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270話 懺悔室
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懺悔室――――
信徒が自らの犯した罪を司祭に告白し、神に許しを請うために使われる場所。
フェリスさんの話だと、ニコラさんはリアン大聖堂を訪れるたびに懺悔室を利用していたらしい。つまり、彼女には悔い改めたい罪や過ちがあるという事になる。
「懺悔室……ですか。一応知識としてはありますが、私はリアン大聖堂に行ったことがありません。フェリスさん、どのような雰囲気なのか聞かせて頂けますか?」
「はい。リアン大聖堂の懺悔室は祭壇横に設置されており、信徒であれば身分関係なく誰でも利用することができます。時間制になっていて、毎日午後14時から16時の2時間のあいだに利用可能です。1人当たりの所要時間は大体10分から15分程度。多い時は1日に10人くらいの告白者がいるそうです」
フェリスさんがリアン大聖堂を訪れる時間帯はその都度異なっていたそうだけど、ニコラさんは決まって14時から16時の間……懺悔室が開放されているタイミングに合わせて姿を現していたらしい。これはフェリスさん以外の他の来訪者の証言でもある。実際に懺悔室に入って行くところを見た人もいるという。
「信徒たちの告白を聞いてるのって神官だよね。そいつらに聞いたらニコラ・イーストンが何に悩んでいたか分かるんじゃないの?」
「……そう簡単にはいかないと思うよ、ルイス。彼らには守秘義務があるからね。聴罪担当の神官は、懺悔室の中で告白者が語った内容を絶対に口外してはいけないんだ。いつ如何なる場合もその秘匿性が失われてはならない。規則を破れば厳罰に処されてしまう」
「いや、それはそうかもしれないけどさ。人ひとり行方不明になってんだぜ。しかも襲撃事件の重要参考人が!! そんなこと言ってられないだろ」
守秘義務は当然守られなければならない。教会の信用にも関わる。でも、告白の内容が犯罪行為などの場合は例外にするべきという、ルイスさんの主張も理解できる。神官たちには守秘義務はあっても通報義務はない……これは難しい問題だな。
ニコラさんは一体何を思い詰めていたのだろうか。それが分かれば、彼女の居場所を突き止めることができるかもしれない。それでも……懺悔室の中で話された告白を、私たちが知ることは現状ほぼ不可能なのだった。
「なあ、フェリスはこの話バルト隊長にもしたんだよな。あの人も割と熱心な信徒じゃん。教会側に強く出れなそうで不安だわ……」
「こちらがどのように対処しようが、最終的には聴罪を担当した神官個人の裁量に委ねられると思います。ニコラさんの告白内容に問題があったとしても、果たして破門を覚悟してまで通報するかと聞かれたら……可能性は薄いでしょう」
「るーくんも、れーくんも心配しすぎ。大丈夫だって! バルト隊長が当てにならなくても、殿下と先生がきっとどうにかしてくれるよ。特に先生は神様関連の問題に強そうだしね。秘密を守るのは大切なことだけど、一部例外を作る事はできるんじゃない?」
ミシェルさんも言うように、ルーイ様ならなんとかしてしまいそうな気もする……なんせ『神』そのものだ。だが、そうなると身分を隠したままでは難しいのではないだろうか。神官たちが簡単に規則を破るはずがないというレナードさんの言葉もその通りだと思うし……
各自が意見を出し合い、話し合いが白熱し始めた頃……私たちのやり取りを傍観していたフェリスさんが口を開いた。
「リアン大聖堂の懺悔室で聴罪を担当していたのは、バルカム司祭です。それで、その……大変申し上げにくいのですが……このバルカム司祭にはとある疑惑がありまして。そのため守秘義務などの規則とは別の理由で、我々がニコラ・イーストンの告白内容を知るのは困難になるのではないかと思われます」
「それはどういう意味ですか。フェリスさん」
