リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

文字の大きさ
56 / 302

55話 前日

しおりを挟む
 リオラド神殿から戻って来てからレオンが変だ。この前の不安げで、泣きそうだった感じとも違う。私の顔をじっと眺めては、何か言いたそうにしているのに、すぐに目を逸らしてしまう。家に帰る相談をしようと思っていたのだけど……そんな雰囲気じゃないなぁ。
 ジェフェリーさんにはプレゼントを頂いたその日のうちに、手紙を書いて届けて貰った。でも……やっぱり直接会って感謝の気持ちを伝えたかったな。
 レオンは午前のお勉強が終わると、用事が無い限りはずっと私の側にいてくれる。一緒に訓練場で鍛錬したり、中庭を散歩したり……のんびりお喋りをしたりなど。今はリズから貰った本について話しをしていた。2人がけのソファに並んで座りながら……彼がやたらと密着してくるのには、流石にもう慣れた。しかし、レオンはどこか上の空で、呼びかけたら応えてはくれるけれど、心ここに在らずといった様子だ。

「レオン……どうかしたんですか?」

「えっ? ああ……ごめん。ちょっと考え事をしてて」

 彼はすまなそうに眉尻を下げ、私の頬に触れる。その手が輪郭をなぞるように顎へ向い、まるで仔猫をあやすかのように喉元をくすぐる。

「ふふっ、くすぐったいです」

「……クレハ、明日俺に付き合ってくれないかな? 君に会わせたい人がいるんだ」

「会わせたい人……」

「そう、ちょっと特殊な事情のある方でね。俺とクレハのふたりだけで……場所は、俺達が初めて会った庭園の温室で」

 私とレオンだけ……それもあの温室で? 後で聞いたのだが、あの温室は王族の……ディセンシア家の人間以外は立ち入り禁止だったのだそうだ。例外として数人の庭師だけが入室を許可されてはいるけれど、手入れの間の1日数時間だけ……
 以前、温室内で私が倒れた時は非常事態ということで特別だっだが、本来ならセドリックさんも入れないらしい。そんな場所にずかずかと侵入してしまったのかと冷や汗をかいたけれど、特に罰を受けることはなかった。レオンが予めジェラール陛下に、私が温室に立ち入る許可を取っていてくれたおかげだった。それを聞いてほっと胸を撫で下ろす。俺が中へ入ってくるように誘導してたんだから、怒られるわけないだろとレオンは笑っていた。
 
「その人について色々考えていたら、没頭しちゃってね。緊張しているのかな……俺は初めて会うから」

「レオンも緊張するんですか」

「そりゃ、するよ。俺だって緊張くらい……」

 私と2歳しか変わらないのに、レオンはいつも堂々としていて立派だ。生まれながらの王子様である彼とは立場が違うので、比べるのが間違っているのだけども……。そんなレオンが緊張する相手とは、どんな方なんだろう。

「大切なお客様なんですね……」

「うん、そうだね……。だからもし、俺が上手くお相手できなくて困ったら、クレハに助けて貰おうかな」

「私に!?」

 何を言ってるんだ、この人は……レオンが無理なことを私ができるわけないじゃないか。ただでさえ自分は対人能力が低いというのに……。最悪、お客様を怒らせてしまうかもしれないのだ。幼馴染のカミル相手ですら、知らず知らずに怒らせてしまった記憶が、私の心に重くのしかかっている。レオンの無茶振りに、私は開いた口が塞がらない。

「凄い顔してる。俺そんなに驚くような事言ったかな」

「私のせいで、その方が気分を害されてしまうかもしれませんよ……」

「そんなことないよ。クレハは挨拶だって上手にできてたって、母上も褒めてたんだから」

「それは……事前にたくさん練習したからで……。私にはフィオナ姉様みたいにはできません」

 段々と愚痴のようになっていく……こんなこと言いたくないのに。

「誰だって不得手なこと、やりたくないことは沢山あるよ。俺だってそう。好きな事だけやれたらいいのにって思うけど、そう都合良くはいかないんだよね。苦手でも頑張って練習しているクレハは偉いよ」

「時々サボって逃げ出しちゃいますよ?」

「息抜きも必要」

 レオンはいたずらっぽく笑う。もしかして、彼も逃げたことがあるのかな。

「どうしても周りと比べてしまうかもだけど、自分のペースでゆっくりやればいいんだよ。クレハはクレハのままでいて良いんだ……俺は、そのままの君が大好きだからね」

 またそんな恥ずかしい台詞を……でも、どうしてだろう……悲しくもないのに何故だか涙が出そうだ。レオンの顔を見ていると、ますます緩む涙腺をどうにかしたくて、私は俯いて視線を逸らした。けれど、そのせいで目の縁に溜まっていた涙が、ポロポロと膝の上に落ちていく。
 レオンは私の頭を自身の胸元に引き寄せた。泣いているのにはとっくに気付かれている。彼の胸におでこをくっ付けて、軽く体重をかけた。すると、ふわりと良い香りがした。優しくてとても安心する……レオンの匂い。

