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180話 衝突(1)
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「いってーーーー!!」
中庭に響いたのはルーイ先生の声。何が起きたの? カレンはっ……!?
「リズちゃん、大丈夫!?」
「ジェフェリーさん……」
ジェフェリーさんに肩を揺すられる。そのおかげで私は正気付くことができた。
先生は地面に尻餅をついていた。痛みに顔を歪めながら打ち付けた箇所を撫でさすっている。転んだのか? どうしていきなりそんな事になっているの。
「カレンちゃんが……」
青褪めた顔でジェフェリーさんは呟いた。彼が見つめている方向へ私も視線を動かす。数メートルほど離れた先にカレンがいた。いつの間にあんな所に……。私とジェフェリーさんには見向きもせず、正面に対峙している人物を睨みつけている。
「一応確認しておくが、この方のお立場を理解した上での狼藉か?」
「関係無い。主に害をなす者……どこの誰であろうが例外無く切り捨てる」
カレンに負けないくらいの殺気を放ち、彼女を牽制しているのはセドリックさんだ。両者の間には一定の距離が保たれており、双方出方を伺っているようだった。
『切り捨てる』という言葉が示す通り、カレンの両手には短刀のような物が握られていた。あんなのどこに隠し持っていたのだろうか。
「あの子……カレンちゃん、何なんだよ一体。突然訳わかんないこと言い出したと思ったら、あの短い剣でルーイ先生に切りかかって行ったんだよ」
呆けていた私と違って、ジェフェリーさんはしっかりと見届けていた。ほんの一瞬の出来事だったので、細かい部分は分からないそうだけど。
あわや首を切り裂かれてしまう所だったルーイ先生は、転んだことによってそれを回避したのだった。思い切り尻餅をついたせいで、腰から臀部を痛めてしまったようだけど命には変えられない。
カレンの攻撃はカラ振りに終わった。もちろんそのような状況になったのは偶然ではなくて――
「先生も俺も動けなかったんだ。カレンちゃんの姿を唖然と見つめることしか出来なかった。でも……セドリックさんは違った」
先生をカレンの攻撃から守ったのは、先生の隣にいたセドリックさんだという。
「セディ……助けてくれたのは嬉しいんだけどさ、もっと優しくして欲しかったな」
「咄嗟だったので、すみません」
攻撃を避けさせるため、セドリックさんは先生に足払いをかけて故意に転倒させたのだった。カレンからしたら、目の前にいた先生がいきなり消えてしまったかのように見えただろう。振り抜いた刃は空を切った。
攻撃が失敗したカレンをセドリックさんはすかさず捕らえようとしたけれど、彼女もすぐに体勢を立て直し、今度はセドリックさんへ刃を向ける。そして今に至ると……
「ルーイ先生、動けますか?」
「うん、なんとか……」
「ゆっくりで構いませんから、リズさんとジェフェリーさんのもとへ向かって下さい」
先生はセドリックさんの言葉に従い、四つん這いの姿勢でこちらへ向かってくる。動くとやはり痛めた腰回りに響くのか、表情をこわばらせていた。セドリックさんは先生と会話をしながらも、目線はカレンに固定している。彼女の僅かな動きですら見逃すまいとしているようだった。
「先生大丈夫ですか?」
「お尻痛いよ……リズちゃん」
「動くことができているので、骨に異常は無いと思います。でもあとでお医者様に診て貰いましょうね」
「ルーイ先生、俺の肩に掴まって下さい」
「ありがと、ジェフェリーさん」
痛みを訴える先生が可哀想に見えてしまうけれど、もしカレンの攻撃が当たっていたら痛いではすまなかっただろう。荒っぽいやり方ではあったが、セドリックさんを責めることはできない。
「3人とも、そこから動かないで。このまま一箇所に固まって私の目の届く範囲にいて下さい」