皆の視線が一斉にフェリスさんへと向けられている。彼女が何を語るのか興味津々だ。言い難いと前置きをしていたこともあってか、なかなか本題に入れない彼女を、私たちの熱い視線が後押しした。
バルカムという司祭について……彼女は自分が知っている情報を話し始めたのだった。
「子供に司祭の代理をさせていた!?」
「あっ、あくまで噂です。証拠などはありません。私も人から聞いた話ですので……」
「つまり、そのバルカム司祭は懺悔室での聴罪を子供に任せていたということだね。フェリスさんはその噂を誰から聞いたの?」
「リアン大聖堂にいる子供たちです。何人か仲良くさせて貰っている子がいて、その筋から……」
「子供の言うことかよ~」
「でもその子供って、教会で雑用とかしてる子たちなんでしょ? 根拠もなくそんな話が出てくるとは思えない。ただの噂で片付けてしまうのは浅慮ではないかな」
「確かに……火の無いところになんとやらだしな」
レナードさんとルイスさんはフェリスさんの言葉に驚きを隠せない。ミシェルさんとリズも顔を見合わせて狼狽えている。
聴罪司祭は神の代理人として告白者の罪を聴き、赦しを与えるというとても大切な役割だ。バルカム司祭はその大切な役を放棄して、あろうことか市井の子供たちに代わりをやらせていたというのだ。
リアン大聖堂の近くには児童養護施設があるので、子供の出入りも多いらしい。その中には聖堂内で簡単な手伝いをしてお小遣いを貰っている者もいるという。司祭の代理をさせられていた子供も同じだったようだ。
証拠があるわけではなく、フェリスさんも噂であると強調しているけど、万が一事実であるなら大問題だ。
「どのくらいの頻度で代理を立てていたかは分からないけど、その噂が本当であるならニコラさんの告白内容を知るのは無理だろうね」
「ああ。そもそも司祭本人が聞いていない可能性すらある。守秘義務がどうとか言える段階ですらない。代わりをしていたという子供も金を貰ってる以上、自ら名乗り出ることもないだろうしな」
レナードさんとルイスさんは両手を上げた。お手上げという意味だろう。せっかく真実に近付ける重要な情報が手に入りそうだったのに。本当に他に方法はないのだろうか。
信徒が自らの犯した罪を司祭に告白し、神に許しを請うために使われる場所。
フェリスさんの話だと、ニコラさんはリアン大聖堂を訪れるたびに懺悔室を利用していたらしい。つまり、彼女には悔い改めたい罪や過ちがあるという事になる。
「懺悔室……ですか。一応知識としてはありますが、私はリアン大聖堂に行ったことがありません。フェリスさん、どのような雰囲気なのか聞かせて頂けますか?」
「はい。リアン大聖堂の懺悔室は祭壇横に設置されており、信徒であれば身分関係なく誰でも利用することができます。時間制になっていて、毎日午後14時から16時の2時間のあいだに利用可能です。1人当たりの所要時間は大体10分から15分程度。多い時は1日に10人くらいの告白者がいるそうです」
フェリスさんがリアン大聖堂を訪れる時間帯はその都度異なっていたそうだけど、ニコラさんは決まって14時から16時の間……懺悔室が開放されているタイミングに合わせて姿を現していたらしい。これはフェリスさん以外の他の来訪者の証言でもある。実際に懺悔室に入って行くところを見た人もいるという。
「信徒たちの告白を聞いてるのって神官だよね。そいつらに聞いたらニコラ・イーストンが何に悩んでいたか分かるんじゃないの?」
「……そう簡単にはいかないと思うよ、ルイス。彼らには守秘義務があるからね。聴罪担当の神官は、懺悔室の中で告白者が語った内容を絶対に口外してはいけないんだ。いつ如何なる場合もその秘匿性が失われてはならない。規則を破れば厳罰に処されてしまう」
「いや、それはそうかもしれないけどさ。人ひとり行方不明になってんだぜ。しかも襲撃事件の重要参考人が!! そんなこと言ってられないだろ」
