異世界に行ってしまった幼馴染が俺に異能の力を託してくれたのだが

にぃ

文字の大きさ
16 / 26

第16話 絶対に負けのない戦い

しおりを挟む
「来海! 小鳥さん! 一旦こちらへ! 魔族から離れるのですわ!」

 葉子の掛け声に小鳥はダッと駆け出し、全力でこの場から離れる。
 しかし、俺が付いてきていないことがわかると、急ブレーキをかけてこちらに呼び掛けた。

「兄さん! 何をしているの!」
「来海! 危ないですわよ!」

 いや。
 俺の予想が正しければ危なくない・・・・・
 俺は魔族の顔をジッと睨むように見つめる。
 魔族も何も語らずにただこちらに見つめ返していた。

「おい。魔族。お前が何をしたいのか教えてくれないか?」

「……!」

 魔族の表情は変わらない。

「兄さん?」
「来海。何を言って——」

 小鳥も葉子も気づいていない。
 魔族の安全性・・・について

「なぁ、魔族。お前のやりたいことはよくわからないけど——さ」

 俺はゆっくり距離を取る。
 隙だらけの俺に対し、魔族はただ見ているだけで攻撃してきたりはしなかった。

「この戦いが終わったら、ちゃんと話せよな」






「兄さん。今のは——?」

「小鳥、葉子。まずはこの場を全力で切り抜けるぞ!」

 俺の考えを伝えるのは後。
 『絶対に負けはない』とはいえ、相手は魔族。
 しかも見るからに固そうな石人形のような魔族だ。
 負けはないけど、引き分けで終わってしまうことはあり得るかもしれない。

「小鳥。今回の戦いに関して、お前はアタッカーでいけ」

「えっ!? で、でも、相手の攻撃を守らないと……」

「いいんだ。この戦い、防御のことを考える必要は全くない」

「……わかった」

「葉子。お前も全力で攻撃だ!」

「わ、わかりましたわ!」

「あっ、今回は胸揉みどうする?」

「結構ですわ!!」

 小鳥と葉子が同時に動きを見せる。
 風と大地が集結し、うねりを上げる。

「ロックフォール!!」

 最初に動いたのは葉子だった。
 砂利の意のままに操り、それを投擲する大地の異能技。
 魔族は左手で顔を抑えながら、右手で降りかかる砂利を払っていた。
 まるで虫でも払うかのような動作であっさりと防がれ、葉子の表情には悔しさが浮かぶ。

「ウインド……ボール!」

 次に動いたのは小鳥。
 アレは……いつぞや葉子の大地の矢を撃ち落とした風の塊。
 風の渦を集結させた球体が小鳥の両手を起点に発射されるようにストレートに伸びる。
 ぐんぐん加速度を増しながら風の塊は魔族の顔に向かっていく。
 魔族は風の異能を受け止めるように両手を出し、なんとキャッチングをした。

「これも……だめ……」

 いや——

「魔族の指が欠けましたわ! 効いています!」

 あの固そうな魔族の指を一発で砕いてしまった。
 やはり小鳥の異能は破壊力に特化しているようだ。

「ジェラシーですわぁぁぁ! ワタクシだってあのくらい出来ましてよ!」

 悔しそうに表情を歪ませながら葉子は次の異能を繰り出そうとしている。

「待った! 葉子!」

 俺は葉子の腕を引っ張って攻撃を中断させる。

「なんですの!?」

「葉子、さっきのゴーレム作ってくれないか?」

「ゴーレム様を? ゴーレム様は確かに頼りになりますが、でも動きが……」

「わかってる」

 パンチ一つ繰り出すのに1分くらい掛かるゴーレムなど実践向きではない。
 でも葉子のゴーレムを見た時、試してみたいことができた。
 ぶっつけ本番でそれをやることになってしまうが、これは負けのないバトルだ。だから大丈夫だろう。

「俺を……信じてくれないか?」

 葉子の目をジッと見る。
 自信に満ちた目で訴える。
 葉子は口元で笑みを浮かべ、綺麗な微笑みを返してくれた。

「もちろん。来海のこと信じておりますわ」

 その笑顔があまりにも眩しくて、俺はつい顔を赤らめて視線をそらしてしまう。
 照れていることをごまかすように、俺は小鳥にも指示を送る。

「小鳥! お前はガンガン異能を奴にぶつけまくってくれ!」

「……うん!」

 俺は葉子の手を引きながら全力で魔族の懐に向かって走る。
 その間、小鳥は風の異能を散らし続けていた。
 それの様子を見ながら俺は一つの事実に気づく。
 魔族はやたら顔を庇っていた。
 小鳥の風の異能は高威力でガードに使っていた奴の手は徐々にボロボロになっていった。
 だからガードに手を使う頻度が減ってきているが、顔への攻撃だけは頑なに腕ガードで防ぎ続けている。
 もしかしてアイツ顔に攻撃を与えられるのを嫌がっている?

