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第2部 人類の反撃
第16話(1)元の世界へ-晴夏と千鶴-
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前回までのあらすじ
順調に悪魔軍の拠点を攻撃していく星霊隊。その進攻を止めるため、悪魔軍は人のトラウマを刺激する罠を仕掛ける。
罠にかかってしまったすみれは四葉に襲いかかるが、四葉の懸命の説得によって罠を跳ね除け、星霊隊は次の目的地を目指す。
6月24日 8:00 心泉府 北区
「うわぁあっ!?」
木村千鶴は、悪魔の攻撃で吹き飛ばされ、地面の上を転がっていた。
彼女は右手に握りしめた自分の武器である釵(サイ)を地面に突き立て、自分の体勢を立て直し、顔を上げる。だが、すでに彼女は、5体ほどの悪魔たちに取り囲まれ、棍棒を構えるそれらに見下ろされていた。
「キヘへ...!!」
「...!」
千鶴はすぐさま武器を構える。しかし、なんの能力も持たない彼女が相手をするのには、敵の数が多すぎた。
(なんで私がこんな目に遭うわけ...!?もう嫌だ...!!)
「来ないで!!来ないで!!」
千鶴は叫びながら周囲の悪魔1体1体に釵の切っ先を向けるが、悪魔たちは怯みもせず、千鶴ににじり寄ってきていた。
「シネェェエア!!」
「!」
悪魔の1体が、棍棒を千鶴に振り下ろそうとする。千鶴はそれに気づいたものの、悲鳴を上げながらその場にしゃがみ込むことしかできなかった。
「いやぁああっ!!」
「ウォラァ!!」
そんな千鶴の耳に、女性の気合のひと声と、雷が轟くような音が聞こえてくる。千鶴が顔を上げると、彼女の親友でもある同じチームの女性、鳴神晴夏が、雷を纏ったトンファーをふるって悪魔の顔面を殴りぬいていた。
「ハルくん!」
「下がってろ千鶴!オラァ!」
晴夏は声を張ると、残っていた悪魔たちに対してもトンファーを振るい、片っ端から黒い煙へと変えていく。千鶴が瞬きする間に、晴夏はその場にいた悪魔たちを全て殴り倒していた。
「へっ!どうだ!伊達に毎日戦ってねぇぜ!」
晴夏は得意げな顔をして手に持っていたトンファーを光の粒に変える。そして、その場にしゃがみこんでいた千鶴のほうに手を伸ばした。
「ほら、千鶴!」
晴夏は明るい表情で声をかける。千鶴は複雑な表情でその手を取り、晴夏に引っ張られる形で立ち上がった。
「晴夏!そっちはどう!?」
「おう!ばっちりだぜ!日菜子!そっちは!?」
「こっちも片付いた!合流しよう!」
「わかった!今行く!」
晴夏は別の場所で戦う日菜子にも短く返事をすると、千鶴の方を向いて話し始めた。
「ほら、行こうぜ、千鶴!」
「...もういや!!」
千鶴の手を取って進もうとする晴夏に対し、千鶴は背を向けて走り始める。急に変化した千鶴の態度を見て、晴夏は千鶴を説得するために後を追い始めた。
「千鶴!おい千鶴!待てよ!!」
足の速い晴夏はすぐに千鶴に追いつくと、千鶴の正面に回り込み、腕を広げた。
「どうしたんだよ千鶴?日菜子が待ってる、早く行こうぜ?」
「いやだよ!行ったってどうせまた戦いに巻き込まれるんでしょ!?」
「そりゃオレたちは悪魔と戦うのが任務だから当たり前だろ!」
「当たり前じゃないよ!戦闘、戦闘、また戦闘!傷は増えるし、悪魔は減らない!こんなのになんの意味があるの!?」
「でもオレたちが戦わなきゃいろんな人が苦しむだろ!?」
「幸紀さんが戦えば十分じゃない!いつも幸紀さんひとりでどんな悪魔にだって勝ってるでしょ!?」
「ま、まぁ、そりゃあ、そうかもしれないけど...」
「私たちなんて必要ない!私が戦う必要もない!だったらもう戦いたくない!!」
千鶴は思いの丈をぶちまけると、晴夏を押しのけて、日菜子たちのいる方向とは真逆の方向へと走り始める。姿勢を崩した晴夏は、地面に膝をついてから、すぐに立ち上がり、千鶴の背中を追いかけ始めた。
「千鶴!おい!!」
晴夏は千鶴の背中に近づきながら、彼女の名前を呼ぶ。
走り続ける二人の正面に、横にあった物陰からスーツの男性が堂々と歩いて姿を現す。
突然の出来事に、千鶴は思わず足を止め、遅れてやってきた晴夏も、千鶴の半歩前に立って、その男性と向き合った。
「誰ですか?」
「気をつけろ千鶴、悪魔かもしれねぇぞ」
「悪魔?一体なんのことですか?」
警戒する晴夏と千鶴に対し、スーツの男性は何もわからないといわんばかりに尋ね返す。その言葉に、晴夏と千鶴の警戒はより一層強まった。
「この世界の人間で悪魔を知らないなんておかしい...」
「こいつ、やっぱり怪しいぞ...!」
「あぁ、待ってくださいおふたりとも、そういうことでしたら、大丈夫ですよ」