セドリックさんが更に指示を出す。カレンの狙いは先生なので、セドリックさんがカレンを抑えてくれている間に避難した方が良いと思ったのだけど……私達がいても邪魔にしかならないだろうに。でもセドリックさんの考えは違うようだった。
「リズさん、この少女には連れがいるのですよね。その者の姿は見ましたか?」
「いいえ……」
さっきカレンが口にした『ノア』という名前……これが彼女の友人ではないかと思っているけど、その人はジェムラート家で働いてはいないようだった。マリエルさんから紹介されたのもカレンだけだったし。
「もし、今現在……彼女の仲間がどこかに身を潜めて我々の様子を伺っていたとしたら? 護衛の側から離れた瞬間、先生に襲い掛かってくるかもしれない」
「えっ、うそ。そんな……」
つい周囲を見回してしまう。中庭には人が隠れられるような所は無いと思うけど……私に分かるわけがなかった。
「先生の部屋にミシェルへ宛てた書き置きを残してあります。私達がジェフェリーさんに会いに中庭に向かったことはすぐに分かるはずです」
セドリックさんは自身のベルトに装着されているホルスターに手を伸ばした。常であれば軍刀を携えている彼だが、今回の任務に刃物類は持ち込んでいないようだった。そんな彼が代わりに取り出したのは……
「ミシェルがこちらに合流するまで……私の側から離れないで下さいね」
彼の手には黒くて短い棒のような物が握られていた。それを地面に向かって力強く振り下ろすと、カシャンと小気味良い音が鳴り響き、20センチ程度だった棒が倍ほどの長さにまでなっていた。棒は伸縮式だったのか。振り下ろした衝撃で収納されていた部分が伸び切ったのだ。セドリックさんはこの棒を武器にしてカレンと戦うつもりなのか。
「さて……先生に手を出された以上、任意同行なんて甘っちょろい事は言えなくなってしまいました」
セドリックさんがカレンへと呼びかける。両手に握られた短刀はそのままに、彼女は相変わらずのキツい目でセドリックさんを睨んでいた。
「カレン嬢、あなたを拘束します。多少手荒になりますが、ご了承下さい」
中庭に響いたのはルーイ先生の声。何が起きたの? カレンはっ……!?
「リズちゃん、大丈夫!?」
「ジェフェリーさん……」
ジェフェリーさんに肩を揺すられる。そのおかげで私は正気付くことができた。
先生は地面に尻餅をついていた。痛みに顔を歪めながら打ち付けた箇所を撫でさすっている。転んだのか? どうしていきなりそんな事になっているの。
「カレンちゃんが……」
青褪めた顔でジェフェリーさんは呟いた。彼が見つめている方向へ私も視線を動かす。数メートルほど離れた先にカレンがいた。いつの間にあんな所に……。私とジェフェリーさんには見向きもせず、正面に対峙している人物を睨みつけている。
「一応確認しておくが、この方のお立場を理解した上での狼藉か?」
「関係無い。主に害をなす者……どこの誰であろうが例外無く切り捨てる」
カレンに負けないくらいの殺気を放ち、彼女を牽制しているのはセドリックさんだ。両者の間には一定の距離が保たれており、双方出方を伺っているようだった。
『切り捨てる』という言葉が示す通り、カレンの両手には短刀のような物が握られていた。あんなのどこに隠し持っていたのだろうか。
「あの子……カレンちゃん、何なんだよ一体。突然訳わかんないこと言い出したと思ったら、あの短い剣でルーイ先生に切りかかって行ったんだよ」
呆けていた私と違って、ジェフェリーさんはしっかりと見届けていた。ほんの一瞬の出来事だったので、細かい部分は分からないそうだけど。
あわや首を切り裂かれてしまう所だったルーイ先生は、転んだことによってそれを回避したのだった。思い切り尻餅をついたせいで、腰から臀部を痛めてしまったようだけど命には変えられない。
カレンの攻撃はカラ振りに終わった。もちろんそのような状況になったのは偶然ではなくて――