守秘義務は当然守られなければならない。教会の信用にも関わる。でも、告白の内容が犯罪行為などの場合は例外にするべきという、ルイスさんの主張も理解できる。神官たちには守秘義務はあっても通報義務はない……これは難しい問題だな。
ニコラさんは一体何を思い詰めていたのだろうか。それが分かれば、彼女の居場所を突き止めることができるかもしれない。それでも……懺悔室の中で話された告白を、私たちが知ることは現状ほぼ不可能なのだった。
「なあ、フェリスはこの話バルト隊長にもしたんだよな。あの人も割と熱心な信徒じゃん。教会側に強く出れなそうで不安だわ……」
「こちらがどのように対処しようが、最終的には聴罪を担当した神官個人の裁量に委ねられると思います。ニコラさんの告白内容に問題があったとしても、果たして破門を覚悟してまで通報するかと聞かれたら……可能性は薄いでしょう」
「るーくんも、れーくんも心配しすぎ。大丈夫だって! バルト隊長が当てにならなくても、殿下と先生がきっとどうにかしてくれるよ。特に先生は神様関連の問題に強そうだしね。秘密を守るのは大切なことだけど、一部例外を作る事はできるんじゃない?」
ミシェルさんも言うように、ルーイ様ならなんとかしてしまいそうな気もする……なんせ『神』そのものだ。だが、そうなると身分を隠したままでは難しいのではないだろうか。神官たちが簡単に規則を破るはずがないというレナードさんの言葉もその通りだと思うし……
各自が意見を出し合い、話し合いが白熱し始めた頃……私たちのやり取りを傍観していたフェリスさんが口を開いた。
「リアン大聖堂の懺悔室で聴罪を担当していたのは、バルカム司祭です。それで、その……大変申し上げにくいのですが……このバルカム司祭にはとある疑惑がありまして。そのため守秘義務などの規則とは別の理由で、我々がニコラ・イーストンの告白内容を知るのは困難になるのではないかと思われます」
「それはどういう意味ですか。フェリスさん」
皆の視線が一斉にフェリスさんへと向けられている。彼女が何を語るのか興味津々だ。言い難いと前置きをしていたこともあってか、なかなか本題に入れない彼女を、私たちの熱い視線が後押しした。
バルカムという司祭について……彼女は自分が知っている情報を話し始めたのだった。
「子供に司祭の代理をさせていた!?」
「あっ、あくまで噂です。証拠などはありません。私も人から聞いた話ですので……」
「つまり、そのバルカム司祭は懺悔室での聴罪を子供に任せていたということだね。フェリスさんはその噂を誰から聞いたの?」
「リアン大聖堂にいる子供たちです。何人か仲良くさせて貰っている子がいて、その筋から……」
「子供の言うことかよ~」
「でもその子供って、教会で雑用とかしてる子たちなんでしょ? 根拠もなくそんな話が出てくるとは思えない。ただの噂で片付けてしまうのは浅慮ではないかな」
「確かに……火の無いところになんとやらだしな」
レナードさんとルイスさんはフェリスさんの言葉に驚きを隠せない。ミシェルさんとリズも顔を見合わせて狼狽えている。
聴罪司祭は神の代理人として告白者の罪を聴き、赦しを与えるというとても大切な役割だ。バルカム司祭はその大切な役を放棄して、あろうことか市井の子供たちに代わりをやらせていたというのだ。
リアン大聖堂の近くには児童養護施設があるので、子供の出入りも多いらしい。その中には聖堂内で簡単な手伝いをしてお小遣いを貰っている者もいるという。司祭の代理をさせられていた子供も同じだったようだ。
証拠があるわけではなく、フェリスさんも噂であると強調しているけど、万が一事実であるなら大問題だ。
「どのくらいの頻度で代理を立てていたかは分からないけど、その噂が本当であるならニコラさんの告白内容を知るのは無理だろうね」
「ああ。そもそも司祭本人が聞いていない可能性すらある。守秘義務がどうとか言える段階ですらない。代わりをしていたという子供も金を貰ってる以上、自ら名乗り出ることもないだろうしな」
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