男性はそういうと、懐から黒の名刺入れを取り出し、その中から紙の名刺を取り出す。
「わたくし、こういうものでございます」
男性は名刺を差し出す。千鶴が恐縮しながらその名刺を受け取ると、晴夏と千鶴は一緒にその名刺を覗き込んだ。
「『松本彰智』?」
「『国立宇宙開発研究所』...『所在地:東京都江東区』!?」
見慣れた文字列に、千鶴は思わず声を上げる。晴夏も驚きのあまり言葉を失っていると、松本は柔和な物腰で話し始めた。
「その様子と、チヅル、というお名前から見るに、あなたが木村千鶴さんですね?」
「は、はい!そうです!」
「よかった。もうひとり、鳴神晴夏さんという男性とはお会いしませんでしたか?」
「お、オレですけど?」
松本の問いに対し、晴夏が遠慮がちに答える。松本は晴夏の姿を見ると、目を丸くした。
「おや?男性とお聞きしていたのですが...こんなに綺麗な女性だったとは」
「いや、そっちの世界じゃ男だったんすよ。でも、こっち来ちゃってから、体が女になっちゃってて...」
「世界間移動に伴う肉体の変化...!これはまた研究しがいのある新しい事例だぞ...!」
晴夏の返答を聞き、松本はやや興奮したような様子でつぶやく。しかし、晴夏と千鶴が少し離れたのを見て、咳ばらいをしてから改めて話し始めた。
「失礼。実は、我々『宇宙研』はあなた方を探していたのです。昨今、日本各地で相次ぐ『神隠し』と呼ばれる失踪現象。我々の使命は、その『神隠し』の被害者を救出することなのです。我々はあなた方おふたりを被害者第1号と考え、あなた方の捜索を続けておりました」
「なんで私たちを?」
「消えた時間帯と身元がはっきりしていたのがあなた方だけだったのです。ほかの失踪者は足取りを追いきれなかった人ばかり。とても今回の『神隠し』の原因調査には適さず、追跡も困難だと考えました。しかしおふたりは学生。身元も活動時間帯もはっきりしており、追跡が可能でした」
松本の発言に、間違ったところはなさそうに見えた。実際、元の世界では晴夏も千鶴も高校生である。ふたりの心は警戒しながらも、徐々に信頼へ傾きつつあった。
それを見てか、松本はポケットからレーザーポインターペンのようなものを取り出す。彼は自分の背後の空間にそのペンを向けてスイッチを押すと、3人の前に、空間の穴のようなものが開き、風が吹き荒れ始めた。
「な、なんだこりゃ!?」
「これは『世界間移動トンネル』です!簡単に言えば、これを通れば、お二人が失踪した直後の、元の世界に戻れます!」
「本当ですか!?」
「ええ!後ほど、失踪したときのことを伺いに上がりますが、今まで通りの日常を過ごしていただいて構いません!」
松本の説明に、千鶴の目が輝く。今にも穴の中に飛び込もうとする千鶴を、晴夏は諫めた。
「待てよ千鶴!このおっさんの言ってることが本当とは限らねぇんだぞ!?」
「でも...!」
「おふたりとも!急いでください!このトンネルは長く持ちません!チャンスを逃せば、二度と戻れないのですよ!?」
ためらう晴夏と千鶴に対し、松本は追い打ちをかけるように急かす。松本は違う方向を見ていたが、千鶴にはそれを気にしている余裕はなかった。
「ごめんハルくん!先行くね!」
千鶴はそれだけ言うと、穴の中に飛び込んでいく。そのまま千鶴の姿は、穴の中に消えた。
「千鶴!」
「さぁあなたも急いで!」
千鶴の背中に手を伸ばす晴夏に、松本は声をかける。晴夏はためらったが、目をつぶった。
「日菜子、幸紀さん、みんな、オレ絶対戻ってくるから!」
晴夏はそう決意を口にすると、穴のなかへと飛び込んでいく。晴夏の姿も穴の中に取り込まれたのを見ると、松本も何かから逃げるようにしてその穴の中に身を投げるのだった。
穴がふさがる。
その場所には、何もなかったかのような光景が広がっていた。
順調に悪魔軍の拠点を攻撃していく星霊隊。その進攻を止めるため、悪魔軍は人のトラウマを刺激する罠を仕掛ける。
罠にかかってしまったすみれは四葉に襲いかかるが、四葉の懸命の説得によって罠を跳ね除け、星霊隊は次の目的地を目指す。
6月24日 8:00 心泉府 北区
「うわぁあっ!?」
木村千鶴は、悪魔の攻撃で吹き飛ばされ、地面の上を転がっていた。
彼女は右手に握りしめた自分の武器である釵(サイ)を地面に突き立て、自分の体勢を立て直し、顔を上げる。だが、すでに彼女は、5体ほどの悪魔たちに取り囲まれ、棍棒を構えるそれらに見下ろされていた。
「キヘへ...!!」
「...!」
千鶴はすぐさま武器を構える。しかし、なんの能力も持たない彼女が相手をするのには、敵の数が多すぎた。
(なんで私がこんな目に遭うわけ...!?もう嫌だ...!!)
