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短編用
1 期待
しおりを挟む私、クレア・ティレットと申します。
今は学園の寮で過ごしておりますが、邸は辺境にあり、父は一応陛下より伯爵位を賜わっております。
今日は私と、幼い頃より婚約者であるナサニエル・マクローリン第一王子の卒業パーティーが執り行われます。
身支度に時間はかかるものではありますが、朝から落ち着きがないのは自覚しております。それでも、早く刻が過ぎないかと気が急いてしまって……。
昨晩は寝付きもよくありませんでした。
私は期待と願いを込めてコルセットは付けず、お父様から届けられた胸元から柔らかなドレープを描くホルターネックのドレスを身に纏いました。首元から袖まで繊細な刺繍が施してあり、ふわりと広がる袖口は海に揺蕩うマーメイドのようです。
このドレスなら、細くも太くもない腕や脚も、少し摘めるお腹も目立たないのではないでしょうか?
少し、胸が寂しいような気もしますが…。
美人でも可愛くもなく、大きくも小さくもない瞳、高くも低くもない鼻梁、そんな顔も今日は念入りに化粧を施し、腰まである髪はハーフアップにしましたの。
そして、忘れずにパーティーバッグを持ち、少し早いですが、催事の時に使用する学園のホールへ向かいました。
ホールでは煌びやかに光を放つシャンデリアと、色とりどりの華やかなドレスを身にまとったご令嬢達や、凛としてエスコートをするご令息達が集まっておりました。
まだ、開催までには時間があり、私は一人壁際へ移動して、気持ちを落ち着かせる事にしました。
ナサニエル王子とは、まだ結婚がどういうものかもわからない頃よりの婚約者でしたが、幼い頃は仲が良かったように思います。
王宮へ招待を受け、お茶をしたり、王宮を案内されたり、庭園でたわいのない話をしたりと、少なくとも私は楽しい時間を過ごしておりました。
12歳のデビューと同時に本格的に王子妃としての教育が始まり、王子も公のパーティーや他国へ赴く事が増え、会う機会も減り、その頃から、緩やかに、そして確実に私への対応が変わっていったのです。
15歳になると、貴族のご令息やご令嬢、豪商などの爵位は無くとも裕福な家柄の跡取りが学園に通います。
貴族としての教育もありますが、貴族同士の繋がりをつくる目的もあります。
学園に通うようになってからは、転がるように変わってしまわれました。
一緒に通う事はしないと言われ、ナサニエル様とお呼びしていましたが、気安く呼んでくれるなと話しかける事を嫌がられました。
それでも、作られた笑顔さえ私に向けることはありませんでしたが、夜会などのパートナーを伴うものにはエスコートをして下さっておりました。
そんな王子が数日前に私に言ったのです。
「卒業パーティーでエスコートはしない」と。
その後は、用は済んだとばかりにいつもの態度に戻られてしまったのですが、私は今にも叫んでしまいそうな衝動を拳を震わせて耐えたのでした。
一際大きく、王子のお出ましになる声が響き、私は顔を上げました。
数段上がって高くなった端から、ナサニエル様とその腕に絡むように姿を見せた女性、そして剣を携えた男性が数歩遅れて現れます。
女性の方はバグウェル公爵のご令嬢、ヴィクトリア嬢で、何度か王子と一緒にいるのを見かけた事があります。
同性の私から見ても、妖艶な雰囲気を纏う肉感的な体つきをした方でいらっしゃいます。
護衛の方は元騎士団長であるアディントン侯爵のご令息のチャーリー様です。
「クレア・ティレット。ここへ!」
中央まで歩を進めた王子はホールを見渡すように正面を向くと、よく通るお声で言いました。
それを聞いた私は、今にも胸が張り裂けてしまいそうです。どうしましょう。
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