「先生も俺も動けなかったんだ。カレンちゃんの姿を唖然と見つめることしか出来なかった。でも……セドリックさんは違った」
先生をカレンの攻撃から守ったのは、先生の隣にいたセドリックさんだという。
「セディ……助けてくれたのは嬉しいんだけどさ、もっと優しくして欲しかったな」
「咄嗟だったので、すみません」
攻撃を避けさせるため、セドリックさんは先生に足払いをかけて故意に転倒させたのだった。カレンからしたら、目の前にいた先生がいきなり消えてしまったかのように見えただろう。振り抜いた刃は空を切った。
攻撃が失敗したカレンをセドリックさんはすかさず捕らえようとしたけれど、彼女もすぐに体勢を立て直し、今度はセドリックさんへ刃を向ける。そして今に至ると……
「ルーイ先生、動けますか?」
「うん、なんとか……」
「ゆっくりで構いませんから、リズさんとジェフェリーさんのもとへ向かって下さい」
先生はセドリックさんの言葉に従い、四つん這いの姿勢でこちらへ向かってくる。動くとやはり痛めた腰回りに響くのか、表情をこわばらせていた。セドリックさんは先生と会話をしながらも、目線はカレンに固定している。彼女の僅かな動きですら見逃すまいとしているようだった。
「先生大丈夫ですか?」
「お尻痛いよ……リズちゃん」
「動くことができているので、骨に異常は無いと思います。でもあとでお医者様に診て貰いましょうね」
「ルーイ先生、俺の肩に掴まって下さい」
「ありがと、ジェフェリーさん」
痛みを訴える先生が可哀想に見えてしまうけれど、もしカレンの攻撃が当たっていたら痛いではすまなかっただろう。荒っぽいやり方ではあったが、セドリックさんを責めることはできない。
「3人とも、そこから動かないで。このまま一箇所に固まって私の目の届く範囲にいて下さい」
セドリックさんが更に指示を出す。カレンの狙いは先生なので、セドリックさんがカレンを抑えてくれている間に避難した方が良いと思ったのだけど……私達がいても邪魔にしかならないだろうに。でもセドリックさんの考えは違うようだった。
「リズさん、この少女には連れがいるのですよね。その者の姿は見ましたか?」
「いいえ……」
さっきカレンが口にした『ノア』という名前……これが彼女の友人ではないかと思っているけど、その人はジェムラート家で働いてはいないようだった。マリエルさんから紹介されたのもカレンだけだったし。
「もし、今現在……彼女の仲間がどこかに身を潜めて我々の様子を伺っていたとしたら? 護衛の側から離れた瞬間、先生に襲い掛かってくるかもしれない」
「えっ、うそ。そんな……」
つい周囲を見回してしまう。中庭には人が隠れられるような所は無いと思うけど……私に分かるわけがなかった。
「先生の部屋にミシェルへ宛てた書き置きを残してあります。私達がジェフェリーさんに会いに中庭に向かったことはすぐに分かるはずです」
セドリックさんは自身のベルトに装着されているホルスターに手を伸ばした。常であれば軍刀を携えている彼だが、今回の任務に刃物類は持ち込んでいないようだった。そんな彼が代わりに取り出したのは……
「ミシェルがこちらに合流するまで……私の側から離れないで下さいね」
彼の手には黒くて短い棒のような物が握られていた。それを地面に向かって力強く振り下ろすと、カシャンと小気味良い音が鳴り響き、20センチ程度だった棒が倍ほどの長さにまでなっていた。棒は伸縮式だったのか。振り下ろした衝撃で収納されていた部分が伸び切ったのだ。セドリックさんはこの棒を武器にしてカレンと戦うつもりなのか。
「さて……先生に手を出された以上、任意同行なんて甘っちょろい事は言えなくなってしまいました」
セドリックさんがカレンへと呼びかける。両手に握られた短刀はそのままに、彼女は相変わらずのキツい目でセドリックさんを睨んでいた。
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