リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

文字の大きさ
291 / 302

290話 懺悔室で(1)

しおりを挟む
 マードック司教様の案内で、私たちは懺悔室のある場所まで到着した。開放時間ではないので周辺にいる人はまばらだ。
 懺悔室は祭壇から向かって右側の廊下に設置されていた。部屋は中央に置かれた窓付きの衝立で仕切られていて、小部屋がふたつ繋がっているような造りをしている。それぞれのスペースは人がひとり入れるくらいの大きさだ。

「想像以上に狭いね。小柄な大人ならギリふたり入れるかもってとこか。レナードやルーイ先生みたいにデカいと、ひとりでもキツいかもね」

「そもそも複数人で入ることを想定してないだろうからね。司祭と信徒の一対一が基本でしょ」

「こちらの部屋に司祭……そしてこちらには告白をする信徒が入る。この間に置かれた衝立がお互いの姿を隠してくれるのですね」
 
 私たちは懺悔室に入ってみることにした。ニコラさんの行動を実際に辿ってみる事で、新たな気づきを得られかもしれないからだ。

「かなりしっかりした衝立だな。壁とほぼ変わらない。部屋の天井スレスレまでの高さがあるし、この小窓もステンドグラスで向こう側が見えなくなってる。それでも窓の下にあるこの細い通気口のおかげで声は通るから、会話は問題なく行えるな」

 ルーイ様は狭い室内をじっくりと観察している。私も彼に倣って後ろから中を覗いてみたものの……部屋には椅子くらいしかなく、何かを発見することはできなかった。

「マードック。ちょっとお前、そっちの部屋に入ってどんな感じで告白を聞くのかやってみて。俺が懺悔する信徒の役やるから」

「えっ……ちょっ、いきなりそんな……。しかもルーイ様が信徒の役など……」

 ルーイ様は困惑する司教様をなかば強引に懺悔室の中に押し込んだ。そして、自分は司教様と反対側の部屋に入り込む。本来なら使用中は入り口の扉は閉じられるはずだけど、今回は検証のためなのでどちらの扉も開いたままである。
 それにしても、さすがルーイ様だ。こんなところでも私たちを驚かせてくれる。まさか司教様を巻き込んで擬似懺悔を行うなんて……

「それでどうやるのこれ。入ったら勝手に喋っていいの?」

「小窓の横に簡単な作法が記された張り紙が貼ってありますので、それを参考にして下さい」

「張り紙ね……あっ、これか。えーっと……なになに。クレハたち、俺とマードックが告白の様子を実際に再現するから、気づいた事があったら遠慮なく言ってね」

「あの……素朴な疑問なんですけど、ルーイ様に懺悔する事なんてあるのですか?」

『神様なのに……』と続けて言おうとしたのを慌てて飲み込んだ。彼は懺悔を聞いて赦しを与える側だろう。

「クレハよ、俺にだって後悔してること……やってしまったことへの罪悪感で悩む時だってあるの。まあ、今から俺が話すのは懺悔というよりは失敗談だけどね。雰囲気を再現するだけだから、細かいことは気にしないの」

 ルーイ様は神の力を奪われて人間の世界に落とされた。あっという間に周囲と打ち解けた風に見えていたが、心の内側では不安や気苦労を抱えていたに違いない。さすがに皆が聞いているこの場で深刻な話はしないだろうけど、ルーイ様にだって悩みくらいあって当然だ。

「はい。それでは……神に心を開き、貴方の罪を告白して下さい」

 細かいことは気にするな……ルーイ様がそう仰ったので、司教様も吹っ切れたようだ。私たちの目の前でルーイ様の懺悔が始まってしまった。彼は何を語るつもりだろうか。

『あ、あの……ほんとに誰にも言わないでくれるんですよね。秘密は絶対に守って貰えるのですかっ……!?』

「ぶはっ……!」

 いきなり口調が変わったルーイ様を見て、ルイスさんが我慢できずに吹き出してしまった。こんな扉全開な状態で秘密もクソもない。なんでちょっと小芝居入ってるんだ。一気に茶番感が増したな。

『もちろんです。貴方が行った告白が第三者に漏れることはありません。安心してお話し下さい』

 司教様は律儀にルーイ様に付き合ってあげている。それでも脱力感は否めないのか、表情は虚ろとしていた。

『はい。私、ある人にとても申し訳ないことをしてしまったのです。謝らなければと分かっているのですが、どうしても言えなくて……。その方の事を想うと……毎日が苦しくてたまらないのです』

 作り話だろうか。演技をしているせいで嘘くさく聞こえる。失敗談とも言っていたから多少ぼかしが入っていても、内容自体はルーイ様の実体験なのかもしれない。

『……大丈夫ですよ。貴方は己の行いを後悔してここにやって来たのでしょう。女神は悔い改めようとしている信徒を決して見捨てはしません。さあ、勇気を出して話してごらんなさい』

『はい……』

 いま司教様がやっている役を子供にやらせていたんだよね。相手の状況によって違うのだろうけど、結構しっかり信徒と会話をするんだな。やはり軽々しく代理など立ててはいけない重要な仕事だ。

『実は……服を借りたんですけど、駄目にしてしまったんです。それで、いまだに返せていなくて』

『駄目と言われますと、汚したり破いたりしてしまったという意味ですか?』

『はい。盛大に汚しました』

 ルーイ様に服を貸した人というと、該当するのは3人だ。ひとり目は『アルバビリス』を貸したジェラール陛下。しかし、アルバビリスは特別な衣装なため、使用後すぐに返却したとルーイ様が言っていた。そうなると……私は隣にいるレナードさんへ視線を向けた。彼もルーイ様に服を一式貸していたはずだ。駄目になったというのはレナードさんの服か。私はそう予想した。ところが、レナードさんは小声で『私のじゃないですよ』と言って、首を横に振ったのだ。レナードさんではないとすると……

『その服を貸してくれたのは、実は……私の想い人なんです』

『はあっ!?』

 司教様は告白を聞いている最中だというのに、声を上げてしまった。フェリスさんも司教様と同様に驚いたようで目を丸くしている。
 ルーイ様の想い人……私とクラヴェル兄弟はきっと同じ人物を想像しているだろう。彼に服を貸したという条件で、陛下でもレナードさんでもないとすると……もう、ひとりしかいない。
 以前からそうではないかと思っていたので、そこまで衝撃を受けていない。どちらかというと、ルーイ様が明言したことに驚いた。曖昧でぼかしたような表現ではなく『想い人』なのだとはっきりと――――

 セドリック・オードランさん。レオンのお目付け役で『とまり木』の隊長。彼が……ルーイ様の好きな人だ。
 まさか懺悔室を調べに来て、ルーイ様の告白を聞くことになるとは思わなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...