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269話 進展(3)
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『お願い』の内容を聞いてフェリスさんは戸惑っていた。ミシェルさんたちにどうするべきかと視線で訴えかけている。『とまり木』の面々も判断に困っているようだ。助け舟を求めるフェリスさんに対してなかなか返事を出せないでいる。
ニコラさんの話はフィオナ姉様にも関わってくるかもしれない。私に聞かせて良いものか迷っているのだろう。
私は最近になってようやく姉様の現状を把握した。その内容にショックを受けて、数日体調が優れなかったのだ。寝込むほどではなかったにせよ、また体に変調をきたしてはいけないと危惧されている。
「クレハ様……良いのですか?」
リズがおずおずと私の意思を再確認した。皆に心配をかけるのは本意ではないけど、ニコラさんの件だっていずれ知ることになるのだ。それなら早めに聞いてしまった方がいい。それに、せっかく当事者であるフェリスさんが目の前にいる。生の声を直接聞けるこのチャンスを逃したくはない。
「うん、大丈夫。フェリスさん、どうかお願いします」
「……クレハ様にそのようにお願いされては、お断りなんて出来ないですよね」
私から再度懇願され、フェリスさんは重い口を開いた。『とまり木』の方たちも相変わらず心配そうな顔はしているものの、反対意見を言う人は誰もいなかった。たったこれだけのことでも、信用されているようで嬉しくなる。
「それでは、シャロン・フェリス。ニコラ・イーストンについての陳述をさせて頂きます」
フェリスさんはバルト隊長に報告した内容をそのまま私に教えてくれるみたいだ。無理を承知でお願いして良かった。
ミシェルさんとリズもずっと私の側にいたのでフェリスさんの報告についての詳細をまだ知らない。特にミシェルさんは、ニコラさんの異変にいち早く気づいた方なので、私と同じくらい気になっているはずだ。
「私、こう見えて信仰心の厚い方でして……3日に一度くらいの頻度でリアン大聖堂へお祈りのために通っていたのです。ニコラさんを目撃したのはその時になります」
フェリスさんが所属している二番隊はリザベット橋周辺の警備にあたっている。担当は持ち回りで3ヶ月ごとに交代になるのだという。その期間に滞在している軍の詰所がリアン大聖堂に近いため、フェリスさんは仕事の合間を縫って訪れていたらしい。
「姫さんに俺らが贈ったバングルとアンクレット……あれリアン大聖堂で買ったって言ってたでしょ。教えてくれたのがフェリスなんだよ」
「そうだったんですか。フェリスさんも教会でアクセサリーを購入なさったのですか?」
「はい。私が購入したのはこのブレスレットです。これがたまたまレナードさんの目に留まり、クレハ様の贈り物の候補となったのです。アクセサリーとしても使えますが、私は専らお守りとして重宝しております」
フェリスさんの手首には、銀色のチェーンに青い石が装飾された綺麗なブレスレットが付けられていた。リアン大聖堂に出店しているお店の話は少しだけ聞いていたけど、良質な品をリーズナブルな価格で購入できる穴場らしい。お店が目当てで通っている人もいるのだとフェリスさんが教えてくれた。
「ニコラ・イーストンの事は……最初はそれが彼女だとは知らずに認識しておりました。それなりに来訪者が多い聖堂内で、私がニコラさんを覚えていたのには理由があります。彼女の存在は明らかに異質で浮いていた。頼りなさげな表情に、おぼつかない足取りで……いつか倒れてしまうのではと心配になるほどでした。一度だけ話しかけたこともあるのです」
「フェリスさん、ニコラさんと会話してたの!?」
ミシェルさんが声を上げた。私も声こそ上げなかったけど驚いた。姿を目撃しただけだと思っていたのに、なんとフェリスさんはニコラさんと接触していたのだった。
「ええ。会話というほどではないのですけど、黙って見ていられなくて、つい……」
「それで、それで、ニコラさんは何て?」
「具合が悪いのかと尋ねたら『違う』と一言だけ。あまり構われたくなかったようで、迷惑がられてしまいました。大丈夫だから放っておいて欲しいと頼まれたので、それ以降は姿を見かけても本人とは直接関わらないようにしていました」
それでもフェリスさんはニコラさんのただならぬ雰囲気が気になってしまい、気付かれないよう行動を注視していたそうだ。職業柄放っておくわけにもいかなかったのだろう。
「私がリアン大聖堂でニコラさんを見かけた回数は4、5回程度ですが、商人や他の来訪者の話によると彼女はふた月ほど前から頻繁に姿を見るようになったということです。でも……ニコラさんが女神に祈りを捧げる所を見た人は誰もいませんでした」
ニコラさんがリアン大聖堂に通うようになったのはふた月前。私が家を出て王宮で生活するようになった時期と一致している。なんだか胸の辺りがぞわぞわしてきた。
「教会に通ってるのに? あっ、ニコラさんも出店目当てだったのかな。確か、フェリスさんが贔屓にしてるとこでバングルを買ったっていうのは判明してるんだよね。クレハ様のと似たデザインの奴」
ミシェルさんがニコラさんの様子がおかしいと気づくきっかけになったバングル。リアン大聖堂で販売している物はアクセサリーより御守りとしての用途が強いみたいだし、ニコラさんは何かから身を守りたかったのかもしれない。
「もちろん、その可能性もあります。ですが、ニコラさんはリアン大聖堂に来ると必ず行っていた事があるので、本命はそちらではないかと思います。私を含めて目撃者も多数おりますから、信憑性は高いかと」
「ニコラさんがしていたこと……それは何なのですか?」
「懺悔です。ニコラさんはリアン大聖堂にある懺悔室を利用するために、足繁く通っていたのだと推察されます」
ニコラさんの話はフィオナ姉様にも関わってくるかもしれない。私に聞かせて良いものか迷っているのだろう。
私は最近になってようやく姉様の現状を把握した。その内容にショックを受けて、数日体調が優れなかったのだ。寝込むほどではなかったにせよ、また体に変調をきたしてはいけないと危惧されている。
「クレハ様……良いのですか?」
リズがおずおずと私の意思を再確認した。皆に心配をかけるのは本意ではないけど、ニコラさんの件だっていずれ知ることになるのだ。それなら早めに聞いてしまった方がいい。それに、せっかく当事者であるフェリスさんが目の前にいる。生の声を直接聞けるこのチャンスを逃したくはない。
「うん、大丈夫。フェリスさん、どうかお願いします」
「……クレハ様にそのようにお願いされては、お断りなんて出来ないですよね」
私から再度懇願され、フェリスさんは重い口を開いた。『とまり木』の方たちも相変わらず心配そうな顔はしているものの、反対意見を言う人は誰もいなかった。たったこれだけのことでも、信用されているようで嬉しくなる。
「それでは、シャロン・フェリス。ニコラ・イーストンについての陳述をさせて頂きます」
フェリスさんはバルト隊長に報告した内容をそのまま私に教えてくれるみたいだ。無理を承知でお願いして良かった。
ミシェルさんとリズもずっと私の側にいたのでフェリスさんの報告についての詳細をまだ知らない。特にミシェルさんは、ニコラさんの異変にいち早く気づいた方なので、私と同じくらい気になっているはずだ。
「私、こう見えて信仰心の厚い方でして……3日に一度くらいの頻度でリアン大聖堂へお祈りのために通っていたのです。ニコラさんを目撃したのはその時になります」
フェリスさんが所属している二番隊はリザベット橋周辺の警備にあたっている。担当は持ち回りで3ヶ月ごとに交代になるのだという。その期間に滞在している軍の詰所がリアン大聖堂に近いため、フェリスさんは仕事の合間を縫って訪れていたらしい。
「姫さんに俺らが贈ったバングルとアンクレット……あれリアン大聖堂で買ったって言ってたでしょ。教えてくれたのがフェリスなんだよ」
「そうだったんですか。フェリスさんも教会でアクセサリーを購入なさったのですか?」
「はい。私が購入したのはこのブレスレットです。これがたまたまレナードさんの目に留まり、クレハ様の贈り物の候補となったのです。アクセサリーとしても使えますが、私は専らお守りとして重宝しております」
フェリスさんの手首には、銀色のチェーンに青い石が装飾された綺麗なブレスレットが付けられていた。リアン大聖堂に出店しているお店の話は少しだけ聞いていたけど、良質な品をリーズナブルな価格で購入できる穴場らしい。お店が目当てで通っている人もいるのだとフェリスさんが教えてくれた。
「ニコラ・イーストンの事は……最初はそれが彼女だとは知らずに認識しておりました。それなりに来訪者が多い聖堂内で、私がニコラさんを覚えていたのには理由があります。彼女の存在は明らかに異質で浮いていた。頼りなさげな表情に、おぼつかない足取りで……いつか倒れてしまうのではと心配になるほどでした。一度だけ話しかけたこともあるのです」
「フェリスさん、ニコラさんと会話してたの!?」
ミシェルさんが声を上げた。私も声こそ上げなかったけど驚いた。姿を目撃しただけだと思っていたのに、なんとフェリスさんはニコラさんと接触していたのだった。
「ええ。会話というほどではないのですけど、黙って見ていられなくて、つい……」
「それで、それで、ニコラさんは何て?」
「具合が悪いのかと尋ねたら『違う』と一言だけ。あまり構われたくなかったようで、迷惑がられてしまいました。大丈夫だから放っておいて欲しいと頼まれたので、それ以降は姿を見かけても本人とは直接関わらないようにしていました」
それでもフェリスさんはニコラさんのただならぬ雰囲気が気になってしまい、気付かれないよう行動を注視していたそうだ。職業柄放っておくわけにもいかなかったのだろう。
「私がリアン大聖堂でニコラさんを見かけた回数は4、5回程度ですが、商人や他の来訪者の話によると彼女はふた月ほど前から頻繁に姿を見るようになったということです。でも……ニコラさんが女神に祈りを捧げる所を見た人は誰もいませんでした」
ニコラさんがリアン大聖堂に通うようになったのはふた月前。私が家を出て王宮で生活するようになった時期と一致している。なんだか胸の辺りがぞわぞわしてきた。
「教会に通ってるのに? あっ、ニコラさんも出店目当てだったのかな。確か、フェリスさんが贔屓にしてるとこでバングルを買ったっていうのは判明してるんだよね。クレハ様のと似たデザインの奴」
ミシェルさんがニコラさんの様子がおかしいと気づくきっかけになったバングル。リアン大聖堂で販売している物はアクセサリーより御守りとしての用途が強いみたいだし、ニコラさんは何かから身を守りたかったのかもしれない。
「もちろん、その可能性もあります。ですが、ニコラさんはリアン大聖堂に来ると必ず行っていた事があるので、本命はそちらではないかと思います。私を含めて目撃者も多数おりますから、信憑性は高いかと」
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