「来ないで!!来ないで!!」
千鶴は叫びながら周囲の悪魔1体1体に釵の切っ先を向けるが、悪魔たちは怯みもせず、千鶴ににじり寄ってきていた。
「シネェェエア!!」
「!」
悪魔の1体が、棍棒を千鶴に振り下ろそうとする。千鶴はそれに気づいたものの、悲鳴を上げながらその場にしゃがみ込むことしかできなかった。
「いやぁああっ!!」
「ウォラァ!!」
そんな千鶴の耳に、女性の気合のひと声と、雷が轟くような音が聞こえてくる。千鶴が顔を上げると、彼女の親友でもある同じチームの女性、鳴神晴夏が、雷を纏ったトンファーをふるって悪魔の顔面を殴りぬいていた。
「ハルくん!」
「下がってろ千鶴!オラァ!」
晴夏は声を張ると、残っていた悪魔たちに対してもトンファーを振るい、片っ端から黒い煙へと変えていく。千鶴が瞬きする間に、晴夏はその場にいた悪魔たちを全て殴り倒していた。
「へっ!どうだ!伊達に毎日戦ってねぇぜ!」
晴夏は得意げな顔をして手に持っていたトンファーを光の粒に変える。そして、その場にしゃがみこんでいた千鶴のほうに手を伸ばした。
「ほら、千鶴!」
晴夏は明るい表情で声をかける。千鶴は複雑な表情でその手を取り、晴夏に引っ張られる形で立ち上がった。
「晴夏!そっちはどう!?」
「おう!ばっちりだぜ!日菜子!そっちは!?」
「こっちも片付いた!合流しよう!」
「わかった!今行く!」
晴夏は別の場所で戦う日菜子にも短く返事をすると、千鶴の方を向いて話し始めた。
「ほら、行こうぜ、千鶴!」
「...もういや!!」
千鶴の手を取って進もうとする晴夏に対し、千鶴は背を向けて走り始める。急に変化した千鶴の態度を見て、晴夏は千鶴を説得するために後を追い始めた。
「千鶴!おい千鶴!待てよ!!」
足の速い晴夏はすぐに千鶴に追いつくと、千鶴の正面に回り込み、腕を広げた。
「どうしたんだよ千鶴?日菜子が待ってる、早く行こうぜ?」
「いやだよ!行ったってどうせまた戦いに巻き込まれるんでしょ!?」
「そりゃオレたちは悪魔と戦うのが任務だから当たり前だろ!」
「当たり前じゃないよ!戦闘、戦闘、また戦闘!傷は増えるし、悪魔は減らない!こんなのになんの意味があるの!?」
「でもオレたちが戦わなきゃいろんな人が苦しむだろ!?」
「幸紀さんが戦えば十分じゃない!いつも幸紀さんひとりでどんな悪魔にだって勝ってるでしょ!?」
「ま、まぁ、そりゃあ、そうかもしれないけど...」
「私たちなんて必要ない!私が戦う必要もない!だったらもう戦いたくない!!」
千鶴は思いの丈をぶちまけると、晴夏を押しのけて、日菜子たちのいる方向とは真逆の方向へと走り始める。姿勢を崩した晴夏は、地面に膝をついてから、すぐに立ち上がり、千鶴の背中を追いかけ始めた。
「千鶴!おい!!」
晴夏は千鶴の背中に近づきながら、彼女の名前を呼ぶ。
走り続ける二人の正面に、横にあった物陰からスーツの男性が堂々と歩いて姿を現す。
突然の出来事に、千鶴は思わず足を止め、遅れてやってきた晴夏も、千鶴の半歩前に立って、その男性と向き合った。
「誰ですか?」
「気をつけろ千鶴、悪魔かもしれねぇぞ」
「悪魔?一体なんのことですか?」
警戒する晴夏と千鶴に対し、スーツの男性は何もわからないといわんばかりに尋ね返す。その言葉に、晴夏と千鶴の警戒はより一層強まった。
「この世界の人間で悪魔を知らないなんておかしい...」
「こいつ、やっぱり怪しいぞ...!」
「あぁ、待ってくださいおふたりとも、そういうことでしたら、大丈夫ですよ」
男性はそういうと、懐から黒の名刺入れを取り出し、その中から紙の名刺を取り出す。
「わたくし、こういうものでございます」
