3 / 13
短編用
2 お待ちしておりました!
しおりを挟む私は一歩を踏みしめるように、王子達の前へと歩きました。
ホール内はクスクスと嘲笑う声や、ヒソヒソと耳打ちし合う声もありますが、音楽も止まってしまって、歩くヒールの音さえ響きそうでとても緊張いたしました。
「クレア・ティレット、お呼びにより御前へ参りました」
バッグを持っていてもカーテシーくらいは出来ますが……。
言わなくてもわかるだろうとでも思っていらっしゃるのでしょうか?王族を前にそのような事はできませんのよ。早く顔を上げる許可をいただけないかしら。
「チッ。…良い。楽にせよ」
あらあら、今舌打ちが聞こえたような気がします。皆さんまでは聞こえていないようですが、なんてお行儀が悪いのでしょう。
内心そう思いながらも、私は顔を上げ王子を見つめました。
王子は煩わしそうに私を見下ろしていますが、低い位置にいる私からはどうにも縋るような視線になってしまいます。
「第一王子であるナサニエル・マクローリンと、クレア・ティレット伯爵令嬢の婚約をこの場で破棄する!」
王子は、静まり返ったホールに声高に告げられました。
しかし、これでは足りないのです。
「ナサニエル王子。発言の許可をいただきたく思います」
私は再度頭を垂れて、王子に願い出ました。
「許可する。なんだ」
抑揚の無い声で許可をいただきました。
この気持ちのまま、早口になってはいけません。落ち着いて軽く息を吸い込み、ゆっくり吐きながら姿勢を戻して王子と向き合いました。
「陛下は承諾されているのでしょうか?」
「陛下は関係ない。私自身の婚約だ」
「そう言われましても、これは王家と伯爵家で決められた婚約です。陛下の承諾が無い限り破棄するわけにはまいりません」
正当な理由を述べましたが、王子は口の端を持ち上げ、それはもう愉快だと言わんばかりにふっと笑みを零し、続けました。
「私は今、陛下よりこの国を任されている!この婚約破棄は陛下からの言葉と言って相違ない!」
数日前より陛下と王妃は他国へ赴いていらっしゃいますものね。
陛下から全権を任されたという言葉を信じるならば、あともう少しの辛抱です。
「では、こちらに署名をお願い致します」
「なんだ、それは」
「婚約を白紙に戻す、という書類にございます」
私はパーティーバッグから書類と万年筆を取り出し、階段の下へ行くとバッグを床へ置き、王子へと捧げるように掲げました。
頭を下げているので見えませんが、王子は取り上げる勢いで書類を奪い、内容を確認しているのか、数秒の後に万年筆が走る音が聞こえてきました。
「受け取れ」
王子が短くそう言い、私は顔を上げて書類と万年筆を受け取り、床から拾い上げたバッグに万年筆を仕舞い、新しく記された王子の署名を指でなぞりました。
「そんな未練がましい顔しないで下さる?私の方が悲しくなってしまいますわ」
蔑んだ声色で、悲しくなると言う言葉とは裏腹にころころと笑うヴィクトリア嬢。
ですが、今の私には先程ホール内であった囁きと等しく、聞こえていても気にならないものでありました。
何故なら、その署名が有効であるのか確認していたのですから。
「おい。要件は済んだ。さっさと視界から……」
少しばかり怒気を含んだ王子の言葉を遮ってしまったのは、私のせいだと王子の顔を見てわかりました。
目を見開いていて、どうやら驚かせてしまったようです。
それでも…、それでも涙が止まりませんでした。
「ありがとうございます。ナサニエル王子」
「…なにを……」
私は精一杯の笑顔と感謝を王子に向けましたが、王子は困惑しているようです。無理はありませんね。
魔法が込められた万年筆、それで書かれた署名が有効と判断されたので、もうすぐ婚約時に契約したものが無効となってしまうはずです。
私は踵を返し、急いでホールから出ようと急ぎ足で向かいました。ですが、退出の挨拶をしていなかったと、王子へ向き直った時、書類が光り始めました。
どうやら時間切れのようです。
念の為と確認していたのが原因だと思いますが、大切な書類ですもの。確かめるのは仕方のないことだと思います。
面倒な事になるかと思いますが、必要な事だったと割り切って諦めましょう。
10
あなたにおすすめの小説
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
『外見しか見なかったあなたへ。私はもう、選ぶ側です』
鷹 綾
恋愛
「お前のようなガキは嫌いだ」
幼く見える容姿を理由に、婚約者ライオネルから一方的に婚約を破棄された
公爵令嬢シルフィーネ・エルフィンベルク。
その夜、嫉妬に狂った伯爵令嬢に突き落とされ、
彼女は一年もの間、意識不明の重体に陥る――。
目を覚ました彼女は、大人びた美貌を手に入れていた。
だが、中身は何ひとつ変わっていない。
にもかかわらず、
かつて彼女を「幼すぎる」と切り捨てた元婚約者は態度を一変させ、
「やり直したい」とすり寄ってくる。
「見かけが変わっても、中身は同じです。
それでもあなたは、私の外見しか見ていなかったのですね?」
静かにそう告げ、シルフィーネは過去を見限る。
やがて彼女に興味を示したのは、
隣国ノルディアの王太子エドワルド。
彼が見ていたのは、美貌ではなく――
対話し、考え、異論を述べる彼女の“在り方”だった。
これは、
外見で価値を決められた令嬢が、
「選ばれる人生」をやめ、
自分の意思で未来を選び直す物語。
静かなざまぁと、
対等な関係から始まる大人の恋。
そして――
自分の人生を、自分の言葉で生きるための物語。
---
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
王子、おひとり様で残りの人生をお楽しみください!
ちゃっぴー
恋愛
「ラーニャ、貴様との婚約を破棄する!」
卒業パーティーの真っ最中、ナルシストな第一王子ウィルフレッドに身に覚えのない罪で断罪された公爵令嬢ラーニャ。しかし、彼女はショックを受けるどころか、優雅に微笑んで拍手を送った。
なぜなら、ラーニャはとっくに王子の無能さに愛想を尽かし、この日のために完璧な「撤退準備」を進めていたからだ。
平民とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の王と結婚しました
ゆっこ
恋愛
「リリアーナ・ベルフォード、これまでの婚約は白紙に戻す」
その言葉を聞いた瞬間、私はようやく――心のどこかで予感していた結末に、静かに息を吐いた。
王太子アルベルト殿下。金糸の髪に、これ見よがしな笑み。彼の隣には、私が知っている顔がある。
――侯爵令嬢、ミレーユ・カスタニア。
学園で何かと殿下に寄り添い、私を「高慢な婚約者」と陰で嘲っていた令嬢だ。
「殿下、どういうことでしょう?」
私の声は驚くほど落ち着いていた。
「わたくしは、あなたの婚約者としてこれまで――」
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる