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短編用
3 婚約者に求めたもの side ナサニエル
しおりを挟む赤子の時から婚約者とされていたクレア・ティレットに、今日婚約破棄を宣言する。
幼い頃は良かった。ただ手を繋ぎ、語らうだけで楽しかったと思う。
12歳になってから公なパーティーにも出席するようになり、王になる者として学び、他国へ足を運ぶ事も増えた。
そして、今までの世界がどれだけ狭かったのかと思い知った。
パーティーで着飾る令嬢達は、微笑んだ頬を染めて愛らしい表情を向けてきたし、他国で知り合う要人のご夫人方は見目麗しい方が多く、所作の一つ一つが目を引くものであった。
好みはあるだろうが、皆、華やかでそこに居るだけで空気に彩りを添えていた。
だが、自分の婚約者はどうだ。
「ナサニエル様。お誘いありがとうございます。とても嬉しいのですが、お疲れではないですか?学ぶべき事も多くあると思いますが、お体が心配です」
公務の量も少しずつ増え、一緒にいる機会も少なくなってしまっただろうと、陛下である父上が時間をつくってくれて、クレアを王宮へ招いた時だった。
多分、その時まで俺はわからない振りをしていたのだ。時間が無いと理由をつけ、彼女も王子妃教育で忙しいだろうと言い訳をして。
しかし会ってしまえば、その姿を見てしまえば、それは嫌でも実感する。
みすぼらしいとまでは言わない。言わないが、華もなく、着飾っても見惚れるようなものでもない。
掛けてくれる言葉はいつも気遣いがあり、優しいものばかりだと思うのに、思うだけで心は動かない。嬉しいという言葉に俺もだと思う事も無ければ、労いに感謝もなく、そうかとただ思うだけ。
大きくも小さくもない瞳、太ってはいないがほっそりとしているわけでもなく、女性としてのそれも小さいわけではないが、思わず視線を向けてしまう程の大きさもない。
教育を受けているだけあり、所作は綺麗だと思うのに、伸ばす指先やカップに口付ける唇が目に入ると魅入ってしまうような事も無い。
過剰に思っているわけではないが、俺の方が余程美しいと言えるだろうと思ってしまう。
僅かな会話を交えた後、時間はまだ十分にあったが、少し休むとクレアと別れ、それを最後に俺が王宮へ呼ぶ事はなかった。
学園に入学してからは、クレアと話しもしなくなった。
婚約者であっても馴れ馴れしく呼んでくれるなと思ったし、出席するパーティーは学園まで馬車で迎えには行ったが、寮までは侍従に呼びに行かせた。
最初の頃は馬車の中で話し掛けてくる事もあったが、いつまで経っても何も返さない俺に「この時間は話しかけない方がよろしいですか?」と問うてきて、「あぁ」と一言返してからは話さなくなった。
バグウェル公爵のご令嬢として何度か挨拶をした事はあったが、ヴィクトリアと話すようになったのは、学園へ通うようになってからもうすぐ一年という時だった。
「きゃっ!」
左胸に軽い衝撃と短い悲鳴。
跳ね返るように後方へ倒れようとしている女性を咄嗟に引き寄せたが、引く力が強すぎたのか、女性は俺の胸に倒れ込んできた。
王子という身分故か、こういう手合いも数多く、俺はまたかと引き剥がそうとした。
「も、申し訳ございません!」
女性は弾かれたように自分から距離を置き、顔も上げずにそのまま頭を下げた。
「いや、怪我が無いならそれでいい」
「え……」
俺が声を掛けると女性は勢い良く顔を上げ、つり上がった猫のような瞳が大きく開かれ、徐々に顔色を失っていった。
「ナサニエル王子!失礼を致しました。お怪我は!お怪我はございませんか?あぁ、私ったらなんて事を……」
ヴィクトリアだと認識した女性は、距離を詰めてきてぶつかったであろう箇所の付近で手をさ迷わせたが俺に触れる事はせず、自分の顔を覆い始めた。
この時、妄りに接触しようとせず、怪我の心配をしてくれる様子に少なからず好感を持った。
「ヴィクトリア嬢は、怪我は無いか?」
「私は大丈夫です。その、ナサニエル王子が…受け止めて…下さったので……」
ヴィクトリアの状態を問うと、恥じらいを思い出したように肌を染め上げながら告げる彼女を可愛らしいと思った。
「俺も女性を受け止めたくらいで傷付くような鍛え方はしていない。大事ないぞ」
そう言うと赤みが引かぬ顔でヴィクトリアが安心したように微笑んで、俺は彼女が触れた部分にもう一度熱を感じたいと思った。
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