男性は名刺を差し出す。千鶴が恐縮しながらその名刺を受け取ると、晴夏と千鶴は一緒にその名刺を覗き込んだ。
「『松本彰智』?」
「『国立宇宙開発研究所』...『所在地:東京都江東区』!?」
見慣れた文字列に、千鶴は思わず声を上げる。晴夏も驚きのあまり言葉を失っていると、松本は柔和な物腰で話し始めた。
「その様子と、チヅル、というお名前から見るに、あなたが木村千鶴さんですね?」
「は、はい!そうです!」
「よかった。もうひとり、鳴神晴夏さんという男性とはお会いしませんでしたか?」
「お、オレですけど?」
松本の問いに対し、晴夏が遠慮がちに答える。松本は晴夏の姿を見ると、目を丸くした。
「おや?男性とお聞きしていたのですが...こんなに綺麗な女性だったとは」
「いや、そっちの世界じゃ男だったんすよ。でも、こっち来ちゃってから、体が女になっちゃってて...」
「世界間移動に伴う肉体の変化...!これはまた研究しがいのある新しい事例だぞ...!」
晴夏の返答を聞き、松本はやや興奮したような様子でつぶやく。しかし、晴夏と千鶴が少し離れたのを見て、咳ばらいをしてから改めて話し始めた。
「失礼。実は、我々『宇宙研』はあなた方を探していたのです。昨今、日本各地で相次ぐ『神隠し』と呼ばれる失踪現象。我々の使命は、その『神隠し』の被害者を救出することなのです。我々はあなた方おふたりを被害者第1号と考え、あなた方の捜索を続けておりました」
「なんで私たちを?」
「消えた時間帯と身元がはっきりしていたのがあなた方だけだったのです。ほかの失踪者は足取りを追いきれなかった人ばかり。とても今回の『神隠し』の原因調査には適さず、追跡も困難だと考えました。しかしおふたりは学生。身元も活動時間帯もはっきりしており、追跡が可能でした」
松本の発言に、間違ったところはなさそうに見えた。実際、元の世界では晴夏も千鶴も高校生である。ふたりの心は警戒しながらも、徐々に信頼へ傾きつつあった。
それを見てか、松本はポケットからレーザーポインターペンのようなものを取り出す。彼は自分の背後の空間にそのペンを向けてスイッチを押すと、3人の前に、空間の穴のようなものが開き、風が吹き荒れ始めた。
「な、なんだこりゃ!?」
「これは『世界間移動トンネル』です!簡単に言えば、これを通れば、お二人が失踪した直後の、元の世界に戻れます!」
「本当ですか!?」
「ええ!後ほど、失踪したときのことを伺いに上がりますが、今まで通りの日常を過ごしていただいて構いません!」
松本の説明に、千鶴の目が輝く。今にも穴の中に飛び込もうとする千鶴を、晴夏は諫めた。
「待てよ千鶴!このおっさんの言ってることが本当とは限らねぇんだぞ!?」
「でも...!」
「おふたりとも!急いでください!このトンネルは長く持ちません!チャンスを逃せば、二度と戻れないのですよ!?」
ためらう晴夏と千鶴に対し、松本は追い打ちをかけるように急かす。松本は違う方向を見ていたが、千鶴にはそれを気にしている余裕はなかった。
「ごめんハルくん!先行くね!」
千鶴はそれだけ言うと、穴の中に飛び込んでいく。そのまま千鶴の姿は、穴の中に消えた。
「千鶴!」
「さぁあなたも急いで!」
千鶴の背中に手を伸ばす晴夏に、松本は声をかける。晴夏はためらったが、目をつぶった。
「日菜子、幸紀さん、みんな、オレ絶対戻ってくるから!」
晴夏はそう決意を口にすると、穴のなかへと飛び込んでいく。晴夏の姿も穴の中に取り込まれたのを見ると、松本も何かから逃げるようにしてその穴の中に身を投げるのだった。
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