「小鳥! 何とかしてアイツの両手を削ってくれ! 頼む!」

「……わかった! 私、役に立ってみせるよ!」

 両手を天に翳し、小鳥は最大威力のあの技を繰り出そうしている。
 葉子のゴーレムの腹に大穴を開けた風の槍——

「ウインド……トルネード!!」

 轟音の強風を唸らせながら、風の竜巻は一本の槍と化してストレートに放たれた。
 近くて見ると本当に大迫力だ。
 攻撃は魔族の顔に向かって真っすぐに奔る。
 魔族は右腕で受け止めようとするが、圧倒的な貫通力にあっさりと腕が千切れて吹き飛ばされていた。

「葉子! 今だ!」

「ゴーレム様! 召喚ですわ!」

 俺の合図とともに土色の大人形が出現する。

「グォォォォッ!」

 ここで初めて魔族が攻撃に転じた。
 俺達には一切危害を加えようとしなかった魔族が牙をむく。
 なるほどね。無機物のゴーレム相手なら攻撃できるってわけね。
 でも——させない!

「でやあああああああああ!!」

 俺はゴーレムの右肩後ろ辺りに牛乳を出現させた。
 超大量の牛乳の洪水だ。
 最初の魔族と対峙した時、俺は牛乳噴射を利用して魔族を窒息させた。
 それの応用だ。
 俺は牛乳でゴーレムの右腕を押すように噴射させたのだ。

    ゴォォォンッ!

 牛乳に腕を押されたおかげで、ゴーレムのパンチは勢いを増していた。
 攻撃は魔族の脚に命中し、右脚が吹き飛ぶ。
 行ける! と思ったが、味方のゴーレムの右手もボロボロになっていた。

「ああ! ゴーレム様の腕が!」

 牛乳噴射によるパンチブースト。
 いい方法だと思ったけど、これでは攻撃の度にこちらも身が削られていく。
 どうする? 葉子に2体目のゴーレムを生み出してもらうか?

「(——いや! もしかしたら!)」

 俺はゴーレムの口元に大量の牛乳を流し込んでみた。
 顔中が牛乳まみれになって汚いけど、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
 ……どうだ? いけないか?

「……!? ご、ゴーレム様の腕が……再生してきましたわ!?」

 葉子の驚きも当然だ。
 俺自身も成功するなんて思っていなかったのだから。

「よっしゃあ! さすが牛乳異能! 初めてヒーラーっぽい活躍できた気がする」

 俺の牛乳属性はヒーラーだ。
 だから俺は自身の異能でゴーレムを回復させてみた。
 怪我が治せるかどうかの検証はいつか行おうと思っていたが手間が省けた。
 俺の牛乳は砕けたゴーレムの腕すらも治せる有能異能なんだ。

「葉子! ゴーレムに魔族の顔に攻撃するように命令してくれ!」

「わ、わかりましたわ!」

 葉子の指示でゴーレムは魔族の顔を目掛けてゆっくりとパンチを仕掛ける。
 そこに俺が牛乳噴射でゴーレムの腕を後押しして攻撃にスピードを加えさせた。
 しかし魔族の左手はまだ健在。
 魔族は残った腕でゴーレムのパンチを受け止めようとするが——

「——ウインドトルネード!」

 後方から小鳥の詠唱が聞こえた。
 先ほど魔族の右手を吹き飛ばした風の異能が超速で迫る。
 それはゴーレムの高速パンチよりも先に魔族へと届き——
 その左腕を吹き飛ばしていた。

 両手を失い、ガードする方法を失ったゴーレムにもはや防御手段はない。
 牛乳噴射によって速さの増したゴーレムのパンチは魔族の顔面に鈍い音を立てて——
 魔族はそのままゆっくりと崩れ落ちて、その巨体は背中から地面へと倒れ伏せたのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...