異世界に行ってしまった幼馴染が俺に異能の力を託してくれたのだが

にぃ

文字の大きさ
17 / 26

第17話 2年分の涙

しおりを挟む
 今回の戦いは全員の力が合わさった勝利だ。
 チームで勝てたという充実感が俺たちの結束を強めてくれた感じがする。
 だけどそんな勝利の余韻に浸ることもせず、俺は魔族の近くへ歩みを進める。
 
「来海! そんなに近づいては危ないですわ!」
「そ、そうだよ兄さん! 魔族が起き上がったらどうするの!?」

 いや、大丈夫だ。
 大丈夫だと確信しているから俺は近づいたのだ。
 魔族にどうしても聞きたいことがあったから。

「なぁ。魔族」

 聞きたいことは山ほどある。
 だけど先に言わなくてはいけないことがあった。

「いつも……ありがとうな」

「「えっ?」」

 突然のお礼の言葉に小鳥達は驚愕の表情を浮かべる。

 思えば“魔族”とかいう抽象的な存在がまず疑問だった。

 なぜ俺達の世界にやってくるのか。
 なぜ魔族との戦いの時は必ず俺達3人が揃っているときに起こるのか。
 なぜ魔族は基本的に何もしてこない・・・・・・・のか。

 そして数ある疑問の中でこれが一番謎だった。
 
 ——なぜ俺達がピンチの時に魔族は現れてくれるのか。

 俺たちは今までに3回魔族と遭遇した。

 1回目は葉子が俺達に向かって攻撃を放とうとした時。
 2回目は俺の牛乳属性の回復性の検証の為に、葉子がわざと怪我をしようとした時。
 3回目はもげたゴーレムの頭が俺と小鳥の前に転がってきた時。

 どれも命の危機だったと思う。
 危ないっ! と思った瞬間、いつも魔族が現れて助けてくれた。
 だから俺はこう推測した。

「ずっと……俺たちのことを見守っていてくれたんだな——」

 ずっと見ていてくれたから
 いつも助けてくれていた。
 だから俺達はお礼を言わなければいけないのだ。

「——ありがとう。”舞奈”」

「「えっ!?」」

 舞奈は俺達に異能を授けてくれた。
 だけどそれは使い方を誤れば自らの命を落としかねない危険な力。
 実際、俺たちは間違いかけていた。
 過去3回、俺達は死にかけた。
 それを遠くで見ていた舞奈が魔族を使って助けてくれていたのではないかと俺は推理した。
 そして——

「——やーっぱり最初に気づいたのは来海くんだったかぁ」

 その推理は間違っていなかったことがこの瞬間に証明された。






 先ほどまで俺達が戦っていた魔族が目の前でウネウネと形を変えてゆく。
 巨大な姿は一気に収縮し、人のような形となった。
 真っ黒に塗りつぶされた姿は変わりなかったが、そのシルエットには少しだけ見覚えがある。
 幼馴染を彷彿とさせる膝元くらいまで伸びるロングヘア—。
 表情はわからないはずなのに、人型の魔族は俺を見て微笑んだように見えた。

「だ、だーれだ?」

 おどけるように両手を広げてシルエットクイズを始める魔族。

「舞奈!」
「舞奈さんっ!」
「舞奈ちゃんっ!」

 俺達3人は同時に人型魔族——舞奈に飛び込み、強く抱きしめる。

「おぉうっ!? み、みんな、せ、正解だよ」

 舞奈は俺達全員を包み込むように優しく抱き返し、背中や頭を撫でてくれた。

「舞奈! 舞奈! まいなぁぁ!」

 中でも俺は感情が抑えきれず、舞奈の胸の中で子供のようにワンワン泣き散らした。

「ちょ、ちょちょ、来海くん!? こらぁ。胸の中で顔をスリスリするなぁ」

「まいなぁぁぁぁぁっ!」

「……聞いちゃいないか。よしよし」

 舞奈が居なくなってから2年ちょっと。
 きっと生きていると信じて、いつか帰ってくると信じて、俺は涙を堪えていた。
 だけどこの瞬間、寂しさや怒りや嬉しさが一気に押し寄せて、溜めていたものが全て溢れ出た。
 小鳥や葉子の前であるにも関わらず、俺はみっともなく泣き散らす。
 2年分溜めた涙はしばらく収まりそうになかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...