リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

ゆずき

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210話 交戦

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 無我夢中で彼の名を叫んだ。そんな私の声に導かれるように、レナードさんがこちらに目線を寄越した。その時の彼の顔は、自身を二番隊の兵士だと主張する怪しい男性に向けていた険しいものとは打って変わり……見惚れてしまいそうなほどに美しかった。

「リズちゃん、こっちにおいで」

「えっ、でも……」

 男性との距離が近過ぎて怖い。私がレナードさんの方へ向かった瞬間に何かされるんじゃないかという懸念を抱いてしまい動くことができなかった。

「大丈夫。リズちゃんがこちらにくるまで、私はそいつから一瞬たりとも目を離さない。もし君に何かする素振りでも見せようものなら……」

 レナードさんが剣を抜いた。呼吸をするかのようにごく自然に。剣なんて構えられたら先立つ感情は恐怖や警戒だろう。こんな危機的状況であるのなら尚の事。それなのに私ときたら……まるで美術品でも観賞しているかの如く感嘆の言葉が溢れ出す。彼の所作ひとつひとつに魅了される。やることなすこと……どうしてこんなに綺麗なんだろう。

「……問答無用で首を刎ねる。この程度の距離なら造作もない。瞬きする間もなく終わる」

 朱色の瞳が男性を再び睨め付ける。宣言通りレナードさんは一度だけ私に目配せをした以降、男性に視線を固定している。私はレナードさんが実際に戦うところを見た事がある。物騒な物言いが決してはったりや脅しでないことを知っている。有言実行……彼はそれを可能にしてしまう実力を持っているのだ。
 これほどまでに強圧的な態度を見せるのは、絡まれていたのが私だったのもあると思う。彼は主君であるレオン殿下、そしてクレハ様に仇なす者を許さない。きっと私のことは『クレハ様の所有物』という認識をしているはずだ。もし私に何かあればクレハ様が悲しむ。お優しいあの方はご自身を責めてしまう。そんな姿を彼は見たくないのだろう。

「待って、待って。なんか勘違いされてるっぽいけど、オレは別にこの子に悪さする気なんてこれっぽっちも無いよ」

 レナードさんの気迫に押されて男性は狼狽えた。チャンスだ。私から意識が逸れたのを見計らい、一目散に駆け出した。『あっ……』という男性の間の抜けた声を振り切って、真っ直ぐレナードさんのもとに向かったのだ。

「レナードさん!」

「リズちゃん、私の後ろへ。もう大丈夫だから」

 駆け寄ってきた私をレナードさんは背後に下がらせる。安全地帯にたどり着いたことで緊張が一気に解けた。両足の力も抜けてしまい、その場にへたり込みそうになってしまったけど、なんとか持ち堪えた。気持ちが落ち着いてきたことで、さっきまで目に入ってこなかった周囲の様子が見えてくる。いつの間にか、私たちの周りにはちょっとした人だかりができていた。騒ぎを聞きつけて使用人たちが集まってきたのだ。

「……ギャラリーが増えてきた。急いだ方がよさそうだ」

 レナードさんが静かに呟いた。視線をもう一度彼の方へ戻す。すると、さっきまでレナードさんが立っていた場所には誰もいなかった。使用人たちがざわついている。硬いものがぶつかり合うようなキンッという音が廊下に響いた。何が起きているのか……戸惑う暇もなく、すぐに私も理解することになった。
 色違いの軍服を着た男性がふたり。至近距離で対峙している。間合いを詰めるのは一瞬だと語っていたけれど事実だった。私の立ち位置からはレナードさんの背中しか見えないが、彼は男性に向かって攻撃を仕掛けたようだ。

「おいおいおいおい……マジで切り掛かってくるとか。言動もそうだけど、お兄さん顔に似合わず相当過激だね」

「……やはり武器を隠し持っていたか」

「そっちが攻撃してきたからやむを得ずだよ。正当防衛だわ。クソ野郎」

「お前のような者が正当防衛を主張するのか。笑えるな。幼い少女に詰め寄る不審者が叩かれるのは至極当然だろう」  

 さっきの金属音はレナードさんの攻撃を男性が受け止めた時に生じたものだった。服の中に武器を隠していたのだ。よく見えないけれど棒状の何かで刃を防いでいる。セドリックさんが使っていた武器とも違っていて、これも見たことのない物だった。変わった武器を持っているのもあの子と同じ。軍服を着ている理由は分からないけれど……この人、やっぱりカレンの――

「だーかーらっ!! あのお嬢ちゃんに何かするつもりは無かったって言ってんだろ」

「……ノアさん?」

 言ってしまった。もしかしたらと頭に浮かんでいた名前だ。『ノア』……中庭での騒動の最中、カレンが口にした一緒に旅をしているという彼女の友人。

「えっ、なんで。どうしてお嬢ちゃんが……」

 男性はノアという名前に反応を示した。私がその名を呼んだことに驚きを隠せていない。思った通りだ。

「レナードさん!! その人、拘束されている女の子の仲間です」

 そう遠くない場所にいるのではと予想されていたが、こんなに早く行動を起こすなんて。武器を所持しての立ち回りといい、この人も只者ではなさそうだ。

「あのガキ……オレのこと喋ったのか。ああっ、クソ!!」

「警備隊の隊員ではないと分かっていたが……そうか」

 レナードさんは攻撃する手を止めて、男性から一定の距離を取った。

「上司と違って私は手加減が苦手なんだ。このままだといつ手元が狂ってお前の首を飛ばしかねない。無駄な抵抗はせずに降伏しろ。聞きたいことが山ほどあるからな」

 男性……ノアさんは悔しそうに顔を歪めている。この状況ではもう逃げるのは不可能だろう。目撃者も大勢いるし、何よりレナードさんがそれをさせない。

「……分かったよ。オレじゃ、お兄さんには勝てそうにないしね。手加減されてる攻撃を受け止めるので精一杯だもん。あーあ、計画が台無しだ。警備隊の奴らは大したことないと思ってたのに……」

 大きなため息を吐いたあと、ノアさんは両手を広げて胸の高さまで上げた。彼の手をするりと滑るように棒状の武器が床に落下したのだった。
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