 
「明日会うお客様に……お出しするお茶とお菓子は、何がいいと思う?」

「お菓子?」

「甘い物がお好きらしいんだよ。セドリックに頼んで、最高に美味しいのを作って貰うから、今から準備しておかないとね」

「……フルーツタルト」

「それってクレハが食べたいものなんじゃない?」

「バレちゃいました」

「いいね、タルト。今の時期は何の果物が美味しいだろうね」

「チェリーとかブドウとか……あと桃も! この前『とまり木』で頂いたゼリー、とっても美味しかったです」

 泣いていた顔を上げて、興奮気味にレオンに詰めよった。食べ物の話題になった途端に元気になる自分は単純だと思う。レオンは私の濡れた目元を指先で優しく拭いながら、話を聞いてくれた。

「クレハが選んだものなら、きっと気に入って下さるよ」

「セドリックさんが作ったものなら、ですよ」

「もちろん、あいつの腕が良いのは分かってる。その上で、クレハのおすすめなら間違いないってこと」

 さっきからレオンは、やたらと私がお客様を上手におもてなしできるかのように言うな。同じ甘い物好きだから、気が合うと思っているのだろうか。
 王族しか入ることのできない特別な場所……レオンは人目を避けたい時に、あの温室を利用しているみたいだ。お客様の方にも、色々と事情がお有りのようだけれど……
 レオンが失敗するなんて思えないが、万が一に備えて私もご挨拶の練習をしておくことにしよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

何も言わずメイドとして働いてこい!とポイされたら、成り上がり令嬢になりました

さち姫
恋愛
シャーリー・サヴォワは伯爵家の双子の妹として産まれた 。実の父と双子の姉、継母に毎日いじめられ、辛い日々を送っていた。特に綺麗で要領のいい双子の姉のいつも比べられ、卑屈になる日々だった。 そんな事ある日、父が、 何も言わず、メイドして働いてこい、 と会ったこともないのにウインザー子爵家に、ポイされる。 そこで、やっと人として愛される事を知る。 ウインザー子爵家で、父のお酒のおつまみとして作っていた料理が素朴ながらも大人気となり、前向きな自分を取り戻していく。 そこで知り合った、ふたりの男性に戸惑いながらも、楽しい三角関係が出来上がっていく。 やっと人間らしく過ごし始めたのに、邪魔をする家族。 その中で、ウインザー子爵の本当の姿を知る。 前に書いていたいた小説に加筆を加えました。ほぼ同じですのでご了承ください。 また、料理については個人的に普段作っているのをある程度載せていますので、深く突っ込むのはやめてくださいm(*_ _)m 第1部の加筆が終わったので、ここから毎日投稿致しますm(_ _)m

元社畜悪役令嬢、辺境のボロ城を全自動ボタニカル美容スパに大改造して引きこもる ~前世コスメで冷徹公爵を完治させたら溺愛されました~

季未
恋愛
「貴様のような悪逆非道な女は、極寒の辺境へ追放だ!」 建国記念の夜会で王太子から婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロッテ。 しかし、彼女の中身は前世でブラック企業に殺された過労で過労死したマーケターだった! (激務の王妃ルート回避!? しかも辺境は誰にも邪魔されないブルーオーシャン! 最高のフリーランス生活の始まりじゃない!) 理不尽な追放を究極のホワイト・スローライフへのパスポートだと歓喜した彼女は、あてがわれた辺境のボロ城を、前世の「DIY・スマートホーム知識」と「土・水魔法」を駆使して爆速で大改造! 隙間風の吹く部屋は、一瞬で「床暖房完備の全自動温水スパ」へ。 辺境に自生する雑草からは「極上ボタニカルコスメ」を開発し、自らも絶世の美女へと変貌していく。 さらに「お前には干渉しない」と白い結婚を突きつけてきたはずの、呪いで顔に火傷を負った氷の公爵に特製マッサージと美肌治療を施したところ……。 「お前が作ったこの空間と、お前自身が……俺のすべてだ」 冷徹だったはずの公爵様が、極上の癒やし空間と彼女の手技で完全に骨抜きにされ、異常なまでの過保護・溺愛モードに突入!? 現代マーケティングと美容チートで辺境を超高級スマート・リゾートへと再生させ、かつて自分を追放した王太子たちを大後悔させる! 爽快&極甘な、異世界リゾート経営×溺愛ファンタジー、堂々開幕!

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界で、自分の幸せを選べるようになるまでの逆ハーレム恋愛ファンタジー。

処理中です...