確率84%!」

 うぅ……恥ずかしさで熱があがりそうなんだけど……
 でも神宮司くんの腕逞しいな。鍛えているのかな?

「そういえば神宮司くんはどうしてこんな所にいるの?」

「喋るなといったろうに……まぁ、いいか。俺のオヤジがこの病院で勤務していてな、俺は家族に忘れ物を届けてきただけだ。その途中でたまたまキミを見かけてな」

 病院で勤務って、お父さんお医者さんなのかな? すごいな。
 神宮司君もお医者さんを目指していたりするのかなぁ? 町の優しいお医者さんになりそう。白衣も似合うんだろうなぁ。

「そういえば初絡みだったね。えへへ。公野きみのあかりです。よろしくね」

「卒業間際によろしくというのも変な話だな。まぁ、よろしくな」

 神宮司君の言う通り、高校3年生の秋にして初めて彼と絡むことができた。
 ずっと気になっていた人だったから思いがけない幸運だった。

「待合中寝ててもいいぞ? 名前呼ばれたら起こしてやるから」

「い、いやいや、そこまでお世話になれないよ」

「む? そうか? 別に遠慮はいらないのだがな」

「…………」

 この人は私が肩に凭れかかっていても何も思わないのかなぁ?
 こんなにも意識されてないのわかるとちょっとへこむよ。
 もぅ……

 その後、彼は無言で肩を貸し続けてくれた。
 さすがに眠ることまではせず、看護師さんに名前が呼ばれるのをじっと待つ。
 やることがなく、何気なく周囲をぼーっと見渡す。
 さすが大きな病院。来訪者がたくさんいるなぁ。

 一人、また一人と病院のドアが開かれ、人が入ってくる。
 そんな中、杖を突いているおばあさんが受付にゆっくり歩んでいた。
 手足が震えている。歩くのも辛そうだ。
 今にも転びそうで危なっかしい。

「……公野さん?」

 突然立ち上がった神宮司君が怪訝そうな表情で私を見つめてくる。

「ちょっとあのおばあさんに手を貸してく——」

 その直後だった。
 おばあさんが持つ杖が光沢ある床を滑り、おばあさんの手から不意に離れていった。
 杖に引っ張られるようにおばあさんの身体も前方に大きく傾いている。
 いけない! 転んじゃう!!

「——うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 それは一瞬の出来事だった。
 神宮司くんが長椅子を蹴り、床とおばあさんの膝元の間に滑り混むように自分の身体を飛ばしていた。
 おばあさんは膝から倒れそうになっていたが、神宮司君の背中がクッションになって大怪我を免れた。

「大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

 膝で背中を踏まれた状態のまま、神宮司君は優しい笑みをおばあさんに向ける。

「ご、ごめんなさいね。貴方こそ大丈夫なのかい?」

「ふっ、俺がこれくらいで怪我を負う可能性0パーセント。こうみえても丈夫なので気にしないでください。それよりおばあさんが膝を痛めなくて本当に良かった」

 おばあさんはひたすら感謝を述べていた。
 神宮司君は心から安堵したような表情をおばあさんに向けている。

 その優しい表情はとても煌めいて見えて……

 彼の横顔を見る視線が熱っぽくなってしまう。

 頬全体が真っ赤なのは恐らく風邪のせいではないのだとさすがの私も分かってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話

家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。 高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。 全く勝ち目がないこの恋。 潔く諦めることにした。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...